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28話
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ギルドにある部屋の一室で、白夜たちは安堵の息を吐きつつ、無事に戻ってこられたことを喜んでいた。
ギルドの方でもゲートの一件については色々と情報を欲しているのは当然で、白夜たちは下にも置かれぬ扱いとなっている。
……もっとも、本来であればここまで丁重に扱われたりはしない。
今回ここまで優遇されているのは、やはり白夜たちの中に南風家の者が、それも二人もいたからだろう。
知る人ぞ知るといった南風家だが、ギルドの中でも高い地位にある者は当然それを知っており、だからこそこのような扱いとなっていったのだ。
実際、この部屋も会議室といった部屋ではなく、ゆっくり出来るソファが置かれており、壁には絵がかけられ、空調も適温に保たれるといった、応接室と呼ぶのに相応しい部屋となっている。
「あー……スポーツドリンクが美味い。けど、どうせなら冷えたビールでも……」
「あのね、一応私達はまだ仕事中なのよ?」
呆れたように、五十鈴が告げる。
ギルドに入る前には黒服たちが変装用に帽子やサングラスといった物を渡し、それを身につけていたのだが、この部屋に入った瞬間すでにそれらは取り去り、五十鈴の素のままの美貌を露わにしている。
白夜はそんな五十鈴の美貌を眺めながら、口を開く。
「そう言っても、今日は大変だったんだからいいと思うけど」
白夜は五十鈴の……正確には鈴風ラナのファンなのだが、今は五十鈴として……音也の姉として接することに決めたのだろう。それが完全に功を奏しているかどうかは、別として。
五十鈴も白夜が自分のファンだということに少しだけ思うところはあったらしいが、今のところそれを表に出すような真似はしていない。
「けど、このあとゲートの件について色々と説明する必要があるでしょ? 飲むなら、それが終わってからにしなさい」
そう告げる五十鈴の言葉に、酒を飲むことの罪悪感のようなものは一切ない。
大変革前は未成年の飲酒は禁止されていたが、今の日本では少なくても能力者なら、十五歳以上であれば酒を飲んでも問題はなくなっている。
もちろん、度数の強い酒を飲むのは避けた方がいいとされているのだが、別に法律の類でそう決まっている訳でもない。
これは、能力者であれば十五歳以上となると酒を飲んでも害はない――もちろん飲みすぎれば害はあるが――とされているためだ。
もちろん、学生の身分では酒をそこまで好き放題に飲める訳ではない。
そもそも他国どころか他の村や街に行くにも苦労をするこの時代、そう大量に酒を仕入れることは出来ない。
一応東京の中でも酒を造っている者たちはいるのだが、数が少ないということは当然のようにそこには希少価値がつき、値段が高くなる。
白夜の持つ金でそのような高価な酒は当然飲めず、飲むことが出来るのは安物の酒となるのは当然だった。
「あー……うん。出来ればゴブリンの一件が片付いて、全員で打ち上げって感じにしたかったんだけど……それどころじゃないしな」
「そうですね。でも、僕は白夜さんと一緒に飲めるのを楽しみにしています。もちろん僕はまだお酒を飲めないので、ジュースでしょうけど」
がっかりとした様子の白夜を、音也は励ますように告げる。
ギルドにやってくるまでは……いや、通信機でギルドに連絡出来る範囲に入るまでは、ゲートが開いた情報を少しでも早くギルドに知らせる必要があると緊張していた白夜だったが、必要な情報はすでにギルドへ知らせてある。
あとでもう一度詳細な説明をして欲しいと言われ、ここで待たされているが……ともあれ、一番大事なことはすでに終わっている以上、気持ち的にはかなり楽になっていた。
そうして気持ちが楽になれば、白夜本来の性格が表に出てくる。
特に五十鈴は、着ている服は普通の服――それでも防御力を重視して、モンスターの革を使ったもの――なのだが、そんな普通の服であっても、五十鈴のボディラインの見事さは際だつ。
(さすがグラビアアイドル)
思わず五十鈴の身体に目を奪われていると、杏と弓奈がどこか呆れの交ざった表情を向ける。
この二人も、別に白夜に好意を抱いている訳ではない。
いや、友人や戦友としての好意は抱いているが、男女間の好意とは違う。
