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11話
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「あー……くそっ、面倒臭いな!」
苛立ちの声を上げながら、白夜は鉈を振るう。
白夜の前でその歩みを邪魔していた茂みは、鉈の刃であっさりと切断され、道を開く。
「面倒臭いって言うなら、こっちだってそうよ。山の中をこの姿で進むなんて、ちょっと洒落になってないと思わない?」
不服そうに叫ぶのは、白夜の後ろを歩いている杏だ。
ローブを着て杖を持つという、どこからどう見ても魔法使いとしか思えない様子の杏だったが、そんな姿で山道を歩くのが辛いのは事実だった。
「何言ってるんだよ。だから俺が前を進んでるんだろ?」
「あのね、女の私に先を進めって言うの?」
「あのな、俺はこの鉈の他に自前の武器も持ってるんだぞ? 明らかに俺の方が……」
「みゃー!」
言い争いになりそうな気配を察したのだろう。空中を飛んでいたノーラが、警告するような鳴き声を上げる。
白夜も、ここで何かを言えばまた面倒になると判断したのだろう。それ以上は後ろの杏に文句を言わず、再び山道を進み始める。
何故こうして二人が……正確には二人と一匹が山の中を歩いているのかといえば、昨日ギルドに呼ばれた件だった。
曰く、東京からそれほど離れていない場所でゴブリンの姿を見た者がいる。念のために調べてきて欲しい、と。
白夜と杏に声をかけられたのは、この二人は今までにいくつも依頼を達成しており、今回の件でも大丈夫だと判断されたから……そう説明されたが、二人ともそんな説明を馬鹿正直に納得するようなことはない。
そもそもゴブリンのことを調べるのであれば、他にも人数を回してもおかしくはない。
山の中にいる……かもしれないゴブリンの集落を調べるのだから、それをたった二人でやれという方が無理だろう。
なのに、二人……いや、二人と一匹での依頼となれば、その裏に何かあるのではないかと疑ってもおかしくはなかった。
「ギルド、何を考えてると思う?」
獣道すらもない山の中、目の前にある茂みを鉈で切り払いつつ、白夜は後ろを進む杏に尋ねる。
「分からないわよ。一応ゴブリンは弱い相手だから、私たちなら襲撃されても大丈夫だって、そう言ってたけど……」
「どう考えても、フラグだよな」
「フラグ? 何が?」
呟かれた白夜の言葉に、杏が不思議そうに尋ねる。
「いや、昨日ギルドに呼び出される前に、授業でゴブリンについて話が出たんだよ。……で、そこれからすぐにこうだろ? 普通に考えて、フラグだって思わないか?」
「それは……けど、だとすれば、私は白夜のフラグに巻き込まれたってこと? 冗談じゃないわよ」
思い切り不服そうな様子の杏だったが、白夜は前を向いて鉈を振るっているために、そんな杏の姿は見ることが出来ない。
(まあ、デートって考えればそんなに悪くはないんだろうけどな。……何だかんだと杏は結構美人だし、胸もそれなりに大きいからな)
以前見た私服姿の杏の姿を思い出しながら、白夜は鉈を振るって藪を払う。
Dカップに限りなく近い大きさのCカップの胸は、普段ローブで身体を隠している杏だけにかなりの破壊力を持っていた。
「……ちょっと白夜。何か妙なことを考えてないでしょうね?」
背筋にゾクリとしたものを感じた杏が、自分の前を進む白夜に尋ねる。
白夜が女好きでオープンスケベなのは、それなりに有名なことだ。
それでも白夜と二人きりで山の中に行くという依頼を杏が拒否しなかったのは、オープンスケベで女好きな白夜であっても、性欲に負けて襲ってくることはないと信じていたからか。
……どちらかといえば、信じているのは白夜よりもその近くを飛んでいる白夜のお目付役に近いノーラの存在というのが正しいのかもしれないが。
「みゃー?」
そんな杏の期待に応えるように、空中に浮かんでいるノーラは鳴き声を上げる。
「うん? 妙なこと? 別に何も考えないけど? とにかく、どうにかしてゴブリンを探そうとしか思ってないし」
前を向き、そう言いながら白夜は再び鉈を振るう。
そんな白夜の様子を疑問に思いながらも、これ以上白夜を怪しんで雰囲気を悪くすることはないだろうと判断し、杏は話題を変える。
