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たわわな誘惑1

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「では後ほどお迎えにあがります」
 そう言い残して男は去っていった。レオンは案内された資料室を見渡しつつ、城内地図がありそうな場所を探し歩いた。やがて、奥地にフォンテーヌ城の木の模型を見つけ、その横の棚から厚めの冊子を取り出した。
 表紙に――フォンテーヌ城詳細図集。おあつらえ向きのものだ。
 一枚捲ればいきなり細かい構造図が現れる。どのページも折り畳まれており、広げて大きな図面になるようだった。
 パラパラ捲って間取り図を探した。やがて後方にそれらしきを見つけ開いてみる。まさに所望のものだった。とはいえ上に書かれている年代が些か古い。数枚捲り、開いてみれば、現代のものと思わしき間取り図を見つけた。
『フォンテーヌ城はね、四階以上が居住区になっているのよ。基本的には王族と、それに仕える使用人しか立ち入れない区域になるわ。安直ではあるけれど、公にしていない場所があるのなら、そういう場所こそ怪しいのと思うのよ』
 城に上がるという意志を告げてから、資料室へ足を運ぶことを提案したのはカリーナだった。それこそ彼女が主治医であるメンデル治癒師から、資料室でフォンテーヌ城の構造図や間取り図等が見られるという話を聞いていたのが理由だった。
『特に、現在の王家には三人のご子息が在らせられるけれど、もっと多くのご兄弟がいらっしゃった時代もあったでしょう。だから、以前は私室だったけれど、今は遊んでしまっている部屋があると思うのよ』
 カリーナと話し合った通りに、上層部へと目を走らせる。広い城内の間取りでも、居住区となれば『厨房』『湯澱』『食堂』等、親しみやすい文言が並んで読み取り易かった。
『とはいえ、『空室』なんてことはないと思うから、恐らく『倉庫』なんかと記載されているとは思うのだけど……』
 その通り、『空室』という部屋は一つも見当たらなかった。同時に、部屋名の記されていない部屋も見当たらない。それぞれ何かしらの名称を与えられていた。
 レオンは、『倉庫』に『書斎』『衣装部屋』『物置』そんな言葉を追加しつつ目星を付けていった。
「ん――……、やっぱり書斎と衣装部屋が多いか?」
 顎に手を当てて首を捻った。取り敢えず、位置を目に焼き付けておく。
 レアが隠されていそうなところに検討をつけた後、どうするのかというのはまだ決めてはいなかった。
 居住区に侵入するとなればバレた際のお咎めはかなり厳しいものとなる。即効断罪なんてことは流石にないと思うが、格と印象をかなり落とすことには間違いない。一族にも大きな被害が及ぶだろう。
 カリーナの治療は一時間程度と聞いている。少し前にメンデル治癒師が迎えに来るであろうと考えると、あまり時間はなかった。
 レオンは念の為に低層階にも目を走らせておく。ふと、メンデル治癒師の言葉が蘇った。
 ――正門から城の中央を結ぶ線で、左右対称の構造が取られているのですよ。
「左右対称ね」
 間取りまで対称とまではいかないが、全体的な構造は確かに美しく揃っていた。
 それは次頁に描かれている敷地図でも明らかだった。建物の位置が、綺麗に線対称に揃っていた。
「……凄いこだわりだな」
 正直恐ろしさすら感じてしまう綿密さだった。けれど、頁を前の間取り図に戻した瞬間、レオンの目には不自然なものが映った。
「……ん?」目を細める。
 地下室だけが妙に歪に思えた。
 外形こそは綺麗な長方形をかたどっているのだが、なんせ中心線が長方形の中央を通ってはいなかった。その上、他フロアの広さから比べても、大きな一室と廊下と階段があるのみの簡素なもの。
 地下だからといえばそれまでだが、使用人寮の位置まで線対象に組み込んでいることを考えると、違和感を感じざるを得なかった。
 ……一応、確認しておくか。
 地下室なら、正直、上層階へ忍び込むよりは気が楽だった。苦しい言い訳ではあるものの、唯一ある地下室の名称が『物置』となっている以上、迷ったとでもいえば何とかなるような気がした。
「いや、待てよ」ふとよぎった記憶に眉を寄せた。「でも前に、フォンテーヌの地下は宝物庫だって聞いたことがあったような……」
 確か何百年も前に移動はされていたはずだが、宝物庫だった場所としては狭すぎる気がした。
 レオンは過去の間取り図を捲る。二枚ほど捲って開いてみれば、やはり地下室は他フロアと同じような広さで記載されていた。
「……?」
 妙な感じがして前後を捲ってみる。地下室が狭くなったのは、最新版の間取り図からだった。よくよく年代を見れば、改訂は十年ほど前。
「ってことは、老朽かなんかで潰したのか……?」
 考えていても仕方がないとレオンは一度部屋の外に出た。暫く歩き、上の階へ上がろうとしていた使用人に声を掛けた。
「すいません、敷地全体を見渡せるような場所はあるでしょうか?」中年の女性使用人は上品に微笑んだ。
「でしたら西棟の展望室が宜しいかと。只今の時間でしたら開放されておりますので」
 レオンは女性の目をジッと見つめた。女性は少し頬を赤らめて目を逸らすと、整った笑みを浮かべて頷いた。
「ありがとうございます、そちらに行ってみます」
「えっ……、あっ、はい……。西棟へは反対側の階段から二階へ下った方が分かりやすいかと……」
 はい、と笑んでレオンは立ち去った。
 その後、念のためにレオンは数人の女性使用人に声を掛けた。皆から、西棟の展望室と答えを聞いて資料室へと戻った。 
 もう一度、開きっぱなしの間取り図を眺めてみる。 
 ややあって「如何でしたか?」とメンデルが迎えに来てしまった。
 取り敢えず笑みを張り付け、礼を口にしようとする。そんなところでメンデルは興味深そうに顎を撫で、資料に顔を近付けてきた。
「おやおや、現代の間取り図ですか」
「はい、未踏の階に興味が湧きまして」
 軽い口調でそう告げた。メンデルはよく分かるとでもいうように何度も頷いた。
「上層階は浪漫がありますな」
 そうか……? とは内心思いつつ、レオンは同調しておいた。
「そうですね。けれど、地下室も少し気になりました」
「ほぅ、地下室ですか」メンデルは目を丸く首を傾げた。「何か面白いところがありましたかな……」
 思い出すように声を出しつつ、間取り図へと目を走らせた。
「……」メンデルは何か考え込んでいるように眺めている。
「どうかされましたか?」
 左右対称の情報のように何かいいものを引き出せないかと期待した。けれど、メンデルは暫く眺めた後、開き置いていた間取り図を片付け始めた。
「そろそろ戻りましょうか」
「えっ、あの」レオンは焦りを覚えた。
 明らかにメンデルの様子がおかしい。まるで気が付いてしまった何かを隠すように図集を閉じて、棚へと戻した。
 メンデルは穏やかに笑う。
「カリーナ様がお待ちです」
 その笑みには話は終わりだという圧が読み取れて、レオンは問い詰めるのを諦めた。

 
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