それでもやはり、自分を女として見ていないというのはあまり面白いことではなかった。
「露骨すぎよ」
表情同様、呆れの交ざった言葉で杏が呟くが、それはあくまでも口の中だけでのことだったせいか、白夜の耳には届かない。
五十鈴は当然白夜からの視線に気が付いてはいるのだが、白夜のような年代の男に何を言っても無駄だと思っているのか、不満は口にしていない。
男のチラ見は女にとって凝視に近い……と言われることはよくあるのだが、それは白夜についても同様だった。
また、五十鈴が白夜に対して嫌悪感を抱いている訳ではないというのも大きいだろう。
大事な弟を助け出して貰い、その希少な能力も南風家の者として興味深い。また、自分が趣味でやっているグラビアアイドル鈴風ラナのファンだというのも、好印象を抱いた理由だろう。
(実力的には、そこまででもないけど)
ネクストの生徒の中では強い方なのだろうが、それでもゾディアックはもとより、その次くらいに強い者たちにも及ばない。
だが、それでも……希少な能力を持っているだけで、注目するには十分だった。
部屋の中にいる全員がそんなゆっくりとした時間をすごしている中、不意に部屋の扉がノックされる。
「みゃあ……」
そのノックの音に、少しだけ残念そうに鳴くのはノーラ。
このまま白夜が五十鈴に目を奪われているのであれば、毛針の一本でも飛ばしてやろうと、そう思っていたのだろう。
「失礼します。皆様、少々よろしいでしょうか?」
扉を開け、そう言ったのは白夜にも見覚えのある女だ。
ギルドの職員として、色々な手続きをする際に何度か世話になった記憶がある。
……もっとも、その際にはここまで丁寧な口調で話しかけられたりはしなかったが。
それが何故今回に限って丁寧な口調で話しかけてきているのか……それを疑問に思った白夜だったが、五十鈴は全てを理解しているような表情で笑みを浮かべている。
いや、理解しているようなではなく、実際に理解しているのだろう。
南風家の者がギルドにおり、ゲートの件の報告をしたのだ。
生半可な相手では、そんな自分を迎えに来るようなことは出来ないだろうと。
「ゾディアックの乙女座、光皇院麗華様が皆さんにお話を聞かせて欲しいとのことですが、通してよろしいですよね?」
よろしいですか? ではなく、よろしいですよね? と確認を求めて尋ねてきている辺り、今回の一件が断れるようなものでないことは明らかだ。
もっとも光皇院麗華に話を聞かせて欲しいと言われ、それを断れるような者がここにいるかと言えば……
「そうね。まぁ、どうしてもって言うのなら、構わないわよ」
……いた。
ギルドの職員に対し、魅力的な笑みを浮かべて五十鈴がそう告げる。
そこには、向こうが話を聞きたいのなら、仕方がないから聞かせてあげるといった雰囲気がある。
そんな五十鈴の態度に、ギルド職員は何を言おうか迷う。
ギルド職員は五十鈴がどのような人物なのかは分からない。
だが、それでも上からは丁重に対応するようにと言われている。
だからこそ、ギルドでもあまり使われることがないこの応接室が使われていたのだから。
「あら、随分と偉そうですわね。貴方たちがゲートを開いたのでは……? という風に疑われておりますのよ?」
そんなギルド職員の言葉の代わりという訳ではないが、鈴の音を思わせるような美しい声が応接室の中に響く。
白夜を始めとして、応接室にいるほとんどの者は直接その声を生で聞くのは初めてだった。
映像モニタ越しであれば、何度か声を聞いたことはあるのだが……それでも、やはりこうして直接名前の声を聞くのは違うと、そう思ってしまう。
その声の主が誰なのかというのは、応接室にいる全員が理解している。
そして声が聞こえてきたのであれば、もしかしたら……そんな思いで扉の方を見ている白夜だったが、次の瞬間そこに予想通りの人物が姿を現す。
優雅に笑みを浮かべながらも、身体を覆っているのは服ではなく防具だ。
腰にはレイピアの納まった鞘があり、いつ戦闘になっても対応出来る様子を見せている。
まさに豪奢や美麗といった文字をそのまま人の形にしたかのような派手な美貌を持つその人物は、当然ながら応接室の中にいた者達の視線を一身に集める。
……当然白夜もその中の一人で、麗華の美貌に目を奪われ……だが、次の瞬間には美貌から大きく盛り上がっているその胸に視線を目が向かう。
(G……いや、H? もしかしたらIか?)
