大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太

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三章 黄金の愛と銀の翼の騎士、2人ともぶっ殺す

第三十三話 想像以上の危機

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 バサッバサッ。見ほれる程に丸い月が夜の闇を照らす中、一匹・・・否、一人の男が金色に輝く物体を掴み、飛んでいた。

「・・・失敗してしまいました・・・も、申し訳ございません」

 金ぴかの物体の正体は黄金の騎士ピピン。メアリーにやられた傷はまだ癒えておらず、上空10mから地上に向かってぼたぼたと血液を落としている。火傷で醜くなった顔も顔色が非常に悪い。しかし、そんな状態のピピンを見ても飛行する男、翼の銀の騎士は飛行を止める事は無かった。

 それは別に彼に対して冷たくしているわけではない。一刻も早く追手の目から離れ、目的地に到達する為である。

「・・・お前ともあろう者が、大それた失敗をしたな」

「返す言葉も良い訳もございません」

「では、怒りと憎しみは?」

「・・・あります。あの小娘に・・・私の・・・俺の顔を焼いてくれたあの無宗教者の不届き者に・・・!!」

 腹の刺し傷と、顔の火傷はピピンに更なる怒りと憎しみ、そして復讐心に薪をくべた。

「その調子だ、ピピン・アルベール。怒りだ怒りがお前を強くする。そして、アモーラ様は全てを愛してくれる。盗賊でも、殺人鬼でも、魚でもアリでも蚊でもアモーラ様は愛してくれる。お前の怒りなんて余裕の笑みで迎え入れてくれるだろう・・・」

「ふふ・・・俺、愛されているんだ・・・アモーラ様に愛されているんだ!!・・・なのに、なのに!!鎧を壊してしまったぁぁぁぁ!!ごめんなさい!アモーラ様!どうか愚かな私めをお許し下さい。アモーラ様の鎧に穴を開けやがったあのバカ娘をどうかお許し下さいぃぃぃ!!」

 女神アモーラの謝罪の最後に余計な謝罪が入ったが、銀の翼の騎士は特に反応せずに飛行する。すると、ようやく目的地が見えてきたようで、ピピンに若干嬉しそうに話す。

「そろそろ着くぞ、ピピン。下りたらすぐに、傷を癒してやろう」

「ありがとうございます・・・・・・カール様」



 黄金の騎士を取り逃がしてしまってから数時間後。夜が明けて人々が活動を再開した時間を見計らって幸助達は王国騎士団の詰所へとやって来た。

 詰所でまず最初に出迎えてくれたのは騎士団長。そして、自警団時代から知りあいの騎士数人である。

「おうおう、どうしたどうした?また2人の騎士の情報を聞きに来たのか?コウスケにあげた以上の事はもう渡せないが──────」

「いえ、今回は俺の方から・・・というより、メアリーから情報を持ってきました」

 すると、騎士団長の優しかった眼つきはいきなり鋭い眼つきへと変化を遂げる。知人モードから仕事人モードに切り替えた瞬間である。

「その情報っていうのは何だ?物体として証拠はあるのか?」

「いえ、ありません。ありませんが、私の頭の中にはあります!!」

 真っすぐな眼差しで騎士団長を見つめるメアリー。彼女の目に偽りはないと見抜いたのか、団長は首を縦に振った。

「私の甥のマートルを呼んできてくれ。アイツの力を借りる」

「ハッ!!」

 団長の後ろに立っていた騎士は敬礼をすると、詰所を出て行ってしまう。真偽を見抜く力を持っていない団長は、真実の神の教徒に助けを求めるようだ。

「・・・さて、マートルが来るまで少し時間がある。その間何もせずにのんびりとするのは俺は好きじゃない。メアリーの嬢ちゃん、話してくれるか?一体どんな情報を持ってきたんだい?」

