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31話
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知っている情報についての説明を終えた白夜は、一休み……など出来るはずもなく、麗華に連れられて五十鈴と共にトワイライトの地下に向かう。
そこではいつの間にか消えていたセバスチャンが、大きめの車に大量の荷物を運び込んでいるところだった。
もちろん荷物を運び込んでいるのはセバスチャンだけではなく、他に何人もが協力している。
「黒沢、山中、川島。こちらに来なさい!」
麗華がそう告げる。
そこまで大きな声ではないのだが、それでも十分周囲にいる者にその声は届いた。
すると車に荷物を運んでいた者のうち、三人が麗華の前にやってくる。
「白夜、この三人は私(わたくし)たちと共にゲートに向かいます。全員ネクストの生徒ですが、普段サボることが多い白夜よりも腕は上でしょうね」
少しだけ皮肉を込めて呟く麗華だったが、それを聞いた三人の男たちは自信に満ちた表情を浮かべていた。
ネクストの生徒というだけあって、三人とも白夜と同年代……もしくは少し上といったところか。
「なるほど。じゃあ、頼りにさせて貰いますね」
「……あのね、貴方は馬鹿にされたのよ? なのに、何故そうあっさりと引き下がるのよ」
麗華にしてみれば、今の自分の言葉で白夜が奮起してくれることを期待していたのだ。
実際に白夜が目の前の三人より腕が下だとは、麗華も思っていない。
いや、思いたくないというのが正直なところか。
自分の光と相反する闇の能力。
その持ち主が目の前の三人よりも腕が下だというのは、麗華にとってもあまり面白い出来事ではないのだから。
それでもあえてそのように言ったのは、そうやって煽れば白夜も奮起するのでは? と思ったからだったが……それは見事に外れた形だ。
「そう言われても、俺も自分の腕にはそれなりに自信はありますけど、自分だけで全てがどうにか出来るとは思ってませんよ。それに……今はちょっと闇が微妙な感じですし」
白夜の言葉に、麗華はギルドで聞いた説明を思い出す。
闇が自動的に倒したモンスターの死体を吸収するという話を。
(吸収という言葉が相応しいのかどうかは分からないけど……それでも、闇の能力が自動的に動くということは……恐らく、成長する兆しですわね)
麗華も、自分の能力の光が以前自分の意思に反して動いたことがあった。
当時は一体何が起きたのかと疑問だったのだが、その後、麗華の光の能力はより高度なものになったのだ。
そう考えれば、白夜の身の上に起きていることは何となく理解出来た。
「精進なさい。そうすれば、能力は決して貴方を裏切ったりはいたしませんわ。能力は、能力者にとってもう一人の自分、半身……そのようなものなのですから」
闇がより進化する兆しを見せていることに、麗華も少しだけ満足したのだろう。
今までのきつい視線ではなく、小さく笑みを浮かべて白夜に告げる。
その笑みを見た白夜は、太陽の如き笑みを向けられ、そっと視線を逸らす。
眩しすぎると、そう思っての行動だった。
麗華に呼ばれた三人は、白夜が麗華に褒められたことに……そして麗華の笑みを向けられたことに嫉妬の念を抱く。
当然だろう。そもそもここにいる時点で多くのライバルを蹴落として、ようやく辿り着いた場所なのだ。
にもかかわらず、白夜という男は特に何もしていないのに、ここにいる。
おまけに麗華に笑みを向けられるという、それこそ自分たちであれば、いくら払ってもいいとさえ思える笑み。
そのような好待遇――黒沢たちにとってはだが――を受けている白夜に、嫉妬の念を抱くなという方が無理だった。
だが麗華はそんな黒沢たちの思いに気が付いた様子はなく、白夜に向けていた笑みもすぐに消え、改めて口を開く。
「とにかく、準備を急いでちょうだい。ゲートが開いた以上、いつ向こうの世界からモンスターがやってくるか分かりませんわ」
「分かりました。おい、お前たち、やるぞ!」
『おお!』
黒沢の言葉に他の二人が頷き、車に荷物を運ぶ作業に戻っていく。
それを見ていた白夜は、ふと五十鈴が黙ったままなのに気が付き、そちらに視線を向ける。
