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21話
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「ギョオオオオオオオオ!」
白夜の視線の先にいたゴブリンの上位種が、そう叫ぶ。
いや、叫ぶだけではない。
手に持っていた棍棒を、白夜にいる方に向けて投げつけたのだ。
棍棒という点では普通ゴブリンも使っているのだが、呼び名は同じ棍棒であっても、実際にその棍棒は普通のゴブリンが使っている物とは大きく違う。
普通のゴブリンが使っていた棍棒は、その辺に生えている木の枝を適当に折って棍棒としているものだ。
だが、白夜の視線の先にいるゴブリンの上位種が持っている棍棒は、違った。
作り方そのものは、普通のゴブリンが使っている物と変わらないだろう。
違うのは、その棍棒の太さ。
普通のゴブリンが使っている棍棒に比べると、一番太い場所の太さは五倍、長さは三倍ほどの違いもある。
それだけ違うのであれば、当然重量も普通のゴブリンが使っていたものとは大きく違うのは当然であり、その棍棒を投擲したときの威力がどれほどのものなのかは、白夜ではなくても容易に想像出来た。
回避出来ない。
反射的にそう考えた白夜は、闇の能力を使うべく自然と口を開いていた。
「大いなる闇よ、在れ!」
その言葉と共に白夜の闇が伸びると、真っ直ぐ飛んで来る棍棒に触れ……その闇が棍棒を逸らしていく。
白夜の持つ能力、闇の能力が発揮された形だ。
「ギュオ!?」
ゴブリンの上位種にとっても、今の光景は予想外だったのだろう。
驚愕の声を上げ……だが、次の瞬間にはすぐに気持ちを切り替えたのか、足を踏み出す。
ゴブリンの上位種ではあっても、遠距離攻撃の手段は多くない。
自分の唯一の武器の棍棒を投げつけた以上、近接戦闘でも不利になるはずだった。
……もっとも、白夜は目の前のゴブリンと戦って自分が勝てるかどうかに自信は持てなかったが。
普通のゴブリンであれば、問題なく勝てる自信がある。
だが、相手はゴブリンの上位種……白夜にとっても、初めて戦う相手だ。
それだけに、実力を全く把握出来ていない。
そんな状況で戦うかどうかと言われれば、白夜はすぐに否定する。
ここに自分しか戦力がいないのであれば話は別だったが、幸いなことに、現在この集落には明らかに自分よりも強い人物がいるのだから。
「ノーラ、戻るぞ! 猛さんと蛟さんを呼びに行く!」
「みゃ!」
ノーラも白夜の言いたいことは分かっているのか、返事をしながら自分たちの方に向かって歩き出し始めたゴブリンの上位種に向かって毛針を飛ばす。
「ギュオオオオオオオオオオオ!」
白夜を警戒はしていたが、ノーラは意識の外にあったのだろう。
そのノーラから放たれた毛針の何本かが目の付近に突き刺さり、ゴブリンの上位種は痛みに悲鳴を上げる。
「よし!」
目が見えないのは、敵を追跡する上で大きな障害となるのは明らかだ。
それを理解している白夜は、ノーラの攻撃に安堵と嬉しさの入り交じった声を上げ、そのままゴブリンの集落を走り抜ける。
何とかゴブリンの上位種に追いつかれる前に、猛や蛟の下に辿り着く必要があった。
そして今の状況であれば、それはそう難しいことではない……はずだった。
そう、はずだったのだ。
しかし、ゴブリンの集落を走っていた白夜は、背後から聞こえてくる音に速度をなるべく落とさないようにして振り向く。
嫌な……非常に嫌な予感と共に振り向いた白夜が見たのは、予想通りに最悪の光景。
そこにあったのは、見ただけで怒り狂っていると思われるゴブリンの上位種だったのだから。
