記憶喪失の異世界転生者を拾いました

町島航太

文字の大きさ
上 下
127 / 141
最終章 この世に善悪など無い

126話 劣勢

しおりを挟む
 刃と刃がぶつかり合う。肉が斬り裂かれる音が耳に残る。肉と骨が同時に砕ける戦場に広がる。

 あんなに清潔で真っ白だった浄化の神殿に血が付着する。状況は、浄化側が不利だった。争いも犯罪もロクにないゴッズステイの欠点が出てしまったみたいだ。

 ゴッズステイには盗賊などの犯罪者が存在していなければ、血で血を洗うような争いも存在しない楽園のような場所である。しかしそれは同時に戦った者がいない事も意味する。

 鍛錬での練習試合はあるが、互いに殺し合う気はない戦いである為経験は無いと言っても間違いではない。圧倒的経験不足を浄化の奇跡で補っているものの、それでも補い切れていない者が多く、先程から目の前で次々と殺されて行っている。

「オルタ副団長!助け────」

 たった今、目の前で俺に助けを求める部下が頭を潰され絶命した。砕けた頭蓋骨や脳が足元に転がって来る。部下の頭を潰した瘴族が次に目を付けたのは俺だった。頭を簡単につぶせる戦鎚を持ち、襲い掛かって来る。

「フンッ!!」

「何!?」

 頭に向かって振って来る鎚を籠手で受け止め、押し返す。体勢を崩したのを好機と見做し、鉤爪で喉を突き刺し、刺し傷に浄化の奇跡を流す。

 ガルよりも圧倒的に弱い奇跡ではあるが、体内に流し込めば俺でも殺す事が出来る。浄化の奇跡を流し始めて30秒で刺した瘴族は灰となった。付着した血液も灰となって地面へと落ちていく。

「これで、27体目・・・後何体だ?」

 1体倒しても、こちら側の戦力が3人減る。このままいけば、200体殺すまでにこちらは全滅してしまう。

 まさか、こんなに追い詰められるとは思っていなかった。何よりも浄化の女神様の力が期待を大きく下回っていた。浄化の力を使って俺達が活動できる範囲を広めてはくれている。浄化の奇跡の威力を通常よりも上げてくれている。

 しかし、それらの恩恵はほぼ付け焼刃のようなもので大して戦力アップにはなってはいない。例えるならあったらいいな程度の力だ。

 どうしてこんな力しか与えてくれないのか疑問でしかなかったが、よくよく考えてみると浄化の女神様は地下の瘴気の穴を塞ぐ役から帰って来たばかり。気丈にふるまってはいるものの、冷や汗をかいており本領発揮どころか力の10分の1すら出せていない状況なんだ。

「オルタ!大丈夫ですか!?」

「俺は問題ありません。ですが、浄化サイドには大きな問題を抱えています」

「そうですね・・・私達には圧倒的な攻撃手段がありません!!」

 経験不足、戦闘員不足を補うには敵を一掃できる攻撃手段が必要だ。だが、そんな手段は・・・。

「あるよオルタさん」

「・・・トキ?」

 氷のように冷たい声に反応して振り返ると、本の爺さんを抱えた寝間着姿のトキが虚ろな目で立っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。 今年で33歳の社畜でございます 俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう 汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。 すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。 そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな

処理中です...