すると、五十鈴は驚愕も露わに車に視線を向けていた。
「どうしたんだ?」
「……白夜、この車を見て、驚かないの? これって、ちょっと前に噂になっていたロータスの最新型の軍用車よ?」
「ロータスの? そう言えば、ちょっと前に話題になってたけど……」
ロータスというのは、様々なマジックアイテムを製造・販売している会社だ。
そのような会社はいくつもあるが、ロータスはその中でも中堅どころといったところか。
ただし、その品質という点では業界全体でも上位に位置するということもあり、冒険者を含めてこの会社の製品を好む者は多い。
だが、当然そのような品は値段が高く、それこそトワイライトの隊員ならともかく、一介のネクストの生徒でしかない白夜がそう簡単に手を出せる金額ではない。
何より、白夜は車にあまり興味がないというのも、五十鈴が熱心に見ている車の情報を聞き流した理由の一つだった。
そんな白夜に比べると、五十鈴は金銭的な意味で困るといったことはない。
それこそ、ロータスのマジックアイテムを買うのにも特に苦労はしない程度には金銭的な余裕があった。
「あら、ご存じでしたの? ふふっ、この車はロータス社製だけあって、かなり高性能ですわよ?」
麗華にとっては、それこそそこまで高額といった代物ではないのだが、純粋にこの車を気に入っているのだろう。
そんな麗華に、五十鈴は一瞬悔しそうな表情を浮かべるも……次の瞬間、その表情を笑みに変えて口を開く。
「けど、ゲートがあるのはゴブリンの集落。そしてゴブリンの集落は山の中にあるのよ? この車がいくら高性能でも、山に登るのは難しいんじゃないかしら?」
「そうね。けど、その山まで行くのには十分役立つわよ?」
おほほ、うふふ、といった笑い声が周囲に響く。
お互いに笑みを浮かべての会話ではあるのだが、その言葉一つ一つに棘がある。
そんな二人の会話を間近で聞いていた白夜は、普段の軽薄さも消えたかのように動きを止めていた。
極めつけの美女二人に囲まれるという意味では、それこそ女好きの白夜にとってはこれ以上ないシチュエーションと言ってもいいだろう。
だが……美女だからこそ、ある種の怖さがあった。
気のせいか、白夜は荷物を運んでいる黒沢たちが自分に同情の視線を向けているようにすら感じられる。
お互いに笑みを浮かべつつ、言葉の棘で相手を刺すといった行為をしていた麗華と五十鈴だったが、そんな二人に挟まれた白夜を救ったのは、意外にもセバスチャンだった。
「お嬢様、荷物の積み込み完了いたしました。いつでも出発出来ます」
「あら、そう。ご苦労様。……では、早速出発しますわよ。一緒に行く方々は車に乗りなさい。……ああ、当然白夜は強制参加ですわね」
言葉通り当然といった様子で視線を向けてくる麗華に、白夜は安堵の表情を浮かべながら頷きを返す。
もちろんこの安堵というのは、自分がゲートに対する偵察……それもただの偵察ではなく強行偵察、そして可能であればゲートを何とかするという、すでに偵察ではなく攻略ではないかと思われる作戦から自分が外されなかったことを喜んでいる訳ではない。
純粋に、麗華と五十鈴の上品さの裏に牙を隠したやり取りにこれ以上巻き込まれなくてすむという思いが強かった。
普段は厳しいノーラも、今の白夜は哀れだと思ったのか、空中を飛ぶのではなく、頭の上に乗ってそっと励ます。
「みゃー」
白夜を慰めるような、落ち着かせるような、そんな鳴き声を上げるノーラ。
そんなノーラと共に白夜はどこかほんわかした気持ちになり、先程までの女同士のやり取りを記憶の彼方に飛ばしながら安らぎの一時を楽しむ。
だが、そんな安らぎの時間もすぐに終わってしまう。
「ほら、白夜。いつまでそうしていますの。準備も終わったことですし、早速出発しますわよ。……五十鈴さんは別に来なくてもいいのですが?」
「正直なところ、そうしたいという気持ちもあるんだけど……今回の一件は私に、いえ南風家にとっても放っておく訳にもいかないから」
「……でしょうね」
南風家という言葉が出た瞬間、麗華の表情にあった遊びの笑みとでも呼ぶべきものがなくなる。
そんな二人のやり取りを見ていた白夜だったが、その内容は分からず……だからといって自分から進んで地雷を踏みたいとは思わない以上、口出しは控え、何も聞こえていない振りをするしかない。
