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2章 稀代の超天才聖人錬金術師パァラちゃん

35話 ルールは使いよう

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 港町マーマンの冒険者ギルドシーウォーリアの酒場。まだ暗くないというのに、荒くれ者のような風貌をした冒険者3人が、豪快かつ美味そうに酒を飲み交わしていた。

「いやぁ~~仕事終わりの酒はやっぱり美味い!!」

「大成功と言えないのが少し残念だけどな・・・アイツあそこに置いて来て本当に良かったのか?」

「本人が良いって言ってたし、休みたいって言ってたから大丈夫だろ。顔色滅茶苦茶悪かったけど」

「回復魔法を覚えていないのが痛かったな・・・オストリッチの兄貴の言う通り、覚えた方が良いかな?」

「うんにゃ、良いだろ別に。あんな大怪我する事すら稀なんだから」

 3人以外の客はほぼいない。仲間を依頼で失い、吞んだくれている奴と、昨晩から飲んでいて潰れている男のみ。表現は少しおかしいかもしれないが、まともな客は会話を交わしているテーブル席の3人のみとなる。

「悪い、席が空いてないんだ。隣良いかな?」

 そんな彼等のテーブルに1人の男が近づいてくる。がら空きの酒場だというのに、隣に座って飲ませてくれと言う。

 男達は冒険者、気性は決して良くはない。不機嫌そうな顔を浮かべて男の顔を見る。

「目がねぇのか?カウンター席で飲め」

「目がない?ないのはお前達の方じゃないのか?オストリッチの腰巾着」

「ああ゛!?・・・ってお前はマーサ・ラーム・・・!!どうしてここに?」

 酒で鈍っている脳みそでも、いきなり話しかけてきた男が、追放された男だと気づいたようで、腰に収めた得物をいつでも抜けるように構え始める。

「追放されたんだから何処にいたって、不思議じゃないだろ。話があるから武器は抜くな」

 両手をテーブルの上に置き、戦意は無い事を示す。

「この港町から少し離れた崖の上に家があるのは知ってるな?そこで錬金術師が殺された」

「へ、へぇ~そうなのか・・・それがどうしたんだ?」

「とぼけるなよ、ヘタレ冒険者。1人はもう確保してる。お前らと一緒に行動してた友達をな」

 ギルドのドアを丁寧に開けて1人の少女が入ってくる。肩には男が背負われている。3人の冒険者の仲間だ。

「アイツから既に情報は吐かせてある。無駄な嘘はつくなよ」

「て、てめぇ・・・!!」

「おいおい、武器は握るなって言っただろ?それに、武器を向けられるのはお前らなんだからさ」

 3人はマーサとの会話で気づいていなかった。自分達が大勢の冒険者や憲兵に囲まれている事に。

「冒険者の殺人は、正当防衛と指名手配犯の時のみ許される。それらに該当しない殺人の場合は・・・言わなくても分かるよな?」

 パラケルススは、指名手配されていない。つまり彼等は冒険者ギルドのルールを破った事になる。

「ギルドからの永久追放および、逮捕。豚箱で仲良くしてろ」

 バカで哀れな4人の冒険者が今日、一斉解雇された。
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