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13話
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白夜と杏、弓奈の三人は山の中を歩く。
ノーラは白夜たちの上を飛んでいるので、たまに他の三人から羨ましそうな視線を向けられるが……全く気にした様子もない。
もっとも、ノーラは偵察要員としての役目も果たしているのだから、より多くの情報を得られるように空を飛ぶというのは決して間違った移動手段ではないのだが。
最大の問題は、ノーラが何かを言っても白夜が完全には理解出来ないことか。
「っとに……歩きにくいったらありゃしねえ」
「白夜の言いたいことも分かるけど、しょうがないでしょ? ゴブリンが歩いているような場所を私たちが進めば、一発で見つかってしまうんだから」
茂みを払いながら歩いている白夜に、その後ろの杏は言葉を返す。
「いいよな、先頭を俺に任せてる奴は」
「……あのね。元々魔法使いの私は後衛。白夜は前衛でしょ? それに……ゴブリンの魔石をなくしたのを、忘れたとは言わせないわよ?」
白夜の闇がゴブリンの死体を呑み込んだことを言われれば、言い返す言葉もない。
結局それ以上は黙り込み、山の中を進んでいく。
(にしても、ゴブリンを呑み込んだけど全く何もないよな。せめてパワーアップしてるとか、そういうことでもあればいいのに)
あの行為には恐らく何か意味がある。
それは分かっているのだが、それでもどのような意味があるのかが分からない。
自分の能力なのに、使いこなせないもどかしさが白夜の中にあった。
そんなことを考えながら歩いている白夜たちだったが、不意に空を移動しているノーラが動きを止める。
「みゃ!」
短い一言。
だが、そこにある緊張の色は間違いなく、何か異変があったというのははっきりしている。
白夜も、それを追う杏と弓奈の二人も、緊張しながら前に進み……山の中を歩いている五匹のゴブリンを発見した。
「ゴブリン」
白夜は背後で呟かれた弓奈の声を聞く。
それがただ呟いただけであれば、特に何かを感じるようなことはなかっただろう。
だが、弓奈の口から出た言葉には、苛立ちの色があった。
(まぁ、俺たちに見つからなければ、女として最悪の目に遭っていたのは間違いないんだから仕方がないか)
白夜たちに見つけられたのはまさに僥倖と呼ぶべきもので、普通ならまずありえないことだ。
だからこそ、弓奈がゴブリンに対して苛立ちを持つのは白夜にも理解出来たし……それ以上に弓奈と同じ女の杏は、むしろすぐにでもゴブリンを殺してやりたいと、そう思ってしまう。
「落ち着けよ。ここでゴブリンを攻撃しても、意味はないからな」
「分かってるわ」
落ち着かせようと告げられた白夜の言葉に、弓奈は短く言葉を返す。
その言葉にはまだ苛立ちの色があったが、それでもこのままゴブリンに攻撃を行うような危うさの類は感じられない。
もっとも、そのような真似をしようとしても、弓奈の持っている武器はナイフだけだ。
それでゴブリンに襲いかかっても、苦戦するのは間違いない。
……それでも錆びた武器や木の枝を折って作られた棍棒くらいしか持っていないゴブリンと比べれば、十分に強力な武器なのだが。
(今は大人しくしているのよ。この苛立ちは、あとで纏めて返してやるんだから)
そう思いつつ、弓奈は握り締めている拳に力が入るのを感じる。
「……とにかく、あのゴブリンを追おう。このまま集落を見つけることが出来れば、こっちとしても最善の結果だ」
白夜の言葉に従い、全員はゴブリンを追うノーラを追うといった形で山道を進んでいく。
途中で何度かノーラの姿がゴブリンに見つかりそうになったが、それも山の木々に紛れるようにしながら進めば、幸いなことに本格的に怪しまれたりはしなかった。
そうして進んでいく白夜達だったが、やがて追っているゴブリンたちが嬉しそうに鳴き声を上げているのが聞こえてくる。
「いよいよか?」
小さく呟いて声のしてきた方に視線を向けると……
「は?」
白夜の口から、間の抜けた声が出る。
当然だろう。そこには、一人の子供がいたのだから。
正確には、今にもゴブリンに殺されそうになっている子供だ。
