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グルタス伯爵との戦い
0149話
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イオが魔剣を受け取って説明を受けている間にも、黎明の覇者の出発準備は着々と進んでいた。
元々ソフィアからベヒモスの骨を護衛する兵士たちが来たらすぐに出発するということを聞かされていたので、黎明の覇者の準備は予想以上に整ったのだ。
しかし、そんな中で予想してはいたものの、出来れば避けたいと思うようなこともあり……
「それで、ローザ。私たちと一緒に行動したいと言ってきたのはどれくらいになったの?」
ソフィアが面倒そうな様子で尋ねると、ローザはあっさりと口を開く。
「商人が三人、研究者が一人ね」
「あら、討伐隊の方からは結局来なかったのね」
これについては予想外だったのか、数秒前の面倒そうな表情から一転、驚きながらそう告げる。
商人の数が一番多いというのは予想していたものの、まさか討伐隊の方から一人も来ないというのは予想外だったのだろう。
だが、そんなソフィアとは裏腹に、ローザはそれが当然だと言う。
「討伐隊は元々ベヒモスを倒すために山の向こうからやって来たのよ。そのベヒモスがもう死んでいる以上、私たちと一緒に行動する必要はないでしょう。このまま戻れば……そうね。自分たちで倒した訳ではない以上、多少は減るかもしれないけど、それでも報酬は貰えるんでしょうし」
貰える報酬は少なくなったが、それでも自分たちでベヒモスを倒すという危険を冒さなくてもいいのだから、ある意味で幸運ではある。
ローザは直接動いているベヒモスを見た訳ではないが、それでもその大きさや、実際に戦った者たちから話を聞いた限りでは、その巨体に見合った強さだったのだから。
もしベヒモスちと戦っていた場合、ローザが見た限りの討伐隊の技量では勝利することはまず不可能。
ベヒモスに喰い殺された盗賊たちと同じ結末を迎える者が多数で、本当に運のいい者、勘の鋭い者が何とか逃げ延びることが出来るといった程度だろう。
討伐隊に参加した、あるいは参加しなくてはならなかった者たちにしてみれば、自分が勝利すると考えていたのかどうかは微妙なところだろう。
もちろん、楽天的な性格をしている者、あるいは自分の実力を過信している者ならどうにかベヒモスに勝てると思っていたかもしれないが。
ただし、そのような者は最終的にベヒモスの胃に収められることになっただろう。
「討伐隊の方はいいわ。ベヒモスの骨にちょっかいを出さずに帰ってくれるのなら、こっちとしてはそれ以上望まないもの」
「ほとんどはそういう行動を取るのは間違いないでしょうね。ただ……何人か、怪しい行動をしている者がいるのよ」
「怪しい? それはどういう意味で? グルタス伯爵に繋がってるということかしら? それとも、ベヒモスの骨を少しでも奪おうと考えているのかしら?」
討伐隊は、実際にベヒモスと戦った訳ではない。
ましてや、そのベヒモスを倒したイオたちと戦った訳でもない。
そしてソフィアたち降伏してきたように、黎明の覇者と戦ってその実力差を理解した訳でもない。
そういう意味では、黎明の覇者がランクA傭兵団ということで凄いというのを頭で分かっていても、実際に自分の目で見ていないことによって実感がない。
もちろん、中にはきちんと黎明の覇者は強いので、戦ってはいけない相手だと認識している者もいるので、全員がそのように思っている訳ではないのだが。
「数はそれほど多くないわ。どうする? 出発前にしっかりと釘を刺しておいた方がいいと思うけど」
「釘、ね。そういう意味ではイオがミニメテオを何度か見せたみたいだったけど、それだと足りなかったの?」
「普通のメテオならともかく、ミニメテオだとね」
普通のメテオは、それこそ周辺一帯に大きな被害をもたらす。
