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仲違い1.5(すいません、投稿忘れしておりました……
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とにかくやれることはやろうと考えた時、私ができるのはレオンとの仲をより希薄にみせることだった。そうすることで、ジェラルド侯爵令嬢に焦りを与えない。それで二人が本当に仲良くなってしまったら元も子もないのだが、ミルベス伯爵の思惑通りにことが運ぶのだけは避けたかった。
特効薬ではないが、延命措置にはなるはずだ。その間にジェラルド侯爵令嬢の気持ちが離れてくれれば私の勝ち。
ひどい運任せではあるものの、身分という逆らえないものがある以上仕方のないことだった。
となると問題は登下校。
入学から数日間過ごしてみて分かったのは、そこさえ気を付ければ私の計画は存外簡単に成し遂げられそうだということだった。
休み時間、人気者のレオンは男女問わず多くの人に囲まれていた。だから、わざわざ私のクラスに来ることもなければ、気をつけて避ければ顔を合わせることもなかったのだ。
本音を言えば避けるなんてことはしたくない。適度な距離を取りつつ、私を違う視点で意識して欲しかった。
でもこうなっては仕方がない。
終鈴と共に席を立ち、初日に迷った森へと足早に進めて行った。数日前、学食で食事を取ろうとしたら、可哀想だから一緒に食べてやるとレオンに同席をされてしまったのだ。
この学園での行動グループは、貴族組でいえば社交の場がそのまま降りてきているようなものだ。親の派閥やら立ち位置やらがかなり色濃く効いている。
私も私なりに友人はいるものの、仲の良い子達はクラスが一つの派閥になっているような所に所属をしているので、残念ながら昼食はもっぱら一人であった。
そんなわけで、焦った私はひっそりと昼食をとれる場所を探しまくった。
地図なんてないまま数日間彷徨って、結果、王子に助けられたあの森に狙いを定めたのだ。
方向音痴とはいえ、迷った時のことは覚えてる。正門からただひたすら綺麗な建物を眺めて足を進めていたはずだった。送ってもらった時には、講義棟へはほぼ真っ直ぐ。ならば簡単にたどり着けるはずだった。
「…………あれ?」
けれど、講義棟から真っ直ぐ歩いても決して森には辿り着かなかった。それどころか、普通に建物に行手を阻まれた。
「そういえば、奥に行けば研究棟ってもいってたよね……」
広い敷地なので、諸所にある案内板を眺めて位置を確認する。
そこで違和感を覚えた。
「あれ?」
王子からしてもらった案内なら、講義棟と研究棟はほぼ直線で繋がっているはずだった。けれど、どうみてもそう簡単な道のりではないのである。
「なんか私、勘違いしたのかな……」
顎に手を添え首を捻る。
考えたところで結局分かりはしないので、案内板に従って研究棟を目指すことにした。
そんなとこまで行って迷わず帰れるかな……。
不安になりつつも、どうか人目に付かない場所を目指して歩みを進めようとした。
「大丈夫?」
聞き覚えのある爽やかな声が落ちてきた。
びくりと身体を揺らして振り向けば、ユーリ王子がそこにいた。
私が王子を見て驚いたように、王子も少し目を見開いていた。
「あれ、君……。どうしたの、また迷ったの?」
「あ……、いえ」
不審だと思われていないか不安になる。無意識に後退りをした。
「その……、ちょっとお散歩をしていまして……」
「散歩?」
「えっと、はい」コクコクと頷いた。「地元では見ない綺麗な建物がいっぱいでしたので」
「あぁ、なるほど」
「はい……」
「そしたら、突然声を掛けて驚かせちゃったかな? ごめんね」
王子は申し訳なさそうに眉を押し下げた。私はすかさずかぶりを振る。
「いえ! いえいえ、そんな……」
顔の前で手をぶんぶんと振った。
事実、迷い掛けてましたから!
そんな私に王子は安堵するような息を吐く。ふわりと優しい笑みを浮かべた。
「でも良かったよ、また会えて。実は渡したいものがあったんだ」
言い終えて、王子はスマートな仕草でポケットからハンカチを手に取った。白いレースの女性らしいデザインだ。
「これ、君のだよね?」
差し出されて目が合った。少し動揺する。
「えっと……」
確かに私のものに似ているなぁとは思ったけど、そのハンカチを持ってきた記憶がなかったのだ。
とはいえひとまず受け取ってみる。広げてみれば――
「『レア・クレア』さん」
王子に名を呼ばれて身体が強張った。
ハンカチに施された拙い私の刺繍を読んだのだろう。王子はにこやかに笑んでいた。
記憶はなくともこれは確かに私のものだった。刺繍の練習がてら、手持ちのハンカチに自分の名を縫い付けたのだ。
恥ずかしさから私はハンカチを胸に押し付けた。
「も、申し訳ありません。これは確かに私のものです……」
「そうか、なら良かった。あの後、研究棟に戻る途中に拾ってね。あの道はあまり人の通らない場所だから、君の顔がすぐに浮かんだんだ」
うぅ、なんと恥ずかしい。私は更に俯いた。
「お手間を取らせてしまい申し訳ありません……」
「いや、そんなことは気にしないで。それより折角だし、少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「はっ、はい! 勿論です!」
何なりと! と言わんばかりに身を乗り出した。王子ともあろう方の手を、私のハンカチごときに煩わせてしまった申し訳なさが凄かった。
「良かった。だけど、そうだね……、もし宜しければ食事をしながら話をさせてもらってもいいかな? 生憎、まだ時間が取れていなくてね」