麗華の年齢は、白夜より一歳上だ。
だが、麗華の防具に包まれているその巨大な双丘は、とてもではないが白夜と同年代の女が持つ胸とは思えない質量を持っている。
もちろん白夜も、今まで一度も麗華の姿をみたことがないという訳ではない。
映像で見ても、その胸が同年代のものより一段、二段……もしくはそれ以上に巨大なものだというのは理解していたが……それを映像越しではなく、直接自分の目で見ることが出来たために、そちらに完全に意識を奪われていたのだ。
男のチラ見は女のガン見とはよく言われることだ。
だが……今の白夜はチラ見という訳ではなく、男としてもガン見と判断するだろうほど熱心に、麗華の胸に意識を集中している。
応接室の中にいた者たちを見ていた麗華は、周囲を見回し……そして白夜の視線が自分の顔ではなく、もっと下……防具に包まれた己の胸に向かっているのに気が付く。
麗華もネクストの生徒である以上、何人もの生徒と会話をし、その男たちに欲情を抱いた目を向けられたこともある。
だが、自分の地位と実力、それと容姿を考えれば、そのような目を向けられることは珍しくないだろうと、そう思っていた。
しかし……今、白夜が自分の胸に視線を向けているのに気が付くと、その白い頬が急速に赤く染まっていく。
(な、何故ですの? 何故私(わたくし)が……)
今まで何人もの男に似たような目で見られても、ここまで動揺することはなかった。
そのことに疑問を抱きつつ、とにかく今は少しでも情報を得る必要があると判断し、自分の胸を凝視している白夜に向け、鋭い視線を向けて口を開く。
「白夜と言いましたわね。貴方、どこを見ているのかしら? 少しはデリカシーを身につけた方がよいのではなくて?」
自分の中にある動揺を押し殺し、それを表情に出さずに高慢な表情のままに白夜を一瞥している麗華だったが、同じ女の五十鈴にはそんな麗華の内心が理解出来たのだろう。
一瞬、目だけで微笑みながら麗華に視線を向ける。
麗華もそんな五十鈴の様子には気が付いたが、ここで何かを言えば藪蛇でしかないと思ったのか、特に何も口にはしない。
「っ!? あ、えっと……すいません。ちょっと見惚れてしまって……」
「見惚れるのであれば、せめて胸ではなく私の顔にして欲しかったところですわね」
そう告げる麗華に、白夜は慌てたように何か口にしようとするが、それよりも前に麗華が口を開く。
そんな白夜の様子を見て、麗華も少し気が紛れたのだろう。それ以上は責めるような様子もないまま、改めて口を開く。
「さて、では聞かせて貰おうかしら。貴方たちがゴブリンの集落を攻撃して刺激した結果、ゲートが開いた……ギルドからはそのように聞いてますが、異論は?」
「異論じゃないけど、まさか東京の近くにあるゴブリンの集落をそのままにしておけ……ってのは、色々と無茶じゃない?」
白夜たちの中でもっとも麗華と立場が似ている五十鈴が、そう弁護する。
いや、それは弁護ではなく、間違いのない事実でもある。
そもそも、白夜と杏が山に向かったのは、ゴブリンの集落があるかどうか……そしてもしあった場合、どうにか出来るのであれば対処するようにという風にも暗に言われていた。
そうである以上、猛と蛟という戦力が増えたのだから、ゴブリンの集落を襲撃したという選択は責められるべきものではない。
「そうですわね。五十鈴さんの言いたいことも分かりますわ。ですが、それが原因でゲートが開いたというのも事実なのでしょう?」
「それは……」
麗華の言葉に、五十鈴は即答を避けて猛に視線を向ける。
蛟と白夜といった面子もいるのだが、この中で一番信頼出来る人物となるとやはり猛なのだ。
その猛は自分が五十鈴に視線を向けられたことで、少し考え……口を開く。
「私たちの行動が関係していたかどうかはわかりませんが、ゴブリンが何らかの手段でゲートを開けたのは間違いないと思います」
ギルドの方でもゲートの一件については色々と情報を欲しているのは当然で、白夜たちは下にも置かれぬ扱いとなっている。
……もっとも、本来であればここまで丁重に扱われたりはしない。