もっとも、南風家という言葉に踏み込むと五十鈴との距離を縮められると判断すれば……もしかしたら、そのような真似をした可能性も否定は出来ない。
だが、幸いにも先程までの女同士のやり取りに疲れていたこともあり、そこに考えが及ぶといったことはなかった。
「では、皆準備が完了したら車に乗り込みなさい」
麗華の言葉に、黒沢を始めとしたネクストの生徒たちや、他にも今回の作戦に参加する者たちがそれぞれ車に乗り込んでいく。
かなり大きなその車は軍用車だけあってか、運び込んだ荷物以外に十人を超える人数が乗ってもまだ若干の余裕があった。
運転席にはセバスチャンが、そして助手席には麗華が乗り込み、出発の準備は完全に終わる。
白夜も、自分の武器たる金属の棍を手に、頭部にはノーラの乗せたままで周囲を見回す。
そんな白夜の行動は全く気にした様子もなく、軽い振動と共に車が震えてエンジンがかかり、やがて発進する。
車の中は、しばらくの間沈黙が満ちた。
聞こえてくるのは、車の稼働音と窓越しに外から聞こえてくる街のざわめきのみ。
助手席に乗っている麗華も、白夜の隣に座っている五十鈴も……そして黒沢を始めとした他の者たちも、何かを喋る様子はない。
そんな沈黙の中、最初に口を開いたのは白夜でも黒沢たちでもない、まだ白夜が喋ったことのない男の一人だった。
「なあ、あんた。闇の能力を持っているって、本当なのか?」
その人物がネクストの生徒なのかどうか、白夜には分からない。
ネクストの生徒はそれこそ大量にいるし、ネクストの校舎も別に一つという訳ではないのだから。
だが、麗華に協力している以上、何らかの理由で優れた能力を持っている相手なのは間違いないはずだった。
白夜も特に自分の能力を隠している訳ではないので、男の言葉に頷く。
「ああ、俺の能力は闇だ。……もっとも、麗華先輩の光みたいに、自由自在に使いこなすなんて真似は到底出来ないけどな」
「あー、それはな。模擬戦の映像とか見ても、麗華様のように高位の能力を使いこなせるのなら、それこそゾディアックになったりできるだろうし」
その言葉は真実だけに、白夜も反論は出来ない。
実際、白夜の闇の能力は麗華の光の能力と同ランクの能力だと言われており、麗華がゾディアックになれるだけのであれば白夜も同様のはずだった。
もっとも、あくまでもそれは能力のランクだけの話であって、能力を使いこなせているのかといったことや、能力以外の面……それこそ戦闘のときにどのように動くかといったものや、能力を使わない生身での戦闘力となれば話は違うのだが。
「そうですわね。白夜はもっと真面目に訓練していれば、より高見にいたのは間違いないですわ。今そこに白夜がいないというのは、結局のところ……訓練不足が理由でしょうね」
助手席に乗りながら窓の外の様子を見ていた麗華が、白夜と男の会話にそう割り込んでくる。
周囲の光景も、次第に建物の数は少なくなっていく。
そろそろ東京から出てもおかしくない場所に近づいているのだ。
「そう言っても……そうですね、俺としては結構訓練をしているつもりではあるんですが」
「へぇ……その割に、随分と交友関係を広めるのに熱心なようですわね。それも、美しかったり、可愛い人限定で」
交友関係を広めると言葉を濁してはいるが、それでも麗華の言葉を聞いた者は、白夜が普段から何をしているのかを想像するのは難しくはない。
もっとも、だからといって白夜を見つめる視線に蔑みや嫌悪といったマイナスの感情の色が浮かぶことはない。
それは、白夜の存在に嫉妬している黒沢たちも同様だった。
そもそも、この年代は異性に興味があって当然だ。
もちろん白夜は、普通よりもより強く異性に興味を持っており、その上で妙な行動力があるからこそ現在のような状況になっているのだが。
「ふーん。そうなんだ」
小さく、それでいて白夜に聞こえるように五十鈴が呟く。
その五十鈴の声に、白夜は自分が大きなミスをしたことを知る。
五十鈴に……いや、鈴風ラナのファンの一人として、それを知られたのはかなり大きな失敗だったと。
落ち込んだ様子を見せる白夜だったが……そんな白夜に関係なく、車は進むのだった。
そこではいつの間にか消えていたセバスチャンが、大きめの車に大量の荷物を運び込んでいるところだった。
