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第一章 レイロンド大陸へ
45.盾のシュロム
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海からくる穏やかな風が頭に静かにぶつかってくる。
やっとあのクソ野郎を倒せた。
これでひとまず安心というところだ。
「……そうでもないか」
俺は困り果てていた。
この狭くて高い壁の上、どうやって下りればいいんだ。
こういうのは帰り道を考えてからするべきだった。
てか、そもそも体中が痛んで動かない。
「……困った」
一瞬あたりが眩しくなった気がする。
雷が落ちたのか。
天気はそこまで悪くなさそうだけどな。
「……なんだ?」
風も強くなってきたし、落ちそうだ。
身体は震えていないが、もちろん怖い。
だれか助けてくれ。
「……!?」
あれ、なんか星がさっきよりも早く動いてるぞ。
風もさらに強くなってきてる。
星って風で速くなるわけないよな。
「ってことは俺が移動しているのか!」
あっちの壁がだんだん高く見えてる。
やっぱり俺落ちて行ってるぞ。
壁を滑り落ちているのか。
「そんな馬鹿な」
背中に全く感覚ないぞ。
いつから壁は氷になったんだ。
「いや、そうじゃなくて」
いや、斜面を滑って行ってるってなんでだよ。
そんなの無かっただろ。
「うわああああああああああああ!」
落ちていく先が見えない、怖い。
「助けてくれえええええええええええええ!」
頭にあたる冷たい風を感じながら俺は震えることもできず、逆に冷静になっていたことに気づいたのは、目を開けたときに海に浮かびながら夜空を眺めていた時だった。
―ってことがあったんだってさ!
「あー愉快だね!」
「笑うところじゃないだろ」
何を面白げにこの野郎。
やっぱりロイバが奴と戦うべきだったか。
「そうじゃないでしょ……」
ソフィは頭を抱えながらそう言った。
あの後、俺は海に漂っているところを変態ロイバと可愛らしいミアに見つけてもらい、無事に生き延びた。
それからソフィと合流するために町の南東にある倉庫に戻ってきたわけだが。
「……。」
なんでソフィはあんなに不機嫌なんだよ。
「……ミアちゃん、なんかしたの?」
「そんなわけないじゃないですか」
「そうだ、こういう時は大体お前のせいだろロイバ」
「ええ?」
むしろ褒められるべきだと思っていた。
何せ敵を倒して戻ってきたからな。
なんだよこの仕打ちは。
「とりあえず謝った方がよさそうだね」
「そ、そうですね」
「じゃあシユウ、謝りなよ」
「俺じゃないだろ」
「「!?」」
俺たち三人をギロリと睨んできたソフィ。
切れてるのか。
いやいや、なんでだよ。
「はぁ……」
凍てつく空気にソフィのため息が入る。
その眼はいつものもので、少しほっとした。
「「!?」」
「何か忘れてることない?」
なでおろしている胸にソフィの鋭い眼光が突き刺さった。
ミアはもう半泣きだぞ。
ここはひとつ抗議するべきだ。
「なんで怒ってるんだよ、俺たちは何もしてないぞ!」
「何もしてないからでしょ!」
「え?」
ソフィの怒鳴り声がよく聞こえた。
それでミアは泣き出し、それをロイバは笑っている。
「はぁ……もともとの目的覚えてないの?」
「もともとの目的……?」
俺は横で喧嘩しているミアとロイバを気にせず、話を整理した。
そういえばそうだった。
無数にいた兵隊を指揮する奴を見つけてくることが、目的だったな。
「こっちはずっと戦ってたわ」
「それはこっちも同じだよ」
「そうですよ!」
その泣き面と笑い面にソフィは呆れたようすだ。
だいぶ溜め込んでるなこれ。
「まぁいいわ、そっちで何があったか詳しく教えて」
「わかった。ここから出た後俺たちは…………」
「……わかったわ」
なんかソフィ、俺の剣を睨んでるような。
羨ましいのか。
「それはそうと、兵隊はどうなったのさ?」
「一掃したわ」
「は?」
「五百ほど倒したら逃げていったわ」
「は?」
普通な顔しているけど、尋常じゃない。
五百体倒したとかおかしい。
それは逃げてくだろ。
ん、逃げていった?
