上 下
416 / 422
ガリンダミア帝国との決着

415話

しおりを挟む
 レオノーラ、とそうアランに念話で名前を呼ばれたものの、だからといってレオノーラもすぐそれに対応出来る訳ではない。
 黄金のドラゴンに姿を変えたレオノーラは、アポカリプスを相手に必死に攻撃をしていた。
 とはいえ、アポカリプスはレオノーラの……正確にはレオノーラに協力を要請したアランの心をへし折るために、特に攻撃らしい攻撃を行ってはいない。
 黄金のドラゴンによるレーザーブレスや、鋭い爪や牙、尻尾の一撃……そんな攻撃を受けはするものの、それだけでしかない。
 レオノーラにしてみれば、今のそんなアポカリプスの態度はかなり苛立ちを覚える。
 アランと自分くらいにしか分からない、一寸法師という言葉でどのように攻撃をするのか決めたが……フェルスといったような攻撃手段を持っているゼオンと違い、黄金のドラゴンは自分どうにかしてアポカリプスの体内を攻撃するしかない。
 最初こそ、爪や牙の一撃でアポカリプスの鱗を、皮膚を切り裂き、その体内にレーザーブレスを放つといったようなことも考えてはいたのだが、レオノーラにしてもアポカリプスの防御能力は予想以上の代物だった。
 とはいえ、そんな攻撃をアポカリプスにしている中でもアランに呼ばれてしまえば……今はとてもではないが行ける状態ではないのだが、とにかくどうにかする必要があると考えるのは間違いない。

(しょうがないね!)

 結局今の状況でアポカリプスに有効なダメージを与えることが出来ている……というのは少し大袈裟かもしれないが、それでもアポカリプスの嫌がることを出来ているのはゼオンだけである以上、レオノーラは悔しいが、今ここでアランの救援要請を無視するという訳にはいかなかった。
 ましてや、レオノーラも竜人の攻撃がどのような効果をもたらしているのかを把握している以上、竜人をそのままにしておく訳にはいかない。
 鋭い尻尾の一撃をアポカリプスの胴体に向けて放つ。
 だが、黄金のドラゴンは全長が二十メートルに届かないくらいなのに対し、アポカリプスは全長が五十メートルほどもる。
 純粋に大きさだけで考えた場合、黄金のドラゴンはアポカリプスの半分以下しないのだ。
 そんな中で黄金のドラゴンが尻尾の一撃を放ったとして、その一撃がアポカリプスに与えるダメージは決して大きくない。大きくないが……しかし、レオノーラにしてみればそれで全く問題はなかった。
 何しろ今の一撃はアポカリプスにダメージを与えるために行った訳ではなく、あくまでもその一撃の衝撃を推進力にし……同時に、アポカリプスに対するフェイントという一面もあったのだから。
 そういう意味では、レオノーラの目論見は成功したのは間違いない。
 尻尾の一撃の反動で強引に自分の身体を移動させ、アポカリプスにとっても予想外の動きをすることでその身体を避けながらゼオンのいる方に向かい……翼を使うことで空中で器用に回転し、空を飛ぶ竜人に尻尾の振り下ろすような一撃を叩き込むことに成功したのだから。

「ぐおぉっ!」

 アポカリプスには大して効かないような尻尾の一撃ではあるが、それはあくまでも全長五十メートルほどの巨体を持つ相手だからだ。
 竜人は大きさという点では三メートル程度の身長しかなく、そういう意味では本来なら黄金のドラゴンが放った尻尾の一撃は致命傷だろう。
 だが……仮にも竜人であり、ドラゴンの系譜に連なるモンスターだけあって身体が強固な鱗に覆われており、防御力は高い。
 だからこそ、黄金のドラゴンの尻尾の一撃を食らっても大きなダメージを受けたものの、一撃で殺すといったような真似は出来なかった。
 だが……殺すことは出来なくても、尻尾によって上から叩き付けるような一撃なのだ。
 当然のように地上に向かって吹き飛ばされ、強烈な勢いで地面に叩き付けられる。

