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74話
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白夜の奥の手。
それは、今回の一件で本来なら使わなくてもいいような代物。
だが、使えば恐らく自分の勝利が確定するのだろう、奥の手。
唯一にして最大の問題は、白夜の消耗が非常に激しいことだろう。
「麗華先輩、早乙女さん、それと他の皆も……これから、俺の奥の手を使います!」
叫ぶ白夜の言葉に、麗華や五十鈴、早乙女といった面々は白夜の方に視線を向ける。
白夜が口にする奥の手というのが、具体的にどのようなものかを知っている者はそう多くはない。
だが、それでも女王蟻がいきなり大量の援軍を地中から軍隊蟻を呼び出した混乱から抜け出すということが出来たのは、幸運だったのだろう。
「我が闇の内に眠りし莫大なる力よ、その大いなる力を我が前に示し、その力を全ての者に知らしめよ」
白夜の口から出たのは、いつもの厨二的な台詞。
だが、その闇から出てきたのは……ゲートの一件のときに、白夜と麗華の二人でようやく倒すことが出来た、異形のゴブリンだった。
ネクストの後者でこの異形のゴブリンを生み出したこともあったが、そのときはすぐに白夜の限界が来た。
ネクストで呼び出したときは、ほぼ万全の体調であるにもかかわらず、その様子だったのだ。
であれば、すでに何度も闇のモンスターを生み出しており、限界に近い……とまではいかなくても、かなり消耗している今の白夜では、すぐに限界が来るのは間違いない。
本人もそれを承知の上での行動ではあったのだが、今の状況……ようやく女王蟻とその周囲にいる数匹まで数を減らしたにもかかわらず、再び大量に姿を現した軍隊蟻。
それをどうにかするのだと考えれば、当然のように無茶をする必要があった。
「ぐっ!」
「みゃーっ!」
生み出したその瞬間から強制的に身体の中にある魔力や精神力といったものが急激に消費されていく感覚に、白夜の口から苦しげな呻き声が漏れる。
それを見たノーラが励ますように鳴き声を上げるが、白夜本人は意識を集中しているために、それに気が付いた様子はない。
そんな白夜の力を吸い取ったかのように、異形のゴブリンは動き……
「え?」
次の瞬間、誰かがそんな声を漏らす。
それは、異形のゴブリンの動きが速すぎたためだろう。
目に終えないほど……という訳ではないが、それでもその動きついていけるかと言われる難しいと答えてしまうような、そんな動き。
そんな異形のゴブリンの通ったあとに残っているのは、軍隊蟻の残骸とでも呼ぶべきもの。
……それでいながら、闇のモンスターには仲間意識でもあるのか、被害は一切出ていない。
「これが……」
目の前で繰り広げられている光景に、早乙女の口からは驚愕の声しか出せない。
現在早乙女の目の前で暴れているのは、とてもではないがゴブリンとは思えない。
それは圧倒的な強さもそうだが、その外見もだ。
そのような奇妙なゴブリンが、次から次に軍隊蟻を駆逐していくその様子は、早乙女の……いや、早乙女を含め、その場にいる全員にとって信じられない光景だった。
……唯一、そのゴブリンと戦った経験を持つ麗華以外は。
(相変わらず、とんでもない強さですわね)
その強さを、文字通りの意味で身をもって知っている麗華だけに、他の者たちよりも冷静にその戦いを見ることが出来る。
それこそ、ゾディアックの自分と闇の能力を進化させ、量という一点では最高峰の力を持つにいたった白夜の二人がかりで戦い、それでも盛大に苦戦しながら何とか倒すことに成功したのだ。
だからこそ、麗華は目の前の光景を見ても当然だと思いはしても、他の者のように驚くといったことはなかった。
「さぁ、皆さん。白夜のゴブリンが戦っている今がチャンスですわよ! さっさと女王蟻を倒さなくては、全てあのゴブリンに持って行かれてしまいますわ!」
近衛の軍隊蟻の甲殻をあっさりと素手で貫いた異形のゴブリンを見ながら、麗華がそう告げる。
そんな麗華の言葉に、それを聞いた者たちは女王蟻に向かって足を進める。
一応女王蟻の周囲には近衛の軍隊蟻が存在するが、そのような軍隊蟻も麗華たちの攻撃によって大きく減っていく。
