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15話
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白夜たちが隠れている頃、当然その白夜とパーティを組んでいる杏や、拾われた弓奈の二人も山の中に隠れていた。
それでも白夜のような悲壮感がないのは、ゴブリンたちが全て白夜の方に向かったからだろう。
それが自分たち……正確には女の自分たちを守るための行動だというのは、当然知っていた。
「全く、馬鹿な真似をするわね」
口では文句を言う杏だったが、その表情には白夜を心配する色がある。
何だかんだと、白夜には好意を抱いている証だろう。
……もっとも、その好意は白夜が期待しているような男女間のものではなく、どちらかというと友情に類するものなのだが。
弓奈はそんな杏の方を見ながら、手に持っているナイフを弄る。
本来は槍を武器にしている弓奈だが、残念ながら今の武器はこのナイフしかない。
一瞬木の枝の先端にこのナイフを結びつければ槍になるのでは? とを思いもしたが、そんな雑に作った槍が戦いの役に立つとは思えない。
それどころか、何回か攻撃すれば柄にした木の枝が折れて使い物にならなくなってしまうだろう。
「それで、どうするの?」
「……合流するしかないでしょ。そもそも、私は魔法使いで、そっちはナイフだけ。これだと前衛がいないわ」
「でしょうね」
杏の合流するという意見には、当然弓奈も賛成だった。
弓奈の目から見ても、白夜がかなりの腕を持っているというのは理解出来たからだ。
もっとも、そのかなりの腕というのはあくまでネクストのレベルで考えてのことなのだが。
「けど、合流するにしても、どうやって合流するの? 白夜たちがどこにいるのか分からない以上、こっちも動きようがないわよ? 下手に動くと、それこそゴブリンに見つかるかもしれないし」
ゴブリンは全てが白夜を追っていったが、追っていったゴブリンが全てとは限らない。
ゴブリンの集落に、他にもゴブリンが残っている可能性というのは十分にあるのだ。
そうであれば、弓奈や杏たちも迂闊に動く訳にはいかない。
「魔法で何とかするの?」
杏は魔法使いだということに一縷の望みをかけ、弓奈が尋ねる。
だがそんな弓奈に対して、杏は首を横に振った。
「残念だけど、そんな便利な魔法はないわ。……言われてるほど、魔法も便利な代物じゃないのよ」
魔法と聞けば、それこそ何でも出来ると思う者も多い。
だが、魔法というのはそこまで便利な代物ではないのだ。
それこそ、魔法の構成や魔力の配分、使用する魔法媒体……場合によっては、周囲の環境といったものも問題になることがある。
もちろん、もっと腕の立つ魔法使いであれば探している相手がどこにいるのか調べることが出来るような魔法を使える者もいるかもしれないが……残念ながら、杏は攻撃魔法はともかく、その手の魔法は得意ではない。
「じゃあ、もしかして自力で探す……とか?」
「最悪、それしかないと思うわ」
まさかの言葉に杏が頷いたのを見て、弓奈はうげぇ、と女として出してはいけない声を出す。
「しょうがないでしょ。白夜はゴブリンに追われて逃げていったんだから、こっちを探しに来るような余裕はないわ。……ただでさえ、あの子供と一緒に行動しているし」
そう言われれば、弓奈も杏の言葉に従わざるをえない。
そもそも、今の状況でゴブリンに襲われればかなり危険なのは事実なのだ。
出来るだけ早く、前衛を任せられる白夜と合流したい。
「それに……」
弓奈が何とか白夜と合流したいと考えていると、杏がふと小さく呟く。
「それに? 何かあったの?」