今回ここまで優遇されているのは、やはり白夜たちの中に南風家の者が、それも二人もいたからだろう。
知る人ぞ知るといった南風家だが、ギルドの中でも高い地位にある者は当然それを知っており、だからこそこのような扱いとなっていったのだ。
実際、この部屋も会議室といった部屋ではなく、ゆっくり出来るソファが置かれており、壁には絵がかけられ、空調も適温に保たれるといった、応接室と呼ぶのに相応しい部屋となっている。
「あー……スポーツドリンクが美味い。けど、どうせなら冷えたビールでも……」
「あのね、一応私達はまだ仕事中なのよ?」
呆れたように、五十鈴が告げる。
ギルドに入る前には黒服たちが変装用に帽子やサングラスといった物を渡し、それを身につけていたのだが、この部屋に入った瞬間すでにそれらは取り去り、五十鈴の素のままの美貌を露わにしている。
白夜はそんな五十鈴の美貌を眺めながら、口を開く。
「そう言っても、今日は大変だったんだからいいと思うけど」
白夜は五十鈴の……正確には鈴風ラナのファンなのだが、今は五十鈴として……音也の姉として接することに決めたのだろう。それが完全に功を奏しているかどうかは、別として。
五十鈴も白夜が自分のファンだということに少しだけ思うところはあったらしいが、今のところそれを表に出すような真似はしていない。
「けど、このあとゲートの件について色々と説明する必要があるでしょ? 飲むなら、それが終わってからにしなさい」
そう告げる五十鈴の言葉に、酒を飲むことの罪悪感のようなものは一切ない。
大変革前は未成年の飲酒は禁止されていたが、今の日本では少なくても能力者なら、十五歳以上であれば酒を飲んでも問題はなくなっている。
もちろん、度数の強い酒を飲むのは避けた方がいいとされているのだが、別に法律の類でそう決まっている訳でもない。
これは、能力者であれば十五歳以上となると酒を飲んでも害はない――もちろん飲みすぎれば害はあるが――とされているためだ。
もちろん、学生の身分では酒をそこまで好き放題に飲める訳ではない。
そもそも他国どころか他の村や街に行くにも苦労をするこの時代、そう大量に酒を仕入れることは出来ない。
一応東京の中でも酒を造っている者たちはいるのだが、数が少ないということは当然のようにそこには希少価値がつき、値段が高くなる。
白夜の持つ金でそのような高価な酒は当然飲めず、飲むことが出来るのは安物の酒となるのは当然だった。
「あー……うん。出来ればゴブリンの一件が片付いて、全員で打ち上げって感じにしたかったんだけど……それどころじゃないしな」
「そうですね。でも、僕は白夜さんと一緒に飲めるのを楽しみにしています。もちろん僕はまだお酒を飲めないので、ジュースでしょうけど」
がっかりとした様子の白夜を、音也は励ますように告げる。
ギルドにやってくるまでは……いや、通信機でギルドに連絡出来る範囲に入るまでは、ゲートが開いた情報を少しでも早くギルドに知らせる必要があると緊張していた白夜だったが、必要な情報はすでにギルドへ知らせてある。
あとでもう一度詳細な説明をして欲しいと言われ、ここで待たされているが……ともあれ、一番大事なことはすでに終わっている以上、気持ち的にはかなり楽になっていた。
そうして気持ちが楽になれば、白夜本来の性格が表に出てくる。
特に五十鈴は、着ている服は普通の服――それでも防御力を重視して、モンスターの革を使ったもの――なのだが、そんな普通の服であっても、五十鈴のボディラインの見事さは際だつ。
(さすがグラビアアイドル)
思わず五十鈴の身体に目を奪われていると、杏と弓奈がどこか呆れの交ざった表情を向ける。
この二人も、別に白夜に好意を抱いている訳ではない。
いや、友人や戦友としての好意は抱いているが、男女間の好意とは違う。
それでもやはり、自分を女として見ていないというのはあまり面白いことではなかった。
「露骨すぎよ」
表情同様、呆れの交ざった言葉で杏が呟くが、それはあくまでも口の中だけでのことだったせいか、白夜の耳には届かない。