先程放たれたノーラの毛針は、ゴブリンの上位種の動きを妨げるという意味では殆ど効果がなかったのだろう。
いや、寧ろ怒らせたという意味では逆効果になっていた。
怒りで目を血走らせているその姿は、追いつかれれば間違いなく自分を殺しにくるだろうと白夜にも理解出来る。
「くそっ、急ぐぞノーラ! あんな奴を俺たちだけで相手にしていたら、厄介以外のなにものでもない!」
ゴブリンの上位種を相手に戦えるのかどうかと言われれば、白夜もどうにか出来るかもしれないと言うだろう。
だが、相手はゴブリンの上位種だけではないのだ。
そもそもの話、この集落には普通のゴブリンも多くいる。
そんなゴブリンたちが、自分たちの上位種が戦っている光景を黙って見ているはずがない。
間違いなく、手を出してくる。
そのような集団を相手に、白夜とノーラだけで戦うのは少し……いや、かなり難しいだろう。
(特に、この山にやって来てから闇が暴走しがちだし)
近くから出てきたゴブリンの膝に金属の棍を叩き付ける。
いきなりそのような攻撃をされたゴブリンは、膝の骨を砕かれ、地面に崩れ落ちる。
当然ながらそんなゴブリンは邪魔になるのだから、多少なりとも上位種の動きを止めることが出来るのではないか……そう思った白夜だったが、上位種は速度を落とさないまま進む。
「ギョギャ!」
胴体……いや、背骨を踏み砕かれたゴブリンの悲鳴が周囲に響き渡る。
「げ! 少しは躊躇しろよな!」
上位種にとって、通常のゴブリンというのはいくらでも代わりがいる存在なのだろう。
だからこそ、こうしてあっさりと踏み殺すといった真似が出来るのだ。
それでもゴブリンの数を減らすということでは上位種に通常のゴブリンを殺させるのは有効かもしれないと思った白夜だったが、そう都合よくゴブリンが白夜の前に姿を現すはずもない。
そもそも、現在白夜たちを探しに山の中に大勢のゴブリンが派遣されているのだから、集落にゴブリンの数はそう多くはなかった。
さらに集落に残っているゴブリンの多くは、猛や蛟が意図的に派手な戦いをしている方に集まっているのだから、それも当然だろう。
「みゃー!」
白夜の側を飛んでいたノーラが、白夜に注意を引くように鳴き声を上げる。
その鳴き声にノーラを見た白夜は、ノーラの身体から生えている毛が一本飛ばされ、その飛んだ先に何があるのかを理解し、なるほどと頷く。
ノーラの毛針が刺さったのは、掘っ立て小屋の一つ。
掘っ立て小屋と言っても、人間が建てたものであればそれなりに頑丈なのだが、この掘っ立て小屋はゴブリンが建てた代物だ。
それこそ、軽い地震でもくれば間違いなく崩れるだろうと、そう理解してしまう程度の掘っ立て小屋。
だが、今回の場合はそれが幸いした。
掘っ立て小屋の横を通り抜けざまに金属の棍を大きく振るい、激しい衝撃を与える。
ゴブリンが建てるような掘っ立て小屋だ。それだけの衝撃に耐えられるはずもなく、白夜が横を通り抜けた瞬間には音を立てながら崩れ始めた。
そうなれば、当然白夜の背後を追っていた上位種が横を通り抜ける際には掘っ立て小屋は崩れており、白夜を追撃する足は鈍る。
(ちっ、出来ればあの上位種に直接掘っ立て小屋が崩れ落ちてくれればよかったのにな)
走りながら一瞬だけ背後を向き、先程よりも少しだけ距離が空いているのを確認すると、白夜は安堵しながら内心で考える。
多少ではあっても距離が開いたことにより、若干余裕を取り戻した形だったが、それでも追ってくる足音がなくなることはない。
いや、むしろ白夜の行動により追撃の足が鈍り、苛立ち混じりの雄叫びすら周囲に響く。