そう言う王子は困ったようにお腹をさすっていた。きっと忙しい方だから、あちこち動かれていたんだろう。私はすぐに頷いた。
「お力になれるかは分かりませんが……」
けれど、王子は首を振って微笑んだ。
「きっと君以上の適任者はいないと思うよ」
特効薬ではないが、延命措置にはなるはずだ。その間にジェラルド侯爵令嬢の気持ちが離れてくれれば私の勝ち。
ひどい運任せではあるものの、身分という逆らえないものがある以上仕方のないことだった。
となると問題は登下校。
入学から数日間過ごしてみて分かったのは、そこさえ気を付ければ私の計画は存外簡単に成し遂げられそうだということだった。
休み時間、人気者のレオンは男女問わず多くの人に囲まれていた。だから、わざわざ私のクラスに来ることもなければ、気をつけて避ければ顔を合わせることもなかったのだ。
本音を言えば避けるなんてことはしたくない。適度な距離を取りつつ、私を違う視点で意識して欲しかった。
でもこうなっては仕方がない。
終鈴と共に席を立ち、初日に迷った森へと足早に進めて行った。数日前、学食で食事を取ろうとしたら、可哀想だから一緒に食べてやるとレオンに同席をされてしまったのだ。
この学園での行動グループは、貴族組でいえば社交の場がそのまま降りてきているようなものだ。親の派閥やら立ち位置やらがかなり色濃く効いている。
私も私なりに友人はいるものの、仲の良い子達はクラスが一つの派閥になっているような所に所属をしているので、残念ながら昼食はもっぱら一人であった。
そんなわけで、焦った私はひっそりと昼食をとれる場所を探しまくった。
地図なんてないまま数日間彷徨って、結果、王子に助けられたあの森に狙いを定めたのだ。
方向音痴とはいえ、迷った時のことは覚えてる。正門からただひたすら綺麗な建物を眺めて足を進めていたはずだった。送ってもらった時には、講義棟へはほぼ真っ直ぐ。ならば簡単にたどり着けるはずだった。
「…………あれ?」
けれど、講義棟から真っ直ぐ歩いても決して森には辿り着かなかった。それどころか、普通に建物に行手を阻まれた。
「そういえば、奥に行けば研究棟ってもいってたよね……」
広い敷地なので、諸所にある案内板を眺めて位置を確認する。
そこで違和感を覚えた。
「あれ?」
王子からしてもらった案内なら、講義棟と研究棟はほぼ直線で繋がっているはずだった。けれど、どうみてもそう簡単な道のりではないのである。
「なんか私、勘違いしたのかな……」
顎に手を添え首を捻る。
考えたところで結局分かりはしないので、案内板に従って研究棟を目指すことにした。
そんなとこまで行って迷わず帰れるかな……。
不安になりつつも、どうか人目に付かない場所を目指して歩みを進めようとした。
「大丈夫?」
聞き覚えのある爽やかな声が落ちてきた。
びくりと身体を揺らして振り向けば、ユーリ王子がそこにいた。
私が王子を見て驚いたように、王子も少し目を見開いていた。
「あれ、君……。どうしたの、また迷ったの?」
「あ……、いえ」
不審だと思われていないか不安になる。無意識に後退りをした。
「その……、ちょっとお散歩をしていまして……」
「散歩?」
「えっと、はい」コクコクと頷いた。「地元では見ない綺麗な建物がいっぱいでしたので」
「あぁ、なるほど」
「はい……」
「そしたら、突然声を掛けて驚かせちゃったかな? ごめんね」
王子は申し訳なさそうに眉を押し下げた。私はすかさずかぶりを振る。
「いえ! いえいえ、そんな……」
顔の前で手をぶんぶんと振った。
事実、迷い掛けてましたから!
そんな私に王子は安堵するような息を吐く。ふわりと優しい笑みを浮かべた。
「でも良かったよ、また会えて。実は渡したいものがあったんだ」
言い終えて、王子はスマートな仕草でポケットからハンカチを手に取った。白いレースの女性らしいデザインだ。
「これ、君のだよね?」
差し出されて目が合った。少し動揺する。
「えっと……」
確かに私のものに似ているなぁとは思ったけど、そのハンカチを持ってきた記憶がなかったのだ。
とはいえひとまず受け取ってみる。広げてみれば――
「『レア・クレア』さん」
王子に名を呼ばれて身体が強張った。
ハンカチに施された拙い私の刺繍を読んだのだろう。王子はにこやかに笑んでいた。
記憶はなくともこれは確かに私のものだった。刺繍の練習がてら、手持ちのハンカチに自分の名を縫い付けたのだ。
恥ずかしさから私はハンカチを胸に押し付けた。
「も、申し訳ありません。これは確かに私のものです……」
「そうか、なら良かった。あの後、研究棟に戻る途中に拾ってね。あの道はあまり人の通らない場所だから、君の顔がすぐに浮かんだんだ」
うぅ、なんと恥ずかしい。私は更に俯いた。
「お手間を取らせてしまい申し訳ありません……」
「いや、そんなことは気にしないで。それより折角だし、少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「はっ、はい! 勿論です!」
何なりと! と言わんばかりに身を乗り出した。王子ともあろう方の手を、私のハンカチごときに煩わせてしまった申し訳なさが凄かった。
「良かった。だけど、そうだね……、もし宜しければ食事をしながら話をさせてもらってもいいかな? 生憎、まだ時間が取れていなくてね」
そう言う王子は困ったようにお腹をさすっていた。きっと忙しい方だから、あちこち動かれていたんだろう。私はすぐに頷いた。
「お力になれるかは分かりませんが……」
けれど、王子は首を振って微笑んだ。
「きっと君以上の適任者はいないと思うよ」
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