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初夜オムニバス1・献身の初夜
別れを紐解いて2
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『拝啓 お姉様
私は今から屋敷に戻ります。
此方が届く頃には私も屋敷に着いているとは思います。けれど、どうにも言葉にはし難いことなので書簡にてお話しさせてください。
ラシュエル様と一晩を過ごしてから、私はどうも涙が止まりません。
どうしてかと考えたら、やはり一定の期間共に過ごしたからという結論に達しました。
つまりこれは別れ難いということです。
家を出る時には感じませんでしたが、それはまた会えるからという違いがあるからでしょう。
私は、二度と会えないことに涙していたらしいのです。
私は今まで、お姉様に憧れておりました。美しく、華やかで、全てを卒なくこなせるお姉様に、心底憧れておりました。
なのでお姉様の力になれると聞いた時には大層嬉しかったのです。
こんな私でも、役に立てるということが。
だから、初夜という目的を達成した今、本来であれば嬉しいはず。例え、寂しさを得ようとも喜びに勝るはずはないのです。
けれど、私はやはり寂しいのです。
寂しくて、どうしようもなくお姉様が憎いのです。
これからもラシュエル様とお話をして、顔を合わせ、共に過ごせるお姉様が憎くて憎くて仕方がないのです。
こんなことは、私を娶ってくださるカールス卿にも失礼でしょう。お姉様にだって顔向けはできません。
けれどごめんなさい。
私は暫くお姉様とは素直に話せる自信がありません。
追伸、どうかお幸せに』
読み終えて顔を上げれば女は儚げに笑っていた。
「嫌味たっぷりな手紙でしょう? 初めての姉妹喧嘩なんですよ。ちなみに、娶るという件についてお気になさらず。嘘ですから」
「……嘘?」
「はい、そちら私の恋人なんです。事情を話して名を借りました」
「事情?」
「親がどうもイリスの魅力を分かっていないのです。役目を果たしたら修道院に送ろうと」
ふと、薬草園に行ったことを思い出す。
イリスはあの時、顔を引き攣らせていた。
なるほど、そういう訳だったのか。
「大変失礼なことをした自覚はございます。ですが、どうかイリスを受け入れては貰えませんか?」
「それは……勿論、できることならそうしたい。しかし、それでは貴女は……」
取消を喰らった女性の将来は明るいものではない。
しかし、言い掛けた言葉を呑み込んだ。女は場違いな程、軽快に笑んでいた。
「私の噂を耳にしたことはありませんか?」
「それは……」
逸らした視線に女は含み笑いをした。
「なら、話が早いですね。私、それだけ遊んでおきながら、貞節は守り通しておりますの。したたかさには自信がありましてよ」
女は、勝ち気に微笑む。
「既に数人の目処はあります。決めた方に泣き落としでもすれば、貞節の件も含めて完璧でしょう」
女は鞄から小箱を手渡した。それは、婚約の際に渡した指輪だった。
「お返ししておきます。イリスは自宅の部屋に引き籠っておりましてよ。どうか引っ張り去ってくださいね」
では、と扉を押し開ける。すんでのところで、ピタリと止まり振り向いた。
「あーー、宜しければ乗って行かれます?」
笑んだ女に頷いた。
「そうしよう」
私は今から屋敷に戻ります。
此方が届く頃には私も屋敷に着いているとは思います。けれど、どうにも言葉にはし難いことなので書簡にてお話しさせてください。
ラシュエル様と一晩を過ごしてから、私はどうも涙が止まりません。
どうしてかと考えたら、やはり一定の期間共に過ごしたからという結論に達しました。
つまりこれは別れ難いということです。
家を出る時には感じませんでしたが、それはまた会えるからという違いがあるからでしょう。
私は、二度と会えないことに涙していたらしいのです。
私は今まで、お姉様に憧れておりました。美しく、華やかで、全てを卒なくこなせるお姉様に、心底憧れておりました。
なのでお姉様の力になれると聞いた時には大層嬉しかったのです。
こんな私でも、役に立てるということが。
だから、初夜という目的を達成した今、本来であれば嬉しいはず。例え、寂しさを得ようとも喜びに勝るはずはないのです。
けれど、私はやはり寂しいのです。
寂しくて、どうしようもなくお姉様が憎いのです。
これからもラシュエル様とお話をして、顔を合わせ、共に過ごせるお姉様が憎くて憎くて仕方がないのです。
こんなことは、私を娶ってくださるカールス卿にも失礼でしょう。お姉様にだって顔向けはできません。
けれどごめんなさい。
私は暫くお姉様とは素直に話せる自信がありません。
追伸、どうかお幸せに』
読み終えて顔を上げれば女は儚げに笑っていた。
「嫌味たっぷりな手紙でしょう? 初めての姉妹喧嘩なんですよ。ちなみに、娶るという件についてお気になさらず。嘘ですから」
「……嘘?」
「はい、そちら私の恋人なんです。事情を話して名を借りました」
「事情?」
「親がどうもイリスの魅力を分かっていないのです。役目を果たしたら修道院に送ろうと」
ふと、薬草園に行ったことを思い出す。
イリスはあの時、顔を引き攣らせていた。
なるほど、そういう訳だったのか。
「大変失礼なことをした自覚はございます。ですが、どうかイリスを受け入れては貰えませんか?」
「それは……勿論、できることならそうしたい。しかし、それでは貴女は……」
取消を喰らった女性の将来は明るいものではない。
しかし、言い掛けた言葉を呑み込んだ。女は場違いな程、軽快に笑んでいた。
「私の噂を耳にしたことはありませんか?」
「それは……」
逸らした視線に女は含み笑いをした。
「なら、話が早いですね。私、それだけ遊んでおきながら、貞節は守り通しておりますの。したたかさには自信がありましてよ」
女は、勝ち気に微笑む。
「既に数人の目処はあります。決めた方に泣き落としでもすれば、貞節の件も含めて完璧でしょう」
女は鞄から小箱を手渡した。それは、婚約の際に渡した指輪だった。
「お返ししておきます。イリスは自宅の部屋に引き籠っておりましてよ。どうか引っ張り去ってくださいね」
では、と扉を押し開ける。すんでのところで、ピタリと止まり振り向いた。
「あーー、宜しければ乗って行かれます?」
笑んだ女に頷いた。
「そうしよう」
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