「ええ。白夜はあまり信用出来ないけど、白夜の外付け良心のノーラがいるでしょ?」
「……外付け良心……」
あまりと言えばあまりの表現だったが、弓奈も何故かその表現には納得出来るものがあったのは間違いない。
弓奈と白夜は、まだ会ってから一日も経っていないのだが……それでも白夜の性格を理解してしまうのは、良くも悪くも白夜が分かりやすいことの証なのだろう。
「で、その外付け良心のノーラがいるのは分かったけど、そのノーラがどうするの?」
「ノーラの大きさを考えれば、白夜が移動するよりも見つかりにくいから、向こうからもこっちを探しに来てくれるんじゃないかと思って」
「それは……けど、従魔にそこまでの知能がある?」
弓奈も、従魔を連れている者を何人か見たことがある。
弓奈の通っているネクストの学校にも、従魔を連れている者はそれなりにいた。
その経験から考えると、従魔は主人の言葉には従うが、自分で判断するようなことは苦手のように思えた。
それは杏も知っていたのだが、ノーラに限っては話が別だった。
「ノーラはあんな見かけだけど、かなり頭がいいわ。でないと、それこそ白夜の外付け良心として働かないでしょ?」
「まぁ……そう、ね」
少し言葉を濁しながら頷く弓奈。
どうしてもあの空飛ぶマリモを見て、そこまで知能が高いとは納得出来ないらしい。
「それに、白夜が来るよりは絶対にノーラの方が目立たないし」
「そうね」
こっちは、弓奈もあっさりと頷く。
虹色の髪を持つ白夜は、どう考えても目立つのだから。
「じゃあ、このままここでじっとしててもしょうがないし、私達も移動しましょう。……行くわよ」
杖を手に告げる杏に、弓奈もそれ以上は何も言わない。
とにかく、白夜と早めに合流出来るのであればそれに越したことはないのだから。
そして今の状況では、自分達がノーラを探した方がいいというのも間違いはない。
だが、同時に心配すべきこともある。
「けど、ノーラとの行き違いになったらどうするの? それこそ、ゴブリン達に見つからない?」
「その可能性はあるけど、どちらかと言えばノーラに見つかる可能性の方が高いと思うわ。……ああ見えて、ノーラは探知能力も高いし。もしかして、針が何らかのセンサーになっているのかもしれないわね」
「ノーラって……」
弓奈は思わずといった様子で呟く。
知能が高く、攻撃能力もあり、それでいて探知能力も高い。
とてもではないが、ノーラという存在は弓奈が知っている従魔とは思えなかった。
改めて、そう思ってしまう弓奈だったが、杏が立ち上がったのを見ると、置いていかれては堪らないとそのあとに続く。
魔法使いの杏だったが、行動力という点で見ればかなり高い。
「白夜がいないと、山道を歩くのは大変ね」
山道を歩くこと、十分ほど。
杏の言葉に、弓奈は同意するように頷く。
「そうでしょうね。白夜が私たちが歩く場所の茂みとかをどうにかしてくれてたんでしょ。……槍があれば、私が先頭を歩いてもいいんだけど」
ナイフで背後を警戒しながら告げる弓奈だったが、先頭を進む杏は背後を振り向かず首を横に振る。
「こうして山道を進んでる以上、危ないのは後ろよ。白夜がいるのならともかく、いないなら私が先を進んで、背後を弓奈が警戒する方がいいわ」
「そういうもの? ……まぁ、今の私は武器もこのナイフしかないし、杏がそう言うのなら甘えさせて貰うけど」
「……言っておくけど、休ませるために私が先頭を進んでいる訳じゃないからね。背後の警戒を怠るような真似はしないでしょ?」
「分かってるわよ。こう見えて目も耳もいい方だから、安心して」
軽い調子で聞こえてくる弓奈の声は、言葉通り安心して任せることが出来るかと言われれば、首を捻るしかない。