五十鈴は当然白夜からの視線に気が付いてはいるのだが、白夜のような年代の男に何を言っても無駄だと思っているのか、不満は口にしていない。
男のチラ見は女にとって凝視に近い……と言われることはよくあるのだが、それは白夜についても同様だった。
また、五十鈴が白夜に対して嫌悪感を抱いている訳ではないというのも大きいだろう。
大事な弟を助け出して貰い、その希少な能力も南風家の者として興味深い。また、自分が趣味でやっているグラビアアイドル鈴風ラナのファンだというのも、好印象を抱いた理由だろう。
(実力的には、そこまででもないけど)
ネクストの生徒の中では強い方なのだろうが、それでもゾディアックはもとより、その次くらいに強い者たちにも及ばない。
だが、それでも……希少な能力を持っているだけで、注目するには十分だった。
部屋の中にいる全員がそんなゆっくりとした時間をすごしている中、不意に部屋の扉がノックされる。
「みゃあ……」
そのノックの音に、少しだけ残念そうに鳴くのはノーラ。
このまま白夜が五十鈴に目を奪われているのであれば、毛針の一本でも飛ばしてやろうと、そう思っていたのだろう。
「失礼します。皆様、少々よろしいでしょうか?」
扉を開け、そう言ったのは白夜にも見覚えのある女だ。
ギルドの職員として、色々な手続きをする際に何度か世話になった記憶がある。
……もっとも、その際にはここまで丁寧な口調で話しかけられたりはしなかったが。
それが何故今回に限って丁寧な口調で話しかけてきているのか……それを疑問に思った白夜だったが、五十鈴は全てを理解しているような表情で笑みを浮かべている。
いや、理解しているようなではなく、実際に理解しているのだろう。
南風家の者がギルドにおり、ゲートの件の報告をしたのだ。
生半可な相手では、そんな自分を迎えに来るようなことは出来ないだろうと。
「ゾディアックの乙女座、光皇院麗華様が皆さんにお話を聞かせて欲しいとのことですが、通してよろしいですよね?」
よろしいですか? ではなく、よろしいですよね? と確認を求めて尋ねてきている辺り、今回の一件が断れるようなものでないことは明らかだ。
もっとも光皇院麗華に話を聞かせて欲しいと言われ、それを断れるような者がここにいるかと言えば……
「そうね。まぁ、どうしてもって言うのなら、構わないわよ」
……いた。
ギルドの職員に対し、魅力的な笑みを浮かべて五十鈴がそう告げる。
そこには、向こうが話を聞きたいのなら、仕方がないから聞かせてあげるといった雰囲気がある。
そんな五十鈴の態度に、ギルド職員は何を言おうか迷う。
ギルド職員は五十鈴がどのような人物なのかは分からない。
だが、それでも上からは丁重に対応するようにと言われている。
だからこそ、ギルドでもあまり使われることがないこの応接室が使われていたのだから。
「あら、随分と偉そうですわね。貴方たちがゲートを開いたのでは……? という風に疑われておりますのよ?」
そんなギルド職員の言葉の代わりという訳ではないが、鈴の音を思わせるような美しい声が応接室の中に響く。
白夜を始めとして、応接室にいるほとんどの者は直接その声を生で聞くのは初めてだった。
映像モニタ越しであれば、何度か声を聞いたことはあるのだが……それでも、やはりこうして直接名前の声を聞くのは違うと、そう思ってしまう。
その声の主が誰なのかというのは、応接室にいる全員が理解している。
そして声が聞こえてきたのであれば、もしかしたら……そんな思いで扉の方を見ている白夜だったが、次の瞬間そこに予想通りの人物が姿を現す。
優雅に笑みを浮かべながらも、身体を覆っているのは服ではなく防具だ。
腰にはレイピアの納まった鞘があり、いつ戦闘になっても対応出来る様子を見せている。
まさに豪奢や美麗といった文字をそのまま人の形にしたかのような派手な美貌を持つその人物は、当然ながら応接室の中にいた者達の視線を一身に集める。
……当然白夜もその中の一人で、麗華の美貌に目を奪われ……だが、次の瞬間には美貌から大きく盛り上がっているその胸に視線を目が向かう。
(G……いや、H? もしかしたらIか?)