魔法なので自然現象として落下してきた隕石と比べると被害は少ないが、地面にめり込み、そのときの衝撃で周囲の全てを薙ぎ払う。
そんな普通のメテオに比べて、イオが気軽に使っているミニメテオは、あくまでも対個人用の魔法だ。
地面に隕石がめり込むのは変わらないが、その際の衝撃はそこまで大きなものではない。
「かといって、普通のメテオをそう簡単に使わせる訳にもいかないでしょう?」
ソフィアのその言葉に、ローザは素直に頷く。
そのような真似をすると、間違いなく面倒なことになると理解出来たからだ。
何しろ空から……宇宙から隕石が降ってくるのだから、遠くにいる者でもメテオが使われたと認識出来てしまう。
そんな魔法をほいほい使うようなことになれば、危険視されるようなことになってもおかしくはない。
「危ない連中については、こっちで目を光らせておけばいいし、ここを離れるときは兵士たちに言っておけばいいでしょう。あるいは……降伏してきた連中を何人か残す?」
当初の予定では、兵士たちと交代で降伏してきた傭兵たちにはベヒモスの素材を報酬として渡し、解放する予定だった。
しかし、もし討伐隊の方で妙な真似をしようとしている相手がいるのなら、兵士たちも戦力が多い方がいいだろう。
「そうね。全員とはいかないけど二割……いえ、三割くらいは残してもいいかもしれないわね。当然、そうなると報酬はより多くなるけど」
それでも、討伐隊の中で妙なことを考えているような相手にベヒモスの骨を奪われるよりはマシなはずだった。
ソフィアの提案に、ローザも反対をする訳がない。
それが黎明の覇者にとって一番いいことだというのは、明らかなのだから。
「分かったわ。じゃあ、そういう風に出来るようにこっちで手を打っておくわね」
「お願い。それで、他に何か問題は?」
「問題というか、今の件に絡んでだけど。降伏してきた人たちにベヒモスの素材を渡すとき、ソフィアも一緒にいて欲しいんだけど」
「……私が?」
ローザの口から出たのは、ソフィアにとっても予想外の言葉だったのだろう。
驚きの表情を浮かべ、だがすぐに納得する。
ソフィアは黎明の覇者を率いる人物として、傭兵の間では……いや、それ以外の場所でもかなり有名だ、
当然だろう。
まだ若いのにランクA傭兵団を率いる実力とカリスマ性、そして何よりその美貌。
才色兼備という言葉は、まさにソフィアのためにある言葉だと言われても、反対出来る者はいないのだから。
そんなソフィアが見ている前で、ベヒモスの素材を渡されたらどうなるか。
素材を渡される傭兵たちにとっては、誇らしい気分になるだろう。
……実際には、相手にそのような思いを抱かせると同時に、もし無茶を口にした場合には即座に鎮圧するための戦力でもあるのだが。
ソフィアの性格をしっかりと知っている者なら、ソフィアが同席するということの意味を理解出来るだろう。
だが、そこまでソフィアとの関わり合いがない者にしてみれば、ソフィアは非常に美しい女としか思えない。
傭兵をしている者であれば、ソフィアの実力は十分に理解しているだろうが、それを知った上でもソフィアの美貌を見ればベヒモスの素材を渡すときの花として見る者もいるだろう。
ベヒモスの骨を守った自分たちに感謝を込めてそうしているのだと。
しかし、美しい花には棘があるという言葉があるように、ソフィアも棘を持つ。
それも刺さったら痛いと呟く程度の棘ではなく、下手に触れれば命すら奪ってもおかしくない、そんな鋭く凶悪な棘。
もしベヒモスの素材を受け取ったとき、これでは足りないと不満を口にする者がいた場合、その棘に刺されて自分の立場というものを理解するだろう。
あくまでも自分たちは黎明の覇者に降伏したものでしかなく、ベヒモスの素材を受け取るのはあくまでも黎明の覇者の……ソフィアの温情によるものなのだと。
「ソフィアがいれば、馬鹿な真似をする人はいないでしょうし、もしいても一人二人を見せしめにすればいいでしょう?」
ローザの口から何気なく出た言葉は、もし何も知らない者が聞けば頬を引き攣らせてもおかしくはない。
