お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

木野ダック

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誘拐

囁き2

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「それで、先ほどリドーから聞いたのですが、ミラ様はイルヴィス様に思うところがあられるとのことで」
 言いながらもジルさんは笑っていた。いつものデフォルトの笑みよりは、少し愉悦が混じったように。
 まさか! さっきの、重要そうなやり取りは、そのことだったのか⁉︎
 恥ずかしくなる。と、同時にリドーさんが恨めしい。
 兄弟だからって、なんでも話して良いわけじゃないんだぞ! と叫びたかった。
 そんな私を、ジルさんは「ふふ……」と意味ありげに笑った。
 それから「ミラ様」と続けていった。
「夫婦というのは、均衡が大切です。どちらか一方が耐えてばかりでは、いずれ破綻してしまいます。けれど、我が国の未来を引くお二人に、そんなことにはなっていただきたくはない。それは、国の為であり、イルヴィス様にお仕えする私の使命であるとも心得ております。だからこそ、悩まれているミラ様には、お力添えを――手札をひとつお渡ししたいと思っているのです」
 私は、ジルさんへの猜疑心を捨て切れてはいなかった。むしろ、今の話で怪しさは倍増したような気さえした。
 だから、その眼差しには疑いを全開で乗せて、
「……手札、ですか?」
 問えば、こくりと頷かれる。
「はい。察するところミラ様のお悩みは、イルヴィス様のお考えが分からないというところではないでしょうか? それから、イルヴィス様にやられっぱなし、というところなども」
 言いながらジルさんは、私へ射抜くような視線を送ってくる。それは、骨の髄までも見透かされていそうな鋭さで。
 押しに弱い私は、うっと口ごもった。
 それこそが肯定しているようなものだけど、反論というものが見当たらなかったのだ。
 そんな私をジルさんは、楽しそうに笑った。人が困ると愉快に笑うのは、主従で一貫するスタイルらしい。
 ムッと唇を結んでいれば、ジルさんが人差し指をピンと立てて見せた。
「であれば、ひとつ。たまには、イルヴィス様を見返してみませんか?」
「え……?」
 思わず声が出た。
 そういえば、そんなことを考えたことはなかったなとハッとする。
 それからジルさんは、少し間を置いてから「ちょっとした悪戯みたいなことなんですが」と。
 私へと歩みを進め、耳元へと近づいた。まるで、子供が内緒の計画でも打ち明けるみたいに。
「イルヴィス様と入れ替わってみませんか? ちょうど良い魔導具ものがありまして」
 したたかな笑み共に、見知った首飾りを見せられる。
「とはいえ、これが私の手元にあるのは、精々三、四日がいいところ。折角の機会なのです。是非、迅速なご判断を」
 そんな悪魔の囁きは、私の中に妙な響きを残していった。
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