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仲直りの為に3

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「どこか気になるところあった?」
「――っえ!」
 どれくらい経ったのか、記憶に委ねていた意識を王子の声で取り戻した。慌てて組んだ手を外す。
「あっ、申し訳ありません。えっと……、もしかしたら、これだけでも十分かもしれないのですが……」
 そう前置きをしてから王子に伝えた。
「魔力分子の柔軟性も絵にしていただけたら、より分かりやすくなるかもしれないです……。た、たとえば、ふにゃふにゃの丸を書くとか……」
「柔軟性か……」王子は少し考えるようにしてから頷いた。「確かにそれはいいかもしれない。少し考えてみよう」
 王子の良い反応に胸がジワリと温かくなった。
「ところで、君はこの後の都合はいかがかな?」
「この後、ですか?」
 私の言葉に王子は頷いた。
「宜しければお礼も兼ねて食事でもと思ったのだけど」
「お食事……」前回の豪華なメニューが頭をよぎり、胸が熱くなる。けれど、レオンの『浮ついた』という言葉を思い出して冷めていった。
「……あの、申し訳ありません。折角のお誘いなのですが……」
 小さく断れば、王子は爽やかに笑んだ。
「気にしないで、こちらも突然誘ってしまったから。何か用事があったかな?」
「あ……、えっと……、はい……。用事というほどでもないのですが」
「なにか悩み事かな?」王子の声はやたらと優しく耳に入ってきた。「宜しければ話を聞かせて貰えないかな? なにか力になれることもあるかもしれない」
「いや……」
 こんな喧嘩を相談するなんてとんでもない。そう思ったものの、自分が思ったよりも長い喧嘩に参っていたようで、つい口を開いてしまっていた。
「お、幼馴染の男の子と喧嘩をしてしまって……」
「うん」王子は好奇に目を輝かせるでもなく、静かにカップを取っていた。
「仲直りしたいんですが、中々素直になれないんです」
「なるほどね」
「はい……。色々事情がありまして、少し距離を置きたいなと思っても難しくて。かといって、離れ過ぎるのも不安で……」
 自分で言っていて、めんどくさいなと思った。
「申し訳ありません、こんな話……」
「いや」王子はカップを置いた。「中々に興味深い話だったよ」
「そう、ですか……?」
 王子はもっと難しいことを考えるだろうから、こういう話が珍しいのかなと思ったりする。
「でも、そうだね、君の話を聞く限り、僕も距離の問題だと思う」
「距離ですか?」
「うん、近すぎるとかえって本音を言えなくなるっていうのはよくあることだよ」
「そうなんですか……?」
 王子は緩慢に頷いた。
「僕も何度か経験があるよ」
 完璧超人だと思っていたから意外だった。
「……その時ユーリ様はどうなさるんですか?」
「そうだね、少し時間を置くかな」
「時間……」
「他力本願に聞こえるかもしれないけれど、意外と良い結果になることも多いんだ。特に喧嘩っていうのは、お互いに頭に血が昇っているからね」
 確かに。レオンとのやり取りを思い出して頷いた。
「そうかもしれません」
 とはいえ一緒に住んでいる以上、このまま冷戦状態というのも居心地が悪い。関係を悪化させるのも不本意だ。
 やっぱり今日は一緒に帰って、少しそっとしておいてもらうようお願いしてみよう。時間が経てばもう少し素直に話せるかもしれない。
 レオンなら、ちゃんと伝えれば分かってくれるはずだ。
「あの……」
 私は鞄から紙を取り出した。緊張しても話せるよう、念のために感想をまとめておいたものだ。といっても、称賛コメントばかりだけど。
「これ、ノートを読んでまとめたものです。やっぱり素晴らしいって感想ばかりなんですが……」
 手渡せば、王子は優しく笑って受け取った。
「お役に立てなくて、申し訳ありません」
「そんなことはない。協力してくれてありがとう」
「いえ……」
「君の気持ちも固まったみたいだね」
「はい……、あの、ありがとうございます」
 王子は静かにかぶりを振った。ゆっくりと腰をあげる。
「では、途中まで送ろう。戻る時は裏口からの方が勝手が良いんだ」
「……ありがとうございます」
 夢のような時間だったなと思う。
 ユーリ王子とこんなにも接することができたなんて。
 もうこんな奇跡はないんだろうなぁと思いながら、王子の背中を追いかけた。
「あっ、そうだ、手を出してもらえるかな?」
 突然足を止め、王子は振り返って私を見た。
「えっ?」
「食事の代わりと言ってはなんだけど」王子は胸のポケットに手を入れてから、手を差し出した。拳を軽く握るようにしている。
 私もおずおずと左手を差し出した。上にコロンとピンク色の包みが乗せられた。飴玉のようだった。
「これ……」
「この間街に下りた時に見つけたんだ。気に入って持ち歩いているだけだから大したものじゃないんだけど」
 王子は困ったように笑っていた。
「そ、そんな!」
 私は急いで包みを開けて飴玉を口に放り込んだ。
「おいひいれす!」
 そんな私を王子は満足げに笑った。
「そっか……、良かった。じゃあ、行こうか」
「はい、ありがとうございます」
「いえいえ」
 軽く背中に手を添えられて、少し緊張しつつも裏口へ足を進めていった。
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