記憶喪失の異世界転生者を拾いました

町島航太

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二章 愛の対義語

63話 大切な人

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「・・・早くしてくれガル。躊躇するのも分かるが、そんな事をしている猶予は無いぞ・・・」

「・・・副団長、今は先程と比べて辛いですか?」

「・・・・あれ?苦しく無い。すこし気怠いが、先程と比べたら天と地ほどの差がある」

「ドワーフの皆さん、僕の見間違えかもしれませんが、オルタ副団長の体、元の色に戻ってきていませんか?」

「も、戻ってきてる!!」「本当だ!!」「奇跡か?それとも、新たな現象か?」

 どういうわけかは分からない。しかし、目に映る事に偽りはない。オルタ副団長の体がゆっくりと黒色の毛色へと戻ってきている。

 副団長も僕らに指摘されてようやく気付いたみたいで、ゆっくりと元の色に戻って行く自分の毛色に驚きを隠しきれないみたいだ。

「ど、どういう事だ?どんなに浄化の奇跡を使ってもこの苦しみから解放されなかったというのに・・・」

「遅効性なんですかね?いや、そんな事あるのかな?」

 魔術はどんなに同じ魔術でも、魔力の量や質によって他人と差ができる。

 例えば、僕の炎の魔術はすぐに出るが、温度は低い。オルタ副団長の炎の魔術は発動に数秒かかるが、僕のよりも温度が高いなどが例として挙げられる。

 このように魔術には個人差が現れるが、奇跡で個人差が出るのは信仰心による威力のみだ。魔術のように細かな差は現れない。

 なので、人によって遅効性になる等と言った差は現れるはずがないのだ。

 故にオルタ副団長の魔物化が治ったのは、副団長自身が持ち合わせた能力か何かなのだろう。

 まあ、何が何であれ・・・。

「良かった・・・本当に良かった」

「ああ、良かった事には変わりないが、泣くほどか?」

「当たり前じゃないですか!あのまま副団長が魔物化していたら、大切な人が二人同時に殺さなきゃいけなくなっていたんですよ!」

「大切な人?あんなに酷い事をしてきたのに俺をそんな風に思っていたのか?暴力も振るったんだぞ?」

「はい。ですが、それ以上に助けられた事もあります。幼い頃に木から降りられなくなった時も、ウル神父に隠れてお菓子を食べた時も、いつも身を挺して守ってくれたじゃないですか」

「それは・・・ウル神父に褒められる為であってお前が心配だったからではないぞ」

「だとしても僕からしたら大切な人には変わりありません。だからお願いです。しばらく泣かせて下さい」

「・・・ああ、泣け。泣いてその気持ちを整理しな」

「はい・・・うぅぅ・・・うわぁぁぁぁぁぁん!」

 ガルは久しぶりに子供のように泣きじゃくった。洞窟全体に響く泣きっぷりだったが、誰も彼を責めなかった。
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