近衛は当然普通の軍隊蟻よりも強いのだが、麗華を含めてこの場にいる能力者たちは精鋭と呼ぶに相応しい。
ましてや、白夜が生み出した闇のモンスターは未だに存在しているのだ。
……とはいえ、先程までのよう倒されても即座に新たな闇のモンスターを生み出すといった真似は出来なくなっているが。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
白夜はそんな麗華たちの戦いを見ながら、何とか生み出した闇のモンスターの存在を維持する。
正直なところ、異形のゴブリンを生み出した瞬間から急激に消耗しており、白夜はいつ倒れてもおかしくはない。
それでもここで自分が倒れれば、現状から一気に引っ繰り返される可能性があるということもあり、何とか意識が途切れるのを防いでいた。
(軍隊蟻の総数がここにいるだけなら、何とかなるかもしれない。けど……こうして援軍を出してきた以上、また新たに援軍を出してこないとも限らない)
自分が闇のモンスターを大量に使って物量で押し込むという戦い方をしている以上、当然の話だが向こうが同じ戦い方をした場合にどれだけ厄介なのかというのは骨身に染みている。
だからこそ、現在は白夜が何とかして闇のモンスターの存在を維持し続ける必要があった。
「うおおおおおおっ!」
聞こえてくる声に、白夜は意識を保ちながら視線を向ける。
その視線の先では、早乙女率いるトワイライトの面々が軍隊蟻たちとの戦いを繰り広げていた。
もちろん、早乙女たちだけではない。
麗華や五十鈴もそれに加わっており、女王蟻の側近的な立場にいる近衛の軍隊蟻と大規模にぶつかりあっていた。
また、異形のゴブリンは新たに女王蟻に呼び出された軍隊蟻を次々に倒しており、闇のゴブリンと闇の軍隊蟻もそれに協力し、場合によっては女王蟻や近衛の軍隊蟻にちょっかいをかけている。
そんな光景を目にした白夜は、こんな場所で気を失ってはいられないとして、自らに気合いを入れた。
少しでも気を抜けば、そのまま意識が闇に沈みそうな空気の中で、何とか……意識を保ちつつ、そのような状況でも自分に何が出来るのかを考える。
麗華や五十鈴のいる場所で、自分だけが意識を失うようなみっともない真似は絶対に出来ないという思いを込めて。
「頑張れ、白夜!」
「みゃーっ!」
そんな白夜の側では、早乙女の命令で白夜の護衛に残った男とノーラという一人と一匹が、少しでも白夜を気絶させないようにと、そう声をかける。
「分かってますよ。こんな場所でそう簡単に俺が気を失う訳がないでしょう。ここで頑張れば、あとで間違いなく女にモテる武勇伝になるでしょうし」
白夜のその言葉に、様子を見ていたトワイライトの男は、これなら大丈夫だと判断する。
少なくても、今の白夜の様子を見ている限りでは、すぐに倒れるようなことは絶対にないだろうと。
もちろん、白夜が口にしているのが一種の強がりであるのは間違いないのだが……それでも、その強がりを口に出来ている時点でまだ幾らかの余裕があるのは、ほぼ確実だった。
「消えなさい!」
そんな風に見られている白夜の耳に、鋭い声が聞こえてくる。
どうしようもないほどにその声に意識を惹かれた白夜は、残り少ない精神力や体力を振り絞りながら、声のした方に視線を向け……そこで見たのは、レイピアに光を纏わせて近衛の軍隊蟻に素早く何度も突きを放っている麗華の姿。
太陽の光が黄金の髪に煌めき、まさに光輝きながら踊っているかのように思える。
そして、不思議なことに……本当に不思議なことではあったのだが、そんな麗華を見ていることにより、身体に力が漲ってくる。
本来なら限界近くまで消耗した今の状況であれば、立っているのもやっとでもおかしくはない。
にもかかわらず、麗華の姿を見ているだけで消耗し体力や精神力が回復していく。
(麗華先輩の美貌だから、見ていて俺に力が漲ってきた? ……何だか、普通にありそうだな。もっとも、実際には麗華先輩の光の能力と、俺の持つ闇の能力が色々と干渉した結果……とか、そんな感じなんだろうけど)
理由はまだはっきりとしないが、それでも不思議と力が回復してきたのは事実だ。
