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たわわな誘惑2
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医療棟に戻れば案内されたのは、カリーナが着替えをした部屋の前だった。行きはあれだけ語っていた城や構造に関わる話はわざとらしいほど避けられて、天気の話なんかをぽつぽつと話した。
「レオン様、親というのは子供の才能を伸ばしてやりたくなるものです」
メンデルは扉に手を掛け、そんなことをいった。
「……え?」
「しかし精力的だったか盲目的だったかと問われるのは、手遅れになってからのことが多いのですよ」
突然の発言に訳が分からず戸惑うが、メンデルは優しい笑みをレオンへ向けた。
「では、ごゆっくりなさってくださいね」
どうぞと扉を開けて中へと促された。
「何か収穫はあったかしら?」
半ば押し入れられるように踏み込んで、投げかけられたたおやかな声に顔を向けた。
「…………」
しかし一瞬で顔が強張った。カリーナがいまだにあのガウン姿だったのだ。レオンの中には、嘘だろあのジジイ……という恨みがましい感情が湧き、すぐにカリーナに向け背を向けた。
「申し訳ありません、行き違いがあったようです。お着替えが済んだ頃に出直します」
二人きりの部屋、レオンは扉に手を掛けていた。けれどカリーナは慌てて「行き違いではないの」と。少し震えた声で「私が頼んだの。その……、時間が惜しいから」とレオンに告げた。
「いえ、その格好ではカリーナ様がお風邪を召されてしまいますので」
レオンは背を向けたままいった。
「だっ、大丈夫よ。それに、治療後は小一時間体調が安定しないから、少し休んでから支度を始めるのよ」
「……そう、なんですか」
カリーナはレオンに見えずともコクコクと頷いた。
「そうなの。いつものことだから、その……、気にせずこちらへ来てもらえると有り難いのだけど」
レオンは少し考えた。それから小さく息を吐き、ゆっくりと振り返った。
なるべく目に入れぬようにカリーナの向かいに腰を落とす。テーブルには既に紅茶入りのカップが置かれていた。
「少し冷めてしまったかもしれないけれど……」
「いえ……」
レオンはカップを取り、静かに口を付けた。正直香りすらよく分からなかった。
カップを置く際には、カリーナの白い膝がどうしても映り込む。レオンは音を立てる無作法を冒しながらも、できるだけ素早く置いて視線を逸らした。
「そ……、それで怪しいところはあったのかしら」
カリーナはおずおずと問う。
「そうですね、やはり書斎や衣装部屋が多いという印象を受けました。過去の間取り図と比べても、そういった場所は使用しなくなった私室を転じているようでした」
レオンは努めて淡々と言葉を紡いだ。
「やはりそうなのね」
「はい、一人には広すぎる場所もありましたので、そういった所を絞ればかなり限定できるかと」
「そう……」カリーナは少し声を低くした。
「それで、貴方はどうするかは決めたのかしら」
どうするか――つまりどうやってレアがいることを確かめるかだ。
「正直、忍び込むのは現実的ではないと思っています。堅牢なセキュリティーもあるでしょうし」
「では、どうするの?」
レオンは伏せた目を閉じる。一呼吸置いてから口を開いた。
「資料室は丁度三階でしたから、上に上がる使用人何名かに視界傍受を施しました。といってもバレないよう僅かな時間で術下に落とさねばならなかったので、ノイズも多い雑なものですが」
「まぁ!」カリーナは思わず口元に手を当てた。少しトーンを落としてから「では今まさに……?」と。
レオンは目を瞑ったまま頷いた。
「既に、幾つかの目ぼしい場所は確認できましたが、名称通りの場所でした」
「……そう」
レオンはそっと目を開ける。
「ですが、此処よりももう少し気になる場所があるんです」
「気になる場所?」カリーナは少し身を乗り出す。たわわな胸がムギュッと押し出された。
「はい、少し不自然な場所で、地下し――」
カップを取ろうとして思わずカリーナの姿をモロに見てしまう。治療で血行でも良くなったのか、優しいピンク色の谷間がガウンから溢れ出しそうになっていた。
「……地下室?」
言い掛けたレオンの言葉をカリーナが続ける。カリーナは小首を傾げた。
「……はい」
「以前は宝物庫として利用されていた場所よね? 確か魔術空間で、かなりセキュリティーの高い場所だと聞いたことがあるわ」
「……魔術空間」かなり重要な情報の気がするのに、当の頭が全く仕事をしていなかった。
「けれど、宝物庫はかなり前に移動をされた筈だから……」カリーナは唇を指で弄る。「……そういえば、今はどうなっているのかしら」
「……一応、『物置』とは」
「そう、なら私達でも覗くくらいは出来るかしらね?」カリーナは首を傾げ、右手を頬に当てた。左腕が胸の下で右肘を支えているので、更に胸が押し出される。
レオンは取り敢えず目を閉じた。視界傍受をしてて良かったと思った。すぐに瞼の裏には城内の様子が広がった。
「そうですね……、あまりこちらも収穫がなさそうなので」
それらしいことを言って誤魔化した。正直、レオンの本命はメンデルのおかしな雰囲気を気取ってから地下室にあった。視界傍受はもう解いても良いとすら思っていた。
「では、急がなくてはね」
カリーナは明るい声を出した。
「すぐに支度を始めるわ」
「……では、一度下がります」
レオンは、失礼しますと足早に退室した。時間は二十分も経っていなかったのだが、それには全く気が付かなかった。
