22 / 22
二人の結末2
しおりを挟む
「私は、ユリウス様に近付かれると素直になれません」
「素直……?」
私は頷いた。
「私、もうずっと前からユリウス様のことが嫌でした。できればお見掛けしたくなかったし、お話を聞くのも嫌でした」
言えば王子の顔は青くなった。
どんな感情なんだろうと思う。
王子は「そんな……」と呟いた。それから少し間を空けて俯いた。
「……どうして君は僕を避けるようになったの?」
どの口がとムッとする。けれど、怒りは懸命に抑え込んだ。
「昔はもっと一緒に過ごしていたよね。僕たちは想いあってたはずだ。なのに君は、突然僕を避けて他の男を気にするようになったりして……」
呪いの噂を解いて欲しいとお願いしていた。君のためだと言われたが、私だって他の人と話したいと何度も食い下がった。
その話だろう。
「それはユリウス様が……」言い掛けて、惨めな気持ちが湧いてくる。すんでのところで口を噤んでしまった。
「なんでもありません」
「なに? 言って? これからも僕たちはずっと一緒なんだから……」
「……」
何も言えなかった。このまま一緒にはいたくないと思っていた。
今日はしっかりと気持ちを話して、関わらないで貰いたいと願い出ようと思っていた。
きっと、王子から逃れられないのは王子が私を気にするからだ。
義理でも情けでも嫌がらせでも、私のことを気に掛けるからなのだ。
「何故、何も言わないの?」
王子の言葉に唇を噛む。それから諦めて、惨めな自分を投げ捨てた。
「…………だって、どうせ他の人のところに行っちゃうから」
「え……、何? 聞こえない」
王子は少し距離を詰めてきた。
恥ずかしくて、私は王子を睨み付けた。
「ユリウス様、どうせ他の人のところに行っちゃうじゃないですか‼︎」
「えっ」
なんだその、初めて魔法を見ましたよみたいな顔!
小さい頃から私はユリウス様が大好きだった。
なんでもできて格好良くて、真面目で優しいユリウス様が大好きだった。
いつだったか、好き好き言う私にユリウス様が『どこが好き?』と尋ねてきた。私は迷わず、優しいところと答えた。
けど、いつからか――
『ごめんね、ちょっと待っててね! あっちの子の方が先に約束してたんだ』
『今日は沢山お誘いを受けたよ。メティも見てくれた?』
そんなことが増えてきて。
私はだんだん距離をとるようになった。
胸がチクチクと痛かった。もう嫌だと思った。
こんなことがずっと続くだなんてゴメンだと。
みんなのユリウス様なんか嫌いだと――極めて我儘になっていた。
「あの……、えっと。それはまさか、ヤキモチ……?」
おずおずと王子が尋ねてくる。
「うっ……うるさい!」
私は再び王子を睨み付けた。完全に照れ隠しだ。
「わわっ、分かっていただけたならもういいです! そういうわけで、私はユリウス様に気があります。全く良い気がしないので、もう私に話し掛けないでください」
言い捨てて立ち上がる。
「じゃ、帰ります」
スタスタ足を進める私の手を王子が掴み取った。
「待って! ごめん!」
「いいですもう……」
終わったことだ。これから気をつけてくれればそれで良い。
「ち、違うんだ! 僕はただメティに優しいって想われたくて……」
「……は?」
思わず振り向いた。
「本当は……、メティが思ってくれているほど優しくない。メティに嫌われたくなくて、誘われたら断らないを原則に生きてきただけだから……」
「な、なんですそれ……」
「昔、優しいところが好きだって……」
確かに言った。
私が撤回したい言葉、最上位だ。
「メティはそれが嫌だったんだね……?」
「そ、それは……まぁ」
当たり前だよ、とつい罵ってしまう。
「そう答えてくれるってことは、まだ可能性があるって考えても良いのかな?」
「可能性って、そんなの……」
チラリと覗いた王子は頬を赤く、緊張を浮かべていた。そんな顔を見たことがなかった。
「かっ、勝手にしてください……」
「メティ、ごめんね」
「……別に」
「もう、君と以外話さないから」
王子は私の隣へ腰掛けた。
「それは大袈裟です」
私の手を取り、力強く握り締めた。
「でも僕は、君が他の人間と接触して欲しくはない」
「それも行き過ぎです。そういうのもやっぱり私は嫌でした」
しかし王子は譲らないと言わんばかりに首を振る。
「今でも考えるとゾッとするんだ。もし君があの夜、他の男と寝ていたらって。もう絶対に危ないことをしないで」
王子の目はしっかり私を見つめていた。
私も逸らさず見つめ返す。
「……ごめんなさい。でも、ユリウス様だってちゃんと私と踊ってください。それで、その時にはちゃんと綺麗にさせてください」
暫く王子は考え込んでいた。
やがて苦悶の表情と共に口を開いて――
「……分かった」と。
それから私は王子に初めて自らキスをした。
流石に全てが一度に良くはならなかった。
呪いの噂も服装も、それがなくなったのはもう少し後の話だった。
「素直……?」
私は頷いた。
「私、もうずっと前からユリウス様のことが嫌でした。できればお見掛けしたくなかったし、お話を聞くのも嫌でした」
言えば王子の顔は青くなった。
どんな感情なんだろうと思う。
王子は「そんな……」と呟いた。それから少し間を空けて俯いた。
「……どうして君は僕を避けるようになったの?」
どの口がとムッとする。けれど、怒りは懸命に抑え込んだ。
「昔はもっと一緒に過ごしていたよね。僕たちは想いあってたはずだ。なのに君は、突然僕を避けて他の男を気にするようになったりして……」
呪いの噂を解いて欲しいとお願いしていた。君のためだと言われたが、私だって他の人と話したいと何度も食い下がった。
その話だろう。
「それはユリウス様が……」言い掛けて、惨めな気持ちが湧いてくる。すんでのところで口を噤んでしまった。
「なんでもありません」
「なに? 言って? これからも僕たちはずっと一緒なんだから……」
「……」
何も言えなかった。このまま一緒にはいたくないと思っていた。
今日はしっかりと気持ちを話して、関わらないで貰いたいと願い出ようと思っていた。
きっと、王子から逃れられないのは王子が私を気にするからだ。
義理でも情けでも嫌がらせでも、私のことを気に掛けるからなのだ。
「何故、何も言わないの?」
王子の言葉に唇を噛む。それから諦めて、惨めな自分を投げ捨てた。
「…………だって、どうせ他の人のところに行っちゃうから」
「え……、何? 聞こえない」
王子は少し距離を詰めてきた。
恥ずかしくて、私は王子を睨み付けた。
「ユリウス様、どうせ他の人のところに行っちゃうじゃないですか‼︎」
「えっ」
なんだその、初めて魔法を見ましたよみたいな顔!