「ソフィ、逃げたって五百人以上いたんですか?」
「そうよ、その数倍はいたわ」
「そんな馬鹿なことあるか」
「私も驚いたわ、あれだけいて逃げるだなんて腰抜けね」
「いや、そうじゃなくて」
「なに?」
「最初の数からそんなにいなくなかったか?」
「……そうね」
今気づいたのか。
「そうだよ、そんなにいたら東側にいた僕たちでも見かけたはずだよ」
「え、兵隊はそっちにまったくいなかったの?」
「一人もいませんでした」
異様なことが起こっている。
それだけの数が町の南東地区だけに集中していただと。
そんなわけがない。
「もしかして、兵隊は増えているってことですか?」
「それしかないわね」
「まじかよ」
一体どこから湧いたんだ。
この町は壁に囲まれて外に出ることはもちろん、入ることもできないのに。
「シュロムの能力だね」
「そのようね」
そうだった。
相手は能力者。
それくらいのことはやってくる。
「—!?」
「どうしたの、ミアちゃん?」
「すごい数がこっちに!」
「たぶん兵隊だわ」
慌てているミアと冷静に耳を澄ましているソフィ。
あっちも動いてきたか。
「どうする?」
「とにかく屋根の上に逃げるわよ!」
「わ、わかった!」
近づいてきている整った足音を聞きながら倉庫の外に出る。
そして屋根の上に上っていく。
目を疑った。
町から道が無くなっている。
この倉庫の屋根の上から見えるすべての道に兵隊が歩いて、道を隠しているんだ。
気分も悪くなってきた。
「兵隊たちの武器は槍だけみたいだね」
「そうよ、だから高いところに避難すれば攻撃は届かないわ」
それで少し楽になるとでも思ったか。
あの兵隊全員がこっちに向かってきている現象でそんなものは掻き消されてる。
でも確かに兵隊の武器はすべて槍だけだな。
「どうするんですか?」
「倒すしかないわ」
ソフィは剣を抜いた。
「そんなことしても無駄だろ」
「全員倒せば終わるかもしれないわ」
「そんなわけがない」
なんとなくわかる。
あれはほぼ無限に湧いてくる奴だ。
矢のシュロムと同等の力があるなら十分にありえる。
「だったらどうするの?」
「本体を探す」
「……どこにいるわけ?」
やっぱりあの兵隊全然怖くない。
たとえあれすべてが不死身でも関係ない。
だってソフィの冷徹な表情のほうが恐怖すぎるからな。
「ねぇねぇ、あそこに盾持ったやつがいるよ」
「え?」
「よく見えないです」
「!」
ソフィがいきなりあっちの屋根に飛んで走って行った。
ロイバが示した盾の兵士の方向だ。
「シユウ、あぶないですよ!」
俺も屋根に飛び移る。
ちょっと高さもあるし幅もあるけど、さっきの壁に比べたらなんてことはない。
「!」
ギリギリだけど届いた。
よしソフィを追おう。
俺は屋根を走っていく。
「じゃあ僕たちも行こうか」
「え、何するんです?」
「ミアちゃん飛べないよね?」
「そ、そうですけど」
「だったら僕が抱えていくしかないよね?」
「嫌です。」
「じゃあ残りなよ」
「最低ですね」
ニコニコしたロイバは不満げなミアを抱えながら屋根を飛び、走り出した。
あの光ってるの盾か、あれがそうだな。
町の屋根の上を走ってきてようやっと見えてきた。
盾らしいものを確かに持った奴が兵隊の中に混ざっている。
「うわ!」
「……」
何かにぶつかったと思ったらソフィか。
ソフィがいきなり止まって俺をまた睨んできている。
「なんでついてくるの?」
「いや、それは……念のため」
「……?」
「よいしょっと!」
後ろからロイバとミアも追いついたか。
なんかミアはすごい不機嫌だ。
「お、あれが盾持った兵士だよ!」
「わかってるわ」
「じー」
「なんで一人だけ盾なんだろうな?」
「じー」
「こっちには気づいてなさそうね」
「じー」
「姉貴! 一応、気配消しておきます?」
「じー」
「それは結構。」
「そうかい?」
「じー」
「さっきからなにさ?」
「……いい加減下ろしてください」
「あ、そうだね」
