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襲来1

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 自宅たるタウンハウスへ戻ってきた。
 お姉様の計らいで、昨晩は遠地のパーティーに出ていることになっている。だから、朝帰りだってお咎めなしだ。
 私は早速、父と母に向き合った。
「お父様! 婚約破棄です!」
 優雅なティータイムの手がはたと止まる。
 四つの目玉が私に向いた。
「……はぁ、メティシア。お前は何を言ってるんだ?」
 また変なことを言い出したと、父から呆れがだだ漏れだ。
 私が『王子が嫌いだ』と叫んだのは一度ではない。
「昨日、男女の関わりを持ちました!」
 パリーンと父のカップが地に落ちる。
「……えっ」
 まるで糸を切られた人形のように項垂れた。
「ちょっとメティ、冗談が過ぎるわよ」
 母は眉を吊り上げていた。しかし、まだ余裕がある。
 お母様今回は本気ですよ、そういう眼差しを送ったが、未だため息を吐くばかり。
 取り敢えずは、物陰にいるお姉様にグッと指を立てておいた。
 やりましたわ、お姉様!
 すかさずグッと返ってくる。
「実は、兼ねてよりお慕いしておりました男性がおりまして……。それで、昨晩は夜会でばったり会い、盛り上がってしまって……」
 モジモジ話せば、母は手荒くカップを置いた。
「メティ、いい加減に――」
 ガタッと音がした。嫌な気配が背中を包む。母の明るい顔からその正体を見極めた。
「いやぁ、兼ねてからなんて嬉しいなぁ」
 その声主は私の肩に手を置いた。
「やっぱり相思相愛だったんだ」
 慌てて後ろを向く。案の定、憎き美貌が笑んでいた。
「お久しぶりです。お義父様、お義母様」「まぁ、ユリウス様!」
「丁度下に着いたらご案内を受けたものですから」
「勿論ですわ。ユリウス様であればいつでも大歓迎ですもの」
 品良く笑う王子に母も笑み返す。
「昨晩は、メティシア様をお送りすることができずに申し訳ありません。彼女の言う通り、愛が止めやらない状況でして……」
「えっ……」
 母が私を見る。ものすっごく嬉しそうな顔で、口を塞いでいる。
 断固、首を振った。しかし、母は私から目を逸らす。
「まぁまぁまぁまぁ! そう言うお話でしたのね。この子が婚約破棄なんて恐ろしいことを言うから、てっきり別の方と……」
「いえ、まさか」
 ウフフあははと、母と王子は笑い合う。
 二人の背には幸せの花畑が映って見えた。
 とはいえ、そんなものは素手で引っ剥がす。
「ちょっと待ったぁ!」
 叫んだ声に今度は六つの目玉が私を向いた。
 そのうち二つを睨み返す。
「貴方何故ここにいるんですか⁉︎ 私とほぼ同着って……、半日は目が覚めぬ筈ですよ!」
「ははっ……、あれくらいはねぇ」
 困ったように笑っていた。
「なんですか!」
「王族たるもの、あらゆる毒には耐性をつけておくものだよ」
「何それ⁉︎」
「前にも言ったよ? 僕の話をちゃんと聞いてないからだね」
 おでこをツンと突かれた。
 いやいやいやいや……。何がツンだ。
「取り敢えずそういうわけなので、急ぎ婚姻を進めたいのですが……」
「そうねぇ、そういう話なら」
 母がニコリと父に目配せをする。父もほっこりと笑って頷いた。
 いや待て、順序ちがうでしょ⁉︎
 ていうか証拠もないし!
「納得しないでください!」
 叫べど、父と母はもう王子と今後について話し始めている。
 日取りがとかドレスがとか、当人たる私はそっちのけだ。
 どうする……。
 このままでは、私の輝かしい青春は全て消えゆく運命だ。
 外界から閉じ込められ、眩しい王子の影として生きていく……。
 無理だ! そんなの無理すぎる!
 胸中叫びを上げた時、姉がひとつのカンペを差し出した。
 結婚式計画に夢中な三人は気が付かない。
 王子の側で王子しか見ていない側近さんも多分気が付いていない。
 私はゴクリと唾を呑み、カンペを開いて目を走らせた。
 
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