そして今日集まってから気になっていたことを、口に出す。
「ねぇ、白夜。何であんたはそんな格好なの?」
杏の視線の先にあるのは、白夜の後ろ姿……正確にはその身体を覆っている服だ。
ところどころ金属で補強されているが、基本的には布で出来た服。……そう、防具ではなく服。
もちろん杏が着ているローブも、防具と呼ぶのに相応しいとは思えない。
だが、杏の場合は魔法使いとして活動する以上、あまり重い防具を使うことは出来なかった。
特に魔力は布以外のものを嫌うことが多く、特に魔力が込められた金属、それ以外にも様々な素材を使ったものでなければ、魔力が阻害されることがある。
そして魔力が込められた装備品は当然のように高価で、トワイライトの隊員ならまだしも、ネクストの生徒で……ましてや魔力媒体を始めとして多くの金銭を必要とする魔法使いがそう簡単に用意出来るものではない。
そんな魔法使いの杏と違い、白夜は長物……金属の棍を使っての戦闘を得意としている。
そうである以上しっかりと防御を固めるのが普通だったし、後衛で魔法を使う杏にとっても、前衛の白夜にはしっかりとした防具を装備して欲しいと思うのは当然だった。
「ん? これか? 俺はどっちかというと攻撃を回避するタイプだからな。ゲーム的に言えば、重戦士じゃなくて、軽戦士的な感じで。だから、出来るだけ動きを阻害しない方がいいんだよ」
「あのね、これはゲームじゃなくて現実よ? ……魔法を使ってる私が言うべきことじゃないかもしれないけど」
溜息を吐く杏だったが、その溜息が白夜のゲーム発言に対するものなのか、それとも自分の魔法とゲームの魔法の違いによるものなのか……あるいは、その両方なのかは溜息を吐いた本人にも分からなかった。
「いや、別に俺はふざけてる訳じゃ……」
「どうしたの?」
「静かに」
喋っている途中で急に黙った白夜を怪しんで杏が声をかけるが、戻ってきたのは緊張した様子の白夜の声。
その緊張が何を見てもたらされたものなのかは……杏も白夜の視線を追えばすぐに分かった。
何故なら、白夜の視線の先には、三匹のゴブリンの姿があったのだから。
それも、たたそこにいるのはない。
三匹の内の二匹が協力して長い棒を持ち、運んでいた。
それだけであれば問題はない。ただし、その棒に白夜よりも少し年下……高校生になったかどうかといったくらいの年齢の女の手足が縛り付けられていなければ、の話だが。
何を目的としてゴブリンがこのような真似をしているのかは、考えるまでもなく明らかだ。
基本的に雄しか存在しないゴブリンは、多種族の牝を利用して繁殖している。
さらに、もう繁殖できなくなれば次はゴブリンたちの食料という役目もある。
そう考えると、同じ女として杏は黙っていられなかった。
「白夜、助けるわよ」
「ああ、当然だ!」
そして黙っていられないとのは、女好きを公言している白夜もまた変わらない。
これで連れ去られているのが男であれば、それこそまだ助けず、ゴブリンの集落が見える場所まで案内させてから助けるという手段を採ったかもしれない。
ともあれ、二人はすぐに視線の先……少し離れた場所を移動するゴブリンに向かって急いで近付いていく。
元々決して身体能力が高くないゴブリンが、女を一人運んでいるのだ。
当然その移動速度は普通に歩くよりも遅くなる。
そんな相手に追いつくのは、魔法使いの杏であっても難しくはない。
「白夜、あんたゴブリンを戦ったことは!?」
「ネクストに来る前に、何回か」
杏の言葉に、白夜は山道を走りながらそう呟く。
白夜にとって、ネクストに来る前のことは決して思い出したいことばかりではない。
そんな白夜の言葉に何か察したのか、杏はそれ以上は白夜の過去を追及せず、今は目の前のことに専念する。
「そう、じゃあ前衛は任せてもいいわね? ゴブリンはそれなりに知能があるから……」
「分かってる。その辺は昨日の授業でも習ったよ。俺がこのままゴブリンに突っ込むから、杏は魔法を使って先制攻撃してくれ。俺はゴブリンが混乱したところで、あの女を何とか確保する」
「ええ、気をつけてね」
短く呟き、山道を移動していた杏は足を止める。
自分の魔法の射程内に入ったと、そう理解したからだ。
