36 / 58
3章 遠足ではありません
35. 思わぬ再会
しおりを挟む
(魔力を内に向ける……)
そうヴィクターに言われた次の日、シャーロットはその意味をずっと考えていた。
連絡用の魔道具である水晶を渡され、呼び出されるまでは自由に過ごして良いと言われているため使える時間は割とあった。
ヒントを得ようとノアにも聞いてみたが、はっきりとした答えは返してくれなかった。
「こういう答えは自分で見つけた方が良い。ただ、やっぱり彼は目の付け所が良いね。目が良いのかも」
そう言ってヴィクターを褒める始末だ。
怒ったシャーロットはそれについてノアに聞くのを辞めた。
メロディについてはそもそもこの話題に興味を持ってくれない。
『赤月祭』に向けて衣装を選ぶので忙しいらしい。完全に観光気分だ。
「だって、シャルちゃん! 『赤月祭』まで、あと一週間も無いんだよ!? ちゃんと準備しておかないと~!」
そういってどこかから何を買い込んでは部屋の荷物を増やすことに執心していた。
天才的なバランスで高く積まれたその山は、すでにシャーロットの背丈をとうに追い越している。
小柄なメロディは尚の事だ。一体どうやって積んだり下ろしたりしているのだろう。メロディはかなり謎が多い。
結局その日の間に結論を出すことは出来なかった。
◆◆◆
次の日、日が少し高くなった頃にシャーロットは目覚めた。
日差しの差し方からして、恐らく昼前だろう。
横のノアを見ると、まだ寝ているようだ。最近のノアは起きるのが遅くなってきている。
メロディの姿は既に無い。恐らくまた買い物に行ったのだろう。
(私も街を散策しようかしら)
まあ、その辺りをちょっと歩いてみるだけだし、ノアを置いていっても構わないだろう。
シャーロットは手早く身支度を済ませ、<月の光亭>を後にした。
露店が立ち並ぶ大通りを歩く。
元から活気のある雰囲気だったが、更に賑やかになって、人通りも増えている気がする。
『赤月祭』が近いのが原因だろう。
美味しい食べ物を食べて飲んで、とにかく騒ぐというのが趣旨のお祭りらしい。
我を忘れて騒ぐ、普段とは違う自分になるという意味で仮装をするのだという。随分と愉快なお祭りだ。
「おい、あっちでなんかやってるみたいだぜ!」
「見に行ってみるか」
そう言いながら二人組の男がシャーロットの横を小走りで通り抜けていく。
確かに何やら騒がしい。
シャーロットはそちらへと足を向けた。
「おーっほっほっほ! 私の素晴らしい魔法技術を目に焼き付けなさい!」
大変聞き覚えのある高飛車な声。
シャーロットは思わず足を止め、物陰に隠れながらそっとそちらを伺い見た。
円形の広間だ。何かイベントを行うのにうってつけの空間だった。
吟遊詩人や旅芸人が普段は使用するスペースなのだろう。
今はそこで――炎で形作られたドラゴンが宙返りをしていた。
「え?」
沸き起こる喝采。続いてドラゴンは、隣の女に投げ入れられた炎のボールでジャグリングを始めた。
器用に三つのボールを落とさないように次々と宙に放り投げる。
女はどんどん新しくボールを投げ入れていくが、ドラゴンは一つも落とさない。
段々その数は増えていき、ジャグリングのスピードも上がっていく。
最終的には繋がった大きな炎の輪に見えるほどになった。
ドラゴンがジャグリングを止めても、その輪は宙に浮かび続ける。
そしてドラゴンはその輪を回転しながらくぐり、着地と同時にポーズを決める。
大きな歓声が湧き上がった。
シャーロットも思わず控えめに拍手する。確かに素晴らしい魔法技術だ。
ドラゴンと共に一礼した女は、燃えるような赤髪に、輝く金色の瞳を有していた。
――エスメだ。仮にも王女がこんなところでなんで旅芸人の真似事をしているんだ。
エスメは手に大きなカゴを抱え、よく通る声で叫んだ。
「お気持ちをここに入れて行きなさい!」
そんな高飛車におひねりをねだる奴があるか。
現状を全く理解できないシャーロットは暫くエスメを見つめ続け、そして、目が合った。合ってしまった。
「ああぁぁぁ! シャーロット! 探したわよお!」
まずい。絶対面倒なことになる。
シャーロットは物陰にさっと引っ込み、走って逃げようとした瞬間、なにかに躓き転んでしまった。
「ぐぇっ」
かなり情けない声を上げて地面に叩きつけられるシャーロット。
コロコロ……と石が目の前に転がってくる。
これが原因でこけてしまったのだろう。
(あら? これって)
オークの群れを討伐した時に拾った欠片と同じもののようだ。
あれは欠片だったが、こちらはもう少し大きくて重い。
(もしかして、これもロバートさんの落とし物なのかなあ……?)
