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4章 赤い月が昇る

41. こんなキャラだったっけ

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「大丈夫ですか!?」

 大丈夫であって欲しい。
 シャーロットは半ば祈りながら倒れている青年に駆け寄った。
 
 オーガと襲われそうになっている人間を見て、咄嗟に魔法――といっても雑に魔力を放っただけ――で攻撃したはいいが、ついうっかりその被害者も巻き添えにして吹き飛ばしてしまった。
 集団戦闘には向いてない、とランドルフに評されたことを思い出す。全く反論できない。
 
(まあ、この際、多少死にかけててもいいわ。死んでいなければ多分回復できるし……)

 そこそこ物騒なことを考えながら倒れている男の様子を伺っていたが、幸いにも青年はすぐに起き上がった。どうやら無事のようだ。
 瞬間、ランドルフがオーガを仕留めるのが見えた。どうやらあちらもなんとかなり、脅威は去ったらしい。
 呆けたようにこちらを見つめる青年に近寄り、シャーロットは改めて話しかけ……ようとして、思わず言葉を飲み込んだ。
 ルミネ教の神官服を身に纏っている。それも、ウィンザーホワイトではなく、ルミナリアの神官が纏うものだ。
 もしかしたら顔を知られているかもしれない。
 
 シャーロットは思わず後ずさった。
 そもそもなんでルミナリアの神官がこんなところにいるのだろう。
 よく見ると、その手に握った杖は高位の神官にしか持つことを許されない聖杖だった。
 聖杖を持てるほど位の高い神官が、魔力持ちが少なくない、魔導塔の存在するこの地に足を踏み入れるなんて。
 ラヴィニアが国交を再会させたとはいえ、信仰に篤いルミナリアの神官がウィンザーホワイトを訪れるなんて信じられない。
 
(それに、なんだかこの人、見覚えがあるような……)

 シャーロットがどう行動すべきか悩み立ち尽くしていると、神官が突然立ち上がりシャーロットの方に歩み寄ってきた。
 何故かその顔は興奮したようにほんのり上気している。
 そして身を強張らせているシャーロットの前まで来ると――勢いよく跪き、頭を垂れた。
 
「助けていただきありがとうございます、天使様……! お名前をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか……」
「え……? あ、シャーロットです……」
「シャーロット様……! お名前まで美しいのですね……!」

 そう言うとラウルは顔をあげてシャーロットを見上げた。
 
「シャーロット様を見た瞬間、全身に衝撃が走ったのです……! この方の側に居るべきだと、強く感じました。これはきっと女神様の啓示に違いありません」

 本当にそうだろうか? シャーロットは頭を抱えた。
 吹き飛ばした時に頭を変なふうにぶつけてしまったのかもしれない。
 神官の後ろから、ランドルフがなんともいえない表情でこちらを見ているのが視界に入った。
 二人の気も知らず、神官は良い笑顔でシャーロットに語り続ける。
 
「失礼、申し遅れました。私、ラウルと申します。ルミネ様の名のもとに、シャーロット様にお仕えすることをお許しください……!」

 シャーロットは神官の名を聞き戦慄した。
 
「ラウル……? ラウル・グリマルディ様……ですか?」
「私の名をご存知なのですね! そうです。見ての通り、ルミネ様の下僕として神官をしております」

 どうりで見覚えがあると思った。
 ラウル・グリマルディといえば、現教皇の息子で次期教皇と目されている人物だ。
 血筋だけでなく、清廉潔白な人柄で聖力も強く、教会内でも支持を集めていた。
 ラヴィニアは彼のことを避けていたようで、シャーロットは式典以外でまともに顔を見たことは無かったがなんとなく見覚えはある。
 
(それに、確かゲームでの攻略対象だった気がする)

 真面目だがちょっと抜けていて、少々危なっかしい彼は意外と人気があった。
 ……抜けているとはいえ、ゲームの中ではこんな暴走の仕方はしていなかったような気がするが。
 
 一部始終を眺めていたランドルフが困ったように笑いながら歩み寄ってきた。
 
「まあ……ともかく、一旦アルストルまで戻りましょうか。積もる話はそれからにしてください。……シャーロットさんはラウルさんを吹っ飛ばしただけで、助けたのは私だと思うんですけどねぇ」

 帰宅を促したランドルフが小声で付け足したが、ラウルにはまるで聞こえていないようだった。
 
 シャーロットは小さく嘆息した。
 ノアと約束した『赤月祭』まで後二日。なんだか彼が無性に恋しかった。
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