婚約破棄目当てで行きずりの人と一晩過ごしたら、何故か隣で婚約者が眠ってた……

木野ダック

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二人の結末2

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「私は、ユリウス様に近付かれると素直になれません」
「素直……?」
 私は頷いた。
「私、もうずっと前からユリウス様のことが嫌でした。できればお見掛けしたくなかったし、お話を聞くのも嫌でした」
 言えば王子の顔は青くなった。
 どんな感情なんだろうと思う。
 王子は「そんな……」と呟いた。それから少し間を空けて俯いた。
「……どうして君は僕を避けるようになったの?」
 どの口がとムッとする。けれど、怒りは懸命に抑え込んだ。
「昔はもっと一緒に過ごしていたよね。僕たちは想いあってたはずだ。なのに君は、突然僕を避けて他の男を気にするようになったりして……」
 呪いの噂を解いて欲しいとお願いしていた。君のためだと言われたが、私だって他の人と話したいと何度も食い下がった。
 その話だろう。
「それはユリウス様が……」言い掛けて、惨めな気持ちが湧いてくる。すんでのところで口を噤んでしまった。
「なんでもありません」
「なに? 言って? これからも僕たちはずっと一緒なんだから……」
「……」
 何も言えなかった。このまま一緒にはいたくないと思っていた。
 今日はしっかりと気持ちを話して、関わらないで貰いたいと願い出ようと思っていた。
 きっと、王子から逃れられないのは王子が私を気にするからだ。
 義理でも情けでも嫌がらせでも、私のことを気に掛けるからなのだ。
「何故、何も言わないの?」
 王子の言葉に唇を噛む。それから諦めて、惨めな自分を投げ捨てた。
「…………だって、どうせ他の人のところに行っちゃうから」
「え……、何? 聞こえない」
 王子は少し距離を詰めてきた。
 恥ずかしくて、私は王子を睨み付けた。
「ユリウス様、どうせ他の人のところに行っちゃうじゃないですか‼︎」
「えっ」
 なんだその、初めて魔法を見ましたよみたいな顔!

 小さい頃から私はユリウス様が大好きだった。
 なんでもできて格好良くて、真面目で優しいユリウス様が大好きだった。
 いつだったか、好き好き言う私にユリウス様が『どこが好き?』と尋ねてきた。私は迷わず、優しいところと答えた。
 けど、いつからか――
『ごめんね、ちょっと待っててね! あっちの子の方が先に約束してたんだ』
『今日は沢山お誘いを受けたよ。メティも見てくれた?』
 そんなことが増えてきて。
 私はだんだん距離をとるようになった。
 胸がチクチクと痛かった。もう嫌だと思った。
 こんなことがずっと続くだなんてゴメンだと。
 みんなのユリウス様なんか嫌いだと――極めて我儘になっていた。

「あの……、えっと。それはまさか、ヤキモチ……?」
 おずおずと王子が尋ねてくる。
「うっ……うるさい!」
 私は再び王子を睨み付けた。完全に照れ隠しだ。
「わわっ、分かっていただけたならもういいです! そういうわけで、私はユリウス様に気があります。全く良い気がしないので、もう私に話し掛けないでください」
 言い捨てて立ち上がる。
「じゃ、帰ります」
 スタスタ足を進める私の手を王子が掴み取った。
「待って! ごめん!」
「いいですもう……」
 終わったことだ。これから気をつけてくれればそれで良い。
「ち、違うんだ! 僕はただメティに優しいって想われたくて……」
「……は?」
 思わず振り向いた。
「本当は……、メティが思ってくれているほど優しくない。メティに嫌われたくなくて、誘われたら断らないを原則に生きてきただけだから……」
「な、なんですそれ……」
「昔、優しいところが好きだって……」
 確かに言った。
 私が撤回したい言葉、最上位だ。
「メティはそれが嫌だったんだね……?」
「そ、それは……まぁ」
 当たり前だよ、とつい罵ってしまう。
「そう答えてくれるってことは、まだ可能性があるって考えても良いのかな?」
「可能性って、そんなの……」
 チラリと覗いた王子は頬を赤く、緊張を浮かべていた。そんな顔を見たことがなかった。
「かっ、勝手にしてください……」
「メティ、ごめんね」
「……別に」
「もう、君と以外話さないから」
 王子は私の隣へ腰掛けた。
「それは大袈裟です」
 私の手を取り、力強く握り締めた。
「でも僕は、君が他の人間と接触して欲しくはない」
「それも行き過ぎです。そういうのもやっぱり私は嫌でした」
 しかし王子は譲らないと言わんばかりに首を振る。
「今でも考えるとゾッとするんだ。もし君があの夜、他の男と寝ていたらって。もう絶対に危ないことをしないで」
 王子の目はしっかり私を見つめていた。
 私も逸らさず見つめ返す。
「……ごめんなさい。でも、ユリウス様だってちゃんと私と踊ってください。それで、その時にはちゃんと綺麗にさせてください」
 暫く王子は考え込んでいた。
 やがて苦悶の表情と共に口を開いて――
「……分かった」と。
 それから私は王子に初めて自らキスをした。

 流石に全てが一度に良くはならなかった。
 呪いの噂も服装も、それがなくなったのはもう少し後の話だった。
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感想 6

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みんなの感想(6件)

2023.02.12 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

木野ダック
2023.02.12 木野ダック

お読みいただきありがとう(^^)!
また再度のコメントもありがとうございます(^^)
全然とんでもないです!
お読みいただけて嬉しいです!
コメント削除ですが、まだ使い方に慣れておらず、方法を見つけ次第削除させていただきますね(^^)!

解除
ぶんまる
2023.02.11 ぶんまる

最初王子にやきもきしましたが可愛い2人でした。
姉は王子狙いで、妹を操ってるのかと疑ったけど
ホントに妹の為だったんですね。
2人のこじらせ面白かったです。

木野ダック
2023.02.11 木野ダック

お読みいただきありがとうございます!
可愛い二人と言っていただけて良かったです(^^)!
実は、姉は怪しい位置に書いていたつもりだったので、迷っていただけたとのこと良かったです!

解除
おゆう
2023.02.10 おゆう

婚約者蔑ろにして他の令嬢優先って婚約破棄されても文句言えないやつ😅。イエローカードラインですね。誰も苦言を呈する者は居なかったんでしょうか🤔。

木野ダック
2023.02.10 木野ダック

お読みいただきありがとうございます(^^)!
本来のいい形なら、もっと早くにメティシアが王子に気持ちを伝えるべきでしたね。
そうでなくても、関係性で言えば側近辺りが悩むのではなく言うべきだったのかもしれませんね。

解除

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