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3章 遠足ではありません

35. 思わぬ再会

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(魔力を内に向ける……)

 そうヴィクターに言われた次の日、シャーロットはその意味をずっと考えていた。
 連絡用の魔道具である水晶を渡され、呼び出されるまでは自由に過ごして良いと言われているため使える時間は割とあった。
 ヒントを得ようとノアにも聞いてみたが、はっきりとした答えは返してくれなかった。
 
「こういう答えは自分で見つけた方が良い。ただ、やっぱり彼は目の付け所が良いね。目が良いのかも」

 そう言ってヴィクターを褒める始末だ。
 怒ったシャーロットはそれについてノアに聞くのを辞めた。
 メロディについてはそもそもこの話題に興味を持ってくれない。
 『赤月祭』に向けて衣装を選ぶので忙しいらしい。完全に観光気分だ。
 
「だって、シャルちゃん! 『赤月祭』まで、あと一週間も無いんだよ!? ちゃんと準備しておかないと~!」

 そういってどこかから何を買い込んでは部屋の荷物を増やすことに執心していた。
 天才的なバランスで高く積まれたその山は、すでにシャーロットの背丈をとうに追い越している。
 小柄なメロディは尚の事だ。一体どうやって積んだり下ろしたりしているのだろう。メロディはかなり謎が多い。
 
 結局その日の間に結論を出すことは出来なかった。
 
 
 
 ◆◆◆
 
 
 
 次の日、日が少し高くなった頃にシャーロットは目覚めた。
 日差しの差し方からして、恐らく昼前だろう。
 横のノアを見ると、まだ寝ているようだ。最近のノアは起きるのが遅くなってきている。
 メロディの姿は既に無い。恐らくまた買い物に行ったのだろう。
 
(私も街を散策しようかしら)

 まあ、その辺りをちょっと歩いてみるだけだし、ノアを置いていっても構わないだろう。
 シャーロットは手早く身支度を済ませ、<月の光亭>を後にした。
 
 露店が立ち並ぶ大通りを歩く。
 元から活気のある雰囲気だったが、更に賑やかになって、人通りも増えている気がする。
 『赤月祭』が近いのが原因だろう。
 美味しい食べ物を食べて飲んで、とにかく騒ぐというのが趣旨のお祭りらしい。
 我を忘れて騒ぐ、普段とは違う自分になるという意味で仮装をするのだという。随分と愉快なお祭りだ。

「おい、あっちでなんかやってるみたいだぜ!」
「見に行ってみるか」

 そう言いながら二人組の男がシャーロットの横を小走りで通り抜けていく。
 確かに何やら騒がしい。
 シャーロットはそちらへと足を向けた。
 
「おーっほっほっほ! 私の素晴らしい魔法技術を目に焼き付けなさい!」

 大変聞き覚えのある高飛車な声。
 シャーロットは思わず足を止め、物陰に隠れながらそっとそちらを伺い見た。
 
 円形の広間だ。何かイベントを行うのにうってつけの空間だった。
 吟遊詩人や旅芸人が普段は使用するスペースなのだろう。
 今はそこで――炎で形作られたドラゴンが宙返りをしていた。
 
「え?」

 沸き起こる喝采。続いてドラゴンは、隣の女に投げ入れられた炎のボールでジャグリングを始めた。
 器用に三つのボールを落とさないように次々と宙に放り投げる。
 女はどんどん新しくボールを投げ入れていくが、ドラゴンは一つも落とさない。
 段々その数は増えていき、ジャグリングのスピードも上がっていく。
 最終的には繋がった大きな炎の輪に見えるほどになった。
 ドラゴンがジャグリングを止めても、その輪は宙に浮かび続ける。
 そしてドラゴンはその輪を回転しながらくぐり、着地と同時にポーズを決める。
 
 大きな歓声が湧き上がった。
 シャーロットも思わず控えめに拍手する。確かに素晴らしい魔法技術だ。
 
 ドラゴンと共に一礼した女は、燃えるような赤髪に、輝く金色の瞳を有していた。

 ――エスメだ。仮にも王女がこんなところでなんで旅芸人の真似事をしているんだ。
 エスメは手に大きなカゴを抱え、よく通る声で叫んだ。

「お気持ちをここに入れて行きなさい!」

 そんな高飛車におひねりをねだる奴があるか。
 現状を全く理解できないシャーロットは暫くエスメを見つめ続け、そして、目が合った。合ってしまった。
 
「ああぁぁぁ! シャーロット! 探したわよお!」

 まずい。絶対面倒なことになる。
 シャーロットは物陰にさっと引っ込み、走って逃げようとした瞬間、なにかに躓き転んでしまった。
 
「ぐぇっ」

 かなり情けない声を上げて地面に叩きつけられるシャーロット。
 コロコロ……と石が目の前に転がってくる。
 これが原因でこけてしまったのだろう。
 
(あら? これって)

 オークの群れを討伐した時に拾った欠片と同じもののようだ。
 あれは欠片だったが、こちらはもう少し大きくて重い。
 
(もしかして、これもロバートさんの落とし物なのかなあ……?)

 そう思い、とりあえず懐にしまう。
 
「シャーロット……。今、逃げようとしたの? 私から?」

 すぐ後ろからエスメの声。
 ゆっくり振り返ると、笑顔のエスメが仁王立ちしてシャーロットを見下ろしていた。
 めちゃくちゃ怖い。
 
 怯えたシャーロットは冷や汗をかきながら否定することしか出来なかった。
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