お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

木野ダック

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誘拐

庭園にて

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 オフホワイトにピンク色。所々に小花が散らされた、フリルが可憐なドレスを身につけた。
 髪型も似合うように編み込んで貰い、ドレスと同じシルクのリボンを飾りつけた。
 右を見る。左を見る。クルリと回る。
「……ふっ」
 つい笑みがこぼれ落ちる。
 これで最高に可愛い自分ミラの完成だ。

 誰も彼もが自分を見ているような気になりながら、時間を確認してから庭へ下りた。
 と、そこで。
 丁度前方から、長い髪を靡かせながら歩いてくる女性が目に入る。彼女は、数名の従者を連れていた。
「シャーレア様!」
 先手を取って呼び掛ける。
 自分でも笑ってしまうくらいの名演技だと思った。
 その声に、シャーレアが足を止め。目を見開いていた。
 僕とシャーレアの間に一陣の風が吹く。シャーレアは、眉尻を下げて寄ってきた。
「まぁ、ミラ様! ご体調は、もう宜しいのですか?」
「あ……、はい。ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。もうすっかり体調を取り戻しました」
 口角を上げて笑みを作っておく。呼応するように、シャーレアも安堵の笑みを浮かべた。
「そうだったのですね。良かった……。話を伺った時は、本当に心配を致しましたの」
 グイッと顔を近づけて、最後に少しだけムッと眉を寄せていた。
 相変わらず、表情が豊かなことだ。
 にしても、近いな……。
 一歩後退する。
 すると、シャーレアは慌てて、
「あら、わたくしったら。申し訳ありません、つい安堵のあまり興奮してしまいました」
 言いながら距離を正す。
 申し訳なさそうにするその表情を、ついジッと見つめてしまった。
 細い首だな……。
「……? どうかされまして?」
「あ、……あぁ。いえ。少し、病み上がりでぼーっとしてしまいまして……」
 慌てて、取り繕う。
 危ない。あわや、手を出してしまうところだった。
 頭に『理性』の二文字を刻み込む。
 眉を下げて困ったような笑みを張り付けておけばシャーレアも、
「そうでしたね……。どうか無理をなさらないでくださいね」と。
 それから、「そういえば」と続けていった。
「ミラ様は、本日こちらへお戻りになられましたの?」
「はい。つい先ほど」
「まぁ! それではお疲れなのではなくて?」
「いえ、道中休んでおりましたので。それに、シャーレア様にお会いできて元気が出ました」
 そんなことを言ってみる。
 シャーレアは、ぱぁと顔を明るくした。
「まぁ、なんて嬉しいことを! ミラ様にそんなお言葉をいただけるなんて光栄ですわ」
 口に手を当てシャーレアは喜んで。そんな姿を、僕はそっと微笑んだ。
「そういえば、私もつい先ほど、シャーレア様がこちらに数日間滞在される旨を伺ったのですが。宜しければご滞在中にお時間をいただけないでしょうか。微力ながらもご案内をさせていただきたいのです」
 着替えながら、ジルから仕入れた情報だった。聞くところによると、イルヴィスあれと二人で出掛けるらしいが……。
 シャーレアを見遣れば、返事はすぐに返ってきた。
「宜しいのですか⁉︎ わたくし、ミラ様と一度ゆっくりお話をさせていただきたいと思っておりましたの。それに、お買い物などは男性とよりも女性と行った方が、絶対に楽しいですものね」
 その言葉に、つい頬が緩む。
「良かったです、ご承諾いただけて」
「当たり前のことですわ。他ならぬミラ様からのお誘いなんですもの。けれど、どうしましょう……」
「? なにか問題でもありましたか?」
「はい。実は、滞在中でお約束をいただいていない時間が、本日くらいしか残っていなくて……」
 眉に皺を寄せ、顎に手を当ててシャーレアは「ん――」と唸っていた。
「それなら」僕は続けて言う。「シャーレア様のご都合が宜しければ、この後はいかがでしょうか? まだ暗くなるまでにも時間がありますし」
 言えば、シャーレアは窺うように僕を覗いた。
「宜しいのですか?」
 心なしかその瞳は潤んでいるようだった。
 無論、迷わず頷いた。
 再びシャーレアの顔に笑みが咲く。飛び上がりそうなほどの喜びを見せつけると、
「では、早速準備をしてまいります。馬車は私の方で用意させていただきますので、ミラ様もご準備が整いましたらお乗りくださいね」
 言い終えてから、整った礼を披露される。
 早速立ち去ろうとするので、すかさずシャーレアを呼び止めた。
「あの」
 シャーレアが振り向いた。首を少し傾げていた。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、ひとつだけお聞きし忘れてしまったことがありまして」
「……?」
「イルヴィス様とは楽しく過ごされましたか?」
 問うた言葉に、シャーレアは一瞬身を強張らせた。けれど、すぐに明るい表情を作り出し、
「ええ、とっても。相談にも親身に乗ってくださって、大変素敵な時間を過ごさせていただいております」と。
 僕は、ゆっくりと口を開いて――
「そうでしたか。それはなによりです」
 そんな言葉を返すのだった。
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