だがそれでも、今の杏たちにはノーラを探しながら進むしか出来ない以上、背後は弓奈に任せるしかなかった。
そうして茂みの中を進んでいた杏たちだったが……
「っ!?」
不意に、杏が茂みを払っていた杖の動きを止める。
そんな杏の後ろ姿を見た弓奈は、ナイフを掴む手に力を入れた。
この状況で動きを止めたのだから、何かがあったのは確実なのだ。
そう思いながら、そっと杏の背中に触れる。
「……」
背中に触る感触で、弓奈の存在を思い出したのだろう。杏は少しだけ後ろを見ると、やがて視線で先の方を示す。
弓奈はそんな杏の仕草を見ると、そっと杏のとなりに移動する。
茂みの生えている場所だけに、出来るだけ音を立てないようにして杏の隣に移動し、前に視線を向け……握っているナイフの柄を我知らず力強く握ってしまう。
何故なら、そこにいたのは二匹のゴブリンだったからだ。
ただ、杏たちにとって幸運だったことに、そのゴブリンたちは杏たちを探して山の中を移動していた訳ではないらしい。
体長一メートルほどもある巨大な兎を縛っている棒を、二匹のゴブリンがそれぞれ持ちながら移動していた。
いや、移動していた状態で疲れたのか、一休みをしていたというのが正しい。
ゲギョゲギョと嬉しそうな鳴き声を上げているのは、兎を無事仕留めることが出来たからか。
自分たちと同じか、もしくは大きい兎をどうやって仕留めたのかというのは、杏にも疑問は残る。
だが、幸いにも今あのゴブリンたちは自分たちに気が付かず、それどころか兎について頭が一杯なのは間違いない。
……だからこそ、何故、何があって、どのような偶然でゴブリンと自分の視線が合ってしまったのか、杏は理解出来なかった。
ゴブリンに視線を感じるといった能力がない以上、不幸な偶然ではあるのだろうが……
「っ!? 見つかった! 弓奈、前を任せるわ!」
「任せて!」
杏の言葉に、弓奈は嬉々として前に出る。
茂みがあっても関係なく、強引に突っ切った弓奈は、ナイフを片手に二匹のゴブリンを殺気混じりの目で睨む。
こうしているだけで、ゴブリンを相手に不覚を取った屈辱が弓奈の身体を満たしていく。
そんな憎悪混じりの弓奈の視線は、一瞬だけゴブリンたちを怯ませる。
だが、相手が二人……それも女であるというのを理解すると、すぐに口元に嫌らしい笑みを浮かべながらそれぞれ武器を構えた。
弓奈の持っている武器がナイフだけだというのも、ゴブリンたちを好戦的にした理由だろう。
兎を縛っていた棒を持っていたのとは反対の手に握られているのは、棍棒だ。
もちろん棍棒といっても、それは木の枝を折って作ったような簡単な代物でしかない。
それでも、ナイフしか持っていない女と、その背後にいる自分たちと同じような棍棒を持っている女であれば、容易に倒すことが出来ると考えたのだろう。
……杏が持っているのは棍棒ではなく杖なのだが、それをゴブリンに理解しろという方が無理だった。
ゴブリンたちの集落には、魔法を使うゴブリン……いわゆるゴブリンメイジと呼ばれる存在はいないのだから。
もっともゴブリンの知能を考えた場合、ゴブリンメイジがいても杖のことを覚えているのかどうかというのは微妙なところだが。
ともあれ、せっかくの獲物を逃がしてたまるかと、二匹のゴブリンは兎をその場に残して弓奈との距離を詰める。
「ギョギャギャ!」
「ギャーズ!」
それぞれが性欲に満ちた視線で弓奈と杏を見ながら、距離を詰めていく。
「ふん、私を甘く見たことを後悔するといいわ!」
叫びながら、ようやく茂みから抜け出て、ある程度踏み固められた道を走りながら弓奈が叫ぶ。
気合いの叫び声と共に、ゴブリンとの間合いを詰め……ゴブリンが棍棒を振り上げたのを見た瞬間、地面を蹴る力をさらに上げる。
