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幼馴染1
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「――ではこれでオリエンテーションを終わります。各自明日からの学園生活に備えるように」
担任講師の言葉で初日を終え、四名しかいないクラスメイトは各々帰り支度と共に立ち上がった。このクラスは所謂、中堅貴族も下っ端よりの出身者を集めたクラス。よって自ずと知れた顔ぶれが揃っていた。
マギラミラクルはカースト下位中位からすれば夢のような話だが、上位貴族――とくにその親からすれば、悪い虫がつきかねない罠なのだ。
故に各学年、クラスは出自ごとに細かく分かれていた。特別家柄の良い子息子女は校舎すら隔てられた場所で学びを得る。私たちのような者は決して踏み入れることのない、ただ同じ敷地だというだけの別世界――ノブレス館だ。
王子もそこにおられるのだろう。
またいつかお目に掛かりたいなぁなんて窓外へ目を移してみる。不意に頭を小突かれた。
「奇跡はそう何度も起こらないぞ」
「わ、分かってるよ!」
ムッとした顔を向ければ、やはり想像通りの奴だった。しかし同じクラスではない。
落ち目貴族デルダ伯爵家長女――レア・クレアたる私と、やり手貴族ミルベス伯爵家次男――レオン・カットンが同じクラスであるはずがないのだ。
「そうかぁ? 今朝は随分な浮かれた阿保面を晒してたからなぁ」
「そんなことないから!」
「いやいや、中々のもんだったよ」ウンウン頷いてからレオンは私の顔真似をした。口を目をだらしなく開いた間抜け面だ。「流石の殿下も笑いを堪えるので必死だったろうな」
「そっ、そんなぁ……」
あんなにも幸せな時間にそんな事故が起こっていたなんて。
「ま、二度も関われるわけでもないし、早く忘れとけ」
せせら笑うレオンは背中を向けた。
「早く帰るぞ」
「あっ、ちょっ……ちょっと待って」
慌てて鞄に教科書を詰め込んで、レオンの後ろに駆けてついた。
私たちの関係は、所謂幼馴染という奴になるのだろう。私の母とレオンの母がこの学園で同級生だったのだ。クラスまで同じ親友同士ということで、幼い頃から嫌というほど顔を合わせていた。
もっともレオンの父はその限りではない。カットン一族は、代々受け継がれる美貌を活かした婚姻による勢力・領地拡大を得意とする。つまり、弱小とはいえ我が領地――果ては男児なきクレア家自体を狙っているというわけだ。
我が父には兄が一人いる。しかし伯父は男色のきらいがあり体裁上の妻がいるだけだ。上昇志向もなければ、とんだ享楽主義者であるために、鼻から世継ぎなど作るつもりはないのである。故に子供がいない。
伯父の持つ爵位及び領地は実に四つ。特別秀でた所はないものの、広大な領地を有するカットン一族にしてみれば、空いた穴を塞ぐ効果として非常に役立つわけである。
伯父は世継ぎについては我が父に任せると公言をしている。それはつまり私のことである。父も母も頑張りはしたが、女子が四名続いた時点で諦めたらしい。
そんなわけで、レオンの父たるミルベス伯爵は、我が一族が細やかに持つ五つの領地を狙っているのである。
それにも関わらず婚約がなされていないというのには訳がある。ジェラルド侯爵家のご令嬢がレオンに大層執心なのだ。本来、家格で見れば可愛い恋心と見て重要視するものではない。けれど、そのご令嬢はまだ婚約をしていなかった。数多の縁談がありながら溺愛する娘の気持ちを無碍にできず、父たるジェラルド侯爵は保留という形で婚約を先延ばしにしているのである。恐らく執心中のご令嬢が兄のある一人娘だということも大きいのだろう。
そんなわけで、ご令嬢含めレオンと私、三者の縁談は崩れ掛けの三角のような形で硬直しているのであった。
担任講師の言葉で初日を終え、四名しかいないクラスメイトは各々帰り支度と共に立ち上がった。このクラスは所謂、中堅貴族も下っ端よりの出身者を集めたクラス。よって自ずと知れた顔ぶれが揃っていた。
マギラミラクルはカースト下位中位からすれば夢のような話だが、上位貴族――とくにその親からすれば、悪い虫がつきかねない罠なのだ。
故に各学年、クラスは出自ごとに細かく分かれていた。特別家柄の良い子息子女は校舎すら隔てられた場所で学びを得る。私たちのような者は決して踏み入れることのない、ただ同じ敷地だというだけの別世界――ノブレス館だ。
王子もそこにおられるのだろう。
またいつかお目に掛かりたいなぁなんて窓外へ目を移してみる。不意に頭を小突かれた。
「奇跡はそう何度も起こらないぞ」
「わ、分かってるよ!」
ムッとした顔を向ければ、やはり想像通りの奴だった。しかし同じクラスではない。
落ち目貴族デルダ伯爵家長女――レア・クレアたる私と、やり手貴族ミルベス伯爵家次男――レオン・カットンが同じクラスであるはずがないのだ。
「そうかぁ? 今朝は随分な浮かれた阿保面を晒してたからなぁ」
「そんなことないから!」
「いやいや、中々のもんだったよ」ウンウン頷いてからレオンは私の顔真似をした。口を目をだらしなく開いた間抜け面だ。「流石の殿下も笑いを堪えるので必死だったろうな」
「そっ、そんなぁ……」
あんなにも幸せな時間にそんな事故が起こっていたなんて。
「ま、二度も関われるわけでもないし、早く忘れとけ」
せせら笑うレオンは背中を向けた。
「早く帰るぞ」
「あっ、ちょっ……ちょっと待って」
慌てて鞄に教科書を詰め込んで、レオンの後ろに駆けてついた。
私たちの関係は、所謂幼馴染という奴になるのだろう。私の母とレオンの母がこの学園で同級生だったのだ。クラスまで同じ親友同士ということで、幼い頃から嫌というほど顔を合わせていた。
もっともレオンの父はその限りではない。カットン一族は、代々受け継がれる美貌を活かした婚姻による勢力・領地拡大を得意とする。つまり、弱小とはいえ我が領地――果ては男児なきクレア家自体を狙っているというわけだ。
我が父には兄が一人いる。しかし伯父は男色のきらいがあり体裁上の妻がいるだけだ。上昇志向もなければ、とんだ享楽主義者であるために、鼻から世継ぎなど作るつもりはないのである。故に子供がいない。
伯父の持つ爵位及び領地は実に四つ。特別秀でた所はないものの、広大な領地を有するカットン一族にしてみれば、空いた穴を塞ぐ効果として非常に役立つわけである。
伯父は世継ぎについては我が父に任せると公言をしている。それはつまり私のことである。父も母も頑張りはしたが、女子が四名続いた時点で諦めたらしい。
そんなわけで、レオンの父たるミルベス伯爵は、我が一族が細やかに持つ五つの領地を狙っているのである。
それにも関わらず婚約がなされていないというのには訳がある。ジェラルド侯爵家のご令嬢がレオンに大層執心なのだ。本来、家格で見れば可愛い恋心と見て重要視するものではない。けれど、そのご令嬢はまだ婚約をしていなかった。数多の縁談がありながら溺愛する娘の気持ちを無碍にできず、父たるジェラルド侯爵は保留という形で婚約を先延ばしにしているのである。恐らく執心中のご令嬢が兄のある一人娘だということも大きいのだろう。
そんなわけで、ご令嬢含めレオンと私、三者の縁談は崩れ掛けの三角のような形で硬直しているのであった。
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