白夜はそんな杏の姿を気にする様子もなく、山道を走りながら金属の棍を構える。
「ノーラ」
「みゃ!」
白夜の言葉に、ノーラは短く鳴く。
何をして欲しいのかを理解しているからこそ、その短いやりとりだけですぐに鳴き声を上げたのだろう。
そうしてノーラの鳴き声を聞きながら、白夜は真っ直ぐにゴブリンに突っ込んでいく。
そんな動きをしていれば、当然ゴブリンも自分たちに近付いてくる相手に気が付くのは当然で、女を縛っている棒を地面に放り投げながらそれぞれ武器を手に取る。
木の枝を折って作った棍棒や、錆びた短剣といった武器だが、攻撃力という意味では十分なのだろう。
実際、その武器を用いて女を捕らえることには成功しているのだから。
「ウィンドエッジ!」
背後から聞こえてきたのは、杏の声。
その声と共に、白夜のすぐ側を何かが飛んでいく。
それが風の刃だと理解している白夜は、特に驚いた様子もなく足を止めることもない。
「うおおおおおおっ!」
雄叫びを上げ、ゴブリンを牽制しながら金属の棍を振り回す。
多少茂みが邪魔をするが、白夜は強引に山道を進む。
木々が服に引っかかる感触もあったが、それを気にした様子もなく強引に足を動かす。
ゴブリンたちも近付いてくる白夜には気が付いていたのだが、迎撃の態勢をとるよりも前に風の刃が飛んできてそれどころではなかった。
幸いにも……いや、白夜と杏にとっては不幸にもと言うべきだが、三匹のゴブリンは多少の斬り傷を負ったものの、致命傷となるほどのダメージとはならない。
それでも、ゴブリンたちの行動を乱すには十分で……そこに、白夜が突っ込む。
「はああぁあぁあぁぁっ!」
女を連れ去ろうとしたゴブリンに対して、苛立ちを露わにしながら金属の棍を振るう。
最初に白夜に狙われたゴブリンは、咄嗟に手に持っている棍棒でその一撃を防ごうとするが……金属をきちんと加工して作った棍と、折れた木の枝をそのまま使っている棍棒。
その二つがぶつかり合えば、どうなるのかは明白だった。
白夜の一撃の直撃は防いだものの、ゴブリンは持っていた棍棒を折られ、その衝撃と同時に吹き飛ばされる。
元々ゴブリンは人間の子供と違わない程度の身長……百センチ程度しかない。
それだけに、白夜の一撃はゴブリンにとって防ぐことは出来なかった。
だが、それでも棍棒を盾代わりにして直撃だけは避けた辺り、ゴブリンの本能的な動きなのだろう。
「ギャギャギャ!」
山道を吹き飛ばされ、地面にある石や木の枝で身体を傷つけた痛みでゴブリンが叫ぶ。
今の一撃の衝撃で、ゴブリンの唯一の防具――と呼ぶには躊躇うが――の腰布が身体から剥がされる。
そうなれば当然ゴブリンは何も着ていない状況になる訳で……
「汚えものを、見せてんじゃ……ねぇっ!」
その叫びと共に振るわれた金属の棍棒は、あっさりと地面に倒れているゴブリンの頭部を砕く。
手に返ってきた、骨を砕く感触に一瞬だけ嫌な表情を浮かべた白夜だったが、戦闘の中ではその一瞬の隙が致命的な隙ともなる。
「ギョギョギョ!」
白夜の後ろから、錆びた短剣を持ったゴブリンがその切っ先を埋めようと襲いかかるも……
「みゃ-!」
「ギャギョ!?」
白夜の上空を飛んでいたノーラが、毛針を放つ。
真っ直ぐに飛んだ毛針は、ゴブリンの眼球に突き刺さる。
眼球を攻撃されるという、ゴブリンにとっては……いや、生き物にとっては最悪に近い攻撃を方法をされたことにより、ゴブリンは地面を転げ回る。
そして次の瞬間には、我に返った白夜が再び金属の棍を振り下ろしてゴブリンの頭部を砕く。
「もう一匹!」
全部で三匹いたゴブリンのうち、最後の一匹を倒そうと向き直るが……
「ギャギャギャ!」
振り向いたときには、ゴブリンは身体中から血を流し、悲鳴を上げながら地面を転げ回っている。
誰がこのような真似をしたのかというのは、考えるまでもない。
「ふんっ、女を何だと思ってるのかしら」
全てのゴブリンを倒したと判断した杏が、杖を手に地面を転げ回っているゴブリンの前に立っていたのだから。
それも……杖を持ち上げ柄の先端部分……槍では石突きと呼ばれる尖った部分をゴブリンに向けながら。
嫌悪感を露わに、杏はその杖の先端部分でゴブリンの頭部を砕くのだった。
苛立ちの声を上げながら、白夜は鉈を振るう。
