上 下
83 / 208
3章 極悪囚人更生施設サルフル鉱山

83話 ハンスとマーサ

しおりを挟む
「ルッタ、俺達だ。巡回中の兵士じゃない」

 消音の魔法を消して、ルッタに声をかける。消音の魔法は他から発せられる音は消えるはずなので聴こえるはずだが───

「あ、二人でしたか・・・アハハハ・・・ごめんなさい」

「いや、謝罪はいらない。それよりも何をしてるんだこんな所で・・・見つかったら、怒られるどころじゃないぞ」

「それは・・・そのぉ・・・」

「おいおい兄ちゃん。みりゃ分かるだろ?オレが剣術を教えてやってたんだ。檻越しだけどな」

 ここにいる理由は、ルッタではなく、檻の中にいるハンス・ベルセルクがしてくれた。状況から何となくわかっていたが、俺はルッタからの説明が欲しかった。

「剣術か・・・剣術ね・・・何と取引した?」

「な、なななななにも取引なんてしていませんよ!?」

「ルッタ、目が泳ぎすぎだ。この際嘘なんかつかなくて良い」

 何もかもに飢えている囚人が、格好の餌を逃すわけがない。内容は不明だが、何かを条件に剣術を教わっていると思われる。ハンス・ベルセルクもにやにやしている事からそれは間違いないだろう。

「正直に答えるんだ。別に怒ったりはしないから」

「村長と同じ事言ってます!!絶対に怒るじゃないですか!!」

「怒られるような事をしたのか?」

「・・・・・・ハンスさんの脱獄を手伝います」

 やっぱりというべきだろうか。ハンス・ベルセルクが体目当てではなくて良かったと言うべきだろうか。それでも、このままその約束を果たしてしまえば、ルッタは脱獄を助長した犯罪者となってしまう。

「嬢ちゃんが指名手配されるかどうかは、嬢ちゃんの脱獄のさせ方によるだろ。そんなに嬢ちゃんを犯罪者にしたくなければ、お前らも一緒に脱獄方法を考えてやれよ」

 脱獄なんてさせた事がないというか、あってたまるか。そこはパァラに任せるとして、ハンス・ベルセルクは本当に脱獄させて良い男なのかを判断しなければならない。

「・・・因みに、脱獄したい理由はなんだ?」

「オレを濡れ衣でここにぶち込んだクソ貴族をボコす。んでもって、母国に帰る」

 ・・・本当か?ありきたり過ぎて怪しさを感じる。

「おい、鍛冶屋。お前疑ってんだろ。そんなに疑うなら、その貴族の名前も教えてやるよ!そいつの名前はな!!」

 ハンスが叫ぶ瞬間、カンカンと鉄を鳴らす音が聴こえてくる。恐らく牢獄全体に聴こえるように。

 音の正体は獄内の事件を知らせるものだと思われる。俺らの侵入がバレたのか?ならばここから早急に立ち去り、小屋に戻らなければ・・・。

「殺人だ!!皆ぁ!来てくれぇ!!」

 どこかから聴こえてきた兵士の声は、俺の予想とは大きく違っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

宮廷錬成師の私は妹に成果を奪われた挙句、『給与泥棒』と罵られ王宮を追放されました ~後になって私の才能に気付いたってもう遅い!

日之影ソラ
ファンタジー
【16日0時に一話以外削除予定しました】 ※小説家になろうにて最新話まで更新中です。 錬成師の家系に生まれた長女アリア・ローレンス。彼女は愛人との間に生まれた子供で、家や周囲の人間からは良くない扱いを受けていた。 それでも錬成師の才能があった彼女は、成果を示せばいずれ認めてもらえるかもしれないという期待の胸に、日々努力を重ねた。しかし、成果を上げても妹に奪われてしまう。成果を横取りする妹にめげず精進を重ね、念願だった宮廷錬成師になって一年が経過する。 宮廷付きになっても扱いは変わらず、成果も相変わらず妹に横取りされる毎日。ついには陛下から『給与泥棒』と罵られ、宮廷を追い出されてしまった。 途方に暮れるアリアだったが、小さい頃からよく素材集めで足を運んだ森で、同じく錬成師を志すユレンという青年と再会する。 「行く当てがないなら、俺の国に来ないか?」 実は隣国の第三王子で、病弱な妹のために錬成術を学んでいたユレン。アリアの事情を知る彼は、密かに彼女のことを心配していた。そんな彼からの要望を受け入れたアリアは、隣国で錬成師としての再スタートを目指す。 これは才能以上に努力家な一人の女の子が、新たな場所で幸せを掴む物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

処理中です...