普通の人間よりも大きなゴブリンの上位種は、そんな雄叫びを上げつつも、決して白夜を決して諦めることなく追い続ける。
もちろん白夜もそれを放っておくようなことはなく、掘っ立て小屋の横を通ると同時に金属の棍を思い切り振るっていく。
白夜を追う上位種は、次々に自分が暮らしている集落が荒らされていくのを見て、苛立ちを募らせ、結果として白夜に対する憎悪を増しているのだが……逃げている本人はそれに全く気が付いた様子はない。
背後から聞こえてくる雄叫びも、白夜にとっては向こうが怒っているのなら猛や蛟の下に連れて行ったとき、戦いやすくなるだろうとすら考えていた。
「鬼さんこちら……ってな」
背後の上位種には聞こえてないだろうと理解しつつも、白夜は自分を励ます意味も込めて口の中で呟く。
そんな白夜の視線の先……ゴブリンの集落を突っ切っていると、やがてようやく前方に大勢のゴブリンの姿が見えてくる。
普通であれば、背後から上位種に追われている状況なのだから、前方にゴブリンの集団がいるのはとてもではないが歓迎出来ることではないだろう。
だが、今回に限っては白夜にとって、そんなゴブリンたちは歓迎すべき相手だった。
何故なら、これだけのゴブリンがここに集まっている理由は、猛と蛟という存在と戦っているからこそだというのが分かっていたからだ。
また、同様に大きかったのは、全てのゴブリンが戦いを行っている猛や蛟に視線を向け……つまり、背後から白夜やノーラが近づいてきているとは夢にも思っていなかったことだろう。
つまり、白夜から奇襲を仕掛けることが出来るということでもある。
次第に近づいてくるゴブリンの群れを見ると白夜は小さく唇を舐め、足を止めず真っ直ぐゴブリンの群れに背後から突入していく。
そして突入するや否や、当たるを幸いと金属の棍を振り回す。
攻撃をするのは、白夜だけではない。白夜の近くにいるノーラも、手当たり次第に毛針を飛ばしていた。
上位種でもなんでもない普通のゴブリンが、金属の棍で殴られてただですむはずもなく、手足の骨を折り、胴体を殴られ、中には頭部を潰されたゴブリンすら存在していた。
そんな白夜より、さらに効果的だったのがノーラの毛針だろう。
白夜の持つ金属の棍は、結局のところ間合いの内側にいるゴブリンにしか攻撃は出来ない。
だが、ノーラの放つ毛針は、多少の距離は問題としないだけの射程距離を放つ。
結果として、白夜とノーラが通りすぎた後に残っていたのは、金属の棍によりからだを殴られて蹲ったり、意識を失って倒れたり、中には首の骨を折られて命を失ったゴブリンの姿もあった。
そしてノーラによって目を潰されたり、傷そのものは深くなくても痛みによって悲鳴を上げているゴブリンの姿も多い。
「蛟さん、猛さん!」
「白夜!? 一体どうしたのよ!」
白夜の姿を見た蛟が叫び……それでいて振るわれる長剣の動きが鈍るようなことはなく、次々にゴブリンを斬り裂いていく。
猛も槍を突き出し、ゴブリンの頭部や胴体を貫きながら、驚きの表情を露わにしていた。
……なお、そんな二人から少し離れた場所では、杏、弓奈、音也の三人がそれぞれに猛や蛟の援護を行っている。
特に有効なのは、当然のように杏の魔法攻撃だろう。
ゴブリンたちは目の前の二人に意識を奪われており、杏の放つ風の刃を回避することは出来ず、次々に身体を斬り裂かれていく。
弓奈はそんな杏と音也を守る護衛の役目をしっかりとこなし……周囲に落ちている石を拾っては、ゴブリンに投げつけていた。
音也もそんな弓奈の真似をするように石を拾い、ゴブリンに向かって投げつける。
そんな場所に突然白夜が飛び込んで来たのだから、魔法や石の狙いが狂ってもおかしくはなかったのだが、幸いなことに白夜やノーラにそれがぶつかるようなことはなかった。