もちろん荷物を運び込んでいるのはセバスチャンだけではなく、他に何人もが協力している。
「黒沢、山中、川島。こちらに来なさい!」
麗華がそう告げる。
そこまで大きな声ではないのだが、それでも十分周囲にいる者にその声は届いた。
すると車に荷物を運んでいた者のうち、三人が麗華の前にやってくる。
「白夜、この三人は私(わたくし)たちと共にゲートに向かいます。全員ネクストの生徒ですが、普段サボることが多い白夜よりも腕は上でしょうね」
少しだけ皮肉を込めて呟く麗華だったが、それを聞いた三人の男たちは自信に満ちた表情を浮かべていた。
ネクストの生徒というだけあって、三人とも白夜と同年代……もしくは少し上といったところか。
「なるほど。じゃあ、頼りにさせて貰いますね」
「……あのね、貴方は馬鹿にされたのよ? なのに、何故そうあっさりと引き下がるのよ」
麗華にしてみれば、今の自分の言葉で白夜が奮起してくれることを期待していたのだ。
実際に白夜が目の前の三人より腕が下だとは、麗華も思っていない。
いや、思いたくないというのが正直なところか。
自分の光と相反する闇の能力。
その持ち主が目の前の三人よりも腕が下だというのは、麗華にとってもあまり面白い出来事ではないのだから。
それでもあえてそのように言ったのは、そうやって煽れば白夜も奮起するのでは? と思ったからだったが……それは見事に外れた形だ。
「そう言われても、俺も自分の腕にはそれなりに自信はありますけど、自分だけで全てがどうにか出来るとは思ってませんよ。それに……今はちょっと闇が微妙な感じですし」
白夜の言葉に、麗華はギルドで聞いた説明を思い出す。
闇が自動的に倒したモンスターの死体を吸収するという話を。
(吸収という言葉が相応しいのかどうかは分からないけど……それでも、闇の能力が自動的に動くということは……恐らく、成長する兆しですわね)
麗華も、自分の能力の光が以前自分の意思に反して動いたことがあった。
当時は一体何が起きたのかと疑問だったのだが、その後、麗華の光の能力はより高度なものになったのだ。
そう考えれば、白夜の身の上に起きていることは何となく理解出来た。
「精進なさい。そうすれば、能力は決して貴方を裏切ったりはいたしませんわ。能力は、能力者にとってもう一人の自分、半身……そのようなものなのですから」
闇がより進化する兆しを見せていることに、麗華も少しだけ満足したのだろう。
今までのきつい視線ではなく、小さく笑みを浮かべて白夜に告げる。
その笑みを見た白夜は、太陽の如き笑みを向けられ、そっと視線を逸らす。
眩しすぎると、そう思っての行動だった。
麗華に呼ばれた三人は、白夜が麗華に褒められたことに……そして麗華の笑みを向けられたことに嫉妬の念を抱く。
当然だろう。そもそもここにいる時点で多くのライバルを蹴落として、ようやく辿り着いた場所なのだ。
にもかかわらず、白夜という男は特に何もしていないのに、ここにいる。
おまけに麗華に笑みを向けられるという、それこそ自分たちであれば、いくら払ってもいいとさえ思える笑み。
そのような好待遇――黒沢たちにとってはだが――を受けている白夜に、嫉妬の念を抱くなという方が無理だった。
だが麗華はそんな黒沢たちの思いに気が付いた様子はなく、白夜に向けていた笑みもすぐに消え、改めて口を開く。
「とにかく、準備を急いでちょうだい。ゲートが開いた以上、いつ向こうの世界からモンスターがやってくるか分かりませんわ」
「分かりました。おい、お前たち、やるぞ!」
『おお!』
黒沢の言葉に他の二人が頷き、車に荷物を運ぶ作業に戻っていく。
それを見ていた白夜は、ふと五十鈴が黙ったままなのに気が付き、そちらに視線を向ける。
すると、五十鈴は驚愕も露わに車に視線を向けていた。
「どうしたんだ?」
「……白夜、この車を見て、驚かないの? これって、ちょっと前に噂になっていたロータスの最新型の軍用車よ?」
「ロータスの? そう言えば、ちょっと前に話題になってたけど……」
ロータスというのは、様々なマジックアイテムを製造・販売している会社だ。
そのような会社はいくつもあるが、ロータスはその中でも中堅どころといったところか。