白夜の前でその歩みを邪魔していた茂みは、鉈の刃であっさりと切断され、道を開く。
「面倒臭いって言うなら、こっちだってそうよ。山の中をこの姿で進むなんて、ちょっと洒落になってないと思わない?」
不服そうに叫ぶのは、白夜の後ろを歩いている杏だ。
ローブを着て杖を持つという、どこからどう見ても魔法使いとしか思えない様子の杏だったが、そんな姿で山道を歩くのが辛いのは事実だった。
「何言ってるんだよ。だから俺が前を進んでるんだろ?」
「あのね、女の私に先を進めって言うの?」
「あのな、俺はこの鉈の他に自前の武器も持ってるんだぞ? 明らかに俺の方が……」
「みゃー!」
言い争いになりそうな気配を察したのだろう。空中を飛んでいたノーラが、警告するような鳴き声を上げる。
白夜も、ここで何かを言えばまた面倒になると判断したのだろう。それ以上は後ろの杏に文句を言わず、再び山道を進み始める。
何故こうして二人が……正確には二人と一匹が山の中を歩いているのかといえば、昨日ギルドに呼ばれた件だった。
曰く、東京からそれほど離れていない場所でゴブリンの姿を見た者がいる。念のために調べてきて欲しい、と。
白夜と杏に声をかけられたのは、この二人は今までにいくつも依頼を達成しており、今回の件でも大丈夫だと判断されたから……そう説明されたが、二人ともそんな説明を馬鹿正直に納得するようなことはない。
そもそもゴブリンのことを調べるのであれば、他にも人数を回してもおかしくはない。
山の中にいる……かもしれないゴブリンの集落を調べるのだから、それをたった二人でやれという方が無理だろう。
なのに、二人……いや、二人と一匹での依頼となれば、その裏に何かあるのではないかと疑ってもおかしくはなかった。
「ギルド、何を考えてると思う?」
獣道すらもない山の中、目の前にある茂みを鉈で切り払いつつ、白夜は後ろを進む杏に尋ねる。
「分からないわよ。一応ゴブリンは弱い相手だから、私たちなら襲撃されても大丈夫だって、そう言ってたけど……」
「どう考えても、フラグだよな」
「フラグ? 何が?」
呟かれた白夜の言葉に、杏が不思議そうに尋ねる。
「いや、昨日ギルドに呼び出される前に、授業でゴブリンについて話が出たんだよ。……で、そこれからすぐにこうだろ? 普通に考えて、フラグだって思わないか?」
「それは……けど、だとすれば、私は白夜のフラグに巻き込まれたってこと? 冗談じゃないわよ」
思い切り不服そうな様子の杏だったが、白夜は前を向いて鉈を振るっているために、そんな杏の姿は見ることが出来ない。
(まあ、デートって考えればそんなに悪くはないんだろうけどな。……何だかんだと杏は結構美人だし、胸もそれなりに大きいからな)
以前見た私服姿の杏の姿を思い出しながら、白夜は鉈を振るって藪を払う。
Dカップに限りなく近い大きさのCカップの胸は、普段ローブで身体を隠している杏だけにかなりの破壊力を持っていた。
「……ちょっと白夜。何か妙なことを考えてないでしょうね?」
背筋にゾクリとしたものを感じた杏が、自分の前を進む白夜に尋ねる。
白夜が女好きでオープンスケベなのは、それなりに有名なことだ。
それでも白夜と二人きりで山の中に行くという依頼を杏が拒否しなかったのは、オープンスケベで女好きな白夜であっても、性欲に負けて襲ってくることはないと信じていたからか。
……どちらかといえば、信じているのは白夜よりもその近くを飛んでいる白夜のお目付役に近いノーラの存在というのが正しいのかもしれないが。
「みゃー?」
そんな杏の期待に応えるように、空中に浮かんでいるノーラは鳴き声を上げる。
「うん? 妙なこと? 別に何も考えないけど? とにかく、どうにかしてゴブリンを探そうとしか思ってないし」
前を向き、そう言いながら白夜は再び鉈を振るう。
そんな白夜の様子を疑問に思いながらも、これ以上白夜を怪しんで雰囲気を悪くすることはないだろうと判断し、杏は話題を変える。
そして今日集まってから気になっていたことを、口に出す。
「ねぇ、白夜。何であんたはそんな格好なの?」
杏の視線の先にあるのは、白夜の後ろ姿……正確にはその身体を覆っている服だ。
ところどころ金属で補強されているが、基本的には布で出来た服。……そう、防具ではなく服。
