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仲違い1

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 正直、昨晩は全く眠れなかった。なんなら食事だってまともに取れやしなかった。
 そんな私はレオンと一緒に馬車に揺られ、朝からあれこれ小馬鹿にされながら、ふらふらと学園に降り立った。
 レオンは色々目立つし、本当は別々に登校したかった。けれど――
『そんな効率の悪いことするかよ』
 呆れた一言で一蹴されてしまったのだ。
 案の定、私には強く鋭い視線が注がれる。勿論、全て女子からのものだ。
『なにあれ』『最悪』『幼馴染が調子に乗って』『何様よ』
 レオンの耳に入れぬよう声には出されない無の罵りが、私の胸にはグサグサと刺さっていった。
 これは王子の時とは違う。レオンと一緒に住んでいる限り恒常的に続く妬みなわけだから、私とてそれを心地良いなどとは僅かにも感じることはできなかった。何より注目を浴びているのが不都合だ。
 やっぱり別々に登校すべきだった! 後悔を胸叫びつつ、できるだけ顔を隠すよう俯きながら教室まで歩いていった。
「じゃ、授業中眠りこけんなよ」
 私のクラスに着くなりレオンはそういった。
「そっ……それはレオンでしょ」
 大きな声で反論すると仲良さげに見えてしまうかもしれないので、不本意ながらもささやかな声で訴える。
 けれどレオンは「さぁ」と肩をすくめた。
「誰かさんと違って、俺はちゃんとぐっすり寝たからなぁ」
 その顔は呆れたように、そして嘲るように笑っていた。
「……起きてたの気が付いてたの?」
「そりゃあ、お隣だし婚約者だし」
 レオンはおどけるようにいった。
 大方、飲み物を貰いに何度か部屋を出た時だろう。扉の音か足音か、いつも数秒で爆睡しちゃうレオンなんかには気が付かれないと思っていた。
「婚約者は関係ないでしょ、まだ正式じゃないんだし……」
 この言葉は特にひそめて小さく声にした。
 私たちの正式な関係はまだ幼馴染。両親同士で内々には決まっている話というわけらしいのだが、婚約式や契約書については近いうちにという曖昧なものである。
 恐らくレオンの父――ミルベス伯爵の策略だろう。彼は一つ上のジェラルド侯爵令嬢とレオンが共に在学できるこの一年で、仲を深めて欲しいと願っている。それによってジェラルド侯爵令嬢の想いを確かなものとして、父たるジェラルド侯爵を説得してもらいたいのである。
 その準備もしくはスパイスとして、私との婚約話をチラつかせたというわけだ。ジェラルド侯爵とご令嬢へプレッシャーを掛けたいのだろう。
 成績悪な私だってこんなことはすぐ分かる。
 きっと私たちの縁談が本格的に進むのは、ジェラルド侯爵令嬢と他の方の縁談が進んだ時であろう。
 ならば私はできるだけレオンとの婚約話を公にはしたくない。それどころか同棲や私たちの仲についてだって、あまり知られたくはないことだった。
 なのにレオンはヘラヘラと公言してしまう。頭の良いレオンがその思惑に気付かないはずはないのに。
 もしかしたら、レオンとミルベス伯爵の思惑は同じものなのかもしれない。
 内心モヤモヤと嫌な予想が湧き上がり唇を締める。ふと俯いた顔の耳元に、レオンの気配が近付いた。
「なんだ拗ねてんのか? お前は昔から俺のこと大好――」
「わ、私、もう行くから。また放課後」
 さも愉快そうに揶揄う声を断ち切って、私は背を向けて教室へ入った。
 どうせレオンは、ムキになって馬鹿だな程度のことを考えているんだろう。
 全くこっちの気も知らないで。
 レオンのいう大好きは、私が小さい頃抱いていた大好きだ。
 末っ子のレオンと長子の私は需給が上手く一致して、出会ってすぐに仲良くなった。甘えたい頼られたいがぴったりはまり合ったのだ。
 レオンはいつも私のことを引っ張って、私は同い年なのに随分と賢く要領の良かったレオンを兄のように慕っていた。
 けれど十年あまりの歳月が、成長と共に私の大好きを容易く変えてしまった。そんな私をレオンは反抗期の妹とでも思っている節があるのだ。
 私は募る不満のままに手荒く鞄を机に置く。引いた椅子に勢いよく腰を下ろした。
 マギラに入って違う環境に身を置けば、私たちの関係も少し変わるかなと思ったのに――同棲やら婚約話は最悪な展開だった。

 
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