一瞬にして速度が上がったのだが、ゴブリンはそれがどうしたと棍棒を振るう。
棍棒で狙ったのは弓奈の頭部……ではなく、足。
頭部を破壊してしまえば、弓奈を殺してしまうと理解するくらいの頭はあったのだろう。
そして殺してしまえば、食料としてはともかく自分達の繁殖には使えなくなってしまう。
半ば本能に近い意識からの攻撃だったが、それは弓奈を甘く見ているという証でもあった。
元より、弓奈もネクストの生徒として毎日のように戦闘訓練を行っている。
犯罪を犯した能力者を倒した経験もある。
そんな弓奈にとって、ただでさえ一匹や二匹では雑魚と呼ばれるゴブリンの攻撃を回避するのは、難しい話ではない。
棍棒の一撃を回避しながら距離を詰め、憎しみを込めた一撃でナイフの先端をゴブリンの眼球目掛けて突き出す。
「ギョギャアァアッァァ!」
眼球を潰す手応えを感じると同時に、素早くナイフを手元に戻し、再びナイフを振り上げる。
「ギギギィッ!」
ゴブリンにも仲間という意識があるのだろう。もう一匹のゴブリンが弓奈に対して棍棒を振り下ろそうとするも、杏が使った風の魔法により、身体中を斬り刻まれる。
……ただし、その傷は決して深くはない。
皮膚を斬り裂くことは出来たが、肉を斬り裂くことは出来ない、そんな威力の魔法だった。
普段であれば、それでゴブリンの動きを止めることができていただろう。
だが、今のゴブリンは仲間の危険に興奮しており、多少の傷では動きを止めるようなことは出来ない。
ゴブリンの喉をナイフで斬り裂いた弓奈が気が付くと、ちょうど自分に向かって全身傷だらけになったゴブリンが棍棒を振り下ろそうとしているところだった。
「っ!?」
その光景に一瞬息を呑む弓奈だったが……
「みゃーっ!」
そんな鳴き声と共に無数の針が飛んできて、ゴブリンに突き刺さるのだった。
それでも白夜のような悲壮感がないのは、ゴブリンたちが全て白夜の方に向かったからだろう。
それが自分たち……正確には女の自分たちを守るための行動だというのは、当然知っていた。
「全く、馬鹿な真似をするわね」
口では文句を言う杏だったが、その表情には白夜を心配する色がある。
何だかんだと、白夜には好意を抱いている証だろう。
……もっとも、その好意は白夜が期待しているような男女間のものではなく、どちらかというと友情に類するものなのだが。
弓奈はそんな杏の方を見ながら、手に持っているナイフを弄る。
本来は槍を武器にしている弓奈だが、残念ながら今の武器はこのナイフしかない。
一瞬木の枝の先端にこのナイフを結びつければ槍になるのでは? とを思いもしたが、そんな雑に作った槍が戦いの役に立つとは思えない。
それどころか、何回か攻撃すれば柄にした木の枝が折れて使い物にならなくなってしまうだろう。
「それで、どうするの?」
「……合流するしかないでしょ。そもそも、私は魔法使いで、そっちはナイフだけ。これだと前衛がいないわ」
「でしょうね」
杏の合流するという意見には、当然弓奈も賛成だった。
弓奈の目から見ても、白夜がかなりの腕を持っているというのは理解出来たからだ。
もっとも、そのかなりの腕というのはあくまでネクストのレベルで考えてのことなのだが。
「けど、合流するにしても、どうやって合流するの? 白夜たちがどこにいるのか分からない以上、こっちも動きようがないわよ? 下手に動くと、それこそゴブリンに見つかるかもしれないし」
ゴブリンは全てが白夜を追っていったが、追っていったゴブリンが全てとは限らない。
ゴブリンの集落に、他にもゴブリンが残っている可能性というのは十分にあるのだ。
そうであれば、弓奈や杏たちも迂闊に動く訳にはいかない。
「魔法で何とかするの?」