弓奈以外にも捕まった相手がいたのかと、そんな風に心のどこかで思いながら……白夜の目は、かなり距離のある位置――大体百メートルほど――先にいる子供の顔をしっかりと見ることが出来ていた。
その子供を見て白夜が驚いたのは、何故こんな山の中に子供がいるのかという疑問もある。
弓奈のように何らかの依頼を受けて山の中にやってきて、結果としてゴブリンと遭遇して捕まったというのであれば納得も出来る。
だが、あのような子供が何故山の中にいるのかというのは、白夜にはさっぱり理解出来なかったし、白夜の後ろからその様子を見た杏や弓奈も同様だった。
しかし……それでも分かることがある。
このまま放っておけば、あの子供はすぐにゴブリンに殺されてしまうということだ。
ゴブリンたちの餌として。または、面白半分な暴力の対象として。
そう、白夜の顔見知りでもある南風音也が。
「みゃ-!」
ノーラも、子供が音也だというのに気が付いたのだろう。
助けないの!? と白夜に向かって鳴き声を上げる。
「……ちくしょうっ、行くぞ!」
音也の周囲には、ゴブリンが三十匹ほどもいる。
また、白夜の位置から確認出来るのがそのくらいの数である以上、実際にはもっと数が多い可能性もあるだろう。
茂みの中から飛び出しながら、白夜は金属の棍を構えて素早く周囲の様子を確認する。
家と呼べるような建物はなく、掘っ立て小屋と呼ぶのも躊躇うような、そんな粗末な建物がいくつかあるだけ。
それでも、ここがゴブリンたちの集落であるのは間違いないだろう。
以前白夜が見たことのあるゴブリンの集落に比べれば随分と小さいのだが、それでも自分たちだけでゴブリン全てをどうにかするのは難しいだろうと思えた。
(杏の魔法を使って混乱している中で、音也を助けてその場を離脱。ギルドに報告して、改めて戦力を揃える……ってのが一般的か?)
頭の中でそれだけを考えるのと、白夜が走ってくるのにゴブリンたちが気が付くのは、ほとんど同時だった。
「ギャギャギャギャ!」
音也に向かって棍棒を振り下ろそうとしていた一匹のゴブリンが、白夜を見て鳴き声を上げる。
ゴブリン語が分からない以上、白夜にはゴブリンが何と言っているのかは分からない。
だが、それでも……敵意を持っているというのは、これ以上ないほどに理解出来た。
「うるせえっ! ノーラ!」
「みゃーっ!」
白夜の叫びに合わせ、ノーラが毛針を発射する。
ノーラの放つ毛針は、痛覚を刺激するという意味ではかなり高性能な攻撃方法だが、純粋な威力として考えれば決して突出している訳ではない。
また、射程距離もそれほど長い訳ではなかった。
だが……今回に限っては、ノーラの一念が通じたのか、それとも山の風に乗ったのか。ともあれ、放たれた毛針は途中で地上に落ちることもないままゴブリンに突き刺さる。
「ギャギャギャギャ!」
目に毛針が突き刺さったゴブリンの一匹が、顔を押さえながら悲鳴を上げる。
そして痛みのあまり地面を転げ回り……その行動が周囲のゴブリンたち注目を集めるという幸運をもたらす。
「ゲギャ」
「ゲギョギョ」
そんな鳴き声を上げるゴブリンたちの中には、音也に棍棒を振り下ろそうとしていた者もいる。
「おらああぁあっ!」
そしてゴブリンがそちらに意識を集中している間に白夜はゴブリンとの距離を詰め、金属の棍を大きく振るう。
「ギャ!」
金属の棍を通して、ゴブリンの頭蓋骨が砕ける感触が伝わってくる。
その感触に一瞬顔を顰める白夜だったが、今はそんな感触にどうこう出来るような余裕がないことは理解している。
再び金属の棍を振るい、音也の近くにいる別のゴブリンの頭部を砕く。
ゴブリンと戦うときに狙う場所として、一番狙いやすいのは頭部だ。
そもそもゴブリンは小さいので、胴体や手足を狙うより頭部の方が手近な位置にあって狙いやすい。
同時に、頭部を砕けばゴブリンも確実に死ぬ。
下手にいらない情けを出してゴブリンを生かし、結果としてあとで逆襲を食らうような真似は絶対にしたくなかった。
特に今は弓奈や杏といった女を連れているのだから、その気持ちは人一倍強い。
それを抜きにしても、自分の知り合い……自分を師匠にしたいと、そう言うような物好きな音也を捕らえていた相手だ。
ましてやその音也を殺そうとしていたのだから、鷹揚な気持ちを抱けるはずもなかった。
だが、ゴブリンたちも続けて二匹も仲間を殺されれば、金属の棍を持っている白夜を敵として認識するのは当然だろう。
