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オマケ回・王子の暗躍3
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(そういえば、窓が開いていたな……)
視界傍受で得た光景を思い出す。
『……屋敷の部屋に入りこんで。一階正面右の窓が開いていたから。彼女の部屋は……、あっ、そうそう、そこだね』
猫をクローゼット上に潜伏させ、彼女の生活を眺める日々が始まった。
けれどしれば知るほどその欲は増していき、幸いにも魔物だった猫から派生して幾つかの支配体を作成した。鳥、虫、孤独な探検家――存在が消えても騒ぎにならない者たちを狙って増やしていった。
これは別に死者じゃなくても良い。ただ、支配下に置いているうちは動きを止めないというだけだ。それ故の不死の身体という名だった。
そうして僕はやがて大切な彼女の想いを知る――
『お父様にお城につれていってもらいました。はじめて王子様を見ました。とてもきれいでかっこよかったです。こんにちはと話しかけてもらえました。きんちょうでおはなしできませんでした』
それは両想いだという見紛うことなき言葉だ。
「早く会いに行ってあげないと……」
その時僕には、父に埋められた仲間もだいぶ増えていた。
外の結界を解き壁を壊し、棟を出た僕はまっすぐ父に会いに行った。
「お父様、婚約をさせていただきたい女性がおります」
けれど父は震えるばかりでまるで話にならなかった。
「お……お前、何故……」
「そんなことはどうでも良いではありませんか。それより、僕を待っている子がいるのです。急いで婚約の準備を」
「……は?」
「デルダ伯爵令嬢、レア・クレア。彼女との婚約を急ぎ進めてください」
けれど、頭の固い父はすぐに了承しなかった。それどころか、彼女が僕の脱出を幇助したと考えて――
僕に内緒で何度も彼女を始末しようとした。
再び地下室に幽閉された僕は、攫われそうになる彼女を支配体を支配体を使って守り通した。彼女の家族や幼馴染、主に周囲の人間を誘導する方法だ。彼女を見守っている以上、あまり彼女自身に支配体の姿を現すことを避けたかったのだ。
父が彼女の命を奪うのではなく攫おうなどと回りくどいやり方を取ったのは、彼女が不死の存在である可能性を危惧したのだろう。父は不死の存在という存在が問題になることを警戒していた。王家の不祥事と糾弾されたくなかったのだろう。
もし公で彼女に手を下して死ななかったのなら、その異様な性質に騒ぎになるのは明白だ。そして、王家から発表された不死の存在――アンデッドが結び付けられてしまうだろう。故に、捕獲した上で手を下すという計画を練ったのだ。
流石に地下室は僕でも出るのを苦労した。
折角作った僕の友達やその研究部屋も、西棟にいる間に父に埋められてしまったのだ。とはいっても、仕切りとして壁を作られたというだけ。扱いを知らぬ故に手を出すことを恐れたのだろう。
だから此処から出れさえすれば、十分彼女を守る自信があった。
といっても扉は開けようがないし、今度は壁も壊せない。開けさせるしか方法はなかった。
(王都でも襲えば開けてくれるかなぁ……。
僕は今、視界傍受と命令を出すくらいしか出来ないんだよね)
でも――
『魔物狩りをして、沢山お友達を作ってよ』
(それで王都へ侵攻させればいいか)
頃合いを見て、僕は父と交渉をした。この部屋は監視されてるから、それは簡単なことだった。
――彼女に手を出さないこと。
――僕を此処からだすこと。
――彼女と婚約をすること。
そう父に持ちかけて承諾を得た。
ただ、最後にひとつの嫌味を投げられて。
「彼女はお前のことなど想ってはいない」
悔しくも、始末するために彼女を見張った父の言葉は、僕が見ないようにしてきた事実だった。
その頃――あれから二年経ち、彼女の日記には幼馴染のことばかりが記されていた。
『王子様』という言葉は一言も見当たらなくなっていた。
「お前のような奴は人を不幸にしかしない」
父の言葉はやたらと頭に響き、呪いのように残ることになった。
だから地下室を出た後も彼女に近づくことはできなかった。
暫くして父が彼女を攫おうとした目的が、始末から生贄に変わっていたことを母から聞かされた。
僕に彼女を与えて地下室に閉じ込めておこうとしたらしい。
それからの僕は支配体を使って彼女を見守る日々だった。いっそこのままでもいいのかもしれないと思っていた。
けれど――それならもう一度だけ彼女と話したい。そう思ってマギラに入学した彼女を迷わせた。
声を掛け、久しぶりに本物の彼女を見た。しかしその瞬間、僕の中で色々なものが弾け飛んだ。
――彼女が欲しい。
――僕を見て欲しい。
ふとした瞬間よぎったのは、彼女の日記の言葉だった。
『お父様にお城につれていってもらいました。はじめて王子様を見ました。とてもきれいでかっこよかったです。こんにちはと話しかけてもらえました。きんちょうでおはなしできませんでした』
(そうだ、僕は両想いだったんだ。思い出させてあげるだけでいいんだ)
猫にハンカチを盗ませ、口実を作ってまた会った。そのまま会う口実を重ねていき、僕は計画通りに彼女を捕らえることに成功した。
ここまで来るのに本当に長かった――
寝てしまった彼女の横、薄暗くした部屋で寝顔を静かに見守った。
「ドレス姿、綺麗だったよ」
呟きながら額を覆う前髪を手で払った。「汚しちゃってごめんね」
額にキスをすればモゾモゾと彼女が動き出し、僕の胸元に顔を埋めてきた。
幸せだった。
絶対に離したくないと思った。
僕は彼女の身体を強く抱き締める。
「ずっと僕のものだよ」
