お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

木野ダック

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真偽の望眼2

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「えっ、命って」
「膨大な魔力を使用しますので、いくら高魔力保持者のイルヴィス様でも、体内の魔力は枯渇して死に至ります」
「なっ……なな、なんでそんなことになってまで⁉︎」
 確かに、昔に戻りたいって思うことは、私だってたまにあるけど……。でも、それって普通、自分ありきじゃないの?
 自分がいなくなるなら意味無くない……?
 無理解に自然と眉が寄る。
 しかし、そんな私をジルさんは射るような目つきで見つめていた。
「貴方です」
「?」
 突然の指摘に、益々眉間の皺が深くなる。
 私の頭上は疑問符だらけになっていることだろう。
「……私、ですか?」
 取り敢えず沈黙が重くて、繰り返してみる。
 けれど、ジルさんはこくりと頷いて、
「貴方が原因なんです。イルヴィス様は貴方に後ろめたいことがおありだから、その償いをされようとしているんです」
「後ろめたいこと?」
 問えば、もう一度静かに深く頷かれた。
「ミラ様の故郷であるオーフェル領。その干害についてです」
「……?」
「あれは、イルヴィス様の企てによるものなんです」
「あぁ、それで償い…………って」
 思考が固まった。
 いやいや、流石の王子でも天候は無理でしょ……って、否定と混乱が一挙に押し寄せた。
 けど。
 ジルさんはそんな私すらも気にすることはなく。ただ穏やかに、淡々と、
「つまりですね、その罪滅ぼしでイルヴィス様はミラ様のお話に乗ったのです。けれど、共に過ごすうちに良心の呵責に耐えられず、自身を犠牲にしてでもミラ様を傷つけない過去を選ぼうと、そういうご選択をされたのですよ」
 そんな言葉でまとめ上げた。
 私といえば、案の定置いてけぼりで。ポカンと口を開けっぴろげでいれば、ジルさんはまるで変わらぬ笑みを向けてくる。
 そして――
「イルヴィス様は、お優しい方ですからね」
 そんな言葉を私の中に残していった。

「…………って、肝心のところが全然分かりませんけど⁉︎」
 優しいとかその前に、そもそもなんで干害を起こしたのかってとこが重要でしょ!
 しかし、ジルさんは肩なんか上げたお手上げスタイルで、
「ふふっ……残念ながら、それは私にも分かりません」と。
「えっ! それで、私に助けにいけと言ってたんですか?」
「はい。ミラ様なら大丈夫だろうって確信がありましたから」
「……なんかその言葉、便利に使ってません?」
 疑いの眼差しをこれでもかってほど向ける。
 この人が怪しいのは今に始まったことじゃない!
 アスラの時は確かに協力してくれたから、全部で全部悪い人ってわけじゃないんだろうけど……。
 そんなことを考えていれば、主人の命が危ないってのにジルさんは軽快に笑っていた。
 それは、奇妙とも言える光景で――
「はははっ……、どうでしょうか? さぁ、そろそろ着く頃です。どうか全力でイルヴィス様をお救いくださいね。私は貴女に大きな信頼を寄せていますから」
 なんなら、愉しんでいるようにすら見えてしまった。
 いや……、流石にそれはない。
 そう思いつつ、窓外に目を向ける。
 そこは、いつか来た湖の上に建つ静かで寂しいお屋敷の前だった。
「では、より良い未来を楽しみにしておりますね。困った時にはどうぞこちらをご参考に――」
 そんな言葉と一通の手紙を握らされる。
 私といえば――
「…………いや、無理でしょ」
 訳のわからなさと重責と、色んなものに押し潰されそうになりながらもポイっと放り出されてしまったのだった。

 去っていく馬車を眺め、見送る。
 悲壮感を漂わせつつ、私は握らされた手紙を早速開いた。
 そこには、綺麗ながらも少し拙い文字で文がしたためられていて。

 ミラ・オーフェル様

 初めてお手紙差し上げます。
 その後、御無沙汰いたしておりますが,いかがお過ごしでしょうか。
 さて、このたびはお約束の品が完成致しました。
 是非貴女にご確認いただきたく、ご連絡させていただいた所存です。
 宜しければ、披露かたがた茶宴を用意させていただきたいのですが、ご都合はいかがでしょう。
 宜しければ、お返事お待ちしております。
 末筆ながら、お風邪など召されませんようどうかご自愛ください。
 取り急ぎご報告まで。

 BD1992・マイアの月――

 そこからは紙が破れて読めない。
 というか……。
「『宜しければ』多いな……」
 そんなことをポツリと呟いた。

 
 
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