見せしめというのは、その言葉通りソフィアによって殺される……あるいは実際にそこまではいかなくても、半殺しくらいにはするということなのだから。
もっとも、ローザやソフィアにしてみれば、その内容はそこまで驚くようなことではなかったが。
傭兵として活動している以上、そのような荒っぽい行動もそう珍しい話ではない。
ソフィアのような美人がそのような真似をするというのは、見ている者に大きな衝撃を与えるが。
「そうならないといいけどね。出来ればこういうときに無駄な戦いはしたくないし」
「無駄な戦い? ソフィアの強さを考えれば、それは無駄な戦いどころではないと思うけど? 今の状況では、それこそ有象無象を一蹴するということになるでしょうし」
ローザが呆れたように言う。
実際、その言葉は決して間違ってはいないのだ。
イオのような魔法を別にすれば、現在この野営地にいる者の中でソフィアと戦って勝てる者はいない。
いや、この野営地どころか、この地域一帯で考えても……そう考えたローザはすぐにそれを否定する。
グルタス伯爵に黎明の覇者と同じランクA傭兵団の鋼の刃が雇われているという話を聞いたからだ。
鋼の刃は突出した強さを持つ個人がいるのではなく、全員が平均的に強い……言ってみれば、特別な特徴を持つ者たちではない。
ただ、そのような者たちだからとはいえ、それが弱いかと言えば否。
そもそもの話、弱ければランクA傭兵団に昇格するようなことはまず出来ないのだから。
特別な特徴がないが、全体的に能力の高い者が揃っている。
もし能力が低ければ、器用貧乏と評されてもおかしくはないだろう。
しかし、その器用貧乏もそれぞれの能力が高くなると万能と呼ぶに相応しい強さとなる。
穴らしい穴、弱点らしい弱点が存在しない厄介な相手。
しかもそのような者たちが連携し、お互いにフォローしあいながらやってくるのだ。
普通に考えて、そのような敵と戦うのは非常に大変だろう。
「とにかく、今は少しでも早くここを出発する準備を整えましょう」
そう言うローザに、ソフィアは頷くのだった。
元々ソフィアからベヒモスの骨を護衛する兵士たちが来たらすぐに出発するということを聞かされていたので、黎明の覇者の準備は予想以上に整ったのだ。
しかし、そんな中で予想してはいたものの、出来れば避けたいと思うようなこともあり……
「それで、ローザ。私たちと一緒に行動したいと言ってきたのはどれくらいになったの?」
ソフィアが面倒そうな様子で尋ねると、ローザはあっさりと口を開く。
「商人が三人、研究者が一人ね」
「あら、討伐隊の方からは結局来なかったのね」
これについては予想外だったのか、数秒前の面倒そうな表情から一転、驚きながらそう告げる。
商人の数が一番多いというのは予想していたものの、まさか討伐隊の方から一人も来ないというのは予想外だったのだろう。
だが、そんなソフィアとは裏腹に、ローザはそれが当然だと言う。
「討伐隊は元々ベヒモスを倒すために山の向こうからやって来たのよ。そのベヒモスがもう死んでいる以上、私たちと一緒に行動する必要はないでしょう。このまま戻れば……そうね。自分たちで倒した訳ではない以上、多少は減るかもしれないけど、それでも報酬は貰えるんでしょうし」
貰える報酬は少なくなったが、それでも自分たちでベヒモスを倒すという危険を冒さなくてもいいのだから、ある意味で幸運ではある。
ローザは直接動いているベヒモスを見た訳ではないが、それでもその大きさや、実際に戦った者たちから話を聞いた限りでは、その巨体に見合った強さだったのだから。
もしベヒモスちと戦っていた場合、ローザが見た限りの討伐隊の技量では勝利することはまず不可能。
ベヒモスに喰い殺された盗賊たちと同じ結末を迎える者が多数で、本当に運のいい者、勘の鋭い者が何とか逃げ延びることが出来るといった程度だろう。