「敵です! ゴブリンの上位種! 後ろから!」
蛟の隣まで到着すると、白夜は自分が今まで走ってきた方を見ながら叫ぶ。
集まってるゴブリンで群れの向こう側を見ることは出来なかったが……それでも、背の高い上位種の姿を確認するのは難しい話ではなかった。
「あのゴブリンがこの集落を率いているゴブリン!?」
蛟がゴブリンの首を切断しながら叫ぶが、金属の棍を振り回しながら白夜は叫んで言葉を返す。
「分かりません! ただ、集落の中で遊撃をしていたら見つかってしまって……意地でも俺をどうにかしようと追ってきたんです!」
叫びながら背後からゴブリンの頭部に金属を棍を振り下ろし、頭蓋骨を叩き割り……その頃になり、ようやくゴブリンたちは背後から攻撃されていることに気が付き、後ろを振り向こうとする。
「グルラアアァァアッ!」
だが、そんなゴブリンたちを邪魔だと言いたげに、白夜たちに追いついてきた上位種が叫ぶ。
蛟や猛たちと戦っていたゴブリンの群れは、その声が聞こえた瞬間、すぐに動きを止める。
……その動きを止めた隙を突くかのように放たれた攻撃で、さらに何匹かのゴブリンが死んだのだが……それは全く気にした様子もなく、上位種が再び雄叫びを上げる。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
その雄叫びにどのような意味があったのかは、次の瞬間、すぐに判明した。
動きを止めていたゴブリンたちが、皆揃って後ろに下がっていったのだ。
それこそ、白夜の周りにいたゴブリンも、全く躊躇わず後ろに下がっていき……
「ギャラアアァアッ!」
そんなゴブリンたちと入れ替わるように、上位種が前に出るのだった。
白夜の視線の先にいたゴブリンの上位種が、そう叫ぶ。
いや、叫ぶだけではない。
手に持っていた棍棒を、白夜にいる方に向けて投げつけたのだ。
棍棒という点では普通ゴブリンも使っているのだが、呼び名は同じ棍棒であっても、実際にその棍棒は普通のゴブリンが使っている物とは大きく違う。
普通のゴブリンが使っていた棍棒は、その辺に生えている木の枝を適当に折って棍棒としているものだ。
だが、白夜の視線の先にいるゴブリンの上位種が持っている棍棒は、違った。
作り方そのものは、普通のゴブリンが使っている物と変わらないだろう。
違うのは、その棍棒の太さ。
普通のゴブリンが使っている棍棒に比べると、一番太い場所の太さは五倍、長さは三倍ほどの違いもある。
それだけ違うのであれば、当然重量も普通のゴブリンが使っていたものとは大きく違うのは当然であり、その棍棒を投擲したときの威力がどれほどのものなのかは、白夜ではなくても容易に想像出来た。
回避出来ない。
反射的にそう考えた白夜は、闇の能力を使うべく自然と口を開いていた。
「大いなる闇よ、在れ!」
その言葉と共に白夜の闇が伸びると、真っ直ぐ飛んで来る棍棒に触れ……その闇が棍棒を逸らしていく。
白夜の持つ能力、闇の能力が発揮された形だ。
「ギュオ!?」
ゴブリンの上位種にとっても、今の光景は予想外だったのだろう。
驚愕の声を上げ……だが、次の瞬間にはすぐに気持ちを切り替えたのか、足を踏み出す。
ゴブリンの上位種ではあっても、遠距離攻撃の手段は多くない。
自分の唯一の武器の棍棒を投げつけた以上、近接戦闘でも不利になるはずだった。
……もっとも、白夜は目の前のゴブリンと戦って自分が勝てるかどうかに自信は持てなかったが。
普通のゴブリンであれば、問題なく勝てる自信がある。
だが、相手はゴブリンの上位種……白夜にとっても、初めて戦う相手だ。
