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初夜オムニバス2・救済の初夜(全然違うお話です!)
お先真っ暗2
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とはいえ、呆然と立っていても食糧が湧いてくることはない。そろそろお腹の方が限界に達していた私は、貰った鍵でしっかり扉を閉め、書いてもらった地図を握りしめて、町へ出た。
お使いさながら辺りをキョロキョロと見回しながら歩いて行って着いた先。そこは、物々しい雰囲気漂う『骨董屋?』だった。
「ここ……だよね?」
なんとなく雰囲気に威圧され、地図に書かれた店名と、店前の看板を見比べる。何度か繰り返して相違ないことを確認する。
「んん~……」
正直、かなり躊躇されるけれど、それでもあの心優しき青年からの紹介なのだ。きっと、良い店を教えてくれたに違いない。
そう切り替えて、重々しい木の扉を押し開けた。チリーンと鈴の音が鳴る。ドキドキと心臓を鳴らしながら店内を進んでいけば、かっこいい系長身美女が私を出迎えた。
「いらっしゃい。お客なんて珍しいね……」
単純な私は、店員さんが怖いおじさんとかではなくて、ただの美人なお姉さんというだけでホッと胸を撫で下ろす。
「あ、あの、私……」
言い掛けてハッとする。
そういえば私、青年の名前を聞いていなかったと。
あれだけお世話になっておきながら、なんたる失態。帰ったら、絶対聞いておかないと……!
そんなことを心に強く誓って、取り敢えずこの場は『知り合い』という言葉を借りることにする。
「えっと……。知り合いから、このお店を聞いて来たんですけど」
「知り合い……?」
「あ、はい。男の子で……」
やっぱり名前、聞いておけば良かったぁ……。
話しづらさに後悔していると、
「男の子……。あぁ、もしかして、栗毛の冴えない感じの?」
「あ、その人です! 多分!」
意外と特定して貰えた。
やっぱり馴染みのお店的な所なんだと更に安心する。
それにしても、あまりに特徴がなく、印象が薄いとは思っていたけれど、さっきまで会っていた恩人の髪色すらあやふやになるなんて、私はこんなに薄情かつ物覚えの悪い人間だったのかと、自分にガッカリしてしまう。
そんな中で、「ふ~~ん?」と、お姉さんが意味ありげな声を漏らす。
一瞬、私は意味が分からなかったけれど、すぐに気が付いて慌てて否定した。
「ち、違うんです! 別に怪しい関係とか、そういうのではなくて。道でたまたま助けてもらったっていうか……。ただ今助けてもらい中みたいな、そんな感じで……」
だって恩人の恋路を邪魔してはいけないもんね。どう矢印が向いているか、知らないけど!
「ふ――ん、そうなんだ?」
しかし、何故か、お姉さんの表情はこわばったように見えた。
もしかして青年、天性のたらしとか……?
人知れず、修羅場の可能性にドキドキしていると、
「ま、いいや。そんなことより、何か用があって来たんでしょ?」
なんともあさっさり切り替えられた。
当事者がそんなことよりと言っているのだから、私もあっさり切り替える。
お使いさながら辺りをキョロキョロと見回しながら歩いて行って着いた先。そこは、物々しい雰囲気漂う『骨董屋?』だった。
「ここ……だよね?」
なんとなく雰囲気に威圧され、地図に書かれた店名と、店前の看板を見比べる。何度か繰り返して相違ないことを確認する。
「んん~……」
正直、かなり躊躇されるけれど、それでもあの心優しき青年からの紹介なのだ。きっと、良い店を教えてくれたに違いない。
そう切り替えて、重々しい木の扉を押し開けた。チリーンと鈴の音が鳴る。ドキドキと心臓を鳴らしながら店内を進んでいけば、かっこいい系長身美女が私を出迎えた。
「いらっしゃい。お客なんて珍しいね……」
単純な私は、店員さんが怖いおじさんとかではなくて、ただの美人なお姉さんというだけでホッと胸を撫で下ろす。
「あ、あの、私……」
言い掛けてハッとする。
そういえば私、青年の名前を聞いていなかったと。
あれだけお世話になっておきながら、なんたる失態。帰ったら、絶対聞いておかないと……!
そんなことを心に強く誓って、取り敢えずこの場は『知り合い』という言葉を借りることにする。
「えっと……。知り合いから、このお店を聞いて来たんですけど」
「知り合い……?」
「あ、はい。男の子で……」
やっぱり名前、聞いておけば良かったぁ……。
話しづらさに後悔していると、
「男の子……。あぁ、もしかして、栗毛の冴えない感じの?」
「あ、その人です! 多分!」
意外と特定して貰えた。
やっぱり馴染みのお店的な所なんだと更に安心する。
それにしても、あまりに特徴がなく、印象が薄いとは思っていたけれど、さっきまで会っていた恩人の髪色すらあやふやになるなんて、私はこんなに薄情かつ物覚えの悪い人間だったのかと、自分にガッカリしてしまう。
そんな中で、「ふ~~ん?」と、お姉さんが意味ありげな声を漏らす。
一瞬、私は意味が分からなかったけれど、すぐに気が付いて慌てて否定した。
「ち、違うんです! 別に怪しい関係とか、そういうのではなくて。道でたまたま助けてもらったっていうか……。ただ今助けてもらい中みたいな、そんな感じで……」
だって恩人の恋路を邪魔してはいけないもんね。どう矢印が向いているか、知らないけど!
「ふ――ん、そうなんだ?」
しかし、何故か、お姉さんの表情はこわばったように見えた。
もしかして青年、天性のたらしとか……?
人知れず、修羅場の可能性にドキドキしていると、
「ま、いいや。そんなことより、何か用があって来たんでしょ?」
なんともあさっさり切り替えられた。
当事者がそんなことよりと言っているのだから、私もあっさり切り替える。
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