小さい頃から私はユリウス様が大好きだった。
なんでもできて格好良くて、真面目で優しいユリウス様が大好きだった。
いつだったか、好き好き言う私にユリウス様が『どこが好き?』と尋ねてきた。私は迷わず、優しいところと答えた。
けど、いつからか――
『ごめんね、ちょっと待っててね! あっちの子の方が先に約束してたんだ』
『今日は沢山お誘いを受けたよ。メティも見てくれた?』
そんなことが増えてきて。
私はだんだん距離をとるようになった。
胸がチクチクと痛かった。もう嫌だと思った。
こんなことがずっと続くだなんてゴメンだと。
みんなのユリウス様なんか嫌いだと――極めて我儘になっていた。
「あの……、えっと。それはまさか、ヤキモチ……?」
おずおずと王子が尋ねてくる。
「うっ……うるさい!」
私は再び王子を睨み付けた。完全に照れ隠しだ。
「わわっ、分かっていただけたならもういいです! そういうわけで、私はユリウス様に気があります。全く良い気がしないので、もう私に話し掛けないでください」
言い捨てて立ち上がる。
「じゃ、帰ります」
スタスタ足を進める私の手を王子が掴み取った。
「待って! ごめん!」
「いいですもう……」
終わったことだ。これから気をつけてくれればそれで良い。
「ち、違うんだ! 僕はただメティに優しいって想われたくて……」
「……は?」
思わず振り向いた。
「本当は……、メティが思ってくれているほど優しくない。メティに嫌われたくなくて、誘われたら断らないを原則に生きてきただけだから……」
「な、なんですそれ……」
「昔、優しいところが好きだって……」
確かに言った。
私が撤回したい言葉、最上位だ。
「メティはそれが嫌だったんだね……?」
「そ、それは……まぁ」
当たり前だよ、とつい罵ってしまう。
「そう答えてくれるってことは、まだ可能性があるって考えても良いのかな?」
「可能性って、そんなの……」
チラリと覗いた王子は頬を赤く、緊張を浮かべていた。そんな顔を見たことがなかった。
「かっ、勝手にしてください……」
「メティ、ごめんね」
「……別に」
「もう、君と以外話さないから」
王子は私の隣へ腰掛けた。
「それは大袈裟です」
私の手を取り、力強く握り締めた。
「でも僕は、君が他の人間と接触して欲しくはない」
「それも行き過ぎです。そういうのもやっぱり私は嫌でした」
しかし王子は譲らないと言わんばかりに首を振る。
「今でも考えるとゾッとするんだ。もし君があの夜、他の男と寝ていたらって。もう絶対に危ないことをしないで」
王子の目はしっかり私を見つめていた。
私も逸らさず見つめ返す。
「……ごめんなさい。でも、ユリウス様だってちゃんと私と踊ってください。それで、その時にはちゃんと綺麗にさせてください」
暫く王子は考え込んでいた。
やがて苦悶の表情と共に口を開いて――
「……分かった」と。
それから私は王子に初めて自らキスをした。
流石に全てが一度に良くはならなかった。
呪いの噂も服装も、それがなくなったのはもう少し後の話だった。
63
お気に入りに追加
902
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
あなたにおすすめの小説

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます

寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
退会済ユーザのコメントです
お読みいただきありがとう(^^)!
また再度のコメントもありがとうございます(^^)
全然とんでもないです!
お読みいただけて嬉しいです!
コメント削除ですが、まだ使い方に慣れておらず、方法を見つけ次第削除させていただきますね(^^)!
最初王子にやきもきしましたが可愛い2人でした。
姉は王子狙いで、妹を操ってるのかと疑ったけど
ホントに妹の為だったんですね。
2人のこじらせ面白かったです。
お読みいただきありがとうございます!
可愛い二人と言っていただけて良かったです(^^)!
実は、姉は怪しい位置に書いていたつもりだったので、迷っていただけたとのこと良かったです!
婚約者蔑ろにして他の令嬢優先って婚約破棄されても文句言えないやつ😅。イエローカードラインですね。誰も苦言を呈する者は居なかったんでしょうか🤔。
お読みいただきありがとうございます(^^)!
本来のいい形なら、もっと早くにメティシアが王子に気持ちを伝えるべきでしたね。
そうでなくても、関係性で言えば側近辺りが悩むのではなく言うべきだったのかもしれませんね。