頭の片隅で白夜本人も疑問を抱いたが、今の状況を考えればそんなことをしていられるような余裕は存在しない。
であれば、白夜としては何故か……本当に何故か回復した理由を考えるよりも、やるべきことがあった。
意識を集中しながら、白夜は鋭く叫ぶ。
「我が大いなる闇の内に眠りし、力よ。今こそ暴虐たるその力を使い、我が敵を滅ぼせ!」
いつもの厨二的な台詞。
だが、いまだけは本人にそんなことを気にしていられる余裕もないのか、全く恥ずかしがっている様子を見せない。
白夜の闇から、次々と、次々と、次々と、次々と……それこそ、数え切れないほどに姿を現す闇のモンスター。
当然のように、そこから出てくるモンスターの多くは白夜の手駒の中では一番手駒の多い、四本腕のゴブリンだ。
そんな白夜の現在の状況を示すかのように、虹色の髪が太陽の光を浴びて七色に輝く。
白夜は麗華の黄金の髪を見て目を奪われたが、もし何も知らない者が今の白夜を見れば、虹色の髪が煌めく様子は目を奪うに十分だろう。
……もっとも、延々と白夜の闇から生み出されている闇のモンスターの姿に気が付けば、そちらに方に意識を奪われるだろうが。
「虹の……軍勢……」
白夜の護衛を任されていた男が、その虹色の髪を見て、そして次々に生み出される闇のモンスターを見て、思わずといった様子で呟く。
そんな呟きが聞こえた訳でもないだろうが、生み出された闇のモンスターは一気に敵に……軍隊蟻に向かって進み始めた。
それを見た異形のゴブリンは、すぐに雑魚の相手はそちらに任せればいいと判断したのか、女王蟻に攻撃するべく行動を起こす。
『な……』
瞬間移動でもしたかのように、突然女王蟻の真横に現れ、拳を振るい……自分よりも圧倒的な大きさを持つ女王蟻の巨体を吹き飛ばした異形のゴブリンに、近衛の軍隊蟻と戦っていた者たちは驚愕の声を上げる。
「早乙女さん、一斉に攻撃を!」
驚いて動きが止まった一瞬、そこに白夜に声が響き渡る。
近衛の軍隊蟻との戦いに専念していた早乙女、そして他の面々は、いきなり背後から聞こえてきた声が誰のものであるのか知り、また振り返る余裕がある者は後ろを見て、そこで白夜が虹色の髪を輝かせながら、立っている様子を見て驚く。
先程までの、疲れ切っている……それこそ異形のゴブリンを生み出した影響で、いつ倒れてもおかしくはない状況だったはずの白夜が、こうも普通に立っているということを、全く信じることが出来なかったからだ。
だが、そんな者たちの戸惑いも一瞬で消え、今は倒すべき敵に集中する。
この辺り、トワイライトの隊員で経験豊富だというのが大きい。
また、麗華と五十鈴の二人も、後ろから聞こえてくる白夜の気力に満ちた声に驚きつつも、戦いに集中する。
今が……今こそが、この戦いの中で最も重要なときであると、そう理解しているためだ。
「いきますわよ! これで、終わりですわ!」
そんな麗華の声が周囲に響き、麗華の周囲には大きな光が……それこそ、眩いと表現出来る光が生み出される。
その光は、軍隊蟻の動きを止めるには十分な威力だった。
そして早乙女たちはいつの間にか合図をしていたのか、麗華に背中を向けていた。
目を瞑った程度では、それこそ今の光をやりすごすことは出来なかっただろう。
麗華が使った光は、それほどの眩さを持った光だったのだ。
……周囲にいた闇のモンスターは、そんな光を見ても特に影響はなかったが。
先程のように白夜が地面に広げていた闇も一瞬消えたが、光がなくなれば再び闇が地面に広がる。
そして、当然のように異形のゴブリンもその光でどうにかなるはずはなく、異形のゴブリンの拳は女王蟻の身体にめり込み……その甲殻を、あっさりと砕く。
当然ながら、女王蟻は普通の軍隊蟻に比べれば格段に強力なモンスターで、その甲殻の頑丈さも比べものにならない。
それは、白夜が生み出した闇のモンスターの攻撃を受けても、ほとんど傷が付いていなかったことが示している。
だが……異形のゴブリンは、そんな頑丈な甲殻であってもあっさりと砕いたのだ。
その威力がどれだけのものなのかは、それこそ考えるまでもないだろう。
そして一撃が入れば、次に一撃も入り、さらに次の一撃もとなり……異形のゴブリンが放つ連続攻撃は女王蟻が死ぬまでその動きを止めることはなかった。
それは、今回の一件で本来なら使わなくてもいいような代物。