杏は魔法使いだということに一縷の望みをかけ、弓奈が尋ねる。
だがそんな弓奈に対して、杏は首を横に振った。
「残念だけど、そんな便利な魔法はないわ。……言われてるほど、魔法も便利な代物じゃないのよ」
魔法と聞けば、それこそ何でも出来ると思う者も多い。
だが、魔法というのはそこまで便利な代物ではないのだ。
それこそ、魔法の構成や魔力の配分、使用する魔法媒体……場合によっては、周囲の環境といったものも問題になることがある。
もちろん、もっと腕の立つ魔法使いであれば探している相手がどこにいるのか調べることが出来るような魔法を使える者もいるかもしれないが……残念ながら、杏は攻撃魔法はともかく、その手の魔法は得意ではない。
「じゃあ、もしかして自力で探す……とか?」
「最悪、それしかないと思うわ」
まさかの言葉に杏が頷いたのを見て、弓奈はうげぇ、と女として出してはいけない声を出す。
「しょうがないでしょ。白夜はゴブリンに追われて逃げていったんだから、こっちを探しに来るような余裕はないわ。……ただでさえ、あの子供と一緒に行動しているし」
そう言われれば、弓奈も杏の言葉に従わざるをえない。
そもそも、今の状況でゴブリンに襲われればかなり危険なのは事実なのだ。
出来るだけ早く、前衛を任せられる白夜と合流したい。
「それに……」
弓奈が何とか白夜と合流したいと考えていると、杏がふと小さく呟く。
「それに? 何かあったの?」
「ええ。白夜はあまり信用出来ないけど、白夜の外付け良心のノーラがいるでしょ?」
「……外付け良心……」
あまりと言えばあまりの表現だったが、弓奈も何故かその表現には納得出来るものがあったのは間違いない。
弓奈と白夜は、まだ会ってから一日も経っていないのだが……それでも白夜の性格を理解してしまうのは、良くも悪くも白夜が分かりやすいことの証なのだろう。
「で、その外付け良心のノーラがいるのは分かったけど、そのノーラがどうするの?」
「ノーラの大きさを考えれば、白夜が移動するよりも見つかりにくいから、向こうからもこっちを探しに来てくれるんじゃないかと思って」
「それは……けど、従魔にそこまでの知能がある?」
弓奈も、従魔を連れている者を何人か見たことがある。
弓奈の通っているネクストの学校にも、従魔を連れている者はそれなりにいた。
その経験から考えると、従魔は主人の言葉には従うが、自分で判断するようなことは苦手のように思えた。
それは杏も知っていたのだが、ノーラに限っては話が別だった。
「ノーラはあんな見かけだけど、かなり頭がいいわ。でないと、それこそ白夜の外付け良心として働かないでしょ?」
「まぁ……そう、ね」
少し言葉を濁しながら頷く弓奈。
どうしてもあの空飛ぶマリモを見て、そこまで知能が高いとは納得出来ないらしい。
「それに、白夜が来るよりは絶対にノーラの方が目立たないし」
「そうね」
こっちは、弓奈もあっさりと頷く。
虹色の髪を持つ白夜は、どう考えても目立つのだから。
「じゃあ、このままここでじっとしててもしょうがないし、私達も移動しましょう。……行くわよ」
杖を手に告げる杏に、弓奈もそれ以上は何も言わない。
とにかく、白夜と早めに合流出来るのであればそれに越したことはないのだから。
そして今の状況では、自分達がノーラを探した方がいいというのも間違いはない。
だが、同時に心配すべきこともある。
「けど、ノーラとの行き違いになったらどうするの? それこそ、ゴブリン達に見つからない?」
「その可能性はあるけど、どちらかと言えばノーラに見つかる可能性の方が高いと思うわ。……ああ見えて、ノーラは探知能力も高いし。もしかして、針が何らかのセンサーになっているのかもしれないわね」
