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地下室で1

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 目を開けたら、見覚えのない光景が広がっていた。白と金の装飾が施された天井に、薄らと明かりが灯されていた。少し視線を落とせば、奥に大きなシャンデリアが吊るされている。窓はないがかなりの広さがある部屋で、キャビネットやらソファやら、調度品にいちいち金があしらわれていた。
 何処だろう、ここは――
 霞がかった頭で考えつつ、重い身体をゆっくりと起こした。
 深く掛かった布団がずり下がり、なんとも心許ない寝衣を纏っていることに気が付いた。胸元が大きく開いており、少し動いただけで右肩が落ちてしまう。丁度胸の真ん中にリボンが結ばれているが、飾りのようで何処を締めるものでもなさそうだった。
 ということは、頭から被るようなものだろう。勿論この寝衣は自分のものではない。つまり、誰かに着せられたものだということだった。
 想像すると恥ずかしくなる。
 なんでこんなことに……?
 ずり下がった肩を戻して、ベッドから降りる。取り敢えず外に出てみようと、扉へ手を掛けようとした。けれど同時にガチャガチャと音がした。びっくりして少し後ずさると、扉が開いて、王子が入ってきた。手には食事の乗ったトレイを抱えている。
「えっ……、ユーリ……様?」
「あっ、目、覚めたんだ」
 想像もしていなかった人物にポカンと王子を見上げた。王子はジッと私を見つめている。
「目が……覚める?」
 状況がよく分からず繰り返した。
「覚えてない? 君、倒れたんだよ、植物園で」
「えぇ⁉︎」
 思わず大きな声が出た。自分の記憶といえば、レオンとちゃんと話そうと王子に見送られた記憶が最後だった。
 でも思い返せば、確かに王子と別れた記憶もなければ、植物園を後にした記憶もない。
「……ほ、本当ですか?」
 覚えのない事実と欠けた記憶に不安がよぎり、グッと右手で胸元を掴んだ。
「うん、本当だよ。強く頭を打ったから記憶が曖昧になっているのかもしれないね。あまり無理せずまだ休んでいた方がいい」
「でも……」
 此処はどこ? 今は何時? 私はどれくらい眠っていたの? そんな疑問が一堂に押し寄せて、結局どれも言葉にはならなかった。
 口籠もっているうちに、王子は奥のテーブルへと食事を置いた。再び私の元へ戻ってくると優しく肩に手を添える。
「大丈夫だよ、ゆっくり説明するからね。また倒れるといけないから、取り敢えずベッドに行こうか」
「……はい。あの、私、またユーリ様にご迷惑を……」
 俯いた顔を少し横に向け、王子に問えばふわりと笑われた。
「そんなことないよ、気にしないで」
 温かい言葉を耳に囁かれ、誘導されるがままにベッドに腰掛けた。
「痛いところや苦しいところはない?」
 王子の問いにかぶりを振った。
「ないです、大丈夫です」
「良かった。お腹は空いてる?」
「それは……まだ」
「そっか。喉は渇いたかな?」
 そういえばと、唇に触れる。不思議なことにカサつきはなかったが、それでも喉は張り付くようだった。
「……少しだけ」
「うん、そしたら少し水を飲もうか」
 ちょっと待っててねと、王子は食事を置いたテーブルに戻った。ポットから水を注ぎ、カップを持ってくる。手を出したが渡されず、そのまま口に添えられた。
「……っん」
 ゆっくりと傾けてくださるものの、端からは僅かに水が流れ落ち、顎から喉へ喉から胸元へと伝っていった。
 伝え方が分からず結局水がなくなるまで喉に流し込み、飲み終えたところでカップが離された。
「足りたかな?」
 問われた言葉にコクコクと頷く。喉はすっかり水気帯びていた。
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