討伐隊に参加した、あるいは参加しなくてはならなかった者たちにしてみれば、自分が勝利すると考えていたのかどうかは微妙なところだろう。
もちろん、楽天的な性格をしている者、あるいは自分の実力を過信している者ならどうにかベヒモスに勝てると思っていたかもしれないが。
ただし、そのような者は最終的にベヒモスの胃に収められることになっただろう。
「討伐隊の方はいいわ。ベヒモスの骨にちょっかいを出さずに帰ってくれるのなら、こっちとしてはそれ以上望まないもの」
「ほとんどはそういう行動を取るのは間違いないでしょうね。ただ……何人か、怪しい行動をしている者がいるのよ」
「怪しい? それはどういう意味で? グルタス伯爵に繋がってるということかしら? それとも、ベヒモスの骨を少しでも奪おうと考えているのかしら?」
討伐隊は、実際にベヒモスと戦った訳ではない。
ましてや、そのベヒモスを倒したイオたちと戦った訳でもない。
そしてソフィアたち降伏してきたように、黎明の覇者と戦ってその実力差を理解した訳でもない。
そういう意味では、黎明の覇者がランクA傭兵団ということで凄いというのを頭で分かっていても、実際に自分の目で見ていないことによって実感がない。
もちろん、中にはきちんと黎明の覇者は強いので、戦ってはいけない相手だと認識している者もいるので、全員がそのように思っている訳ではないのだが。
「数はそれほど多くないわ。どうする? 出発前にしっかりと釘を刺しておいた方がいいと思うけど」
「釘、ね。そういう意味ではイオがミニメテオを何度か見せたみたいだったけど、それだと足りなかったの?」
「普通のメテオならともかく、ミニメテオだとね」
普通のメテオは、それこそ周辺一帯に大きな被害をもたらす。
魔法なので自然現象として落下してきた隕石と比べると被害は少ないが、地面にめり込み、そのときの衝撃で周囲の全てを薙ぎ払う。
そんな普通のメテオに比べて、イオが気軽に使っているミニメテオは、あくまでも対個人用の魔法だ。
地面に隕石がめり込むのは変わらないが、その際の衝撃はそこまで大きなものではない。
「かといって、普通のメテオをそう簡単に使わせる訳にもいかないでしょう?」
ソフィアのその言葉に、ローザは素直に頷く。
そのような真似をすると、間違いなく面倒なことになると理解出来たからだ。
何しろ空から……宇宙から隕石が降ってくるのだから、遠くにいる者でもメテオが使われたと認識出来てしまう。
そんな魔法をほいほい使うようなことになれば、危険視されるようなことになってもおかしくはない。
「危ない連中については、こっちで目を光らせておけばいいし、ここを離れるときは兵士たちに言っておけばいいでしょう。あるいは……降伏してきた連中を何人か残す?」
当初の予定では、兵士たちと交代で降伏してきた傭兵たちにはベヒモスの素材を報酬として渡し、解放する予定だった。
しかし、もし討伐隊の方で妙な真似をしようとしている相手がいるのなら、兵士たちも戦力が多い方がいいだろう。
「そうね。全員とはいかないけど二割……いえ、三割くらいは残してもいいかもしれないわね。当然、そうなると報酬はより多くなるけど」
それでも、討伐隊の中で妙なことを考えているような相手にベヒモスの骨を奪われるよりはマシなはずだった。
ソフィアの提案に、ローザも反対をする訳がない。
それが黎明の覇者にとって一番いいことだというのは、明らかなのだから。
「分かったわ。じゃあ、そういう風に出来るようにこっちで手を打っておくわね」
「お願い。それで、他に何か問題は?」
「問題というか、今の件に絡んでだけど。降伏してきた人たちにベヒモスの素材を渡すとき、ソフィアも一緒にいて欲しいんだけど」
「……私が?」
ローザの口から出たのは、ソフィアにとっても予想外の言葉だったのだろう。
驚きの表情を浮かべ、だがすぐに納得する。
ソフィアは黎明の覇者を率いる人物として、傭兵の間では……いや、それ以外の場所でもかなり有名だ、
当然だろう。
まだ若いのにランクA傭兵団を率いる実力とカリスマ性、そして何よりその美貌。