ただし、その品質という点では業界全体でも上位に位置するということもあり、冒険者を含めてこの会社の製品を好む者は多い。
だが、当然そのような品は値段が高く、それこそトワイライトの隊員ならともかく、一介のネクストの生徒でしかない白夜がそう簡単に手を出せる金額ではない。
何より、白夜は車にあまり興味がないというのも、五十鈴が熱心に見ている車の情報を聞き流した理由の一つだった。
そんな白夜に比べると、五十鈴は金銭的な意味で困るといったことはない。
それこそ、ロータスのマジックアイテムを買うのにも特に苦労はしない程度には金銭的な余裕があった。
「あら、ご存じでしたの? ふふっ、この車はロータス社製だけあって、かなり高性能ですわよ?」
麗華にとっては、それこそそこまで高額といった代物ではないのだが、純粋にこの車を気に入っているのだろう。
そんな麗華に、五十鈴は一瞬悔しそうな表情を浮かべるも……次の瞬間、その表情を笑みに変えて口を開く。
「けど、ゲートがあるのはゴブリンの集落。そしてゴブリンの集落は山の中にあるのよ? この車がいくら高性能でも、山に登るのは難しいんじゃないかしら?」
「そうね。けど、その山まで行くのには十分役立つわよ?」
おほほ、うふふ、といった笑い声が周囲に響く。
お互いに笑みを浮かべての会話ではあるのだが、その言葉一つ一つに棘がある。
そんな二人の会話を間近で聞いていた白夜は、普段の軽薄さも消えたかのように動きを止めていた。
極めつけの美女二人に囲まれるという意味では、それこそ女好きの白夜にとってはこれ以上ないシチュエーションと言ってもいいだろう。
だが……美女だからこそ、ある種の怖さがあった。
気のせいか、白夜は荷物を運んでいる黒沢たちが自分に同情の視線を向けているようにすら感じられる。
お互いに笑みを浮かべつつ、言葉の棘で相手を刺すといった行為をしていた麗華と五十鈴だったが、そんな二人に挟まれた白夜を救ったのは、意外にもセバスチャンだった。
「お嬢様、荷物の積み込み完了いたしました。いつでも出発出来ます」
「あら、そう。ご苦労様。……では、早速出発しますわよ。一緒に行く方々は車に乗りなさい。……ああ、当然白夜は強制参加ですわね」
言葉通り当然といった様子で視線を向けてくる麗華に、白夜は安堵の表情を浮かべながら頷きを返す。
もちろんこの安堵というのは、自分がゲートに対する偵察……それもただの偵察ではなく強行偵察、そして可能であればゲートを何とかするという、すでに偵察ではなく攻略ではないかと思われる作戦から自分が外されなかったことを喜んでいる訳ではない。
純粋に、麗華と五十鈴の上品さの裏に牙を隠したやり取りにこれ以上巻き込まれなくてすむという思いが強かった。
普段は厳しいノーラも、今の白夜は哀れだと思ったのか、空中を飛ぶのではなく、頭の上に乗ってそっと励ます。
「みゃー」
白夜を慰めるような、落ち着かせるような、そんな鳴き声を上げるノーラ。
そんなノーラと共に白夜はどこかほんわかした気持ちになり、先程までの女同士のやり取りを記憶の彼方に飛ばしながら安らぎの一時を楽しむ。
だが、そんな安らぎの時間もすぐに終わってしまう。
「ほら、白夜。いつまでそうしていますの。準備も終わったことですし、早速出発しますわよ。……五十鈴さんは別に来なくてもいいのですが?」
「正直なところ、そうしたいという気持ちもあるんだけど……今回の一件は私に、いえ南風家にとっても放っておく訳にもいかないから」
「……でしょうね」
南風家という言葉が出た瞬間、麗華の表情にあった遊びの笑みとでも呼ぶべきものがなくなる。
そんな二人のやり取りを見ていた白夜だったが、その内容は分からず……だからといって自分から進んで地雷を踏みたいとは思わない以上、口出しは控え、何も聞こえていない振りをするしかない。
もっとも、南風家という言葉に踏み込むと五十鈴との距離を縮められると判断すれば……もしかしたら、そのような真似をした可能性も否定は出来ない。
だが、幸いにも先程までの女同士のやり取りに疲れていたこともあり、そこに考えが及ぶといったことはなかった。
「では、皆準備が完了したら車に乗り込みなさい」
麗華の言葉に、黒沢を始めとしたネクストの生徒たちや、他にも今回の作戦に参加する者たちがそれぞれ車に乗り込んでいく。