だが、使えば恐らく自分の勝利が確定するのだろう、奥の手。
唯一にして最大の問題は、白夜の消耗が非常に激しいことだろう。
「麗華先輩、早乙女さん、それと他の皆も……これから、俺の奥の手を使います!」
叫ぶ白夜の言葉に、麗華や五十鈴、早乙女といった面々は白夜の方に視線を向ける。
白夜が口にする奥の手というのが、具体的にどのようなものかを知っている者はそう多くはない。
だが、それでも女王蟻がいきなり大量の援軍を地中から軍隊蟻を呼び出した混乱から抜け出すということが出来たのは、幸運だったのだろう。
「我が闇の内に眠りし莫大なる力よ、その大いなる力を我が前に示し、その力を全ての者に知らしめよ」
白夜の口から出たのは、いつもの厨二的な台詞。
だが、その闇から出てきたのは……ゲートの一件のときに、白夜と麗華の二人でようやく倒すことが出来た、異形のゴブリンだった。
ネクストの後者でこの異形のゴブリンを生み出したこともあったが、そのときはすぐに白夜の限界が来た。
ネクストで呼び出したときは、ほぼ万全の体調であるにもかかわらず、その様子だったのだ。
であれば、すでに何度も闇のモンスターを生み出しており、限界に近い……とまではいかなくても、かなり消耗している今の白夜では、すぐに限界が来るのは間違いない。
本人もそれを承知の上での行動ではあったのだが、今の状況……ようやく女王蟻とその周囲にいる数匹まで数を減らしたにもかかわらず、再び大量に姿を現した軍隊蟻。
それをどうにかするのだと考えれば、当然のように無茶をする必要があった。
「ぐっ!」
「みゃーっ!」
生み出したその瞬間から強制的に身体の中にある魔力や精神力といったものが急激に消費されていく感覚に、白夜の口から苦しげな呻き声が漏れる。
それを見たノーラが励ますように鳴き声を上げるが、白夜本人は意識を集中しているために、それに気が付いた様子はない。
そんな白夜の力を吸い取ったかのように、異形のゴブリンは動き……
「え?」
次の瞬間、誰かがそんな声を漏らす。
それは、異形のゴブリンの動きが速すぎたためだろう。
目に終えないほど……という訳ではないが、それでもその動きついていけるかと言われる難しいと答えてしまうような、そんな動き。
そんな異形のゴブリンの通ったあとに残っているのは、軍隊蟻の残骸とでも呼ぶべきもの。
……それでいながら、闇のモンスターには仲間意識でもあるのか、被害は一切出ていない。
「これが……」
目の前で繰り広げられている光景に、早乙女の口からは驚愕の声しか出せない。
現在早乙女の目の前で暴れているのは、とてもではないがゴブリンとは思えない。
それは圧倒的な強さもそうだが、その外見もだ。
そのような奇妙なゴブリンが、次から次に軍隊蟻を駆逐していくその様子は、早乙女の……いや、早乙女を含め、その場にいる全員にとって信じられない光景だった。
……唯一、そのゴブリンと戦った経験を持つ麗華以外は。
(相変わらず、とんでもない強さですわね)
その強さを、文字通りの意味で身をもって知っている麗華だけに、他の者たちよりも冷静にその戦いを見ることが出来る。
それこそ、ゾディアックの自分と闇の能力を進化させ、量という一点では最高峰の力を持つにいたった白夜の二人がかりで戦い、それでも盛大に苦戦しながら何とか倒すことに成功したのだ。
だからこそ、麗華は目の前の光景を見ても当然だと思いはしても、他の者のように驚くといったことはなかった。
「さぁ、皆さん。白夜のゴブリンが戦っている今がチャンスですわよ! さっさと女王蟻を倒さなくては、全てあのゴブリンに持って行かれてしまいますわ!」
近衛の軍隊蟻の甲殻をあっさりと素手で貫いた異形のゴブリンを見ながら、麗華がそう告げる。
そんな麗華の言葉に、それを聞いた者たちは女王蟻に向かって足を進める。
一応女王蟻の周囲には近衛の軍隊蟻が存在するが、そのような軍隊蟻も麗華たちの攻撃によって大きく減っていく。
近衛は当然普通の軍隊蟻よりも強いのだが、麗華を含めてこの場にいる能力者たちは精鋭と呼ぶに相応しい。
ましてや、白夜が生み出した闇のモンスターは未だに存在しているのだ。
