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三章 黄金の愛と銀の翼の騎士、2人ともぶっ殺す
第八話 ジューペと幸助
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パチパチと炎が音を立て燃える。形を持たない現象に過ぎない炎は弱い風に吹かれ、ゆらゆらと揺れる。
冒険者なら見慣れたものであり、当たり前のもの。しかし、研究者でもある魔術師にとっては炎という現象はとても興味深いものだ。
誰もが寝静まり返った夜、若き天才魔術師であるジューペはまるで宝石に見惚れた女性のように炎をまじまじと眺めていた。
「火が好きなのか?ジューペ」
剣を抱きながら寝ていた青年がむくりと上半身を起き上がらせる。次の見張り番の幸助だ。
「自分で起きたのか。凄いな」
「前の世界にいた時に身に付いたんだ」
見張り番をずっと1人でやるというのも非常に疲れてしまう。ましてや明日も明後日も歩くのだ。睡眠はとっておかねばならない。フランは1時間の交代制を提案し、全員が賛成した。そして、今はジューペの番であり、次は幸助の番である。しかし、順番が来るまでまだ5分ある。
「座れ、2人で話でもしようじゃないか」
まだ眠り気はなかったジューペは幸助を自分の座っている岩の隣に座らせた。
「お前がギルドに来てから僕の周りは良い意味でも悪い意味でも変わった」
「ギルドの評判を下げたのは本当にすまない。そんなつもりじゃなかったんだ」
「そんな事は皆知っている。だからお前を責めていない。まあ、ギルドから出ていった奴らはどう思っているか知らんけど」
「酒の肴にしてくれていたら嬉しいね」
皆を起こさないように小さな声で2人は笑う。近くにあった小枝を火に投げながら話を続ける。
「実は、今まで言って無かった事があったんだ。僕の冒険者としての初めての友達であるお前に隠し事に近い事をしていたんだ」
「隠し事?なになに?」
「僕がアンリちゃんに恋してたのは知ってるよな?だから、アンリちゃんが好意を向けてたお前が大嫌いだった・・・本当にすまn──────」
「何をいまさら言ってんだ。そんな事知ってないわけがねぇじゃん」
「はぁ!?なんだよ~~結構覚悟していったのにさぁ~~」
ジューペは幸助を友人として大切に思っているからこそ、嫌ってた事を言うのを躊躇していたらしい。もし、知らなくても、幸助は過去の事として特に気にする事は無かっただろう。
「そういえばよ、アンリちゃんの件でお前にお礼するの忘れてたわ」
「お礼?俺、何かしたっけ?」
「ほら、お前が落ち込んでいた時に言っただろ?おじいちゃんとその友達もアンリちゃんの粛清対象に入ってたって」
頭を捻ってなんとか思い出してみる。確かそんな事、言ってたな・・・・・・。
「思い出したみたいだな・・・じゃあ、これ!受け取ってくれるよな?」
「本・・・?」
手渡されたのは赤い表紙の古びた本。本の題名は掠れてしまっており、全て見ることはできないが、『~の入門』と書いているのが確認できる。何かの入門書なのは分かるが・・・。
「それは古びているが、魔術の入門書だ」
「ああ~」
魔術師のジューペから渡された本だ。当然と言われれば当然だろう。この入門書がもし、料理の入門書だったら面白いが。
「この本にはどんなにバカでも魔術が覚えられるくらい分かりやすく魔術の基礎の事が書いてある」
「今、遠回しに俺の事バカって言った?」
「え?そうだけど?」
友の間柄だからこそできる行為である。ジューペの脇腹を軽く肘で打ち、本を開く。本には基礎中の基礎である魔力の練り方、初級の属性魔術の説明がイラスト付きで説明されていた。
「ホントだ。確かに分かりやすいかも・・・」
「だろ?僕のおじいちゃんが作った本で、図書館にも蔵書されてるんだ!」
「でも何で俺に魔術書を?」
「剣が折れた時の第二の武器だ。魔力は体力とは関係ない力だから覚えておいて損はないと思ってな」
幸助達が商業エリアでボロボロの状態で見つけた時からジューペは心の奥に幸助達を失う恐怖を抱いていた。彼自身はその恐怖に全く気付いていないが、突拍子もなく幸助に魔術の書を渡したのはそのうちなる恐怖がそうさせたのだろう。
「良いか?コウスケ。知恵とは武器だ。魔物の弱点を知っていれば優位に戦闘を進める事が出来るし、魔術を覚えていれば手数が増える。物理には影響はないが、戦況には大いなる影響を及ぼすんだよ」
「知恵は武器・・・ね」
「そうだ。その頭に刻んでおけ?・・・それじゃあ僕は寝るわ。お休み」
「お休み」
大きく口を開けながら自分の毛布に包まり寝息を立てはじめる。幸助は寝息が立つと同時に魔術入門書を読み始めた。