それだけに、実力を全く把握出来ていない。
そんな状況で戦うかどうかと言われれば、白夜はすぐに否定する。
ここに自分しか戦力がいないのであれば話は別だったが、幸いなことに、現在この集落には明らかに自分よりも強い人物がいるのだから。
「ノーラ、戻るぞ! 猛さんと蛟さんを呼びに行く!」
「みゃ!」
ノーラも白夜の言いたいことは分かっているのか、返事をしながら自分たちの方に向かって歩き出し始めたゴブリンの上位種に向かって毛針を飛ばす。
「ギュオオオオオオオオオオオ!」
白夜を警戒はしていたが、ノーラは意識の外にあったのだろう。
そのノーラから放たれた毛針の何本かが目の付近に突き刺さり、ゴブリンの上位種は痛みに悲鳴を上げる。
「よし!」
目が見えないのは、敵を追跡する上で大きな障害となるのは明らかだ。
それを理解している白夜は、ノーラの攻撃に安堵と嬉しさの入り交じった声を上げ、そのままゴブリンの集落を走り抜ける。
何とかゴブリンの上位種に追いつかれる前に、猛や蛟の下に辿り着く必要があった。
そして今の状況であれば、それはそう難しいことではない……はずだった。
そう、はずだったのだ。
しかし、ゴブリンの集落を走っていた白夜は、背後から聞こえてくる音に速度をなるべく落とさないようにして振り向く。
嫌な……非常に嫌な予感と共に振り向いた白夜が見たのは、予想通りに最悪の光景。
そこにあったのは、見ただけで怒り狂っていると思われるゴブリンの上位種だったのだから。
先程放たれたノーラの毛針は、ゴブリンの上位種の動きを妨げるという意味では殆ど効果がなかったのだろう。
いや、寧ろ怒らせたという意味では逆効果になっていた。
怒りで目を血走らせているその姿は、追いつかれれば間違いなく自分を殺しにくるだろうと白夜にも理解出来る。
「くそっ、急ぐぞノーラ! あんな奴を俺たちだけで相手にしていたら、厄介以外のなにものでもない!」
ゴブリンの上位種を相手に戦えるのかどうかと言われれば、白夜もどうにか出来るかもしれないと言うだろう。
だが、相手はゴブリンの上位種だけではないのだ。
そもそもの話、この集落には普通のゴブリンも多くいる。
そんなゴブリンたちが、自分たちの上位種が戦っている光景を黙って見ているはずがない。
間違いなく、手を出してくる。
そのような集団を相手に、白夜とノーラだけで戦うのは少し……いや、かなり難しいだろう。
(特に、この山にやって来てから闇が暴走しがちだし)
近くから出てきたゴブリンの膝に金属の棍を叩き付ける。
いきなりそのような攻撃をされたゴブリンは、膝の骨を砕かれ、地面に崩れ落ちる。
当然ながらそんなゴブリンは邪魔になるのだから、多少なりとも上位種の動きを止めることが出来るのではないか……そう思った白夜だったが、上位種は速度を落とさないまま進む。
「ギョギャ!」
胴体……いや、背骨を踏み砕かれたゴブリンの悲鳴が周囲に響き渡る。
「げ! 少しは躊躇しろよな!」
上位種にとって、通常のゴブリンというのはいくらでも代わりがいる存在なのだろう。
だからこそ、こうしてあっさりと踏み殺すといった真似が出来るのだ。
それでもゴブリンの数を減らすということでは上位種に通常のゴブリンを殺させるのは有効かもしれないと思った白夜だったが、そう都合よくゴブリンが白夜の前に姿を現すはずもない。
そもそも、現在白夜たちを探しに山の中に大勢のゴブリンが派遣されているのだから、集落にゴブリンの数はそう多くはなかった。
さらに集落に残っているゴブリンの多くは、猛や蛟が意図的に派手な戦いをしている方に集まっているのだから、それも当然だろう。
「みゃー!」