もちろん杏が着ているローブも、防具と呼ぶのに相応しいとは思えない。
だが、杏の場合は魔法使いとして活動する以上、あまり重い防具を使うことは出来なかった。
特に魔力は布以外のものを嫌うことが多く、特に魔力が込められた金属、それ以外にも様々な素材を使ったものでなければ、魔力が阻害されることがある。
そして魔力が込められた装備品は当然のように高価で、トワイライトの隊員ならまだしも、ネクストの生徒で……ましてや魔力媒体を始めとして多くの金銭を必要とする魔法使いがそう簡単に用意出来るものではない。
そんな魔法使いの杏と違い、白夜は長物……金属の棍を使っての戦闘を得意としている。
そうである以上しっかりと防御を固めるのが普通だったし、後衛で魔法を使う杏にとっても、前衛の白夜にはしっかりとした防具を装備して欲しいと思うのは当然だった。
「ん? これか? 俺はどっちかというと攻撃を回避するタイプだからな。ゲーム的に言えば、重戦士じゃなくて、軽戦士的な感じで。だから、出来るだけ動きを阻害しない方がいいんだよ」
「あのね、これはゲームじゃなくて現実よ? ……魔法を使ってる私が言うべきことじゃないかもしれないけど」
溜息を吐く杏だったが、その溜息が白夜のゲーム発言に対するものなのか、それとも自分の魔法とゲームの魔法の違いによるものなのか……あるいは、その両方なのかは溜息を吐いた本人にも分からなかった。
「いや、別に俺はふざけてる訳じゃ……」
「どうしたの?」
「静かに」
喋っている途中で急に黙った白夜を怪しんで杏が声をかけるが、戻ってきたのは緊張した様子の白夜の声。
その緊張が何を見てもたらされたものなのかは……杏も白夜の視線を追えばすぐに分かった。
何故なら、白夜の視線の先には、三匹のゴブリンの姿があったのだから。
それも、たたそこにいるのはない。
三匹の内の二匹が協力して長い棒を持ち、運んでいた。
それだけであれば問題はない。ただし、その棒に白夜よりも少し年下……高校生になったかどうかといったくらいの年齢の女の手足が縛り付けられていなければ、の話だが。
何を目的としてゴブリンがこのような真似をしているのかは、考えるまでもなく明らかだ。
基本的に雄しか存在しないゴブリンは、多種族の牝を利用して繁殖している。
さらに、もう繁殖できなくなれば次はゴブリンたちの食料という役目もある。
そう考えると、同じ女として杏は黙っていられなかった。
「白夜、助けるわよ」
「ああ、当然だ!」
そして黙っていられないとのは、女好きを公言している白夜もまた変わらない。
これで連れ去られているのが男であれば、それこそまだ助けず、ゴブリンの集落が見える場所まで案内させてから助けるという手段を採ったかもしれない。
ともあれ、二人はすぐに視線の先……少し離れた場所を移動するゴブリンに向かって急いで近付いていく。
元々決して身体能力が高くないゴブリンが、女を一人運んでいるのだ。
当然その移動速度は普通に歩くよりも遅くなる。
そんな相手に追いつくのは、魔法使いの杏であっても難しくはない。
「白夜、あんたゴブリンを戦ったことは!?」
「ネクストに来る前に、何回か」
杏の言葉に、白夜は山道を走りながらそう呟く。
白夜にとって、ネクストに来る前のことは決して思い出したいことばかりではない。
そんな白夜の言葉に何か察したのか、杏はそれ以上は白夜の過去を追及せず、今は目の前のことに専念する。
「そう、じゃあ前衛は任せてもいいわね? ゴブリンはそれなりに知能があるから……」
「分かってる。その辺は昨日の授業でも習ったよ。俺がこのままゴブリンに突っ込むから、杏は魔法を使って先制攻撃してくれ。俺はゴブリンが混乱したところで、あの女を何とか確保する」
「ええ、気をつけてね」
短く呟き、山道を移動していた杏は足を止める。
自分の魔法の射程内に入ったと、そう理解したからだ。
白夜はそんな杏の姿を気にする様子もなく、山道を走りながら金属の棍を構える。
「ノーラ」
「みゃ!」
白夜の言葉に、ノーラは短く鳴く。
何をして欲しいのかを理解しているからこそ、その短いやりとりだけですぐに鳴き声を上げたのだろう。
そうしてノーラの鳴き声を聞きながら、白夜は真っ直ぐにゴブリンに突っ込んでいく。
