私を愛するスパダリ王子はヤンデレでストーカーでど変態だった

木野ダック

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幼馴染2

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 何時間か前に歩いた道を戻っていく。私は学生寮に入っていた。レオンは王都にタウンハウスがあるのでそちらに帰るのだが、レオンは両親から私の送迎を必ずするようにと言い付けられているらしい。
「……別に律儀に守らなくてもいいよ?」
 王子ほどではないがレオンと歩いていても目を引くので、こうして帰る最中も『男好き』という声が耳を掠めるのだ。
 しかしレオンは小馬鹿にしたように嘲笑する。
「田舎育ちのお前じゃ何日経っても寮に辿り着けないだろ」
「う、うるさいなぁ! お隣さんの癖に!」
 レオンの生家はミルベス伯爵領にある。我がデルダ伯爵領のお隣だ。とはいえ、ミルベス伯爵領は広大な海なんかも覗けるリゾートのような風格だ。田園風景がただ広がる田舎ではない。
 つまり明らかな負け惜しみであるわけだ。
「はいはい、お隣さんお隣さん」
 レオンは私の頭をポンポンと叩く。ぐぅと唸れば更に笑われた。
 こうしている間にも、王子ほどではないがレオンは数々の女性の目を惹いていた。しかもにこやかに手を振っていたりする。なんだかそれが無性に腹立たしく、ムスッとしたまま歩みを進めた。
 そういえば、王子に案内してもらった時にはまるでお姫様にでもなったような気分だったなぁ……、なんて思いながら。
 小石に躓くだけでも『大丈夫?』って支えてくれるんだもんなぁ……。
 思い出してはゲヘッと顔が緩む。きっと恥ずかしい阿呆面だったのだろう。今度は頬を摘まれた。
「おい馬鹿面」
「なんれふか」
 ムッと睨む。立ち止まったレオンはわざわざ私の正面に来て、もう片頬を摘み上げた。そして、まじまじ覗き込む。
「面白い顔だな」ぷぷっと吹き出された。
「ひ……ひちゅれいな!」
「なんだ、って」
 笑いながらレオンは摘んだ手を離した。
「もう! いきなりなにするの!」
「いやだってさ、お前がまだ夢から抜け切れてないみたいだから」ケタケタ小馬鹿に笑われる。
「そっ、そういうのじゃないけど」
「へぇ?」
 カースト上位の高圧的な視線が飛んでくる。のんびり暮らしてきた私が苦手とするやつだ。
「じゃあなに考えればあんな顔になるんだろうな?」
「……さぁ?」目を逸らす。嘘は得意な方ではなかった。笑顔の下に権謀術数張り巡らすなんて芸当も勿論できやしない。
 射抜くような視線にウロウロ目を泳がせて逃げ惑う。そんなことをしていたばっかりに、まんまと段差に躓いた。
 しかし、すかさず優しい手つきで受け止められた。レオンはいかにも善良な笑みを私に向けてくる。
「大丈夫?」
 その瞬間、私の顔がカーッと熱くなった。
「も、もしかして……みみみ見て……?」
「まぁ、あれだけ騒がれてればな」
「うっ……」
 恥ずかしい。私といえば、周囲は完全に背景と同化して王子の素敵なお姿しか見えていなかった。レオンにここまで見られていたなんて……。
 胸に広がる羞恥に項垂れた。レオンは私の肩を抱くようにしてポンポン叩く。
「悪いことは言わない。早く忘れとけ」
 私は小さく二回頷いた。
 一生の思い出として取っておこうと思ったけど、こうもネタになってしまうのなら無かったことにしよう。そう誓ったのだ。
 そんなわけでポンポンポンポン慰められながらついた場所は大きなお屋敷みたいな場所だった。
「すっ……、すごい! ここが私がこれから二年過ごす――」
 しかしレオンに手を引かれる。綺麗なお屋敷を通り過ぎ、暫く歩いたところでやたらと開けた場所に出た。少しボロの一軒家が何軒も立っている。
 農村という言葉が似つかわしいなんとも親しみある光景だった。そして割と手前の家でレオンは立ち止まる。
「ここだ」