兵隊たちは俺たちを見つけて倉庫のほうに移動して行っていると思ったが、こっちに気づいていないからなのか、まだあっちに進んでいってる。
「それにしてもロボットみたいにズレのない動きだな」
「ロボットってなんですか?」
「な、なんか機械みたいだろあいつら」
「そうだね。一人として隊列を乱してないし、行進も完璧に揃ってるね」
「探知でも兵隊全部同じような感じですよ」
「ミアの探知ってやっぱりすごいな」
「それほどでもないですよ?」
ミアは頬が緩んでニヤニヤしている。
一方でソフィは盾の兵士をじっと見ていた。
あんなに眩しいのよく見てられるな。
「いい、私がアレを倒すからここで待ってなさい」
「な、なんでだよ」
「邪魔だから。」
ソフィはすぐに偽ることなく返答した。
その言葉は真実だったのは認める。
でも今は違う。
今の俺にはこの剣がある。
戦えるはずだ。
「眩しいな!」
「!」
その光とともにソフィは屋根から飛び上がった。
音を立てることもなく、迷うこともなくその軍勢に飛び込んでいく。
「すごいや姉貴!」
「感心してる場合じゃないぞ!」
眩しくなくなると同時に、兵隊の進行が止まった。
まずいぞ。
「ソフィ!」
ミアが叫んだのは、空中にいるソフィに盾の光が当たっていてしかも兵隊もソフィのほうを向いて槍を構えているからだ。
いや、まさか槍を投げるつもりか。
そんなことしたら落ちてきた槍が兵隊同士に刺さるよな。
「姉貴! 槍が来るよ!」
「嘘だろ!」
ロイバの言った通り兵隊は槍を投げ始めた。
それはまっすぐソフィに向かっていく。
そんな馬鹿な。
「甘いわ!」
ソフィは目を瞑ったまま飛んできた槍を次々斬っていく。
空中にいながらも体のバランスがまったく崩れない。
「そんなのあり!?」
しゃべったのか。
盾を持っている兵士が言葉を発したのか。
「貰った」
ソフィは着地し、そのまま盾の兵士のほうへ突っ込んでいく。
盾の兵士はその盾で防御する。
しかしソフィはためらうことなく剣を振り下ろし、盾ごと兵士を真っ二つにした。
「これが……光の騎士なのかよ……」
「……」
盾の兵士はそう言って倒れた。
盾が光を放って消えた後に兵士も同じように消えた。
血だけ残っている。
あっけなかったな。
「「!?」」
「……?」
周りにいた兵隊も光を放って消えていったぞ。
百体くらいいたよな。
それが一瞬で消えた。
「盾のシュロム」
「あ?」
「僕はあれを殺したことあるよ」
ロイバは真顔で俺に囁いた。
盾のシュロム。
さっきのがシュロムなのか。
しかもロイバが一回殺しているだと。
一体どういうことなんだ。
やっとあのクソ野郎を倒せた。
これでひとまず安心というところだ。
「……そうでもないか」
俺は困り果てていた。
この狭くて高い壁の上、どうやって下りればいいんだ。
こういうのは帰り道を考えてからするべきだった。
てか、そもそも体中が痛んで動かない。
「……困った」
一瞬あたりが眩しくなった気がする。
雷が落ちたのか。
天気はそこまで悪くなさそうだけどな。
「……なんだ?」
風も強くなってきたし、落ちそうだ。
身体は震えていないが、もちろん怖い。
だれか助けてくれ。
「……!?」
あれ、なんか星がさっきよりも早く動いてるぞ。
風もさらに強くなってきてる。
星って風で速くなるわけないよな。
「ってことは俺が移動しているのか!」
あっちの壁がだんだん高く見えてる。
やっぱり俺落ちて行ってるぞ。
壁を滑り落ちているのか。
「そんな馬鹿な」
背中に全く感覚ないぞ。
いつから壁は氷になったんだ。
「いや、そうじゃなくて」
いや、斜面を滑って行ってるってなんでだよ。
そんなの無かっただろ。
「うわああああああああああああ!」
落ちていく先が見えない、怖い。
「助けてくれえええええええええええええ!」
頭にあたる冷たい風を感じながら俺は震えることもできず、逆に冷静になっていたことに気づいたのは、目を開けたときに海に浮かびながら夜空を眺めていた時だった。
―ってことがあったんだってさ!