「『魔力は体内に流れるエネルギーの1種。血液と共に血管を流れている。まずはその魔力を感じる事から始まる』・・・か。よし!」
幸助の魔術習得の為の勉強は次の見張り番交代まで続いた。
冒険者なら見慣れたものであり、当たり前のもの。しかし、研究者でもある魔術師にとっては炎という現象はとても興味深いものだ。
誰もが寝静まり返った夜、若き天才魔術師であるジューペはまるで宝石に見惚れた女性のように炎をまじまじと眺めていた。
「火が好きなのか?ジューペ」
剣を抱きながら寝ていた青年がむくりと上半身を起き上がらせる。次の見張り番の幸助だ。
「自分で起きたのか。凄いな」
「前の世界にいた時に身に付いたんだ」
見張り番をずっと1人でやるというのも非常に疲れてしまう。ましてや明日も明後日も歩くのだ。睡眠はとっておかねばならない。フランは1時間の交代制を提案し、全員が賛成した。そして、今はジューペの番であり、次は幸助の番である。しかし、順番が来るまでまだ5分ある。
「座れ、2人で話でもしようじゃないか」
まだ眠り気はなかったジューペは幸助を自分の座っている岩の隣に座らせた。
「お前がギルドに来てから僕の周りは良い意味でも悪い意味でも変わった」
「ギルドの評判を下げたのは本当にすまない。そんなつもりじゃなかったんだ」
「そんな事は皆知っている。だからお前を責めていない。まあ、ギルドから出ていった奴らはどう思っているか知らんけど」
「酒の肴にしてくれていたら嬉しいね」
皆を起こさないように小さな声で2人は笑う。近くにあった小枝を火に投げながら話を続ける。
「実は、今まで言って無かった事があったんだ。僕の冒険者としての初めての友達であるお前に隠し事に近い事をしていたんだ」
「隠し事?なになに?」
「僕がアンリちゃんに恋してたのは知ってるよな?だから、アンリちゃんが好意を向けてたお前が大嫌いだった・・・本当にすまn──────」
「何をいまさら言ってんだ。そんな事知ってないわけがねぇじゃん」
「はぁ!?なんだよ~~結構覚悟していったのにさぁ~~」
ジューペは幸助を友人として大切に思っているからこそ、嫌ってた事を言うのを躊躇していたらしい。もし、知らなくても、幸助は過去の事として特に気にする事は無かっただろう。
「そういえばよ、アンリちゃんの件でお前にお礼するの忘れてたわ」
「お礼?俺、何かしたっけ?」
「ほら、お前が落ち込んでいた時に言っただろ?おじいちゃんとその友達もアンリちゃんの粛清対象に入ってたって」
頭を捻ってなんとか思い出してみる。確かそんな事、言ってたな・・・・・・。
「思い出したみたいだな・・・じゃあ、これ!受け取ってくれるよな?」
「本・・・?」
手渡されたのは赤い表紙の古びた本。本の題名は掠れてしまっており、全て見ることはできないが、『~の入門』と書いているのが確認できる。何かの入門書なのは分かるが・・・。
「それは古びているが、魔術の入門書だ」
「ああ~」
魔術師のジューペから渡された本だ。当然と言われれば当然だろう。この入門書がもし、料理の入門書だったら面白いが。
「この本にはどんなにバカでも魔術が覚えられるくらい分かりやすく魔術の基礎の事が書いてある」
「今、遠回しに俺の事バカって言った?」
「え?そうだけど?」
友の間柄だからこそできる行為である。ジューペの脇腹を軽く肘で打ち、本を開く。本には基礎中の基礎である魔力の練り方、初級の属性魔術の説明がイラスト付きで説明されていた。
「ホントだ。確かに分かりやすいかも・・・」
「だろ?僕のおじいちゃんが作った本で、図書館にも蔵書されてるんだ!」
「でも何で俺に魔術書を?」
「剣が折れた時の第二の武器だ。魔力は体力とは関係ない力だから覚えておいて損はないと思ってな」
幸助達が商業エリアでボロボロの状態で見つけた時からジューペは心の奥に幸助達を失う恐怖を抱いていた。彼自身はその恐怖に全く気付いていないが、突拍子もなく幸助に魔術の書を渡したのはそのうちなる恐怖がそうさせたのだろう。
「良いか?コウスケ。知恵とは武器だ。魔物の弱点を知っていれば優位に戦闘を進める事が出来るし、魔術を覚えていれば手数が増える。物理には影響はないが、戦況には大いなる影響を及ぼすんだよ」
「知恵は武器・・・ね」
「そうだ。その頭に刻んでおけ?・・・それじゃあ僕は寝るわ。お休み」
「お休み」
大きく口を開けながら自分の毛布に包まり寝息を立てはじめる。幸助は寝息が立つと同時に魔術入門書を読み始めた。
「『魔力は体内に流れるエネルギーの1種。血液と共に血管を流れている。まずはその魔力を感じる事から始まる』・・・か。よし!」
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