記憶喪失の異世界転生者を拾いました

町島航太

文字の大きさ
上 下
20 / 141
一章 使命と転生者

19話 エルフの死生観

しおりを挟む
 エルフの集落は、なるべく自然の形を損なわないような作りになっており、雨水を防ぐ建物も、木の中の空洞を有効活用して作っている。

 エルフは金属を嫌う。僕の背中にあるタワーシールドと腰の剣を嫌そうな目で見るのはそれが理由だ。故に建物を建てる際に必要な不可欠な道具である釘をエルフは使っていない。

 代わりにツタを使っているようだが、これがまた丈夫で不安定どころか、釘と同じぐらいの安定感を有している。

「どうです?ドワーフでは到底再現できない技術でしょう?」

 そして、金属大好きなドワーフは金属より大嫌いである。どんな人格者エルフでも、好きあらばマウントをとりたがる。

「世間話をしにきたわけではありませんでしたね。すみません」

「いえ、お気になさらず。僕の方も突然の訪問申し訳ございませんでした」

「それこそお気にならず。さて、このままだと謝り合戦が始まってしまいますので、本題に入りましょう。我々の森で瘴気が発生したのは今からおよそ3日前のことです。2人の集落の者が発見し、1人は魔物化した植物に足をひっかけられ、瘴気に侵されてしまいました」

 既に被害者が出ていたみたいだ。しかし、長老はあまり悲しんでいる様子はない。まるで遥か昔に起きた出来事のように語っている。

「悲しまないのですか?」

「自然に戻ったんです。何も悲しむことはありません。森の中で死ねるだけで幸福な方でしょう」

 エルフは死を恐れず、むしろ受け入れると言うリリィ団長の言葉は本当だったのか。見た目はほとんど僕らと変わらないのに、まるで価値観が違うせいで別の生き物に見えてしまう。

「魔物はどのくらい発生していますか?」

「さあ、分かりません。ですが今のところ人的被害は出ていません。それはおそらく魔物が発生していないという事なのでしょうか?それとも、瘴気発生地から出ていないだけ?」

「後者のパターンで考えといた方がいいかと。種族差はありますが、魔物はとても賢いです。数を揃えてから襲ってくるという話もあります」

 ゴブリンのようにね。

「なるほど、それはありえますね」

「因みに瘴気が発生したのはどこからですか?」

「この集落から北東に移動した先にあるリフレ洞窟の最奥から発生したみたいです」

 なるほど、洞窟の最奥。だから3日前に発生したのに森の中に充満しきっていないのか。しかし、洞窟の中は瘴気で溢れかえっているんだろうな。

 僕は瘴気に耐性があるとして浄化の旅に選ばれたけれども、どのくらいの瘴気に耐えられるかは知らない。もしかしたら、完全な耐性は無くて、一定量を吸収したら死んでしまうのかも?

「我々もどちらかといえば、まだ自然に帰りたくはない。だから、がんばってくれ」

「はい。ありがとうございます」

 今日は探索に向かうのは既に遅い時間なので、長老のご厚意から泊まらせてもらえるようになったエルフのベッド、楽しみだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。 今年で33歳の社畜でございます 俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう 汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。 すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。 そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな

処理中です...