「あー愉快だね!」
「笑うところじゃないだろ」
何を面白げにこの野郎。
やっぱりロイバが奴と戦うべきだったか。
「そうじゃないでしょ……」
ソフィは頭を抱えながらそう言った。
あの後、俺は海に漂っているところを変態ロイバと可愛らしいミアに見つけてもらい、無事に生き延びた。
それからソフィと合流するために町の南東にある倉庫に戻ってきたわけだが。
「……。」
なんでソフィはあんなに不機嫌なんだよ。
「……ミアちゃん、なんかしたの?」
「そんなわけないじゃないですか」
「そうだ、こういう時は大体お前のせいだろロイバ」
「ええ?」
むしろ褒められるべきだと思っていた。
何せ敵を倒して戻ってきたからな。
なんだよこの仕打ちは。
「とりあえず謝った方がよさそうだね」
「そ、そうですね」
「じゃあシユウ、謝りなよ」
「俺じゃないだろ」
「「!?」」
俺たち三人をギロリと睨んできたソフィ。
切れてるのか。
いやいや、なんでだよ。
「はぁ……」
凍てつく空気にソフィのため息が入る。
その眼はいつものもので、少しほっとした。
「「!?」」
「何か忘れてることない?」
なでおろしている胸にソフィの鋭い眼光が突き刺さった。
ミアはもう半泣きだぞ。
ここはひとつ抗議するべきだ。
「なんで怒ってるんだよ、俺たちは何もしてないぞ!」
「何もしてないからでしょ!」
「え?」
ソフィの怒鳴り声がよく聞こえた。
それでミアは泣き出し、それをロイバは笑っている。
「はぁ……もともとの目的覚えてないの?」
「もともとの目的……?」
俺は横で喧嘩しているミアとロイバを気にせず、話を整理した。
そういえばそうだった。
無数にいた兵隊を指揮する奴を見つけてくることが、目的だったな。
「こっちはずっと戦ってたわ」
「それはこっちも同じだよ」
「そうですよ!」
その泣き面と笑い面にソフィは呆れたようすだ。
だいぶ溜め込んでるなこれ。
「まぁいいわ、そっちで何があったか詳しく教えて」
「わかった。ここから出た後俺たちは…………」
「……わかったわ」
なんかソフィ、俺の剣を睨んでるような。
羨ましいのか。
「それはそうと、兵隊はどうなったのさ?」
「一掃したわ」
「は?」
「五百ほど倒したら逃げていったわ」
「は?」
普通な顔しているけど、尋常じゃない。
五百体倒したとかおかしい。
それは逃げてくだろ。
ん、逃げていった?
「ソフィ、逃げたって五百人以上いたんですか?」
「そうよ、その数倍はいたわ」
「そんな馬鹿なことあるか」
「私も驚いたわ、あれだけいて逃げるだなんて腰抜けね」
「いや、そうじゃなくて」
「なに?」
「最初の数からそんなにいなくなかったか?」
「……そうね」
今気づいたのか。
「そうだよ、そんなにいたら東側にいた僕たちでも見かけたはずだよ」
「え、兵隊はそっちにまったくいなかったの?」
「一人もいませんでした」
異様なことが起こっている。
それだけの数が町の南東地区だけに集中していただと。
そんなわけがない。
「もしかして、兵隊は増えているってことですか?」
「それしかないわね」
「まじかよ」
一体どこから湧いたんだ。
この町は壁に囲まれて外に出ることはもちろん、入ることもできないのに。
「シュロムの能力だね」
「そのようね」
そうだった。
相手は能力者。
それくらいのことはやってくる。
「—!?」
「どうしたの、ミアちゃん?」
「すごい数がこっちに!」
「たぶん兵隊だわ」
慌てているミアと冷静に耳を澄ましているソフィ。
あっちも動いてきたか。
「どうする?」
「とにかく屋根の上に逃げるわよ!」
「わ、わかった!」
近づいてきている整った足音を聞きながら倉庫の外に出る。
そして屋根の上に上っていく。
目を疑った。
町から道が無くなっている。
この倉庫の屋根の上から見えるすべての道に兵隊が歩いて、道を隠しているんだ。
気分も悪くなってきた。
「兵隊たちの武器は槍だけみたいだね」
「そうよ、だから高いところに避難すれば攻撃は届かないわ」
それで少し楽になるとでも思ったか。
あの兵隊全員がこっちに向かってきている現象でそんなものは掻き消されてる。
でも確かに兵隊の武器はすべて槍だけだな。
「どうするんですか?」
「倒すしかないわ」
ソフィは剣を抜いた。
「そんなことしても無駄だろ」
「全員倒せば終わるかもしれないわ」
「そんなわけがない」
なんとなくわかる。
あれはほぼ無限に湧いてくる奴だ。
矢のシュロムと同等の力があるなら十分にありえる。
「だったらどうするの?」
「本体を探す」