もっとも、ゴブリンはこの時点でも白夜の実力を見抜けない者もおり、そのゴブリンにとっては、むしろ餌が増えたと食欲に視線を向ける者もいる。
それらのゴブリンたちが、手に持つ武器……錆びた短剣や棍棒といった武器を手にして、白夜を囲む。
「白夜、避けて! ウィンドアロー!」
杏の言葉に、白夜は木の蔦で縛られて地面に転がされている音也を拾い上げ、その場を離れる。
それを追おうとしたゴブリンは、白夜の側に浮かんでいたノーラから毛針を食らって痛みに呻く。
そして……一瞬動きの止まったゴブリンたちに、杏が放った魔法が炸裂した。
一撃でゴブリンを殺すだけの威力を持っている訳ではないが、風の矢は数が多く、次々にゴブリンに傷を与えていく。
中には運が悪く、首筋を切られて派手に血を流しているゴブリンの姿もある。
だが、ほとんどのゴブリンは小さな切り傷程度の傷で、すぐに音也を……自分たちの獲物として攫ってきた子供を抱えて逃げている白夜を追う。
「我が内に眠る、大いなる闇よ! その力を以て敵に暗黒の世界を与えよ!」
逃げながら叫ぶと同時に、白夜の影から闇が姿を現す。
いつもは粘液のような状態で姿を現す闇なのだが、今回は霧のような……もしくは燃え尽きた灰が粉になって散らばっていくような……そんな状態で闇が顕現する。
だが、いつも使っている闇の使い方とは違うためか、その闇はそこまで広範囲には広がらない。
それでも、白夜を追うゴブリンたちの目を眩ますという意味では十分役に立つ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「え? ……白夜さん!?」
音也は、自分を抱えているのが白夜だと気が付くと強張った顔で叫ぶ。
自分が師匠にしたいと、そう思っていた人物がそこにいたのだから、驚くのは当然だろう。
「少し黙ってろ! ノーラ!」
「みゃーっ!」
人間を抱いて運ぶというのは、普通に同じ大きさの荷物を持って運ぶよりもかなり厳しい。
だというのに、白夜は音也を抱きながら運びつつ、自分の金属の棍も持っているのだ。
その分動きにくくなり、白夜が近くを飛んでいるノーラに追ってくるゴブリンの足を止めるように指示を出すのは当然だった。
自分たちの食料を持って逃げ出した白夜を追っていた、複数のゴブリンが悲鳴を上げる。
放たれた毛針が身体や顔、中には目に突き刺さったことによる悲鳴だ。
その痛みに地面を転がるゴブリンは、当然のように背後から追ってくる別のゴブリンの邪魔になる。
躓(つまず)かれた程度であればまだしも、運の悪いゴブリンは背後からやってきた仲間に踏み潰された者もいた。
だが、その程度で減ったゴブリンの数はそう多くない。
元々非常に繁殖力が強いのがゴブリンの特徴だ。
仲間が数匹死んだところで、特に気にした様子もなく白夜を追う。
「くそっ、ゴブリンが相手でも、これだけの数をどうしろってんだ!」
一瞬だけ後ろに視線を向け、自分を追ってきているゴブリンの数が十匹や二十匹程度ではないことに、白夜の口から苛立ちが漏れる。
それこそ数匹のゴブリンであれば、白夜も自分の力でどうにか出来る自信があった。
また、魔法を使える杏の存在も考えれば、それこそ十匹や二十匹くらいであれば、どうにか出来たかもしれない。
だが……今、追ってきている数をどうにか出来るかと言えば、それは難しいだろう。
ましてや、ゴブリンの集落から逃げているのだから追ってきているゴブリンの数は増えることはあっても減ることは殆どない。
……その数少ない例外が、仲間のゴブリンに踏み潰されて殺されただろうゴブリンたちだったのだが……
(くそっ、どこかで道のない場所に逃げ込まないと)
元々白夜は、七色に輝く虹色の髪を持っている。
人よりも目立つという点や、女と話すときに話のとっかかりになるという点では有利なのだが……逆に言えば、隠れるといった隠密行動をするには全く向いていない髪だった。
切ったり、もしくは帽子を被るといった手段を使えば虹色の髪も隠せるのだが……そんな真似をした場合、闇の能力に悪影響が出るというのは、これまでの経験から理解している。
白夜は音也を抱えたまま、ゴブリンに追いつかれないように走りながら道も何もない茂みの中へ突っ込むのだった。
ノーラは白夜たちの上を飛んでいるので、たまに他の三人から羨ましそうな視線を向けられるが……全く気にした様子もない。
