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5章 400年の輪廻転生

171話 悪魔弱体化

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 今のメア・モークはオーソドックスな直剣ではなく、刺突に特化したレイピアの形を取っている。理由はメア自体の気分転換的なものらしい。

 最初こそ、すぐに取り換える予定だったが、レイピアから放たれる光刃は、他の剣と比べて圧倒的に特殊だった為、試験的にしばらくレイピアにしておく事に決めたのだ。

 レイピアのメア・モークの使い方は実に簡単だ。狙いを定めた相手に向かってレイピアを突き出すだけだ。するとどうだろう。レイピアの先端から純粋な光魔法の塊が矢よりも早い速度で飛んでいくではないか。

 「があっ!?」

 一直線に太い針状の光刃が飛んでいくだけなので、攻撃範囲はとても短い代わりに、もの凄い速度を出す事が可能。更に、貫通性が高く、試し斬りの段階で、ハンスの体格の2倍以上の岩を貫通する事に成功。つまり、生き物ならば、簡単に貫く事が可能なのだ。

 更に、ハンスの優れた命中力で、レイピアから放たれた光刃はレイヴンの胸のど真ん中に命中。血を垂らしながら床に落下してきた。同時に天井に刺さっていた処刑大剣も自重で床に落ちてきたので床に刺さる前にキャッチ。背中に収めた後、メアをもう一度構えた。

『流石マーサさんです。一度や二度の本気の光刃では壊れませんね』

「当の本人は壊れかけ・・・死にかけだけどな。・・・おい、早く立ち上がれよ」

 レイヴンが地面に這いつくばったまま、立ち上がる様子がない。それどころか、再生が始まっていない。中級悪魔なら、この程度すぐに再生してしまえるはずなのだが・・・。

「うう・・・こんな時に限って地獄の門がぁ・・・!」

「は?地獄の門?何の話だ?」

 そういえば、悪魔の力は上下する事があるんだっけか。んでもって、このタイミングで弱体化が始まっちまったわけか。何ともタイミングが悪いな。

 振り返って肉壁を作っている下級悪魔を見ると、こちらも同様に不調が顔に出ている。

『急な弱体化・・・地獄の門・・・どんな関係があるのでしょうか?』

「考察は後でにしろ。今優先するべき事柄は、ここからの脱出だ。行くぞ・・・ん?」

 ハンス・ベルセルク。剣術の才を与えられ、この世の人間の中でも無類の強さを誇る最強の人間。彼は剣の才だけでなく、強靭な肉体と、あふれ出そうな闘争本能を駆使して今まで死闘を繰り返してきた。

 その結果、彼はある程度の毒への耐性を手に入れていた。マーサ達よりも長く行動出来たのはその経験のお陰だろう。しかし、魔毒が充満するこの鍛冶場では些か物足りなかった。ハンスの体内にもゆっくりと魔毒が回っていたのだ。

「や・・・ば・・・・」

 戦士ハンス・ベルセルクはあと一歩の所で、戦闘不能となってしまった。
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