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莢菜の家の話

「あの電話には出てはいけない」

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それから母さんは家にいなくなった。
朝早く私と同じくらいに家を出て、夜遅くに私を迎えに来る。
夜ごはんとお風呂と寝るのは一緒だけど、必ず夜ご飯の前に一本の電話がかかってくる。

母さんはそれを取るとまたあの時のつらい顔をして大きな声を出して電話を切る。
そのあとは母さんはいつも通りの顔をしてくれるけど、私はもう気が付いた。

…あの人たちからの電話だ…と。
だから小学校に入ったころ一度だけ母さんの代わりに電話に出ようと手を伸ばしたことがあった。

でも後ろから強く抱きしめられた。あの震える手で。
電話が止まると母さんは私に向き直った。
そしてその時あの男の人と話していたことの話をしてくれた。


父さんは警察官だから、人が死にそうになっていたら放ってはおけなかったこと。
それであの男の人達の仲間をかばって死んだこと。
おわびにと私の養育費をくれようとするのを必死に拒否していること。


最後のことはなぜかわからなかったけど、今ならわかる。これ以上母さんは父さんの死を蘇らせたくないんだ。
私も父さんの死を思い出したくはない。でも毎日仏壇に手を合わせるし、父さんの顔は忘れたことはない。
でも、その日から母さんに父さんの話を聞くの控えていた。

きっと母さんは私以上に父さんを思い出しているから。
だから電話には出ない。
母さんがいるときに母さんが出るだけ。

私は、母さんをこれ以上傷つけたくない。
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