もっとも、ノーラは偵察要員としての役目も果たしているのだから、より多くの情報を得られるように空を飛ぶというのは決して間違った移動手段ではないのだが。
最大の問題は、ノーラが何かを言っても白夜が完全には理解出来ないことか。
「っとに……歩きにくいったらありゃしねえ」
「白夜の言いたいことも分かるけど、しょうがないでしょ? ゴブリンが歩いているような場所を私たちが進めば、一発で見つかってしまうんだから」
茂みを払いながら歩いている白夜に、その後ろの杏は言葉を返す。
「いいよな、先頭を俺に任せてる奴は」
「……あのね。元々魔法使いの私は後衛。白夜は前衛でしょ? それに……ゴブリンの魔石をなくしたのを、忘れたとは言わせないわよ?」
白夜の闇がゴブリンの死体を呑み込んだことを言われれば、言い返す言葉もない。
結局それ以上は黙り込み、山の中を進んでいく。
(にしても、ゴブリンを呑み込んだけど全く何もないよな。せめてパワーアップしてるとか、そういうことでもあればいいのに)
あの行為には恐らく何か意味がある。
それは分かっているのだが、それでもどのような意味があるのかが分からない。
自分の能力なのに、使いこなせないもどかしさが白夜の中にあった。
そんなことを考えながら歩いている白夜たちだったが、不意に空を移動しているノーラが動きを止める。
「みゃ!」
短い一言。
だが、そこにある緊張の色は間違いなく、何か異変があったというのははっきりしている。
白夜も、それを追う杏と弓奈の二人も、緊張しながら前に進み……山の中を歩いている五匹のゴブリンを発見した。
「ゴブリン」
白夜は背後で呟かれた弓奈の声を聞く。
それがただ呟いただけであれば、特に何かを感じるようなことはなかっただろう。
だが、弓奈の口から出た言葉には、苛立ちの色があった。
(まぁ、俺たちに見つからなければ、女として最悪の目に遭っていたのは間違いないんだから仕方がないか)
白夜たちに見つけられたのはまさに僥倖と呼ぶべきもので、普通ならまずありえないことだ。
だからこそ、弓奈がゴブリンに対して苛立ちを持つのは白夜にも理解出来たし……それ以上に弓奈と同じ女の杏は、むしろすぐにでもゴブリンを殺してやりたいと、そう思ってしまう。
「落ち着けよ。ここでゴブリンを攻撃しても、意味はないからな」
「分かってるわ」
落ち着かせようと告げられた白夜の言葉に、弓奈は短く言葉を返す。
その言葉にはまだ苛立ちの色があったが、それでもこのままゴブリンに攻撃を行うような危うさの類は感じられない。
もっとも、そのような真似をしようとしても、弓奈の持っている武器はナイフだけだ。
それでゴブリンに襲いかかっても、苦戦するのは間違いない。
……それでも錆びた武器や木の枝を折って作られた棍棒くらいしか持っていないゴブリンと比べれば、十分に強力な武器なのだが。
(今は大人しくしているのよ。この苛立ちは、あとで纏めて返してやるんだから)
そう思いつつ、弓奈は握り締めている拳に力が入るのを感じる。
「……とにかく、あのゴブリンを追おう。このまま集落を見つけることが出来れば、こっちとしても最善の結果だ」
白夜の言葉に従い、全員はゴブリンを追うノーラを追うといった形で山道を進んでいく。
途中で何度かノーラの姿がゴブリンに見つかりそうになったが、それも山の木々に紛れるようにしながら進めば、幸いなことに本格的に怪しまれたりはしなかった。
そうして進んでいく白夜達だったが、やがて追っているゴブリンたちが嬉しそうに鳴き声を上げているのが聞こえてくる。
「いよいよか?」
小さく呟いて声のしてきた方に視線を向けると……
「は?」
白夜の口から、間の抜けた声が出る。
当然だろう。そこには、一人の子供がいたのだから。
正確には、今にもゴブリンに殺されそうになっている子供だ。
弓奈以外にも捕まった相手がいたのかと、そんな風に心のどこかで思いながら……白夜の目は、かなり距離のある位置――大体百メートルほど――先にいる子供の顔をしっかりと見ることが出来ていた。
その子供を見て白夜が驚いたのは、何故こんな山の中に子供がいるのかという疑問もある。
弓奈のように何らかの依頼を受けて山の中にやってきて、結果としてゴブリンと遭遇して捕まったというのであれば納得も出来る。