白夜の側を飛んでいたノーラが、白夜に注意を引くように鳴き声を上げる。
その鳴き声にノーラを見た白夜は、ノーラの身体から生えている毛が一本飛ばされ、その飛んだ先に何があるのかを理解し、なるほどと頷く。
ノーラの毛針が刺さったのは、掘っ立て小屋の一つ。
掘っ立て小屋と言っても、人間が建てたものであればそれなりに頑丈なのだが、この掘っ立て小屋はゴブリンが建てた代物だ。
それこそ、軽い地震でもくれば間違いなく崩れるだろうと、そう理解してしまう程度の掘っ立て小屋。
だが、今回の場合はそれが幸いした。
掘っ立て小屋の横を通り抜けざまに金属の棍を大きく振るい、激しい衝撃を与える。
ゴブリンが建てるような掘っ立て小屋だ。それだけの衝撃に耐えられるはずもなく、白夜が横を通り抜けた瞬間には音を立てながら崩れ始めた。
そうなれば、当然白夜の背後を追っていた上位種が横を通り抜ける際には掘っ立て小屋は崩れており、白夜を追撃する足は鈍る。
(ちっ、出来ればあの上位種に直接掘っ立て小屋が崩れ落ちてくれればよかったのにな)
走りながら一瞬だけ背後を向き、先程よりも少しだけ距離が空いているのを確認すると、白夜は安堵しながら内心で考える。
多少ではあっても距離が開いたことにより、若干余裕を取り戻した形だったが、それでも追ってくる足音がなくなることはない。
いや、むしろ白夜の行動により追撃の足が鈍り、苛立ち混じりの雄叫びすら周囲に響く。
普通の人間よりも大きなゴブリンの上位種は、そんな雄叫びを上げつつも、決して白夜を決して諦めることなく追い続ける。
もちろん白夜もそれを放っておくようなことはなく、掘っ立て小屋の横を通ると同時に金属の棍を思い切り振るっていく。
白夜を追う上位種は、次々に自分が暮らしている集落が荒らされていくのを見て、苛立ちを募らせ、結果として白夜に対する憎悪を増しているのだが……逃げている本人はそれに全く気が付いた様子はない。
背後から聞こえてくる雄叫びも、白夜にとっては向こうが怒っているのなら猛や蛟の下に連れて行ったとき、戦いやすくなるだろうとすら考えていた。
「鬼さんこちら……ってな」
背後の上位種には聞こえてないだろうと理解しつつも、白夜は自分を励ます意味も込めて口の中で呟く。
そんな白夜の視線の先……ゴブリンの集落を突っ切っていると、やがてようやく前方に大勢のゴブリンの姿が見えてくる。
普通であれば、背後から上位種に追われている状況なのだから、前方にゴブリンの集団がいるのはとてもではないが歓迎出来ることではないだろう。
だが、今回に限っては白夜にとって、そんなゴブリンたちは歓迎すべき相手だった。
何故なら、これだけのゴブリンがここに集まっている理由は、猛と蛟という存在と戦っているからこそだというのが分かっていたからだ。
また、同様に大きかったのは、全てのゴブリンが戦いを行っている猛や蛟に視線を向け……つまり、背後から白夜やノーラが近づいてきているとは夢にも思っていなかったことだろう。
つまり、白夜から奇襲を仕掛けることが出来るということでもある。
次第に近づいてくるゴブリンの群れを見ると白夜は小さく唇を舐め、足を止めず真っ直ぐゴブリンの群れに背後から突入していく。
そして突入するや否や、当たるを幸いと金属の棍を振り回す。
攻撃をするのは、白夜だけではない。白夜の近くにいるノーラも、手当たり次第に毛針を飛ばしていた。
上位種でもなんでもない普通のゴブリンが、金属の棍で殴られてただですむはずもなく、手足の骨を折り、胴体を殴られ、中には頭部を潰されたゴブリンすら存在していた。
そんな白夜より、さらに効果的だったのがノーラの毛針だろう。