……とはいえ、先程までのよう倒されても即座に新たな闇のモンスターを生み出すといった真似は出来なくなっているが。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
白夜はそんな麗華たちの戦いを見ながら、何とか生み出した闇のモンスターの存在を維持する。
正直なところ、異形のゴブリンを生み出した瞬間から急激に消耗しており、白夜はいつ倒れてもおかしくはない。
それでもここで自分が倒れれば、現状から一気に引っ繰り返される可能性があるということもあり、何とか意識が途切れるのを防いでいた。
(軍隊蟻の総数がここにいるだけなら、何とかなるかもしれない。けど……こうして援軍を出してきた以上、また新たに援軍を出してこないとも限らない)
自分が闇のモンスターを大量に使って物量で押し込むという戦い方をしている以上、当然の話だが向こうが同じ戦い方をした場合にどれだけ厄介なのかというのは骨身に染みている。
だからこそ、現在は白夜が何とかして闇のモンスターの存在を維持し続ける必要があった。
「うおおおおおおっ!」
聞こえてくる声に、白夜は意識を保ちながら視線を向ける。
その視線の先では、早乙女率いるトワイライトの面々が軍隊蟻たちとの戦いを繰り広げていた。
もちろん、早乙女たちだけではない。
麗華や五十鈴もそれに加わっており、女王蟻の側近的な立場にいる近衛の軍隊蟻と大規模にぶつかりあっていた。
また、異形のゴブリンは新たに女王蟻に呼び出された軍隊蟻を次々に倒しており、闇のゴブリンと闇の軍隊蟻もそれに協力し、場合によっては女王蟻や近衛の軍隊蟻にちょっかいをかけている。
そんな光景を目にした白夜は、こんな場所で気を失ってはいられないとして、自らに気合いを入れた。
少しでも気を抜けば、そのまま意識が闇に沈みそうな空気の中で、何とか……意識を保ちつつ、そのような状況でも自分に何が出来るのかを考える。
麗華や五十鈴のいる場所で、自分だけが意識を失うようなみっともない真似は絶対に出来ないという思いを込めて。
「頑張れ、白夜!」
「みゃーっ!」
そんな白夜の側では、早乙女の命令で白夜の護衛に残った男とノーラという一人と一匹が、少しでも白夜を気絶させないようにと、そう声をかける。
「分かってますよ。こんな場所でそう簡単に俺が気を失う訳がないでしょう。ここで頑張れば、あとで間違いなく女にモテる武勇伝になるでしょうし」
白夜のその言葉に、様子を見ていたトワイライトの男は、これなら大丈夫だと判断する。
少なくても、今の白夜の様子を見ている限りでは、すぐに倒れるようなことは絶対にないだろうと。
もちろん、白夜が口にしているのが一種の強がりであるのは間違いないのだが……それでも、その強がりを口に出来ている時点でまだ幾らかの余裕があるのは、ほぼ確実だった。
「消えなさい!」
そんな風に見られている白夜の耳に、鋭い声が聞こえてくる。
どうしようもないほどにその声に意識を惹かれた白夜は、残り少ない精神力や体力を振り絞りながら、声のした方に視線を向け……そこで見たのは、レイピアに光を纏わせて近衛の軍隊蟻に素早く何度も突きを放っている麗華の姿。
太陽の光が黄金の髪に煌めき、まさに光輝きながら踊っているかのように思える。
そして、不思議なことに……本当に不思議なことではあったのだが、そんな麗華を見ていることにより、身体に力が漲ってくる。
本来なら限界近くまで消耗した今の状況であれば、立っているのもやっとでもおかしくはない。
にもかかわらず、麗華の姿を見ているだけで消耗し体力や精神力が回復していく。
(麗華先輩の美貌だから、見ていて俺に力が漲ってきた? ……何だか、普通にありそうだな。もっとも、実際には麗華先輩の光の能力と、俺の持つ闇の能力が色々と干渉した結果……とか、そんな感じなんだろうけど)
理由はまだはっきりとしないが、それでも不思議と力が回復してきたのは事実だ。
頭の片隅で白夜本人も疑問を抱いたが、今の状況を考えればそんなことをしていられるような余裕は存在しない。
であれば、白夜としては何故か……本当に何故か回復した理由を考えるよりも、やるべきことがあった。
意識を集中しながら、白夜は鋭く叫ぶ。
「我が大いなる闇の内に眠りし、力よ。今こそ暴虐たるその力を使い、我が敵を滅ぼせ!」