「……え」
 寮じゃなくない? 
「あっちのはかなり寮費が嵩むらしい。入寮の学力基準にも達していないそうだ」
 レオンはニヤニヤ笑っていた。
 そういえば母から聞いた話では、寮生活は食事も出て身の回りの世話も全部やってくれるって話だったな……。一応尋ねてみる。
「あの、食事とかお手伝いさんとか……」
 レオンは顔の前で手を振った。
「ないない」
 それから簡素な鍵を渡してくる。私でも作れそうなシンプルな形だ。
「これ……、防犯とか……」
 今度は肩をすくめられた。
「えぇ――……」
 チラホラ入っていく生徒は皆、男性ばかりだ。女性は一人もいない。
『うわ! 女子じゃん!』という視線を漏れなく送られる。
「たた……助けて!」
 レオンの肩を掴んだ。
 自分の容姿が男性好きのするものだとは決して思っていない。けれど、平均点くらいのものはあるだろうと思っていた。
 何故なら私は過去何度か誘拐未遂に遭っていた。勿論、貴族の娘だということもあるだろう。その割には従者がいない為に攫いやすかったというのも。
 顔や声は全て別の人間のものだった。けれど私は、その全てが同一人物のように感じていた。詳しく話せば長くなるけれど、言葉や口調、雰囲気とかそんなものだ。
 幻覚作用をもたらす魔術なら人物の誤認もありうると教えてくれたのは幼きレオンだった。
 私は私自身について、王子やレオン程に多くを惹きつけはしなくても、人によっては好む所があるのだという位の理解をしていたのだ。
「どうしようかな」レオンは嫌味っぽく明後日の方向を向いてしまう。
「お、お願い! 今日だけ!」
 尚も強く肩を握り締めた。
 チラッと目が合った。私は「一生のお願い!」と懇願する。
「こんなとこで一生なんて使っていいのかよ?」
「もっ勿論!」
 ここで使わなかったらなにに使う! そう気合を目に宿してレオンを見た。
 取り敢えず今日を凌いで、明日には強固な鍵を用意しよう。数があれば単純なやつでも幾分安心できるはずだ。
 流石に本気が伝わったのか、暫く目が合ってレオンは息を吐いた。
「仕方ねぇなぁ……」
 やれやれというように両手をあげて首を振った。
 かなり鼻につくが我慢する。お願いしますと更に念押ししておいた。
「ほら、早く行くぞ」
 揚々と手を引かれながら深い安堵に顔を綻ばせ、立派な馬車に乗り込んだ。ややあって立派なお屋敷に辿り着いた私は早速部屋に案内をされた。
 やけに手際いいなぁとか思う。
「じゃ、ここがお前の部屋だから」
「ありがとうござ…………えっ?」
 荷物が既に運び込まれていた。無論、私の。
 ぷるぷると指を差す。
「レ……レオン? これは……」
「お前が、マギラ寮に落ちた時からそういう話になっててさ」
 爽やかな笑みで告げられた。
 そういう話ってどういう話?
「あの、私、聞いてないけど……」
「あぁ、それなら、面白いから内緒でって俺が言ったんだ」
「……は?」
「それに、お前、最初からこっちに連れてこようとしたら聞かなかっただろ?」
 それはまぁ、当たり前だろう。
「だから、一応悲惨さを見て選択してもらおうと思ってさ」
 な、なるほど……。
「って違う! なるほどじゃない!」
「ま、そんなわけだから、二年間宜しくな」
「に、二年間……」
 ぐぬぬっと拳を握る。レオンは閃いたように「あっ」と声を出した。
「違うか、卒業したら結婚するかもしれないんだったな。残念なことに」
 レオンの大変軽快に重大発表を告げた。なんなら笑いながら。
「なな……、なにそれ聞いてない!」
「言ってないからな」
 ははっと笑いながら頭をポンポン叩かれて、レオンは軽い足取りで私の部屋を去っていく。
 取り残された私は暫く虚空を見つめていた。
 な、なにそれ……。
 なにそれ?
「なにそれ⁉︎」
 扉の外からレオンの大変愉快そうな笑い声が聞こえてきた。
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