「……どこにいるわけ?」
やっぱりあの兵隊全然怖くない。
たとえあれすべてが不死身でも関係ない。
だってソフィの冷徹な表情のほうが恐怖すぎるからな。
「ねぇねぇ、あそこに盾持ったやつがいるよ」
「え?」
「よく見えないです」
「!」
ソフィがいきなりあっちの屋根に飛んで走って行った。
ロイバが示した盾の兵士の方向だ。
「シユウ、あぶないですよ!」
俺も屋根に飛び移る。
ちょっと高さもあるし幅もあるけど、さっきの壁に比べたらなんてことはない。
「!」
ギリギリだけど届いた。
よしソフィを追おう。
俺は屋根を走っていく。
「じゃあ僕たちも行こうか」
「え、何するんです?」
「ミアちゃん飛べないよね?」
「そ、そうですけど」
「だったら僕が抱えていくしかないよね?」
「嫌です。」
「じゃあ残りなよ」
「最低ですね」
ニコニコしたロイバは不満げなミアを抱えながら屋根を飛び、走り出した。
あの光ってるの盾か、あれがそうだな。
町の屋根の上を走ってきてようやっと見えてきた。
盾らしいものを確かに持った奴が兵隊の中に混ざっている。
「うわ!」
「……」
何かにぶつかったと思ったらソフィか。
ソフィがいきなり止まって俺をまた睨んできている。
「なんでついてくるの?」
「いや、それは……念のため」
「……?」
「よいしょっと!」
後ろからロイバとミアも追いついたか。
なんかミアはすごい不機嫌だ。
「お、あれが盾持った兵士だよ!」
「わかってるわ」
「じー」
「なんで一人だけ盾なんだろうな?」
「じー」
「こっちには気づいてなさそうね」
「じー」
「姉貴! 一応、気配消しておきます?」
「じー」
「それは結構。」
「そうかい?」
「じー」
「さっきからなにさ?」
「……いい加減下ろしてください」
「あ、そうだね」
兵隊たちは俺たちを見つけて倉庫のほうに移動して行っていると思ったが、こっちに気づいていないからなのか、まだあっちに進んでいってる。
「それにしてもロボットみたいにズレのない動きだな」
「ロボットってなんですか?」
「な、なんか機械みたいだろあいつら」
「そうだね。一人として隊列を乱してないし、行進も完璧に揃ってるね」
「探知でも兵隊全部同じような感じですよ」
「ミアの探知ってやっぱりすごいな」
「それほどでもないですよ?」
ミアは頬が緩んでニヤニヤしている。
一方でソフィは盾の兵士をじっと見ていた。
あんなに眩しいのよく見てられるな。
「いい、私がアレを倒すからここで待ってなさい」
「な、なんでだよ」
「邪魔だから。」
ソフィはすぐに偽ることなく返答した。
その言葉は真実だったのは認める。
でも今は違う。
今の俺にはこの剣がある。
戦えるはずだ。
「眩しいな!」
「!」
その光とともにソフィは屋根から飛び上がった。
音を立てることもなく、迷うこともなくその軍勢に飛び込んでいく。
「すごいや姉貴!」
「感心してる場合じゃないぞ!」
眩しくなくなると同時に、兵隊の進行が止まった。
まずいぞ。
「ソフィ!」
ミアが叫んだのは、空中にいるソフィに盾の光が当たっていてしかも兵隊もソフィのほうを向いて槍を構えているからだ。
いや、まさか槍を投げるつもりか。
そんなことしたら落ちてきた槍が兵隊同士に刺さるよな。
「姉貴! 槍が来るよ!」
「嘘だろ!」
ロイバの言った通り兵隊は槍を投げ始めた。
それはまっすぐソフィに向かっていく。
そんな馬鹿な。
「甘いわ!」
ソフィは目を瞑ったまま飛んできた槍を次々斬っていく。
空中にいながらも体のバランスがまったく崩れない。
「そんなのあり!?」
しゃべったのか。
盾を持っている兵士が言葉を発したのか。
「貰った」
ソフィは着地し、そのまま盾の兵士のほうへ突っ込んでいく。
盾の兵士はその盾で防御する。
しかしソフィはためらうことなく剣を振り下ろし、盾ごと兵士を真っ二つにした。
「これが……光の騎士なのかよ……」
「……」
盾の兵士はそう言って倒れた。
盾が光を放って消えた後に兵士も同じように消えた。
血だけ残っている。
あっけなかったな。
「「!?」」
「……?」
周りにいた兵隊も光を放って消えていったぞ。
百体くらいいたよな。
それが一瞬で消えた。
「盾のシュロム」
「あ?」
「僕はあれを殺したことあるよ」
ロイバは真顔で俺に囁いた。
盾のシュロム。
さっきのがシュロムなのか。
しかもロイバが一回殺しているだと。
一体どういうことなんだ。
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