そんな動きをしていれば、当然ゴブリンも自分たちに近付いてくる相手に気が付くのは当然で、女を縛っている棒を地面に放り投げながらそれぞれ武器を手に取る。
木の枝を折って作った棍棒や、錆びた短剣といった武器だが、攻撃力という意味では十分なのだろう。
実際、その武器を用いて女を捕らえることには成功しているのだから。
「ウィンドエッジ!」
背後から聞こえてきたのは、杏の声。
その声と共に、白夜のすぐ側を何かが飛んでいく。
それが風の刃だと理解している白夜は、特に驚いた様子もなく足を止めることもない。
「うおおおおおおっ!」
雄叫びを上げ、ゴブリンを牽制しながら金属の棍を振り回す。
多少茂みが邪魔をするが、白夜は強引に山道を進む。
木々が服に引っかかる感触もあったが、それを気にした様子もなく強引に足を動かす。
ゴブリンたちも近付いてくる白夜には気が付いていたのだが、迎撃の態勢をとるよりも前に風の刃が飛んできてそれどころではなかった。
幸いにも……いや、白夜と杏にとっては不幸にもと言うべきだが、三匹のゴブリンは多少の斬り傷を負ったものの、致命傷となるほどのダメージとはならない。
それでも、ゴブリンたちの行動を乱すには十分で……そこに、白夜が突っ込む。
「はああぁあぁあぁぁっ!」
女を連れ去ろうとしたゴブリンに対して、苛立ちを露わにしながら金属の棍を振るう。
最初に白夜に狙われたゴブリンは、咄嗟に手に持っている棍棒でその一撃を防ごうとするが……金属をきちんと加工して作った棍と、折れた木の枝をそのまま使っている棍棒。
その二つがぶつかり合えば、どうなるのかは明白だった。
白夜の一撃の直撃は防いだものの、ゴブリンは持っていた棍棒を折られ、その衝撃と同時に吹き飛ばされる。
元々ゴブリンは人間の子供と違わない程度の身長……百センチ程度しかない。
それだけに、白夜の一撃はゴブリンにとって防ぐことは出来なかった。
だが、それでも棍棒を盾代わりにして直撃だけは避けた辺り、ゴブリンの本能的な動きなのだろう。
「ギャギャギャ!」
山道を吹き飛ばされ、地面にある石や木の枝で身体を傷つけた痛みでゴブリンが叫ぶ。
今の一撃の衝撃で、ゴブリンの唯一の防具――と呼ぶには躊躇うが――の腰布が身体から剥がされる。
そうなれば当然ゴブリンは何も着ていない状況になる訳で……
「汚えものを、見せてんじゃ……ねぇっ!」
その叫びと共に振るわれた金属の棍棒は、あっさりと地面に倒れているゴブリンの頭部を砕く。
手に返ってきた、骨を砕く感触に一瞬だけ嫌な表情を浮かべた白夜だったが、戦闘の中ではその一瞬の隙が致命的な隙ともなる。
「ギョギョギョ!」
白夜の後ろから、錆びた短剣を持ったゴブリンがその切っ先を埋めようと襲いかかるも……
「みゃ-!」
「ギャギョ!?」
白夜の上空を飛んでいたノーラが、毛針を放つ。
真っ直ぐに飛んだ毛針は、ゴブリンの眼球に突き刺さる。
眼球を攻撃されるという、ゴブリンにとっては……いや、生き物にとっては最悪に近い攻撃を方法をされたことにより、ゴブリンは地面を転げ回る。
そして次の瞬間には、我に返った白夜が再び金属の棍を振り下ろしてゴブリンの頭部を砕く。
「もう一匹!」
全部で三匹いたゴブリンのうち、最後の一匹を倒そうと向き直るが……
「ギャギャギャ!」
振り向いたときには、ゴブリンは身体中から血を流し、悲鳴を上げながら地面を転げ回っている。
誰がこのような真似をしたのかというのは、考えるまでもない。
「ふんっ、女を何だと思ってるのかしら」
全てのゴブリンを倒したと判断した杏が、杖を手に地面を転げ回っているゴブリンの前に立っていたのだから。
それも……杖を持ち上げ柄の先端部分……槍では石突きと呼ばれる尖った部分をゴブリンに向けながら。
嫌悪感を露わに、杏はその杖の先端部分でゴブリンの頭部を砕くのだった。
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危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
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