だが、あのような子供が何故山の中にいるのかというのは、白夜にはさっぱり理解出来なかったし、白夜の後ろからその様子を見た杏や弓奈も同様だった。
しかし……それでも分かることがある。
このまま放っておけば、あの子供はすぐにゴブリンに殺されてしまうということだ。
ゴブリンたちの餌として。または、面白半分な暴力の対象として。
そう、白夜の顔見知りでもある南風音也が。
「みゃ-!」
ノーラも、子供が音也だというのに気が付いたのだろう。
助けないの!? と白夜に向かって鳴き声を上げる。
「……ちくしょうっ、行くぞ!」
音也の周囲には、ゴブリンが三十匹ほどもいる。
また、白夜の位置から確認出来るのがそのくらいの数である以上、実際にはもっと数が多い可能性もあるだろう。
茂みの中から飛び出しながら、白夜は金属の棍を構えて素早く周囲の様子を確認する。
家と呼べるような建物はなく、掘っ立て小屋と呼ぶのも躊躇うような、そんな粗末な建物がいくつかあるだけ。
それでも、ここがゴブリンたちの集落であるのは間違いないだろう。
以前白夜が見たことのあるゴブリンの集落に比べれば随分と小さいのだが、それでも自分たちだけでゴブリン全てをどうにかするのは難しいだろうと思えた。
(杏の魔法を使って混乱している中で、音也を助けてその場を離脱。ギルドに報告して、改めて戦力を揃える……ってのが一般的か?)
頭の中でそれだけを考えるのと、白夜が走ってくるのにゴブリンたちが気が付くのは、ほとんど同時だった。
「ギャギャギャギャ!」
音也に向かって棍棒を振り下ろそうとしていた一匹のゴブリンが、白夜を見て鳴き声を上げる。
ゴブリン語が分からない以上、白夜にはゴブリンが何と言っているのかは分からない。
だが、それでも……敵意を持っているというのは、これ以上ないほどに理解出来た。
「うるせえっ! ノーラ!」
「みゃーっ!」
白夜の叫びに合わせ、ノーラが毛針を発射する。
ノーラの放つ毛針は、痛覚を刺激するという意味ではかなり高性能な攻撃方法だが、純粋な威力として考えれば決して突出している訳ではない。
また、射程距離もそれほど長い訳ではなかった。
だが……今回に限っては、ノーラの一念が通じたのか、それとも山の風に乗ったのか。ともあれ、放たれた毛針は途中で地上に落ちることもないままゴブリンに突き刺さる。
「ギャギャギャギャ!」
目に毛針が突き刺さったゴブリンの一匹が、顔を押さえながら悲鳴を上げる。
そして痛みのあまり地面を転げ回り……その行動が周囲のゴブリンたち注目を集めるという幸運をもたらす。
「ゲギャ」
「ゲギョギョ」
そんな鳴き声を上げるゴブリンたちの中には、音也に棍棒を振り下ろそうとしていた者もいる。
「おらああぁあっ!」
そしてゴブリンがそちらに意識を集中している間に白夜はゴブリンとの距離を詰め、金属の棍を大きく振るう。
「ギャ!」
金属の棍を通して、ゴブリンの頭蓋骨が砕ける感触が伝わってくる。
その感触に一瞬顔を顰める白夜だったが、今はそんな感触にどうこう出来るような余裕がないことは理解している。
再び金属の棍を振るい、音也の近くにいる別のゴブリンの頭部を砕く。
ゴブリンと戦うときに狙う場所として、一番狙いやすいのは頭部だ。
そもそもゴブリンは小さいので、胴体や手足を狙うより頭部の方が手近な位置にあって狙いやすい。
同時に、頭部を砕けばゴブリンも確実に死ぬ。
下手にいらない情けを出してゴブリンを生かし、結果としてあとで逆襲を食らうような真似は絶対にしたくなかった。
特に今は弓奈や杏といった女を連れているのだから、その気持ちは人一倍強い。
それを抜きにしても、自分の知り合い……自分を師匠にしたいと、そう言うような物好きな音也を捕らえていた相手だ。
ましてやその音也を殺そうとしていたのだから、鷹揚な気持ちを抱けるはずもなかった。
だが、ゴブリンたちも続けて二匹も仲間を殺されれば、金属の棍を持っている白夜を敵として認識するのは当然だろう。
もっとも、ゴブリンはこの時点でも白夜の実力を見抜けない者もおり、そのゴブリンにとっては、むしろ餌が増えたと食欲に視線を向ける者もいる。
それらのゴブリンたちが、手に持つ武器……錆びた短剣や棍棒といった武器を手にして、白夜を囲む。
「白夜、避けて! ウィンドアロー!」
杏の言葉に、白夜は木の蔦で縛られて地面に転がされている音也を拾い上げ、その場を離れる。