いつもの厨二的な台詞。
だが、いまだけは本人にそんなことを気にしていられる余裕もないのか、全く恥ずかしがっている様子を見せない。
白夜の闇から、次々と、次々と、次々と、次々と……それこそ、数え切れないほどに姿を現す闇のモンスター。
当然のように、そこから出てくるモンスターの多くは白夜の手駒の中では一番手駒の多い、四本腕のゴブリンだ。
そんな白夜の現在の状況を示すかのように、虹色の髪が太陽の光を浴びて七色に輝く。
白夜は麗華の黄金の髪を見て目を奪われたが、もし何も知らない者が今の白夜を見れば、虹色の髪が煌めく様子は目を奪うに十分だろう。
……もっとも、延々と白夜の闇から生み出されている闇のモンスターの姿に気が付けば、そちらに方に意識を奪われるだろうが。
「虹の……軍勢……」
白夜の護衛を任されていた男が、その虹色の髪を見て、そして次々に生み出される闇のモンスターを見て、思わずといった様子で呟く。
そんな呟きが聞こえた訳でもないだろうが、生み出された闇のモンスターは一気に敵に……軍隊蟻に向かって進み始めた。
それを見た異形のゴブリンは、すぐに雑魚の相手はそちらに任せればいいと判断したのか、女王蟻に攻撃するべく行動を起こす。
『な……』
瞬間移動でもしたかのように、突然女王蟻の真横に現れ、拳を振るい……自分よりも圧倒的な大きさを持つ女王蟻の巨体を吹き飛ばした異形のゴブリンに、近衛の軍隊蟻と戦っていた者たちは驚愕の声を上げる。
「早乙女さん、一斉に攻撃を!」
驚いて動きが止まった一瞬、そこに白夜に声が響き渡る。
近衛の軍隊蟻との戦いに専念していた早乙女、そして他の面々は、いきなり背後から聞こえてきた声が誰のものであるのか知り、また振り返る余裕がある者は後ろを見て、そこで白夜が虹色の髪を輝かせながら、立っている様子を見て驚く。
先程までの、疲れ切っている……それこそ異形のゴブリンを生み出した影響で、いつ倒れてもおかしくはない状況だったはずの白夜が、こうも普通に立っているということを、全く信じることが出来なかったからだ。
だが、そんな者たちの戸惑いも一瞬で消え、今は倒すべき敵に集中する。
この辺り、トワイライトの隊員で経験豊富だというのが大きい。
また、麗華と五十鈴の二人も、後ろから聞こえてくる白夜の気力に満ちた声に驚きつつも、戦いに集中する。
今が……今こそが、この戦いの中で最も重要なときであると、そう理解しているためだ。
「いきますわよ! これで、終わりですわ!」
そんな麗華の声が周囲に響き、麗華の周囲には大きな光が……それこそ、眩いと表現出来る光が生み出される。
その光は、軍隊蟻の動きを止めるには十分な威力だった。
そして早乙女たちはいつの間にか合図をしていたのか、麗華に背中を向けていた。
目を瞑った程度では、それこそ今の光をやりすごすことは出来なかっただろう。
麗華が使った光は、それほどの眩さを持った光だったのだ。
……周囲にいた闇のモンスターは、そんな光を見ても特に影響はなかったが。
先程のように白夜が地面に広げていた闇も一瞬消えたが、光がなくなれば再び闇が地面に広がる。
そして、当然のように異形のゴブリンもその光でどうにかなるはずはなく、異形のゴブリンの拳は女王蟻の身体にめり込み……その甲殻を、あっさりと砕く。
当然ながら、女王蟻は普通の軍隊蟻に比べれば格段に強力なモンスターで、その甲殻の頑丈さも比べものにならない。
それは、白夜が生み出した闇のモンスターの攻撃を受けても、ほとんど傷が付いていなかったことが示している。
だが……異形のゴブリンは、そんな頑丈な甲殻であってもあっさりと砕いたのだ。
その威力がどれだけのものなのかは、それこそ考えるまでもないだろう。
そして一撃が入れば、次に一撃も入り、さらに次の一撃もとなり……異形のゴブリンが放つ連続攻撃は女王蟻が死ぬまでその動きを止めることはなかった。
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後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
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