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誘拐

憂鬱と妙案

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 はぁ――、と深いため息を吐く。
 ここ最近、特に婚約が決まってから、公務が忙しくなり、学園の授業には殆ど出席していなかった。
 正直、それでも十分な成績は納めているし、その立場的にも学園の理解があるので、足を運ばなくても問題は生じなかった。
 けれど、それでは愛しき婚約者との時間が減ってしまう。だから、彼女が足を運ぶ限りは同行をするようにしていた。
 移動を伴うものでなければ、どうせ場所は問わないし。なんにしても、登下校と毎休み時間、細々ながらでも彼女に会えるのは、パフォーマンスを維持するうえでも重要なことだった。
 彼女は日頃から、僕に嬉々として接するような子ではない。それも、恥ずかしがり屋故だから、結局は僕の癒しとなるわけだけど。
 それにしても、今朝の彼女は様子がおかしかった。
 いつもなら、つれない返事でも目は合わせてくれるのに……。
 はぁ――……。
 机に置かれた記録水晶を見遣る。
 一生懸命、睡魔と闘いながらもメモを取る彼女がいた。
 ペンはいいな……。いつでも彼女に抱いて貰えるのだから。僕は、生まれ変わったら彼女を包むドレスかペンになりたい……。
 心を闇に侵食させていると、そこにゴトッと別の水晶が置かれた。
「……これは?」
 問えば、ジルは薄気味悪い笑みを浮かべた。
 俗にこの笑みは女性を悶えさせるらしいけれど、これはジルが玩具を見つけた時の笑みだ。多くが騙され、泣きを見る。
「昨晩お話しした件ですが、どうやら別でも動きがあるようでして」
 水晶を眺めていれば、やがて覚えのある顔が映し出された。
 その顔に、事の状況を察する。
「依頼先の勢力差は?」
「ふふっ……、それが両者、同じ場所に依頼しているようでして」
「へぇ、馬鹿だね」
「イルヴィス様に言われてしまうのなら、もう全人類馬鹿と――」
「戯言はいいよ。それより、計画は読めた?」
「はい。学園内での拉致、その引き渡し後から依頼をされているようですね。拉致者を叩くので宜しいですか?」
「あぁ、それで――いや」
 ひとつ妙案が差し込んだ。
「?」
「良いこと思いついた」
 言いながら、ジルに差し出された水晶に目を落とす。
 そこに映る男を見て、目を細めた。
「ちょっとだけ、いい夢を見せてあげるよ」
 
 
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