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72話
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軍隊蟻と白夜の生み出した闇のモンスターの戦いのすぐ側では、トワイライトの面々や麗華、五十鈴が仮面の能力者たちと戦っていた。
今回の戦いの相手は仮面を被った能力者。
仮面を被っている以上、当然のように顔を見るようなことは出来ない。
出来ないのだが……それでも、戦っている者として感じることはある。
(この能力は……日本の能力者では、ない?)
能力者は国によって色々と違う。
正確には、能力そのものは同じであっても、その使い方が違うというのが正しい。
もちろん、その国だけにしか存在しない能力というのもあるのだが。
ともあれ、こうして現在戦っている仮面の能力者たちは、その多くが無理矢理日本風に能力を使っているように、麗華には思えた。
それは何かの証拠があってのものではなく、今のところはあくまでも麗華がそう感じたというだけだ。
だが、仮面を被っている能力者の多くがそのようなタイプであり……何より、麗華がここに来ることになった最大の理由が外国から能力者が日本に密入国しているという情報であった以上、証拠の類はなくても、麗華の中ではすでに目の前の能力者たちが外国人だというのは確定していた。
「貴方たち、日本に不法入国した外国の能力者ですわね!」
叫ぶ麗華の言葉に、仮面の能力者たちは一瞬動きに乱れが出る。
向こうもプロらしく、動きに乱れが出たのは本当に一瞬だったが、それで麗華にとっては十分だった。
「うわ、本当にこっちに来たのね。……麗華の女の勘も大したものね」
麗華と仮面の能力者たちのやり取りを見ていた五十鈴が、感心したように呟く。
白夜を狙って能力者がやってきたというのは聞いていたが、まさかピンポイントでこのようなことになるとは思っていなかったからだ。
とはいえ、五十鈴にとっても白夜というのは大事な相手なのは間違いない。
弟の音也が慕っている相手だし、五十鈴にとっても少し気になる相手ではある。
それだけに、外国がいくら白夜を欲しても、それを認める訳にはいかない。
「貴方たちにとっては、残念な結果になるでしょうね」
光の槍の数を増やしながら、麗華は呟く。
その声が聞こえたわけでもないだろうが、仮面の能力者たちは麗華に向かって一斉に攻撃する。
……ただし、その攻撃は致命傷を与えたり、一撃で麗華の命を奪おうとしているのではなく、手足に傷を付け、動けなくするような攻撃。
麗華を捕らえるために行っている攻撃なのは、明らかだった。
仮面の能力者たちにしてみれば、白夜を捕らえるのはあくまでも次善の策でしかない。
最善なのは、当然のように麗華という人物を捕らえることだった。
だが、光皇院家の令嬢たる麗華は、当然のように周囲の護衛も厳重だ。
その麗華がこうして前線に出てきたのだから、仮面の能力者たちにとって、すでにその目標は白夜から麗華に変わっていた。
能力者としてだけではなく、光皇院家の令嬢でもある麗華だ。
その麗華を捕らえて国に連れ戻ることが出来れば、国が受ける恩恵は計り知れない。
また、非常に希少な光の能力の持つ者として、能力の研究も発展するのは間違いないだろう。
もっとも、純粋に能力の価値という点で考えれば、白夜も決して麗華に負けてはいない。
今はまだ発展途上の能力だったが、それでも一人で戦線を支えることが出来るという白夜の能力は、それこそどの国であっても欲するものだろう。
いや、むしろ国力の小さな国ほど、白夜の能力を欲すると言っても間違いではない。
「……」
仮面の能力者たちが、それぞれ無言で仲間と視線を交わし、意思確認をする。
麗華を確保するのはもちろん、可能であれば……それこそ自分たちの身が危機に瀕しても必ず白夜の身柄を確保すると。
そのためであれば、自分たちが怪我をしても、場合によっては死んでも構わない。
そんな思いで、まずは麗華を捕らえるべく相対する。
「あら、先程までは遠距離から攻撃していたのに、こうして直接目の前に出てきて構わないんですの? いえ、こちらとしては願ったり叶ったりではあるのですが」
腰の鞘からレイピアを抜き、能力を使って遠距離攻撃戦闘だけではなく、近接戦闘にでも対応するように準備をする麗華。
そんな麗華の後ろでは、五十鈴が笑みを浮かべて口を開く。
「向こうの狙いは麗華なんじゃないの? 随分とモテるわね」
「……このような方々にモテても、嬉しくありませんわね」
空気そのものを斬り裂くかのように、素早くレイピアを振るいながら麗華がそう告げるのを、仮面の男たちは少しだけ動揺したように身体を動かす。
本当に微かな動揺だったのだが、麗華や五十鈴が……そして早乙女を始めとするトワイライトの面々が察知するには十分な動き。
(麗華を狙うのか。まぁ、俺がこいつらでも、恐らくそうするだろうな)
早乙女は仮面の男たちの様子を見ながら、そう考える。
麗華を手に入れるということは、それだけ大きな出来事なのだ。
……もちろん、それはあくまでも麗華を捕らえることが出来たらの話であって、麗華ほどの能力者を容易に捕らえられるかどうかとなれば、話は別だが。
ましてや、ここには麗華以外にも五十鈴や早乙女を始めとしたトワイライトの面々もいる。
それを考えれば、麗華を捕らえるなどという真似が容易に出来るはずがない。
(とにかく、今は出来るだけ早くこの連中を倒して、白夜の応援に行く必要がある)
仮面の男たちと向き合っているので、白夜の方に視線を向けるような余裕はない。
だが、聞こえてくる戦闘音は未だに続いており、白夜の生み出す闇のモンスターが軍隊蟻の侵攻を防いでいるのは確実だった。
とはいえ、それがいつまでも続くとは思えない。
ただでさえ、先程まで白夜は疲労困憊といった様子だったのだから。
五十鈴の能力によって多少持ち直し、麗華と五十鈴の攻撃によって軍隊蟻の数が大きく減ったとはいえ、とてもではないが万全の状態ではない。
そうである以上、やはりここは自分たちが少しでも早く仮面の男たちを倒し、その後で白夜を助けに行くというのが最善の行動のはずだった。
「日本の能力者の力を……そして、トワイライトの力を、この連中に見せつけてやれ!」
早乙女のその言葉と共に、能力者同士の戦闘が始まる。
氷の矢が、風の刃が、土の弾丸が……それ以外にも、様々な能力を使った攻撃が放たれる。
とはいえ、既に相手も林から出てきており、そこまで遠くにいる訳ではない。
遠距離や中距離の攻撃をしながら、相手との間合いを詰めていく能力者もいる。
仮面の男達は、トワイライトの面々に対しては足止めだけをして、多くの者が麗華に向かう。
麗華を捕らえるのが最優先なのだから、それは当然だろう。
「私を狙っていますの? ですが、甘く見られては困りますわ!」
鋭く叫び、麗華は自分に向かってきた仮面の男たちに向かって、鋭くレイピアを放つ。
「ぐっ!」
真っ先に突っ込んできた仮面の男の胴体に対し、レイピアはあっさりとその胴体を貫く。
貫かれた仮面の男は、そのような状況であっても何とか自分の身体でレイピアの刃を止めようとしているが、それよりも前に素早く麗華はレイピアを引き抜く。
レイピアで胴体を貫通された能力者は、そのまま地面に膝を突き、それ以上の戦闘は不可能となる。
幾ら能力者たちの士気が高くても、肉体がその思いに答えるかどうかというのは、話が別だ。
ましてや、麗華のレイピアを操る技術は、ゾディアックの名に相応しい代物だ。
続けて二度、三度と別の場所から襲いかかってきた仮面の男たちに向け、次々とレイピアを振るう麗華。
もちろん攻撃手段として使っているのはレイピアだけではなく、麗華の象徴でもある光の能力も存分に使われている。
次々に放たれる光の矢。
先程までの槍ではなく矢になっているのは、一撃の威力よりも連射性を高めたからだろう。
そのうえ、麗華の後ろからは五十鈴による音の能力によって、追撃も放たれる。
仮面の男たちにしてみれば、そのような二人の息の合った攻撃は、厄介以外のなにものでもなかった。
「もう少し、タイミングを考えて下さいまし!」
「何を言ってるのよ、麗華の攻撃のタイミングが遅いんでしょう!?」
……本人たちのやり取りを見る限りでは、とてもそのように息の合った攻撃が出来るとは思えないのだが。
そんな二人に対し、早乙女は何かを言おうとするも……結局口には出さない。
お互いに言い争いをしつつも、十分戦力として考えられると、そう思っているのだろう。
「全員、いつまで時間をかけている! とっととこいつらを倒して、白夜を助けに行くぞ!」
叫び、自分の足止めをしている仮面の能力者に向かって一気に接近する。
その際に進路を麗華たちのいる方に向けたのは、仮面の能力者が自分の攻撃を回避しないようにするためだろう。
もしここで仮面の男が回避しようものなら、そのまま早乙女は麗華たちと合流出来る。
それをさせずに早乙女たちを足止めするためには、どうしても仮面の男たちは回避したりといった真似をせず、ここで迎撃する必要があった。
「させんっ!」
日本語で叫んだ仮面の男だったが、その言葉にはどこか違和感がある。
早乙女はそう気が付いたが、今はそのような細かいことを考えるよりも、麗華たちと合流して仮面の男たちを倒すのが最優先だ。
すぐに仮面の男たちに向かって攻撃する。
当然のように、攻撃するのは早乙女たちだけではなく、他のトワイライトの隊員たちも同様だ。
次から次に放たれる攻撃に、足止めをするための仮面の男たちも防戦一方となり……
「おらぁっ!」
「ぐがっ!」
敵の一瞬の隙を突き、放たれた早乙女の肘が仮面の男の一人に命中する。
それこそ、胴体そのものを破壊されてもおかしくないと思わせる、強力な一撃。
男にとって幸いなことに、どうたいそのものを破壊されるといったことはなかったが、それでも肋骨を折るには十分すぎるだけの一撃。
その上で、折れた肋骨が肺を含めた内臓を傷つけ……仮面の男の一人は、瀕死の重傷と言ってもいい重傷となる。
仲間があっさりと倒され……だが、仮面の男たちが動揺する様子は一切ない。
それこそ、仲間が倒されたという事実がなかったと思わせるような動きで、麗華とい五十鈴に攻撃を集中させる。
……麗華に攻撃していた者の何人かは、早乙女たちを麗華の下に辿り着かせないようにと、足止めに回ったが。
ただ、それは麗華に攻撃を集中している者の数が減ったということを意味する。
「五十鈴、少し大きいのをいきますわよ!」
「やって!」
短い言葉だけでお互いに意思確認し、次の瞬間に仮面の男たちの攻撃が緩んだ隙を突き、麗華が意識を集中させた。
それを見すごすような仮面の男たちではなかったが、今の麗華には五十鈴という仲間がいる。
また、麗華の声が聞こえたトワイライトの面々が、仮面の男たちの隙を作るべく、素早く能力を使った遠距離攻撃を行う。
仮面の男たちも、こうして日本に不法入国して麗華や白夜を連れ去るという任務を受けるような者たちなのだから、当然のように腕は立つ。
だが……数秒にも満たないタイムロスは、この場合大きな意味を持つ。
麗華が集中し、能力を発動させるには十分な時間だった。
「くらいなさい!」
その叫びと共に、周囲一帯が光に襲われ……それこそ、その場にいた者の多くの目が、光によって塗り潰される。
そして数秒後、周囲から光が消えたとき、立っているのは麗華と五十鈴、そして早乙女を始めとするトワイライトの面々のみ。
それ以外の、仮面の男たちは全員が地面に倒れていた。
『うわぁ……』
あまりと言えばあまりの一撃に、トワイライトの何人かが……ついでに五十鈴までもが、呆れたように声を出す。
だが、それを聞いた麗華は、何か? と視線を向ける。
その視線を向けられた者たちが出来るのは、ただそっと視線を逸らすだけだ。
五十鈴のみは、特に気にした様子もなく麗華の視線を真っ正面から受け止めていたが。
「取りあえず、この者たちは片付きましたわね。そうなると、次は……」
五十鈴からの視線を無視することに決めたのか、麗華が次に視線を向けたのは、軍隊蟻と戦っている白夜の方。
そこでは現在、白夜によって生み出された闇のモンスターと軍隊蟻が真っ正面から戦っていた。
ただし、軍隊蟻は死ねば白夜の闇に吸収され、闇のモンスターとして蘇る。
結果として、時間が経てば経つほどに白夜が有利となる。
……あくまでも、白夜の消耗を考えなければ、の話だが。
「五十鈴、行きますわよ。……貴方たちはどうしますか?」
そう尋ねる麗華に、早乙女たちは当然のように助けに行くと、そう断言するのだった。
今回の戦いの相手は仮面を被った能力者。
仮面を被っている以上、当然のように顔を見るようなことは出来ない。
出来ないのだが……それでも、戦っている者として感じることはある。
(この能力は……日本の能力者では、ない?)
能力者は国によって色々と違う。
正確には、能力そのものは同じであっても、その使い方が違うというのが正しい。
もちろん、その国だけにしか存在しない能力というのもあるのだが。
ともあれ、こうして現在戦っている仮面の能力者たちは、その多くが無理矢理日本風に能力を使っているように、麗華には思えた。
それは何かの証拠があってのものではなく、今のところはあくまでも麗華がそう感じたというだけだ。
だが、仮面を被っている能力者の多くがそのようなタイプであり……何より、麗華がここに来ることになった最大の理由が外国から能力者が日本に密入国しているという情報であった以上、証拠の類はなくても、麗華の中ではすでに目の前の能力者たちが外国人だというのは確定していた。
「貴方たち、日本に不法入国した外国の能力者ですわね!」
叫ぶ麗華の言葉に、仮面の能力者たちは一瞬動きに乱れが出る。
向こうもプロらしく、動きに乱れが出たのは本当に一瞬だったが、それで麗華にとっては十分だった。
「うわ、本当にこっちに来たのね。……麗華の女の勘も大したものね」
麗華と仮面の能力者たちのやり取りを見ていた五十鈴が、感心したように呟く。
白夜を狙って能力者がやってきたというのは聞いていたが、まさかピンポイントでこのようなことになるとは思っていなかったからだ。
とはいえ、五十鈴にとっても白夜というのは大事な相手なのは間違いない。
弟の音也が慕っている相手だし、五十鈴にとっても少し気になる相手ではある。
それだけに、外国がいくら白夜を欲しても、それを認める訳にはいかない。
「貴方たちにとっては、残念な結果になるでしょうね」
光の槍の数を増やしながら、麗華は呟く。
その声が聞こえたわけでもないだろうが、仮面の能力者たちは麗華に向かって一斉に攻撃する。
……ただし、その攻撃は致命傷を与えたり、一撃で麗華の命を奪おうとしているのではなく、手足に傷を付け、動けなくするような攻撃。
麗華を捕らえるために行っている攻撃なのは、明らかだった。
仮面の能力者たちにしてみれば、白夜を捕らえるのはあくまでも次善の策でしかない。
最善なのは、当然のように麗華という人物を捕らえることだった。
だが、光皇院家の令嬢たる麗華は、当然のように周囲の護衛も厳重だ。
その麗華がこうして前線に出てきたのだから、仮面の能力者たちにとって、すでにその目標は白夜から麗華に変わっていた。
能力者としてだけではなく、光皇院家の令嬢でもある麗華だ。
その麗華を捕らえて国に連れ戻ることが出来れば、国が受ける恩恵は計り知れない。
また、非常に希少な光の能力の持つ者として、能力の研究も発展するのは間違いないだろう。
もっとも、純粋に能力の価値という点で考えれば、白夜も決して麗華に負けてはいない。
今はまだ発展途上の能力だったが、それでも一人で戦線を支えることが出来るという白夜の能力は、それこそどの国であっても欲するものだろう。
いや、むしろ国力の小さな国ほど、白夜の能力を欲すると言っても間違いではない。
「……」
仮面の能力者たちが、それぞれ無言で仲間と視線を交わし、意思確認をする。
麗華を確保するのはもちろん、可能であれば……それこそ自分たちの身が危機に瀕しても必ず白夜の身柄を確保すると。
そのためであれば、自分たちが怪我をしても、場合によっては死んでも構わない。
そんな思いで、まずは麗華を捕らえるべく相対する。
「あら、先程までは遠距離から攻撃していたのに、こうして直接目の前に出てきて構わないんですの? いえ、こちらとしては願ったり叶ったりではあるのですが」
腰の鞘からレイピアを抜き、能力を使って遠距離攻撃戦闘だけではなく、近接戦闘にでも対応するように準備をする麗華。
そんな麗華の後ろでは、五十鈴が笑みを浮かべて口を開く。
「向こうの狙いは麗華なんじゃないの? 随分とモテるわね」
「……このような方々にモテても、嬉しくありませんわね」
空気そのものを斬り裂くかのように、素早くレイピアを振るいながら麗華がそう告げるのを、仮面の男たちは少しだけ動揺したように身体を動かす。
本当に微かな動揺だったのだが、麗華や五十鈴が……そして早乙女を始めとするトワイライトの面々が察知するには十分な動き。
(麗華を狙うのか。まぁ、俺がこいつらでも、恐らくそうするだろうな)
早乙女は仮面の男たちの様子を見ながら、そう考える。
麗華を手に入れるということは、それだけ大きな出来事なのだ。
……もちろん、それはあくまでも麗華を捕らえることが出来たらの話であって、麗華ほどの能力者を容易に捕らえられるかどうかとなれば、話は別だが。
ましてや、ここには麗華以外にも五十鈴や早乙女を始めとしたトワイライトの面々もいる。
それを考えれば、麗華を捕らえるなどという真似が容易に出来るはずがない。
(とにかく、今は出来るだけ早くこの連中を倒して、白夜の応援に行く必要がある)
仮面の男たちと向き合っているので、白夜の方に視線を向けるような余裕はない。
だが、聞こえてくる戦闘音は未だに続いており、白夜の生み出す闇のモンスターが軍隊蟻の侵攻を防いでいるのは確実だった。
とはいえ、それがいつまでも続くとは思えない。
ただでさえ、先程まで白夜は疲労困憊といった様子だったのだから。
五十鈴の能力によって多少持ち直し、麗華と五十鈴の攻撃によって軍隊蟻の数が大きく減ったとはいえ、とてもではないが万全の状態ではない。
そうである以上、やはりここは自分たちが少しでも早く仮面の男たちを倒し、その後で白夜を助けに行くというのが最善の行動のはずだった。
「日本の能力者の力を……そして、トワイライトの力を、この連中に見せつけてやれ!」
早乙女のその言葉と共に、能力者同士の戦闘が始まる。
氷の矢が、風の刃が、土の弾丸が……それ以外にも、様々な能力を使った攻撃が放たれる。
とはいえ、既に相手も林から出てきており、そこまで遠くにいる訳ではない。
遠距離や中距離の攻撃をしながら、相手との間合いを詰めていく能力者もいる。
仮面の男達は、トワイライトの面々に対しては足止めだけをして、多くの者が麗華に向かう。
麗華を捕らえるのが最優先なのだから、それは当然だろう。
「私を狙っていますの? ですが、甘く見られては困りますわ!」
鋭く叫び、麗華は自分に向かってきた仮面の男たちに向かって、鋭くレイピアを放つ。
「ぐっ!」
真っ先に突っ込んできた仮面の男の胴体に対し、レイピアはあっさりとその胴体を貫く。
貫かれた仮面の男は、そのような状況であっても何とか自分の身体でレイピアの刃を止めようとしているが、それよりも前に素早く麗華はレイピアを引き抜く。
レイピアで胴体を貫通された能力者は、そのまま地面に膝を突き、それ以上の戦闘は不可能となる。
幾ら能力者たちの士気が高くても、肉体がその思いに答えるかどうかというのは、話が別だ。
ましてや、麗華のレイピアを操る技術は、ゾディアックの名に相応しい代物だ。
続けて二度、三度と別の場所から襲いかかってきた仮面の男たちに向け、次々とレイピアを振るう麗華。
もちろん攻撃手段として使っているのはレイピアだけではなく、麗華の象徴でもある光の能力も存分に使われている。
次々に放たれる光の矢。
先程までの槍ではなく矢になっているのは、一撃の威力よりも連射性を高めたからだろう。
そのうえ、麗華の後ろからは五十鈴による音の能力によって、追撃も放たれる。
仮面の男たちにしてみれば、そのような二人の息の合った攻撃は、厄介以外のなにものでもなかった。
「もう少し、タイミングを考えて下さいまし!」
「何を言ってるのよ、麗華の攻撃のタイミングが遅いんでしょう!?」
……本人たちのやり取りを見る限りでは、とてもそのように息の合った攻撃が出来るとは思えないのだが。
そんな二人に対し、早乙女は何かを言おうとするも……結局口には出さない。
お互いに言い争いをしつつも、十分戦力として考えられると、そう思っているのだろう。
「全員、いつまで時間をかけている! とっととこいつらを倒して、白夜を助けに行くぞ!」
叫び、自分の足止めをしている仮面の能力者に向かって一気に接近する。
その際に進路を麗華たちのいる方に向けたのは、仮面の能力者が自分の攻撃を回避しないようにするためだろう。
もしここで仮面の男が回避しようものなら、そのまま早乙女は麗華たちと合流出来る。
それをさせずに早乙女たちを足止めするためには、どうしても仮面の男たちは回避したりといった真似をせず、ここで迎撃する必要があった。
「させんっ!」
日本語で叫んだ仮面の男だったが、その言葉にはどこか違和感がある。
早乙女はそう気が付いたが、今はそのような細かいことを考えるよりも、麗華たちと合流して仮面の男たちを倒すのが最優先だ。
すぐに仮面の男たちに向かって攻撃する。
当然のように、攻撃するのは早乙女たちだけではなく、他のトワイライトの隊員たちも同様だ。
次から次に放たれる攻撃に、足止めをするための仮面の男たちも防戦一方となり……
「おらぁっ!」
「ぐがっ!」
敵の一瞬の隙を突き、放たれた早乙女の肘が仮面の男の一人に命中する。
それこそ、胴体そのものを破壊されてもおかしくないと思わせる、強力な一撃。
男にとって幸いなことに、どうたいそのものを破壊されるといったことはなかったが、それでも肋骨を折るには十分すぎるだけの一撃。
その上で、折れた肋骨が肺を含めた内臓を傷つけ……仮面の男の一人は、瀕死の重傷と言ってもいい重傷となる。
仲間があっさりと倒され……だが、仮面の男たちが動揺する様子は一切ない。
それこそ、仲間が倒されたという事実がなかったと思わせるような動きで、麗華とい五十鈴に攻撃を集中させる。
……麗華に攻撃していた者の何人かは、早乙女たちを麗華の下に辿り着かせないようにと、足止めに回ったが。
ただ、それは麗華に攻撃を集中している者の数が減ったということを意味する。
「五十鈴、少し大きいのをいきますわよ!」
「やって!」
短い言葉だけでお互いに意思確認し、次の瞬間に仮面の男たちの攻撃が緩んだ隙を突き、麗華が意識を集中させた。
それを見すごすような仮面の男たちではなかったが、今の麗華には五十鈴という仲間がいる。
また、麗華の声が聞こえたトワイライトの面々が、仮面の男たちの隙を作るべく、素早く能力を使った遠距離攻撃を行う。
仮面の男たちも、こうして日本に不法入国して麗華や白夜を連れ去るという任務を受けるような者たちなのだから、当然のように腕は立つ。
だが……数秒にも満たないタイムロスは、この場合大きな意味を持つ。
麗華が集中し、能力を発動させるには十分な時間だった。
「くらいなさい!」
その叫びと共に、周囲一帯が光に襲われ……それこそ、その場にいた者の多くの目が、光によって塗り潰される。
そして数秒後、周囲から光が消えたとき、立っているのは麗華と五十鈴、そして早乙女を始めとするトワイライトの面々のみ。
それ以外の、仮面の男たちは全員が地面に倒れていた。
『うわぁ……』
あまりと言えばあまりの一撃に、トワイライトの何人かが……ついでに五十鈴までもが、呆れたように声を出す。
だが、それを聞いた麗華は、何か? と視線を向ける。
その視線を向けられた者たちが出来るのは、ただそっと視線を逸らすだけだ。
五十鈴のみは、特に気にした様子もなく麗華の視線を真っ正面から受け止めていたが。
「取りあえず、この者たちは片付きましたわね。そうなると、次は……」
五十鈴からの視線を無視することに決めたのか、麗華が次に視線を向けたのは、軍隊蟻と戦っている白夜の方。
そこでは現在、白夜によって生み出された闇のモンスターと軍隊蟻が真っ正面から戦っていた。
ただし、軍隊蟻は死ねば白夜の闇に吸収され、闇のモンスターとして蘇る。
結果として、時間が経てば経つほどに白夜が有利となる。
……あくまでも、白夜の消耗を考えなければ、の話だが。
「五十鈴、行きますわよ。……貴方たちはどうしますか?」
そう尋ねる麗華に、早乙女たちは当然のように助けに行くと、そう断言するのだった。
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