呟いて、そのまま夢へと落ちていった。
視界傍受で得た光景を思い出す。
『……屋敷の部屋に入りこんで。一階正面右の窓が開いていたから。彼女の部屋は……、あっ、そうそう、そこだね』
猫をクローゼット上に潜伏させ、彼女の生活を眺める日々が始まった。
けれどしれば知るほどその欲は増していき、幸いにも魔物だった猫から派生して幾つかの支配体を作成した。鳥、虫、孤独な探検家――存在が消えても騒ぎにならない者たちを狙って増やしていった。
これは別に死者じゃなくても良い。ただ、支配下に置いているうちは動きを止めないというだけだ。それ故の不死の身体という名だった。
そうして僕はやがて大切な彼女の想いを知る――
『お父様にお城につれていってもらいました。はじめて王子様を見ました。とてもきれいでかっこよかったです。こんにちはと話しかけてもらえました。きんちょうでおはなしできませんでした』
それは両想いだという見紛うことなき言葉だ。
「早く会いに行ってあげないと……」
その時僕には、父に埋められた仲間もだいぶ増えていた。
外の結界を解き壁を壊し、棟を出た僕はまっすぐ父に会いに行った。
「お父様、婚約をさせていただきたい女性がおります」
けれど父は震えるばかりでまるで話にならなかった。
「お……お前、何故……」
「そんなことはどうでも良いではありませんか。それより、僕を待っている子がいるのです。急いで婚約の準備を」
「……は?」
「デルダ伯爵令嬢、レア・クレア。彼女との婚約を急ぎ進めてください」
けれど、頭の固い父はすぐに了承しなかった。それどころか、彼女が僕の脱出を幇助したと考えて――
僕に内緒で何度も彼女を始末しようとした。
再び地下室に幽閉された僕は、攫われそうになる彼女を支配体を支配体を使って守り通した。彼女の家族や幼馴染、主に周囲の人間を誘導する方法だ。彼女を見守っている以上、あまり彼女自身に支配体の姿を現すことを避けたかったのだ。
父が彼女の命を奪うのではなく攫おうなどと回りくどいやり方を取ったのは、彼女が不死の存在である可能性を危惧したのだろう。父は不死の存在という存在が問題になることを警戒していた。王家の不祥事と糾弾されたくなかったのだろう。
もし公で彼女に手を下して死ななかったのなら、その異様な性質に騒ぎになるのは明白だ。そして、王家から発表された不死の存在――アンデッドが結び付けられてしまうだろう。故に、捕獲した上で手を下すという計画を練ったのだ。
流石に地下室は僕でも出るのを苦労した。
折角作った僕の友達やその研究部屋も、西棟にいる間に父に埋められてしまったのだ。とはいっても、仕切りとして壁を作られたというだけ。扱いを知らぬ故に手を出すことを恐れたのだろう。
だから此処から出れさえすれば、十分彼女を守る自信があった。
といっても扉は開けようがないし、今度は壁も壊せない。開けさせるしか方法はなかった。
(王都でも襲えば開けてくれるかなぁ……。
僕は今、視界傍受と命令を出すくらいしか出来ないんだよね)
でも――
『魔物狩りをして、沢山お友達を作ってよ』
(それで王都へ侵攻させればいいか)
頃合いを見て、僕は父と交渉をした。この部屋は監視されてるから、それは簡単なことだった。
――彼女に手を出さないこと。
――僕を此処からだすこと。
――彼女と婚約をすること。
そう父に持ちかけて承諾を得た。
ただ、最後にひとつの嫌味を投げられて。
「彼女はお前のことなど想ってはいない」
悔しくも、始末するために彼女を見張った父の言葉は、僕が見ないようにしてきた事実だった。
その頃――あれから二年経ち、彼女の日記には幼馴染のことばかりが記されていた。
『王子様』という言葉は一言も見当たらなくなっていた。
「お前のような奴は人を不幸にしかしない」
父の言葉はやたらと頭に響き、呪いのように残ることになった。
だから地下室を出た後も彼女に近づくことはできなかった。
暫くして父が彼女を攫おうとした目的が、始末から生贄に変わっていたことを母から聞かされた。
僕に彼女を与えて地下室に閉じ込めておこうとしたらしい。
それからの僕は支配体を使って彼女を見守る日々だった。いっそこのままでもいいのかもしれないと思っていた。
けれど――それならもう一度だけ彼女と話したい。そう思ってマギラに入学した彼女を迷わせた。
声を掛け、久しぶりに本物の彼女を見た。しかしその瞬間、僕の中で色々なものが弾け飛んだ。
――彼女が欲しい。
――僕を見て欲しい。
ふとした瞬間よぎったのは、彼女の日記の言葉だった。
『お父様にお城につれていってもらいました。はじめて王子様を見ました。とてもきれいでかっこよかったです。こんにちはと話しかけてもらえました。きんちょうでおはなしできませんでした』
(そうだ、僕は両想いだったんだ。思い出させてあげるだけでいいんだ)
猫にハンカチを盗ませ、口実を作ってまた会った。そのまま会う口実を重ねていき、僕は計画通りに彼女を捕らえることに成功した。
ここまで来るのに本当に長かった――
寝てしまった彼女の横、薄暗くした部屋で寝顔を静かに見守った。
「ドレス姿、綺麗だったよ」
呟きながら額を覆う前髪を手で払った。「汚しちゃってごめんね」
額にキスをすればモゾモゾと彼女が動き出し、僕の胸元に顔を埋めてきた。
幸せだった。
絶対に離したくないと思った。
僕は彼女の身体を強く抱き締める。
「ずっと僕のものだよ」
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ご指摘本当にありがとうございます!!
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