才色兼備という言葉は、まさにソフィアのためにある言葉だと言われても、反対出来る者はいないのだから。
そんなソフィアが見ている前で、ベヒモスの素材を渡されたらどうなるか。
素材を渡される傭兵たちにとっては、誇らしい気分になるだろう。
……実際には、相手にそのような思いを抱かせると同時に、もし無茶を口にした場合には即座に鎮圧するための戦力でもあるのだが。
ソフィアの性格をしっかりと知っている者なら、ソフィアが同席するということの意味を理解出来るだろう。
だが、そこまでソフィアとの関わり合いがない者にしてみれば、ソフィアは非常に美しい女としか思えない。
傭兵をしている者であれば、ソフィアの実力は十分に理解しているだろうが、それを知った上でもソフィアの美貌を見ればベヒモスの素材を渡すときの花として見る者もいるだろう。
ベヒモスの骨を守った自分たちに感謝を込めてそうしているのだと。
しかし、美しい花には棘があるという言葉があるように、ソフィアも棘を持つ。
それも刺さったら痛いと呟く程度の棘ではなく、下手に触れれば命すら奪ってもおかしくない、そんな鋭く凶悪な棘。
もしベヒモスの素材を受け取ったとき、これでは足りないと不満を口にする者がいた場合、その棘に刺されて自分の立場というものを理解するだろう。
あくまでも自分たちは黎明の覇者に降伏したものでしかなく、ベヒモスの素材を受け取るのはあくまでも黎明の覇者の……ソフィアの温情によるものなのだと。
「ソフィアがいれば、馬鹿な真似をする人はいないでしょうし、もしいても一人二人を見せしめにすればいいでしょう?」
ローザの口から何気なく出た言葉は、もし何も知らない者が聞けば頬を引き攣らせてもおかしくはない。
見せしめというのは、その言葉通りソフィアによって殺される……あるいは実際にそこまではいかなくても、半殺しくらいにはするということなのだから。
もっとも、ローザやソフィアにしてみれば、その内容はそこまで驚くようなことではなかったが。
傭兵として活動している以上、そのような荒っぽい行動もそう珍しい話ではない。
ソフィアのような美人がそのような真似をするというのは、見ている者に大きな衝撃を与えるが。
「そうならないといいけどね。出来ればこういうときに無駄な戦いはしたくないし」
「無駄な戦い? ソフィアの強さを考えれば、それは無駄な戦いどころではないと思うけど? 今の状況では、それこそ有象無象を一蹴するということになるでしょうし」
ローザが呆れたように言う。
実際、その言葉は決して間違ってはいないのだ。
イオのような魔法を別にすれば、現在この野営地にいる者の中でソフィアと戦って勝てる者はいない。
いや、この野営地どころか、この地域一帯で考えても……そう考えたローザはすぐにそれを否定する。
グルタス伯爵に黎明の覇者と同じランクA傭兵団の鋼の刃が雇われているという話を聞いたからだ。
鋼の刃は突出した強さを持つ個人がいるのではなく、全員が平均的に強い……言ってみれば、特別な特徴を持つ者たちではない。
ただ、そのような者たちだからとはいえ、それが弱いかと言えば否。
そもそもの話、弱ければランクA傭兵団に昇格するようなことはまず出来ないのだから。
特別な特徴がないが、全体的に能力の高い者が揃っている。
もし能力が低ければ、器用貧乏と評されてもおかしくはないだろう。
しかし、その器用貧乏もそれぞれの能力が高くなると万能と呼ぶに相応しい強さとなる。
穴らしい穴、弱点らしい弱点が存在しない厄介な相手。
しかもそのような者たちが連携し、お互いにフォローしあいながらやってくるのだ。
普通に考えて、そのような敵と戦うのは非常に大変だろう。
「とにかく、今は少しでも早くここを出発する準備を整えましょう」
そう言うローザに、ソフィアは頷くのだった。
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