麗華の年齢は、白夜より一歳上だ。
だが、麗華の防具に包まれているその巨大な双丘は、とてもではないが白夜と同年代の女が持つ胸とは思えない質量を持っている。
もちろん白夜も、今まで一度も麗華の姿をみたことがないという訳ではない。
映像で見ても、その胸が同年代のものより一段、二段……もしくはそれ以上に巨大なものだというのは理解していたが……それを映像越しではなく、直接自分の目で見ることが出来たために、そちらに完全に意識を奪われていたのだ。
男のチラ見は女のガン見とはよく言われることだ。
だが……今の白夜はチラ見という訳ではなく、男としてもガン見と判断するだろうほど熱心に、麗華の胸に意識を集中している。
応接室の中にいた者たちを見ていた麗華は、周囲を見回し……そして白夜の視線が自分の顔ではなく、もっと下……防具に包まれた己の胸に向かっているのに気が付く。
麗華もネクストの生徒である以上、何人もの生徒と会話をし、その男たちに欲情を抱いた目を向けられたこともある。
だが、自分の地位と実力、それと容姿を考えれば、そのような目を向けられることは珍しくないだろうと、そう思っていた。
しかし……今、白夜が自分の胸に視線を向けているのに気が付くと、その白い頬が急速に赤く染まっていく。
(な、何故ですの? 何故私(わたくし)が……)
今まで何人もの男に似たような目で見られても、ここまで動揺することはなかった。
そのことに疑問を抱きつつ、とにかく今は少しでも情報を得る必要があると判断し、自分の胸を凝視している白夜に向け、鋭い視線を向けて口を開く。
「白夜と言いましたわね。貴方、どこを見ているのかしら? 少しはデリカシーを身につけた方がよいのではなくて?」
自分の中にある動揺を押し殺し、それを表情に出さずに高慢な表情のままに白夜を一瞥している麗華だったが、同じ女の五十鈴にはそんな麗華の内心が理解出来たのだろう。
一瞬、目だけで微笑みながら麗華に視線を向ける。
麗華もそんな五十鈴の様子には気が付いたが、ここで何かを言えば藪蛇でしかないと思ったのか、特に何も口にはしない。
「っ!? あ、えっと……すいません。ちょっと見惚れてしまって……」
「見惚れるのであれば、せめて胸ではなく私の顔にして欲しかったところですわね」
そう告げる麗華に、白夜は慌てたように何か口にしようとするが、それよりも前に麗華が口を開く。
そんな白夜の様子を見て、麗華も少し気が紛れたのだろう。それ以上は責めるような様子もないまま、改めて口を開く。
「さて、では聞かせて貰おうかしら。貴方たちがゴブリンの集落を攻撃して刺激した結果、ゲートが開いた……ギルドからはそのように聞いてますが、異論は?」
「異論じゃないけど、まさか東京の近くにあるゴブリンの集落をそのままにしておけ……ってのは、色々と無茶じゃない?」
白夜たちの中でもっとも麗華と立場が似ている五十鈴が、そう弁護する。
いや、それは弁護ではなく、間違いのない事実でもある。
そもそも、白夜と杏が山に向かったのは、ゴブリンの集落があるかどうか……そしてもしあった場合、どうにか出来るのであれば対処するようにという風にも暗に言われていた。
そうである以上、猛と蛟という戦力が増えたのだから、ゴブリンの集落を襲撃したという選択は責められるべきものではない。
「そうですわね。五十鈴さんの言いたいことも分かりますわ。ですが、それが原因でゲートが開いたというのも事実なのでしょう?」
「それは……」
麗華の言葉に、五十鈴は即答を避けて猛に視線を向ける。
蛟と白夜といった面子もいるのだが、この中で一番信頼出来る人物となるとやはり猛なのだ。
その猛は自分が五十鈴に視線を向けられたことで、少し考え……口を開く。
「私たちの行動が関係していたかどうかはわかりませんが、ゴブリンが何らかの手段でゲートを開けたのは間違いないと思います」
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