「黄金の騎士の正体についてです」

 途端、詰所にいる騎士全員がざわめき始める。ざわめく騎士達を、団長は手を上げるだけで沈めると、メアリーの話に集中する。

「黄金の騎士の正体はピピン・アルベールです!!それだけじゃありません!!15年以上前に起きたアモーラ狂信者の虐殺事件にもアイツは関わっていたんです!!」

 メアリーの口から出たのはまさかの前騎士団長の名前。思わず、数人の騎士が立ち上がって、メアリーに詰め寄る。

「おい!何を言い出すかと思えばピピンさんがあの黄金の騎士の正体だとか訳の分からない事を言い出しやがって!!」

「お前はピピンさんがどれだけ凄い人か知ってんのか!!」

「あの人はいつも人々の平和の為に戦ってきた!『皆の笑顔が見たいんだ』と言って剣を振るってきた!!そんな人が無意味な殺人をやるわけがないだろ!!」

 騎士達の怒れる気持ちも十分分かる。彼らはずっと間近で見てきたのだ。ピピンの仕事に対しての姿勢、態度、身の振り方、考えを。彼女の証言を頭ごなしに否定したくなる気持ちも十二分に分かる。しかし、どんなに否定しようが、肯定しようが、今から来る人物の言葉次第で真偽は明らかになる。

「すみません!お待たせさせたでしょうか?」

 ドアを勢いよく開けて入ってきたのは団長と顔が若干似ている青年。彼こそがジェイク・ワトーの無罪を主張する為に奔走した新人弁護士マートルである。そして同時に真実の神の教徒でもある。

「おお、マートルよく来てくれた。早速で悪いんだが、彼女の言っている事は真実なのか、偽りなのか、教えてくれないか?」

「はいはい、分かりました!では、メアリーさん、こちらに顔を向けて目を閉じて下さい」

「はい・・・」

 メアリーが目を閉じると、マートルは彼女の手の平に手を置き、詠唱にも聞こえる真実の神への祈りを始めた。

「真実を見極める偉大なるヴェリーテよ。どうか我に力をお貸し下さい・・・」

 祈りを捧げた瞬間、光り始めるマートルの手。この光こそが真実の神から借りた力の一端である。

「貴方は今、ヴェリーテ神の前へと立ちました。貴方はこれより偽りを話す事は許されません。もし、偽りを話しても意味は成しません。よろしいですか?」

「・・・はい」

「では、始めます」

 詰所に来る前に事情を説明されていたのか、マートルは当たり前のように事の真偽を問い質す。

「貴女が見たという黄金の騎士の正体。その方の名前をお答えください」

「・・・ピピン・アルベール」

 簡潔に答えた後、静寂が詰所を彷徨う。静寂が消えたのは十数秒後、マートルの真偽判定であった。

「・・・真偽を言いますと、彼女の言っている事は本当です。俄かには信じがたいですが、ピピン・アルベールこそが黄金の騎士の正体のようです」

 ガチャリ。詰所のあちらこちらから金属の音が聴こえてくる。正体は騎士達が四つん這いになる際の金属同士の接触。どうやらピピンの下で働いていた騎士達だったようだ。

「うっ・・・うううう嘘だぁぁぁぁぁ!」

「そんな事をするはずがない!!あの優しくて強いピピンさんがそんな事をするはずがない!!」

「そうだ!これはきっと夢だ!夢なんだ・・・へへへへ・・・!1」

 ピピンを思うあまりおかしくなってしまったようだ。幸助達も騎士達がいきなり発狂した事で驚いてしまっているが、団長は冷静を保ちながら、彼らに向かって怒鳴った。

「静かにしろっ!!」

 ピタリと電源を抜いた電子機器のように発狂を止める騎士達。静まり帰った詰所で団長は聞こえるくらい大きく息を吸うと、大声で叫ぶように喋り出した。

「お前らが気落ちする気持ちは十分に分かる。信用していた者に裏切られた時、人は最悪のコンディションとなる。しかし!今は落ち込んでいる場合ではない!我々は急速に武装をし、教皇の住むアモーラ宮殿へと向かう!ピピン・アルベールが今、何処に所属しているか知っているだろう?」

 アモーラ聖騎士団は女神アモーラを信仰する者達の為に作られた団体・・・というのはあくまで建前で、アモーラ教皇を守る為に作られた騎士団である。彼らは何時でも守れるようにアモーラ宮殿に住んでいるのだ。

「急いで支度をしろ!!アモーラ教皇が命の危機に晒されているぞ!!」

 つまり、アモーラ教皇は今、殺人鬼と一緒の建物に住んでいるという事になる。狂信者は基本的に同じ宗教の信仰者を殺さないが、だからと言って、殺人鬼を野放しにするわけにはいかない。

「そして、冒険者ギルドにも伝えろ!緊急依頼だ!!」

「はっ!!」

 マートルを迎えに行った騎士が再び詰所から出ていく。団長は出口の前に立つと、その場にいる全員に向かって指示を出す。

「全員、出動だ!!!」
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