かなり大きなその車は軍用車だけあってか、運び込んだ荷物以外に十人を超える人数が乗ってもまだ若干の余裕があった。
運転席にはセバスチャンが、そして助手席には麗華が乗り込み、出発の準備は完全に終わる。
白夜も、自分の武器たる金属の棍を手に、頭部にはノーラの乗せたままで周囲を見回す。
そんな白夜の行動は全く気にした様子もなく、軽い振動と共に車が震えてエンジンがかかり、やがて発進する。
車の中は、しばらくの間沈黙が満ちた。
聞こえてくるのは、車の稼働音と窓越しに外から聞こえてくる街のざわめきのみ。
助手席に乗っている麗華も、白夜の隣に座っている五十鈴も……そして黒沢を始めとした他の者たちも、何かを喋る様子はない。
そんな沈黙の中、最初に口を開いたのは白夜でも黒沢たちでもない、まだ白夜が喋ったことのない男の一人だった。
「なあ、あんた。闇の能力を持っているって、本当なのか?」
その人物がネクストの生徒なのかどうか、白夜には分からない。
ネクストの生徒はそれこそ大量にいるし、ネクストの校舎も別に一つという訳ではないのだから。
だが、麗華に協力している以上、何らかの理由で優れた能力を持っている相手なのは間違いないはずだった。
白夜も特に自分の能力を隠している訳ではないので、男の言葉に頷く。
「ああ、俺の能力は闇だ。……もっとも、麗華先輩の光みたいに、自由自在に使いこなすなんて真似は到底出来ないけどな」
「あー、それはな。模擬戦の映像とか見ても、麗華様のように高位の能力を使いこなせるのなら、それこそゾディアックになったりできるだろうし」
その言葉は真実だけに、白夜も反論は出来ない。
実際、白夜の闇の能力は麗華の光の能力と同ランクの能力だと言われており、麗華がゾディアックになれるだけのであれば白夜も同様のはずだった。
もっとも、あくまでもそれは能力のランクだけの話であって、能力を使いこなせているのかといったことや、能力以外の面……それこそ戦闘のときにどのように動くかといったものや、能力を使わない生身での戦闘力となれば話は違うのだが。
「そうですわね。白夜はもっと真面目に訓練していれば、より高見にいたのは間違いないですわ。今そこに白夜がいないというのは、結局のところ……訓練不足が理由でしょうね」
助手席に乗りながら窓の外の様子を見ていた麗華が、白夜と男の会話にそう割り込んでくる。
周囲の光景も、次第に建物の数は少なくなっていく。
そろそろ東京から出てもおかしくない場所に近づいているのだ。
「そう言っても……そうですね、俺としては結構訓練をしているつもりではあるんですが」
「へぇ……その割に、随分と交友関係を広めるのに熱心なようですわね。それも、美しかったり、可愛い人限定で」
交友関係を広めると言葉を濁してはいるが、それでも麗華の言葉を聞いた者は、白夜が普段から何をしているのかを想像するのは難しくはない。
もっとも、だからといって白夜を見つめる視線に蔑みや嫌悪といったマイナスの感情の色が浮かぶことはない。
それは、白夜の存在に嫉妬している黒沢たちも同様だった。
そもそも、この年代は異性に興味があって当然だ。
もちろん白夜は、普通よりもより強く異性に興味を持っており、その上で妙な行動力があるからこそ現在のような状況になっているのだが。
「ふーん。そうなんだ」
小さく、それでいて白夜に聞こえるように五十鈴が呟く。
その五十鈴の声に、白夜は自分が大きなミスをしたことを知る。
五十鈴に……いや、鈴風ラナのファンの一人として、それを知られたのはかなり大きな失敗だったと。
落ち込んだ様子を見せる白夜だったが……そんな白夜に関係なく、車は進むのだった。
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【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
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ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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