そう思い、とりあえず懐にしまう。
「シャーロット……。今、逃げようとしたの? 私から?」
すぐ後ろからエスメの声。
ゆっくり振り返ると、笑顔のエスメが仁王立ちしてシャーロットを見下ろしていた。
めちゃくちゃ怖い。
怯えたシャーロットは冷や汗をかきながら否定することしか出来なかった。
そうヴィクターに言われた次の日、シャーロットはその意味をずっと考えていた。
連絡用の魔道具である水晶を渡され、呼び出されるまでは自由に過ごして良いと言われているため使える時間は割とあった。
ヒントを得ようとノアにも聞いてみたが、はっきりとした答えは返してくれなかった。
「こういう答えは自分で見つけた方が良い。ただ、やっぱり彼は目の付け所が良いね。目が良いのかも」
そう言ってヴィクターを褒める始末だ。
怒ったシャーロットはそれについてノアに聞くのを辞めた。
メロディについてはそもそもこの話題に興味を持ってくれない。
『赤月祭』に向けて衣装を選ぶので忙しいらしい。完全に観光気分だ。
「だって、シャルちゃん! 『赤月祭』まで、あと一週間も無いんだよ!? ちゃんと準備しておかないと~!」
そういってどこかから何を買い込んでは部屋の荷物を増やすことに執心していた。
天才的なバランスで高く積まれたその山は、すでにシャーロットの背丈をとうに追い越している。
小柄なメロディは尚の事だ。一体どうやって積んだり下ろしたりしているのだろう。メロディはかなり謎が多い。
結局その日の間に結論を出すことは出来なかった。
◆◆◆
次の日、日が少し高くなった頃にシャーロットは目覚めた。
日差しの差し方からして、恐らく昼前だろう。
横のノアを見ると、まだ寝ているようだ。最近のノアは起きるのが遅くなってきている。
メロディの姿は既に無い。恐らくまた買い物に行ったのだろう。
(私も街を散策しようかしら)
まあ、その辺りをちょっと歩いてみるだけだし、ノアを置いていっても構わないだろう。
シャーロットは手早く身支度を済ませ、<月の光亭>を後にした。
露店が立ち並ぶ大通りを歩く。
元から活気のある雰囲気だったが、更に賑やかになって、人通りも増えている気がする。
『赤月祭』が近いのが原因だろう。
美味しい食べ物を食べて飲んで、とにかく騒ぐというのが趣旨のお祭りらしい。
我を忘れて騒ぐ、普段とは違う自分になるという意味で仮装をするのだという。随分と愉快なお祭りだ。
「おい、あっちでなんかやってるみたいだぜ!」
「見に行ってみるか」
そう言いながら二人組の男がシャーロットの横を小走りで通り抜けていく。
確かに何やら騒がしい。
シャーロットはそちらへと足を向けた。
「おーっほっほっほ! 私の素晴らしい魔法技術を目に焼き付けなさい!」
大変聞き覚えのある高飛車な声。
シャーロットは思わず足を止め、物陰に隠れながらそっとそちらを伺い見た。
円形の広間だ。何かイベントを行うのにうってつけの空間だった。
吟遊詩人や旅芸人が普段は使用するスペースなのだろう。
今はそこで――炎で形作られたドラゴンが宙返りをしていた。
「え?」
沸き起こる喝采。続いてドラゴンは、隣の女に投げ入れられた炎のボールでジャグリングを始めた。
器用に三つのボールを落とさないように次々と宙に放り投げる。
女はどんどん新しくボールを投げ入れていくが、ドラゴンは一つも落とさない。
段々その数は増えていき、ジャグリングのスピードも上がっていく。
最終的には繋がった大きな炎の輪に見えるほどになった。
ドラゴンがジャグリングを止めても、その輪は宙に浮かび続ける。
そしてドラゴンはその輪を回転しながらくぐり、着地と同時にポーズを決める。
大きな歓声が湧き上がった。
シャーロットも思わず控えめに拍手する。確かに素晴らしい魔法技術だ。
ドラゴンと共に一礼した女は、燃えるような赤髪に、輝く金色の瞳を有していた。
――エスメだ。仮にも王女がこんなところでなんで旅芸人の真似事をしているんだ。
エスメは手に大きなカゴを抱え、よく通る声で叫んだ。
「お気持ちをここに入れて行きなさい!」
そんな高飛車におひねりをねだる奴があるか。
現状を全く理解できないシャーロットは暫くエスメを見つめ続け、そして、目が合った。合ってしまった。
「ああぁぁぁ! シャーロット! 探したわよお!」
まずい。絶対面倒なことになる。
シャーロットは物陰にさっと引っ込み、走って逃げようとした瞬間、なにかに躓き転んでしまった。
「ぐぇっ」
かなり情けない声を上げて地面に叩きつけられるシャーロット。
コロコロ……と石が目の前に転がってくる。
これが原因でこけてしまったのだろう。
(あら? これって)
オークの群れを討伐した時に拾った欠片と同じもののようだ。
あれは欠片だったが、こちらはもう少し大きくて重い。
(もしかして、これもロバートさんの落とし物なのかなあ……?)
そう思い、とりあえず懐にしまう。
「シャーロット……。今、逃げようとしたの? 私から?」
すぐ後ろからエスメの声。
ゆっくり振り返ると、笑顔のエスメが仁王立ちしてシャーロットを見下ろしていた。
めちゃくちゃ怖い。
怯えたシャーロットは冷や汗をかきながら否定することしか出来なかった。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
転生令嬢、死す。
ぽんぽこ狸
恋愛
転生令嬢、死す。
聖女ファニーは暇していた。それはもう、耐えられないほど退屈であり、このままでは気が狂ってしまいそうだなんて思うほどだった。
前世から、びっくり人間と陰で呼ばれていたような、サプライズとドッキリが大好きなファニーだったが、ここ最近の退屈さと言ったら、もう堪らない。
とくに、婚約が決まってからというもの、退屈が極まっていた。
そんなファニーは、ある思い付きをして、今度、行われる身内だけの婚約パーティーでとあるドッキリを決行しようと考える。
それは、死亡ドッキリ。皆があっと驚いて、きゃあっと悲鳴を上げる様なスリルあるものにするぞ!そう、気合いを入れてファニーは、仮死魔法の開発に取り組むのだった。
五万文字ほどの短編です。さっくり書いております。個人的にミステリーといいますか、読者様にとって意外な展開で驚いてもらえるように書いたつもりです。
文章が肌に合った方は、よろしければ長編もありますのでぞいてみてくれると飛び跳ねて喜びます。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。
※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
※単純な話なので安心して読めると思います。
聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる