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65話
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白夜たちが青の街に泊まった翌日、早乙女率いるトワイライトの面々は、街長の菊池を含めた青の街の面々に見送られ、緑の街に出発していた。
「結構いい場所だったよな。……鎌谷が何であんなに行くのを嫌がったのか、分からなかったけど」
トワイライトの一人の言葉に、車内にいた鎌谷はそっと視線を逸らす。
青の街に泊まっているとき、鎌谷がそっと自分たちの場所から抜け出して消えていたのは、この場にいる全員が知っている。
そのときに何があったのかは分からない。分からないが……それが、鎌谷が青の街に行きたくはないと言っていた理由なのだろうということは容易に想像出来る。
だが、鎌谷はそのことを聞かれるのを嫌がっているのは明らかで、ここで無理に話を聞いても意味はないだろうという思いは、その場にいる全員にあった。
「ん、ごほん。ともあれ、これで緑の街から青の街までの道のりは見ることが出来た。……そうである以上、今日からはしっかりと仕事をする必要がある。緑の街、青の街の双方共に、お互いの間に道を通すという作業を楽しみにしているしな」
早乙女の言葉に、鎌谷は頷きを返す。
実際、この道が通れば緑と青、両方の街にとって大きな利益になるのだから、鎌谷が真面目に頷くのは当然だった。
「今回の工事で一番重要な役どころになるのは……もう、言うまでもないな」
早乙女の視線が、ノーラを掌の上に載せて遊んでいた白夜に向けられる。
当然ながら、その能力はすでにこの場にいる全員が知っているので、誰も不満を口に出すことはない。
肝心の白夜も、早乙女の視線にノーラと遊ぶのを止めて頷きを返す。
「分かっています。俺の能力でどこまで出来るか分かりませんけど、能力を鍛える意味も込めて全力でやらせて貰いますよ」
そう告げる白夜の言葉が自信に満ちているのは、青の街で昨日開かれた宴で、美人系のお姉さんにチヤホヤしてもらったから、というのも大きいだろう。
……もちろん、今回の一件で自分の能力をきちんと伸ばすということを念頭に置いているというのもあるのだろうが。
だが、白夜が何故ここまでやる気になっているのかが、その原因を理解している早乙女は、内心の笑みを無理矢理に押し殺す。
そもそも、昨夜の宴で白夜に美人系のお姉さんを付けるようにと菊池にアドバイスをしたのは、早乙女だ。
白夜が女好き……言ってみればオープンスケベであるということは、当然のように早乙女も知っており、そのために選んだ手段がこれだった。
そういう意味では、早乙女は白夜のやる気を上手い具合に引き出したといったところか。
(ハニートラップとか、そういうのに引っ掛からないか、ちょっと心配だけどな)
強力な能力者を引き入れるという意味で、ハニートラップというのは非常に有効な手段の一つだ。
特に、その対象が白夜のように女好きともなれば尚更だろう。
早乙女は白夜に将来的にトワイライトに入って貰いたいと考えているし、それは今回の依頼に白夜を同行させるように手配したトワイライトの上層部も同様だろう。
そのような意味で、早乙女が白夜の将来を心配するのは当然のことだった。
「早乙女さん? どうしました?」
白夜のハニートラップについて考えていた早乙女は、肝心の白夜の声で我に返る。
不思議そうに自分を見ている白夜に……そして他の面々に対しても、早乙女は何でもないと首を横に振り、再び口を開く。
「とにかく、緑の街も青の街も確認した以上、今日……はちょっと時間がないだろうから、細々とした準備で終わるだろうが、明日からは本格的に仕事に入ることになる。特に、白夜は間違いなく一番忙しくなるだろうから、そのつもりでいるように」
早乙女の言葉に、白夜は頷きを返す。
「はい、分かってます」
「そうか。なら、いい。……鎌谷さん、緑の街の方でも、明日からの道路工事では色々と協力して貰えるという話でしたが……」
急に話を振られた鎌谷は、少し戸惑った後で頷きを返す。
「ええ、それについては問題ありません。すでに街長から話が通っている筈ですので。緑の街の全員という訳にはいかないがでしょうが、それなりに手伝いに出られるかと。……ただ、白夜さんがいれば、手伝いの類は必要ないのでは?」
鎌谷の言葉にも、一理あった。
実際に白夜の生み出した闇のゴブリンが軍隊蟻を倒したり、トレントの切り株を地面から引っこ抜くといった行為を目にしているだから、その思いは余計に強いだろう。
それこそ、白夜が一人いれば道を通す作業も、軍隊蟻を倒すといった行為も、全て出来るのではないか。
そう言外に告げてくる鎌谷だったが、早乙女は首を世に振る。
「残念ですが、そうはいきません。今までにも何度か言ってると思いますが、白夜のあの能力は習得したばかりで、コントロールも完全とは言いませんし、何より白夜本人が自分の能力の限界がどこまでなのかというのを分かってはいない。そのため、何かあったときの為に準備をしておく必要がありますから」
「そういうものなのですか?」
早乙女の言葉に鎌谷は頷き……それでようやくそういうものなのかと納得して、それ以上の無茶を口にすることはなかった。
青の街に向かったときとは違い、いちいちどこかに停まっては地形を調べるといった真似をしなかったので、車はやがて緑の街に到着する。
そうなれば、当然のように再び緑の街の住人が集まってきて、色々と話を聞き来たがる。
もっとも、その辺りの説明については鎌谷に任せると、早乙女たちはすぐに明日からの仕事の準備にかかる。
とはいえ、仕事の準備そのものはそこまで多くはない。
道を均すための道具を車から降ろして、特に不具合がないのかを確認したり、場合によっては自分の能力の確認をしたり……それ以外にも白夜には見ても何に使うか分からないような様々な道具の準備をしたりしている。
そんな中で、特に何か準備をする必要もない白夜はやることもなく……何故か、気がつけばノーラと共に緑の街の子供たちと一緒に遊ぶことになってしまう。
「ねぇねぇ、兄ちゃんは能力者なの? どんな能力を持ってるのか、教えてくれよ!」
「あたしも知りたい!」
子供たちにとっては、能力者という存在が珍しいのだろう。
そう言って能力を見せて欲しいと言ってくる子供たちに、白夜はどうするべきかと迷う。
見るからにただの子供である以上、闇のゴブリンや闇の軍隊蟻などといったものを見せる訳にもいかない。
少し考え、野宿をしたときに吸収した、小さな蛇のモンスターを生み出す。
「きゃぁっ!」
子供のうちの何人かが蛇の姿に悲鳴を上げるが、他の子供たちの多くは白夜に尊敬の視線を向けていた。
闇の蛇のモンスターを生み出した時に白夜の口から出た厨二病的な台詞が、よっぽどツボに填まったのだろう。
……本人としては、口にするのが非常に恥ずかしい台詞だったのだが……子供たち、特に男の子にしてみれば、非常に格好良いと思えたらしい。
(ま、まぁ、取りあえず喜んでくれたんだし、それで良かったってことにするか。これから緑の街である程度の期間暮らす以上、子供に受け入れて貰えるというのはありがたいだろうし)
そんな風に、半ば無理矢理自分を納得させながら白夜は闇のモンスターを動かす。
白夜の厨二的な台詞に興味を示していた子供たちも、やがてその闇の蛇のモンスターに集中していく。
やはりと言うべきか、女の子よりも男の子の方が闇の蛇のモンスターに強い興味を示す。
闇の蛇のモンスターは、そんな子供たちと一緒に遊んでいた。
当然のように、何も知らない者が見れば非常に危険な光景に見えるのだが、一緒にいるのが白夜だからなのか、特に大人たちが血相を変えて走ってくる……といったことなない。
白夜が闇からモンスターを生み出すというのは、昨日見せて知っている者も多いし、知らない者も知っている者からの情報を聞いている。
結果として、闇で出来たモンスターを見ても大袈裟に騒ぎ立てるようなことはなかった。
もっとも、今回出している闇のモンスターは蛇のような小さなモンスターだというのも大きいだろう。
白夜の闇の中に大量に存在している四本腕のゴブリンを出したりしようものなら、間違いなく大きな騒ぎになる筈だった。
ましてや、異形のゴブリンを出した場合……どうなるのかは、白夜も考えたくはない。
とはいえ、以前実験したときには異形のゴブリンを出せる時間はほんの少しでしかなかったので、それをやれと言われても、今の白夜にはちょっと難しかっただろうが。
「ねえ、ねえ」
闇の蛇のモンスターと遊んでいる子供たちを眺めていると、不意にそんな風に声をかけられる。
声のした方を白夜が見ると、そこにいたのは十歳にも満たないような少女の姿。
そんな少女が、目を輝かせて白夜に……正確には、白夜の虹色に輝く髪に視線を向けていた。
「どうしたんだ? この髪が珍しいのか?」
「うん! とっても綺麗な髪の毛だから!」
力一杯そう言ってくる少女の様子に、白夜も笑みを浮かべる。
この虹色の髪は、白夜にとってコンプレックスであるのと同時に、誇りでもある。
赤や青、緑といった髪の色をしている者は多いが、白夜のように虹色の髪をしている者というのは……少なくても、白夜は自分以外に見たことがない。
当然そのように目立つ髪をしていれば絡まれることも珍しくはなく、白夜が喧嘩慣れしている一番の理由は、恐らくそれだろう。
「そうか。そう言って貰えると、俺も嬉しい」
「どうやったら、そんなに綺麗な髪になるの? いいな。あたしも、そういう髪にしたい!」
目を輝かせながら、尋ねてくる少女。
いや、白夜の髪に興味があるのは、今こうして話している少女だけではなく、他にも同じような視線を白夜に向けている子供たちが何人かいる。
「そう言われてもな。……髪を染めてどうにか出来るって訳でもないし」
それこそ、赤や青、緑といった色であれば、その色に髪を染めればいい。
だが、虹色などという特殊な髪にしたいと言われても、当然のようにそのような染色剤がある訳もなかった。
いや、もしかしたら探せばあるのかもしれないが、少なくても白夜は知らない。
(まぁ、麗華先輩とかに頼めば、もしかしたら……本当にもしかしたら作ってくれるかもしれないけど。まさか、こんなことで連絡をするのも、色々と不味いだろうしな)
麗華とは連絡先を交換してはいるのだが、相手が『あの』光皇院麗華ともなれば、そう気楽に連絡を出来るはずもない。
……実際には、麗華の方でも白夜から連絡がこないかと若干楽しみにしているだが、それを知らない白夜としては迂闊にそのような真似が出来なかった。
「うーん、そうだな。残念だけど俺の髪のようになるってのは、ちょっと難しいと思う」
「ええ……出来ないの……」
白夜に話しかけた少女は、虹色の髪が非常に綺麗なだけに、自分がそのような髪になれないと知り、涙ぐむ。
当然の話だが、この光景を傍から見れば白夜が少女を泣かせているようにしか見えない。
緑の街の大人たちにこのような光景を見られれ誤解されるのはごめんだと、何とか泣く前にどうにかしようとし……
「そうだ! 能力者! 能力者の中になら、髪の色とかを好きに変えられる能力を持っている奴がいるかもしれないぞ!」
半ば苦し紛れだったか、そう叫ぶ。
だが、それは必ずしも嘘という訳ではない。
能力者の持つ能力というのは、それこそ千差万別。
似たような能力も多いが、非常に希少な能力も多い。
そんな能力の中には、髪の色を変えるといった能力を持っている者がいてもおかしくはない。
……もっとも、そのようなピンポイントな能力ではなく、実際には好きな風に色を変えられる能力者……といった可能性の方が強いのだろうが。
ともあれ、白夜は知らないものの、そのような能力を持っている者がいるという可能性は十分にある。
いや、場合によっては現在白夜と話している者の中から、そのような能力者現れる可能性も否定は出来ない。
能力者の持つ能力とうのは、本人の資質や強く望んでいること、それ以外にも様々な要素によって決まると言われている。
そうであれば、白夜の前にいる子供たちの中で、本当に自分の髪を虹色に変えたいと思う者がいれば、もしかしたら……本当にもしかしたらだが、そのような能力を覚醒させる者が出てきてもおかしくはなかった。
「取りあえず、俺の髪はいいから。……ほら、ちょっとこいつと遊んでやってくれないか?」
「みゃー!?」
まさか、ここで自分が差し出されると思わなかったのか、ノーラが鳴き声を上げるが……白夜は自分が助かるために、ノーラを生け贄として子供たちに差し出すのだった。
「結構いい場所だったよな。……鎌谷が何であんなに行くのを嫌がったのか、分からなかったけど」
トワイライトの一人の言葉に、車内にいた鎌谷はそっと視線を逸らす。
青の街に泊まっているとき、鎌谷がそっと自分たちの場所から抜け出して消えていたのは、この場にいる全員が知っている。
そのときに何があったのかは分からない。分からないが……それが、鎌谷が青の街に行きたくはないと言っていた理由なのだろうということは容易に想像出来る。
だが、鎌谷はそのことを聞かれるのを嫌がっているのは明らかで、ここで無理に話を聞いても意味はないだろうという思いは、その場にいる全員にあった。
「ん、ごほん。ともあれ、これで緑の街から青の街までの道のりは見ることが出来た。……そうである以上、今日からはしっかりと仕事をする必要がある。緑の街、青の街の双方共に、お互いの間に道を通すという作業を楽しみにしているしな」
早乙女の言葉に、鎌谷は頷きを返す。
実際、この道が通れば緑と青、両方の街にとって大きな利益になるのだから、鎌谷が真面目に頷くのは当然だった。
「今回の工事で一番重要な役どころになるのは……もう、言うまでもないな」
早乙女の視線が、ノーラを掌の上に載せて遊んでいた白夜に向けられる。
当然ながら、その能力はすでにこの場にいる全員が知っているので、誰も不満を口に出すことはない。
肝心の白夜も、早乙女の視線にノーラと遊ぶのを止めて頷きを返す。
「分かっています。俺の能力でどこまで出来るか分かりませんけど、能力を鍛える意味も込めて全力でやらせて貰いますよ」
そう告げる白夜の言葉が自信に満ちているのは、青の街で昨日開かれた宴で、美人系のお姉さんにチヤホヤしてもらったから、というのも大きいだろう。
……もちろん、今回の一件で自分の能力をきちんと伸ばすということを念頭に置いているというのもあるのだろうが。
だが、白夜が何故ここまでやる気になっているのかが、その原因を理解している早乙女は、内心の笑みを無理矢理に押し殺す。
そもそも、昨夜の宴で白夜に美人系のお姉さんを付けるようにと菊池にアドバイスをしたのは、早乙女だ。
白夜が女好き……言ってみればオープンスケベであるということは、当然のように早乙女も知っており、そのために選んだ手段がこれだった。
そういう意味では、早乙女は白夜のやる気を上手い具合に引き出したといったところか。
(ハニートラップとか、そういうのに引っ掛からないか、ちょっと心配だけどな)
強力な能力者を引き入れるという意味で、ハニートラップというのは非常に有効な手段の一つだ。
特に、その対象が白夜のように女好きともなれば尚更だろう。
早乙女は白夜に将来的にトワイライトに入って貰いたいと考えているし、それは今回の依頼に白夜を同行させるように手配したトワイライトの上層部も同様だろう。
そのような意味で、早乙女が白夜の将来を心配するのは当然のことだった。
「早乙女さん? どうしました?」
白夜のハニートラップについて考えていた早乙女は、肝心の白夜の声で我に返る。
不思議そうに自分を見ている白夜に……そして他の面々に対しても、早乙女は何でもないと首を横に振り、再び口を開く。
「とにかく、緑の街も青の街も確認した以上、今日……はちょっと時間がないだろうから、細々とした準備で終わるだろうが、明日からは本格的に仕事に入ることになる。特に、白夜は間違いなく一番忙しくなるだろうから、そのつもりでいるように」
早乙女の言葉に、白夜は頷きを返す。
「はい、分かってます」
「そうか。なら、いい。……鎌谷さん、緑の街の方でも、明日からの道路工事では色々と協力して貰えるという話でしたが……」
急に話を振られた鎌谷は、少し戸惑った後で頷きを返す。
「ええ、それについては問題ありません。すでに街長から話が通っている筈ですので。緑の街の全員という訳にはいかないがでしょうが、それなりに手伝いに出られるかと。……ただ、白夜さんがいれば、手伝いの類は必要ないのでは?」
鎌谷の言葉にも、一理あった。
実際に白夜の生み出した闇のゴブリンが軍隊蟻を倒したり、トレントの切り株を地面から引っこ抜くといった行為を目にしているだから、その思いは余計に強いだろう。
それこそ、白夜が一人いれば道を通す作業も、軍隊蟻を倒すといった行為も、全て出来るのではないか。
そう言外に告げてくる鎌谷だったが、早乙女は首を世に振る。
「残念ですが、そうはいきません。今までにも何度か言ってると思いますが、白夜のあの能力は習得したばかりで、コントロールも完全とは言いませんし、何より白夜本人が自分の能力の限界がどこまでなのかというのを分かってはいない。そのため、何かあったときの為に準備をしておく必要がありますから」
「そういうものなのですか?」
早乙女の言葉に鎌谷は頷き……それでようやくそういうものなのかと納得して、それ以上の無茶を口にすることはなかった。
青の街に向かったときとは違い、いちいちどこかに停まっては地形を調べるといった真似をしなかったので、車はやがて緑の街に到着する。
そうなれば、当然のように再び緑の街の住人が集まってきて、色々と話を聞き来たがる。
もっとも、その辺りの説明については鎌谷に任せると、早乙女たちはすぐに明日からの仕事の準備にかかる。
とはいえ、仕事の準備そのものはそこまで多くはない。
道を均すための道具を車から降ろして、特に不具合がないのかを確認したり、場合によっては自分の能力の確認をしたり……それ以外にも白夜には見ても何に使うか分からないような様々な道具の準備をしたりしている。
そんな中で、特に何か準備をする必要もない白夜はやることもなく……何故か、気がつけばノーラと共に緑の街の子供たちと一緒に遊ぶことになってしまう。
「ねぇねぇ、兄ちゃんは能力者なの? どんな能力を持ってるのか、教えてくれよ!」
「あたしも知りたい!」
子供たちにとっては、能力者という存在が珍しいのだろう。
そう言って能力を見せて欲しいと言ってくる子供たちに、白夜はどうするべきかと迷う。
見るからにただの子供である以上、闇のゴブリンや闇の軍隊蟻などといったものを見せる訳にもいかない。
少し考え、野宿をしたときに吸収した、小さな蛇のモンスターを生み出す。
「きゃぁっ!」
子供のうちの何人かが蛇の姿に悲鳴を上げるが、他の子供たちの多くは白夜に尊敬の視線を向けていた。
闇の蛇のモンスターを生み出した時に白夜の口から出た厨二病的な台詞が、よっぽどツボに填まったのだろう。
……本人としては、口にするのが非常に恥ずかしい台詞だったのだが……子供たち、特に男の子にしてみれば、非常に格好良いと思えたらしい。
(ま、まぁ、取りあえず喜んでくれたんだし、それで良かったってことにするか。これから緑の街である程度の期間暮らす以上、子供に受け入れて貰えるというのはありがたいだろうし)
そんな風に、半ば無理矢理自分を納得させながら白夜は闇のモンスターを動かす。
白夜の厨二的な台詞に興味を示していた子供たちも、やがてその闇の蛇のモンスターに集中していく。
やはりと言うべきか、女の子よりも男の子の方が闇の蛇のモンスターに強い興味を示す。
闇の蛇のモンスターは、そんな子供たちと一緒に遊んでいた。
当然のように、何も知らない者が見れば非常に危険な光景に見えるのだが、一緒にいるのが白夜だからなのか、特に大人たちが血相を変えて走ってくる……といったことなない。
白夜が闇からモンスターを生み出すというのは、昨日見せて知っている者も多いし、知らない者も知っている者からの情報を聞いている。
結果として、闇で出来たモンスターを見ても大袈裟に騒ぎ立てるようなことはなかった。
もっとも、今回出している闇のモンスターは蛇のような小さなモンスターだというのも大きいだろう。
白夜の闇の中に大量に存在している四本腕のゴブリンを出したりしようものなら、間違いなく大きな騒ぎになる筈だった。
ましてや、異形のゴブリンを出した場合……どうなるのかは、白夜も考えたくはない。
とはいえ、以前実験したときには異形のゴブリンを出せる時間はほんの少しでしかなかったので、それをやれと言われても、今の白夜にはちょっと難しかっただろうが。
「ねえ、ねえ」
闇の蛇のモンスターと遊んでいる子供たちを眺めていると、不意にそんな風に声をかけられる。
声のした方を白夜が見ると、そこにいたのは十歳にも満たないような少女の姿。
そんな少女が、目を輝かせて白夜に……正確には、白夜の虹色に輝く髪に視線を向けていた。
「どうしたんだ? この髪が珍しいのか?」
「うん! とっても綺麗な髪の毛だから!」
力一杯そう言ってくる少女の様子に、白夜も笑みを浮かべる。
この虹色の髪は、白夜にとってコンプレックスであるのと同時に、誇りでもある。
赤や青、緑といった髪の色をしている者は多いが、白夜のように虹色の髪をしている者というのは……少なくても、白夜は自分以外に見たことがない。
当然そのように目立つ髪をしていれば絡まれることも珍しくはなく、白夜が喧嘩慣れしている一番の理由は、恐らくそれだろう。
「そうか。そう言って貰えると、俺も嬉しい」
「どうやったら、そんなに綺麗な髪になるの? いいな。あたしも、そういう髪にしたい!」
目を輝かせながら、尋ねてくる少女。
いや、白夜の髪に興味があるのは、今こうして話している少女だけではなく、他にも同じような視線を白夜に向けている子供たちが何人かいる。
「そう言われてもな。……髪を染めてどうにか出来るって訳でもないし」
それこそ、赤や青、緑といった色であれば、その色に髪を染めればいい。
だが、虹色などという特殊な髪にしたいと言われても、当然のようにそのような染色剤がある訳もなかった。
いや、もしかしたら探せばあるのかもしれないが、少なくても白夜は知らない。
(まぁ、麗華先輩とかに頼めば、もしかしたら……本当にもしかしたら作ってくれるかもしれないけど。まさか、こんなことで連絡をするのも、色々と不味いだろうしな)
麗華とは連絡先を交換してはいるのだが、相手が『あの』光皇院麗華ともなれば、そう気楽に連絡を出来るはずもない。
……実際には、麗華の方でも白夜から連絡がこないかと若干楽しみにしているだが、それを知らない白夜としては迂闊にそのような真似が出来なかった。
「うーん、そうだな。残念だけど俺の髪のようになるってのは、ちょっと難しいと思う」
「ええ……出来ないの……」
白夜に話しかけた少女は、虹色の髪が非常に綺麗なだけに、自分がそのような髪になれないと知り、涙ぐむ。
当然の話だが、この光景を傍から見れば白夜が少女を泣かせているようにしか見えない。
緑の街の大人たちにこのような光景を見られれ誤解されるのはごめんだと、何とか泣く前にどうにかしようとし……
「そうだ! 能力者! 能力者の中になら、髪の色とかを好きに変えられる能力を持っている奴がいるかもしれないぞ!」
半ば苦し紛れだったか、そう叫ぶ。
だが、それは必ずしも嘘という訳ではない。
能力者の持つ能力というのは、それこそ千差万別。
似たような能力も多いが、非常に希少な能力も多い。
そんな能力の中には、髪の色を変えるといった能力を持っている者がいてもおかしくはない。
……もっとも、そのようなピンポイントな能力ではなく、実際には好きな風に色を変えられる能力者……といった可能性の方が強いのだろうが。
ともあれ、白夜は知らないものの、そのような能力を持っている者がいるという可能性は十分にある。
いや、場合によっては現在白夜と話している者の中から、そのような能力者現れる可能性も否定は出来ない。
能力者の持つ能力とうのは、本人の資質や強く望んでいること、それ以外にも様々な要素によって決まると言われている。
そうであれば、白夜の前にいる子供たちの中で、本当に自分の髪を虹色に変えたいと思う者がいれば、もしかしたら……本当にもしかしたらだが、そのような能力を覚醒させる者が出てきてもおかしくはなかった。
「取りあえず、俺の髪はいいから。……ほら、ちょっとこいつと遊んでやってくれないか?」
「みゃー!?」
まさか、ここで自分が差し出されると思わなかったのか、ノーラが鳴き声を上げるが……白夜は自分が助かるために、ノーラを生け贄として子供たちに差し出すのだった。
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