「ノーラって……」
弓奈は思わずといった様子で呟く。
知能が高く、攻撃能力もあり、それでいて探知能力も高い。
とてもではないが、ノーラという存在は弓奈が知っている従魔とは思えなかった。
改めて、そう思ってしまう弓奈だったが、杏が立ち上がったのを見ると、置いていかれては堪らないとそのあとに続く。
魔法使いの杏だったが、行動力という点で見ればかなり高い。
「白夜がいないと、山道を歩くのは大変ね」
山道を歩くこと、十分ほど。
杏の言葉に、弓奈は同意するように頷く。
「そうでしょうね。白夜が私たちが歩く場所の茂みとかをどうにかしてくれてたんでしょ。……槍があれば、私が先頭を歩いてもいいんだけど」
ナイフで背後を警戒しながら告げる弓奈だったが、先頭を進む杏は背後を振り向かず首を横に振る。
「こうして山道を進んでる以上、危ないのは後ろよ。白夜がいるのならともかく、いないなら私が先を進んで、背後を弓奈が警戒する方がいいわ」
「そういうもの? ……まぁ、今の私は武器もこのナイフしかないし、杏がそう言うのなら甘えさせて貰うけど」
「……言っておくけど、休ませるために私が先頭を進んでいる訳じゃないからね。背後の警戒を怠るような真似はしないでしょ?」
「分かってるわよ。こう見えて目も耳もいい方だから、安心して」
軽い調子で聞こえてくる弓奈の声は、言葉通り安心して任せることが出来るかと言われれば、首を捻るしかない。
だがそれでも、今の杏たちにはノーラを探しながら進むしか出来ない以上、背後は弓奈に任せるしかなかった。
そうして茂みの中を進んでいた杏たちだったが……
「っ!?」
不意に、杏が茂みを払っていた杖の動きを止める。
そんな杏の後ろ姿を見た弓奈は、ナイフを掴む手に力を入れた。
この状況で動きを止めたのだから、何かがあったのは確実なのだ。
そう思いながら、そっと杏の背中に触れる。
「……」
背中に触る感触で、弓奈の存在を思い出したのだろう。杏は少しだけ後ろを見ると、やがて視線で先の方を示す。
弓奈はそんな杏の仕草を見ると、そっと杏のとなりに移動する。
茂みの生えている場所だけに、出来るだけ音を立てないようにして杏の隣に移動し、前に視線を向け……握っているナイフの柄を我知らず力強く握ってしまう。
何故なら、そこにいたのは二匹のゴブリンだったからだ。
ただ、杏たちにとって幸運だったことに、そのゴブリンたちは杏たちを探して山の中を移動していた訳ではないらしい。
体長一メートルほどもある巨大な兎を縛っている棒を、二匹のゴブリンがそれぞれ持ちながら移動していた。
いや、移動していた状態で疲れたのか、一休みをしていたというのが正しい。
ゲギョゲギョと嬉しそうな鳴き声を上げているのは、兎を無事仕留めることが出来たからか。
自分たちと同じか、もしくは大きい兎をどうやって仕留めたのかというのは、杏にも疑問は残る。
だが、幸いにも今あのゴブリンたちは自分たちに気が付かず、それどころか兎について頭が一杯なのは間違いない。
……だからこそ、何故、何があって、どのような偶然でゴブリンと自分の視線が合ってしまったのか、杏は理解出来なかった。
ゴブリンに視線を感じるといった能力がない以上、不幸な偶然ではあるのだろうが……
「っ!? 見つかった! 弓奈、前を任せるわ!」
「任せて!」
杏の言葉に、弓奈は嬉々として前に出る。
茂みがあっても関係なく、強引に突っ切った弓奈は、ナイフを片手に二匹のゴブリンを殺気混じりの目で睨む。
こうしているだけで、ゴブリンを相手に不覚を取った屈辱が弓奈の身体を満たしていく。
そんな憎悪混じりの弓奈の視線は、一瞬だけゴブリンたちを怯ませる。
