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3章 極悪囚人更生施設サルフル鉱山

86話 犯人だぁれ?

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「・・・・・・出来のいい嘘だよな?昨日だって普通に話してたんだ。殺されるような恨みなんて買っていないはずだ」

 18年という短い人生の中で、人の死は幾度となく見てきた。はっきりとした意識の中で初めて見たのは祖父ちゃんの死。病気でゆっくりと弱っていく様をただただ見ている事しかできなかった。

 それ以降も、冒険者ギルドに勤めていた事もあって何度も死を目の当たりにしてきた。3日前に俺の剣を買った新人、1週間前に俺の槍を買ったベテラン。

 色んな者の死を見てきたが、未だに人が死ぬ事に慣れておらず、頭の隅では分かっているのに、彼の死を否定した。

 死んでないと強く主張した。しかし、現実は違かった。

「悪いが、悪質な現実だ。諦めろ」

「知ってたのか?ハンス・ベルセルク」

「お前らが帰った後に教えられた。オレも良くしてもらってたんでな」

 俺の肩に手を置き、同情するのは、ハンス・ベルセルク。ルッタとパァラを連れて俺を追いかけてきたらしい。

「死を見るのは初めてか?」

「いや、慣れてないだけさ」

 リバーの死を受け入れてもなお、意識が呆然としている。意識がハッキリとしたのは、監視長が目の前にやってきてからだった。

「集まったのか?・・・ん?鍛治職人、何故こんな所にいる?」

リバーを探していたら最前列に来ただけだ」

「そうか・・・・・・既に話は聞いているな?」

 首を縦に振る。監視長は姿勢を正すと、全員に聞こえるように大声で説明を始めた。

「リバー・バーチュは犯罪者だ!!こんな地獄に送り込まれるほどのクズだ!!しかし!彼は犯罪者の前に人間だ!!生きる権利を持った人間!正当な理由がない限り何人たりとも殺す事は許されん!!」

 監視長は怒っていた。事件が発生した事ではなく、囚人が死んだ事に対してだ。

「たとえ、兵士が殺していたとしても私は容赦はしない!!覚悟しろ!!犯罪者め!!」

 迫力ある監視長の言葉にその場の全員が固唾を飲む。勿論、俺でもないが、固唾を飲み。心臓の音を感じ取った。俺がもし、犯人だったら、名乗り出ているレベルの気迫だ。

 しかし、犯人は相当心臓が強いのか、名乗り出ようとはしない。まあ、名乗り出る方が稀だろうが。

「・・・このように、只今監視長は非常に興奮しておりますので、私の方から状況の説明をさせていただきたいと思います」

 怒る監視長の前に颯爽と現れる眼鏡の兵士は俺達にも分かるように正確の情報を提供した。

「今日の3時、牢獄にて殺されたのはリバー・バーチュは殺人強盗の罪で18年程投獄されている囚人です。しかし、彼は模範囚という事もあって、他の囚人とは違い、個人の牢屋を有していました。その為、牢獄での一番多い死因である喧嘩の末の死亡は抹消されます」

 リバー殺害には、確実に何か意味があっての行動だ。そうでなければ、金を持っていない囚人なんて殺す意味は無い。

 いや、今は理由なんてどうでも良い。しなければいけないのは犯人を捜す事だ。

「犯人が逃げた可能性は?」

「否めませんが、事件発生から現在に至るまでこのサルフル鉱山を出た者はいません。もし出た場合は警報がなるように魔法の罠を仕掛けていますので」

 という事はこの中に犯人がいるという事だ。囚人1000人以上、兵士200人以上の中に犯人が。虱潰しが確実のように思えるが、膨大な時間がかかる上に、虱潰しをしている間に逃げられる可能性がある。今持っている、手に入れられる情報から絞るしかない。

 そして、今情報を一番手に入れる事が出来る方法は、リバーの遺体なのだが、喉を刃物で貫かれて死んでいる。この刺し傷の幅からして恐らくナイフ。

「少し遺体を触らせてもらっても良いか?」

「構いませんが、損傷しないようにお願いします」

「ああ、大丈夫だ。ただ、傷口を凍らせるだけだ」

 刺し痕に指を近づけ、水の魔法を発動。傷口に水を入れる。

「何をしているんですか?」

「この水を凍らせます・・・『アイス』」

 指先から放たれた冷気は、リバーの刺し痕に入れられた水を氷にする。その氷を取り出すと、見事に刃と同じ形の氷が出来上がった。

「部分的かつ、完全な再現ではありませんが、これで凶器の完成です」

「ほう・・・やるじゃねぇか。鍛冶屋」

「祖父ちゃんから教えてもらった事の応用だ」

 血濡れた凶器の氷の再現物は、かなりナイフにしてはかなり歪な形をしており、まるでフランベルジェのようにくねくねを曲がっていた。
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