白夜の持つ金属の棍は、結局のところ間合いの内側にいるゴブリンにしか攻撃は出来ない。
だが、ノーラの放つ毛針は、多少の距離は問題としないだけの射程距離を放つ。
結果として、白夜とノーラが通りすぎた後に残っていたのは、金属の棍によりからだを殴られて蹲ったり、意識を失って倒れたり、中には首の骨を折られて命を失ったゴブリンの姿もあった。
そしてノーラによって目を潰されたり、傷そのものは深くなくても痛みによって悲鳴を上げているゴブリンの姿も多い。
「蛟さん、猛さん!」
「白夜!? 一体どうしたのよ!」
白夜の姿を見た蛟が叫び……それでいて振るわれる長剣の動きが鈍るようなことはなく、次々にゴブリンを斬り裂いていく。
猛も槍を突き出し、ゴブリンの頭部や胴体を貫きながら、驚きの表情を露わにしていた。
……なお、そんな二人から少し離れた場所では、杏、弓奈、音也の三人がそれぞれに猛や蛟の援護を行っている。
特に有効なのは、当然のように杏の魔法攻撃だろう。
ゴブリンたちは目の前の二人に意識を奪われており、杏の放つ風の刃を回避することは出来ず、次々に身体を斬り裂かれていく。
弓奈はそんな杏と音也を守る護衛の役目をしっかりとこなし……周囲に落ちている石を拾っては、ゴブリンに投げつけていた。
音也もそんな弓奈の真似をするように石を拾い、ゴブリンに向かって投げつける。
そんな場所に突然白夜が飛び込んで来たのだから、魔法や石の狙いが狂ってもおかしくはなかったのだが、幸いなことに白夜やノーラにそれがぶつかるようなことはなかった。
「敵です! ゴブリンの上位種! 後ろから!」
蛟の隣まで到着すると、白夜は自分が今まで走ってきた方を見ながら叫ぶ。
集まってるゴブリンで群れの向こう側を見ることは出来なかったが……それでも、背の高い上位種の姿を確認するのは難しい話ではなかった。
「あのゴブリンがこの集落を率いているゴブリン!?」
蛟がゴブリンの首を切断しながら叫ぶが、金属の棍を振り回しながら白夜は叫んで言葉を返す。
「分かりません! ただ、集落の中で遊撃をしていたら見つかってしまって……意地でも俺をどうにかしようと追ってきたんです!」
叫びながら背後からゴブリンの頭部に金属を棍を振り下ろし、頭蓋骨を叩き割り……その頃になり、ようやくゴブリンたちは背後から攻撃されていることに気が付き、後ろを振り向こうとする。
「グルラアアァァアッ!」
だが、そんなゴブリンたちを邪魔だと言いたげに、白夜たちに追いついてきた上位種が叫ぶ。
蛟や猛たちと戦っていたゴブリンの群れは、その声が聞こえた瞬間、すぐに動きを止める。
……その動きを止めた隙を突くかのように放たれた攻撃で、さらに何匹かのゴブリンが死んだのだが……それは全く気にした様子もなく、上位種が再び雄叫びを上げる。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
その雄叫びにどのような意味があったのかは、次の瞬間、すぐに判明した。
動きを止めていたゴブリンたちが、皆揃って後ろに下がっていったのだ。
それこそ、白夜の周りにいたゴブリンも、全く躊躇わず後ろに下がっていき……
「ギャラアアァアッ!」
そんなゴブリンたちと入れ替わるように、上位種が前に出るのだった。
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持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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