だが、相手が二人……それも女であるというのを理解すると、すぐに口元に嫌らしい笑みを浮かべながらそれぞれ武器を構えた。
弓奈の持っている武器がナイフだけだというのも、ゴブリンたちを好戦的にした理由だろう。
兎を縛っていた棒を持っていたのとは反対の手に握られているのは、棍棒だ。
もちろん棍棒といっても、それは木の枝を折って作ったような簡単な代物でしかない。
それでも、ナイフしか持っていない女と、その背後にいる自分たちと同じような棍棒を持っている女であれば、容易に倒すことが出来ると考えたのだろう。
……杏が持っているのは棍棒ではなく杖なのだが、それをゴブリンに理解しろという方が無理だった。
ゴブリンたちの集落には、魔法を使うゴブリン……いわゆるゴブリンメイジと呼ばれる存在はいないのだから。
もっともゴブリンの知能を考えた場合、ゴブリンメイジがいても杖のことを覚えているのかどうかというのは微妙なところだが。
ともあれ、せっかくの獲物を逃がしてたまるかと、二匹のゴブリンは兎をその場に残して弓奈との距離を詰める。
「ギョギャギャ!」
「ギャーズ!」
それぞれが性欲に満ちた視線で弓奈と杏を見ながら、距離を詰めていく。
「ふん、私を甘く見たことを後悔するといいわ!」
叫びながら、ようやく茂みから抜け出て、ある程度踏み固められた道を走りながら弓奈が叫ぶ。
気合いの叫び声と共に、ゴブリンとの間合いを詰め……ゴブリンが棍棒を振り上げたのを見た瞬間、地面を蹴る力をさらに上げる。
一瞬にして速度が上がったのだが、ゴブリンはそれがどうしたと棍棒を振るう。
棍棒で狙ったのは弓奈の頭部……ではなく、足。
頭部を破壊してしまえば、弓奈を殺してしまうと理解するくらいの頭はあったのだろう。
そして殺してしまえば、食料としてはともかく自分達の繁殖には使えなくなってしまう。
半ば本能に近い意識からの攻撃だったが、それは弓奈を甘く見ているという証でもあった。
元より、弓奈もネクストの生徒として毎日のように戦闘訓練を行っている。
犯罪を犯した能力者を倒した経験もある。
そんな弓奈にとって、ただでさえ一匹や二匹では雑魚と呼ばれるゴブリンの攻撃を回避するのは、難しい話ではない。
棍棒の一撃を回避しながら距離を詰め、憎しみを込めた一撃でナイフの先端をゴブリンの眼球目掛けて突き出す。
「ギョギャアァアッァァ!」
眼球を潰す手応えを感じると同時に、素早くナイフを手元に戻し、再びナイフを振り上げる。
「ギギギィッ!」
ゴブリンにも仲間という意識があるのだろう。もう一匹のゴブリンが弓奈に対して棍棒を振り下ろそうとするも、杏が使った風の魔法により、身体中を斬り刻まれる。
……ただし、その傷は決して深くはない。
皮膚を斬り裂くことは出来たが、肉を斬り裂くことは出来ない、そんな威力の魔法だった。
普段であれば、それでゴブリンの動きを止めることができていただろう。
だが、今のゴブリンは仲間の危険に興奮しており、多少の傷では動きを止めるようなことは出来ない。
ゴブリンの喉をナイフで斬り裂いた弓奈が気が付くと、ちょうど自分に向かって全身傷だらけになったゴブリンが棍棒を振り下ろそうとしているところだった。
「っ!?」
その光景に一瞬息を呑む弓奈だったが……
「みゃーっ!」
そんな鳴き声と共に無数の針が飛んできて、ゴブリンに突き刺さるのだった。
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しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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