それを追おうとしたゴブリンは、白夜の側に浮かんでいたノーラから毛針を食らって痛みに呻く。
そして……一瞬動きの止まったゴブリンたちに、杏が放った魔法が炸裂した。
一撃でゴブリンを殺すだけの威力を持っている訳ではないが、風の矢は数が多く、次々にゴブリンに傷を与えていく。
中には運が悪く、首筋を切られて派手に血を流しているゴブリンの姿もある。
だが、ほとんどのゴブリンは小さな切り傷程度の傷で、すぐに音也を……自分たちの獲物として攫ってきた子供を抱えて逃げている白夜を追う。
「我が内に眠る、大いなる闇よ! その力を以て敵に暗黒の世界を与えよ!」
逃げながら叫ぶと同時に、白夜の影から闇が姿を現す。
いつもは粘液のような状態で姿を現す闇なのだが、今回は霧のような……もしくは燃え尽きた灰が粉になって散らばっていくような……そんな状態で闇が顕現する。
だが、いつも使っている闇の使い方とは違うためか、その闇はそこまで広範囲には広がらない。
それでも、白夜を追うゴブリンたちの目を眩ますという意味では十分役に立つ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「え? ……白夜さん!?」
音也は、自分を抱えているのが白夜だと気が付くと強張った顔で叫ぶ。
自分が師匠にしたいと、そう思っていた人物がそこにいたのだから、驚くのは当然だろう。
「少し黙ってろ! ノーラ!」
「みゃーっ!」
人間を抱いて運ぶというのは、普通に同じ大きさの荷物を持って運ぶよりもかなり厳しい。
だというのに、白夜は音也を抱きながら運びつつ、自分の金属の棍も持っているのだ。
その分動きにくくなり、白夜が近くを飛んでいるノーラに追ってくるゴブリンの足を止めるように指示を出すのは当然だった。
自分たちの食料を持って逃げ出した白夜を追っていた、複数のゴブリンが悲鳴を上げる。
放たれた毛針が身体や顔、中には目に突き刺さったことによる悲鳴だ。
その痛みに地面を転がるゴブリンは、当然のように背後から追ってくる別のゴブリンの邪魔になる。
躓(つまず)かれた程度であればまだしも、運の悪いゴブリンは背後からやってきた仲間に踏み潰された者もいた。
だが、その程度で減ったゴブリンの数はそう多くない。
元々非常に繁殖力が強いのがゴブリンの特徴だ。
仲間が数匹死んだところで、特に気にした様子もなく白夜を追う。
「くそっ、ゴブリンが相手でも、これだけの数をどうしろってんだ!」
一瞬だけ後ろに視線を向け、自分を追ってきているゴブリンの数が十匹や二十匹程度ではないことに、白夜の口から苛立ちが漏れる。
それこそ数匹のゴブリンであれば、白夜も自分の力でどうにか出来る自信があった。
また、魔法を使える杏の存在も考えれば、それこそ十匹や二十匹くらいであれば、どうにか出来たかもしれない。
だが……今、追ってきている数をどうにか出来るかと言えば、それは難しいだろう。
ましてや、ゴブリンの集落から逃げているのだから追ってきているゴブリンの数は増えることはあっても減ることは殆どない。
……その数少ない例外が、仲間のゴブリンに踏み潰されて殺されただろうゴブリンたちだったのだが……
(くそっ、どこかで道のない場所に逃げ込まないと)
元々白夜は、七色に輝く虹色の髪を持っている。
人よりも目立つという点や、女と話すときに話のとっかかりになるという点では有利なのだが……逆に言えば、隠れるといった隠密行動をするには全く向いていない髪だった。
切ったり、もしくは帽子を被るといった手段を使えば虹色の髪も隠せるのだが……そんな真似をした場合、闇の能力に悪影響が出るというのは、これまでの経験から理解している。
白夜は音也を抱えたまま、ゴブリンに追いつかれないように走りながら道も何もない茂みの中へ突っ込むのだった。
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
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ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
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