扉を閉じて、ふぅ――っと寄り掛かる。
「…………レアもあんなになってんのか?」
レオンは真っ赤な顔で俯いた。
「レオン様、親というのは子供の才能を伸ばしてやりたくなるものです」
メンデルは扉に手を掛け、そんなことをいった。
「……え?」
「しかし精力的だったか盲目的だったかと問われるのは、手遅れになってからのことが多いのですよ」
突然の発言に訳が分からず戸惑うが、メンデルは優しい笑みをレオンへ向けた。
「では、ごゆっくりなさってくださいね」
どうぞと扉を開けて中へと促された。
「何か収穫はあったかしら?」
半ば押し入れられるように踏み込んで、投げかけられたたおやかな声に顔を向けた。
「…………」
しかし一瞬で顔が強張った。カリーナがいまだにあのガウン姿だったのだ。レオンの中には、嘘だろあのジジイ……という恨みがましい感情が湧き、すぐにカリーナに向け背を向けた。
「申し訳ありません、行き違いがあったようです。お着替えが済んだ頃に出直します」
二人きりの部屋、レオンは扉に手を掛けていた。けれどカリーナは慌てて「行き違いではないの」と。少し震えた声で「私が頼んだの。その……、時間が惜しいから」とレオンに告げた。
「いえ、その格好ではカリーナ様がお風邪を召されてしまいますので」
レオンは背を向けたままいった。
「だっ、大丈夫よ。それに、治療後は小一時間体調が安定しないから、少し休んでから支度を始めるのよ」
「……そう、なんですか」
カリーナはレオンに見えずともコクコクと頷いた。
「そうなの。いつものことだから、その……、気にせずこちらへ来てもらえると有り難いのだけど」
レオンは少し考えた。それから小さく息を吐き、ゆっくりと振り返った。
なるべく目に入れぬようにカリーナの向かいに腰を落とす。テーブルには既に紅茶入りのカップが置かれていた。
「少し冷めてしまったかもしれないけれど……」
「いえ……」
レオンはカップを取り、静かに口を付けた。正直香りすらよく分からなかった。
カップを置く際には、カリーナの白い膝がどうしても映り込む。レオンは音を立てる無作法を冒しながらも、できるだけ素早く置いて視線を逸らした。
「そ……、それで怪しいところはあったのかしら」
カリーナはおずおずと問う。
「そうですね、やはり書斎や衣装部屋が多いという印象を受けました。過去の間取り図と比べても、そういった場所は使用しなくなった私室を転じているようでした」
レオンは努めて淡々と言葉を紡いだ。
「やはりそうなのね」
「はい、一人には広すぎる場所もありましたので、そういった所を絞ればかなり限定できるかと」
「そう……」カリーナは少し声を低くした。
「それで、貴方はどうするかは決めたのかしら」
どうするか――つまりどうやってレアがいることを確かめるかだ。
「正直、忍び込むのは現実的ではないと思っています。堅牢なセキュリティーもあるでしょうし」
「では、どうするの?」
レオンは伏せた目を閉じる。一呼吸置いてから口を開いた。
「資料室は丁度三階でしたから、上に上がる使用人何名かに視界傍受を施しました。といってもバレないよう僅かな時間で術下に落とさねばならなかったので、ノイズも多い雑なものですが」
「まぁ!」カリーナは思わず口元に手を当てた。少しトーンを落としてから「では今まさに……?」と。
レオンは目を瞑ったまま頷いた。
「既に、幾つかの目ぼしい場所は確認できましたが、名称通りの場所でした」
「……そう」
レオンはそっと目を開ける。
「ですが、此処よりももう少し気になる場所があるんです」
「気になる場所?」カリーナは少し身を乗り出す。たわわな胸がムギュッと押し出された。
「はい、少し不自然な場所で、地下し――」
カップを取ろうとして思わずカリーナの姿をモロに見てしまう。治療で血行でも良くなったのか、優しいピンク色の谷間がガウンから溢れ出しそうになっていた。
「……地下室?」
言い掛けたレオンの言葉をカリーナが続ける。カリーナは小首を傾げた。
「……はい」
「以前は宝物庫として利用されていた場所よね? 確か魔術空間で、かなりセキュリティーの高い場所だと聞いたことがあるわ」
「……魔術空間」かなり重要な情報の気がするのに、当の頭が全く仕事をしていなかった。
「けれど、宝物庫はかなり前に移動をされた筈だから……」カリーナは唇を指で弄る。「……そういえば、今はどうなっているのかしら」
「……一応、『物置』とは」
「そう、なら私達でも覗くくらいは出来るかしらね?」カリーナは首を傾げ、右手を頬に当てた。左腕が胸の下で右肘を支えているので、更に胸が押し出される。
レオンは取り敢えず目を閉じた。視界傍受をしてて良かったと思った。すぐに瞼の裏には城内の様子が広がった。
「そうですね……、あまりこちらも収穫がなさそうなので」
それらしいことを言って誤魔化した。正直、レオンの本命はメンデルのおかしな雰囲気を気取ってから地下室にあった。視界傍受はもう解いても良いとすら思っていた。
「では、急がなくてはね」
カリーナは明るい声を出した。
「すぐに支度を始めるわ」
「……では、一度下がります」
レオンは、失礼しますと足早に退室した。時間は二十分も経っていなかったのだが、それには全く気が付かなかった。
扉を閉じて、ふぅ――っと寄り掛かる。
「…………レアもあんなになってんのか?」
レオンは真っ赤な顔で俯いた。
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