「よし、敵が来たぞ! 全員、攻撃だ!」
「うおおおおおおおっ!」

 雲海の探索者の一人が叫び、それに応じるように多くの者が一斉に攻撃を始めた。
 竜人にしてみれば、地面に叩き付けられてろくに身動きが出来ない状態で周囲にいる者達から一斉に攻撃されるのだ。
 それも現在は黄金のドラゴンの尻尾による一撃で、死なないまでも重傷と呼ぶに相応しい怪我を負っており、地面に叩き付けられた衝撃でろくに動けない。
 そう考えると、今のこの状況でどうにか出来るはずもなく……自分に振るわれる攻撃を何とか防ぎ、何とか一発逆転のチャンスを待つのみだ。
 とはいえ、アポカリプスが出てからの自分達の情けなさから何とかしたいと思っている以上、攻撃をしている者達も迂闊に手を抜くなどといったような真似はしない。
 そうして次々に攻撃が行われ……このままでは何も出来ず、一方的に攻撃されて死ぬと竜人は判断する。
 万全の状態であれば、このように攻撃をされ続けても耐え抜き、隙を窺って攻撃をするといった真似も可能だろう。
 だが、今の竜人は黄金のドラゴンの一撃でかなりの傷を負っており、本来なら強固な防御力を発揮する筈の鱗も破損している場所が多い。
 そのような状況である以上、この状況はジリ貧でしかない以上、一か八かの賭けにでるしかない。

「うおおおおおおっ!」

 雄叫びと共にブレスを吐く。
 竜人のブレスの威力を知っている者達は一瞬躊躇したが……それでも今は攻撃あるのみだと判断して攻撃を続ける。
 特にロッコーモの変身したオーガは、手に持つ棍棒で思い切り竜人を殴りつけていた。

(よし、このままなら、あの竜人は何とかなるはず。なら、今のうちにとにかくアポカリプスの眼球を狙って、その体内を攻撃すれば!)

 地上で行われているのは倒れている竜人の周囲に雲海や黄金の薔薇の探索者や心核使いがあつまり、一斉に攻撃するといったような行動だ。
 傍から見れば、それは一方的な集団暴行のようにも見えるし、事実やっている行為そのものはそう違いはないだろう。
 だが……この場合問題なのは、ここで少しでも手を緩めれば、集団暴行されているほうが一瞬にして戦局を引っ繰り返すような攻撃手段を持っているということだろう。
 空間その物をえぐり取るような竜人のブレスは、一度放たれれば防ぐ術はなく、ただ回避するしかない。
 そして回避出来るのも、非常に難易度が高い。
 だからこそ、ブレスを使った攻撃をさせないように動ける者達が集中して攻撃していたのだ。
 そんな地上の様子をコックピットの映像モニタで確認すると、アランは再びフェルスを使ってアポカリプスに攻撃をしようとしたのだが……

『少し、僕が甘すぎたかな? もう少し躾けをした方がいいのかもしれないね』

 アランがフェルスに向かって攻撃をしようした瞬間、まるでそのタイミングを見計らっていたかのようにアランの頭の中にビッシュの念話が響く。
 その言葉には、どこか不吉な色があった。
 アポカリプスという、明らかに規格外の戦力を有しながらも、今までビッシュはあくまでもアランの心を折るというのを優先しており、積極的に攻撃をしてくるようなことはなかった。
 眼球に向かってフェルスを放たれても、その攻撃を回避したり防いだりといったような真似はしつつも、明確な反撃はしていなかったのだ。

「レオノーラ!」

 幸いにも、先程の竜人は黄金のドラゴンの一撃で地上に吹き飛ばされている。
 それはつまり、竜人からそう離れていない場所にいたゼオンと黄金のドラゴンはすぐ近くにいたということになるのだ。
 アポカリプスの向こう側にいた先程までの状況と比べれば、今の方が圧倒的に有利な状況なのは間違いない。
 ……問題なのは、そのような状況であってもアポカリプスは強力な……強力すぎる存在であるということなのだが。

『分かってるわ! 向こうが何をしてこようが、それに対処してみせる!』

 アランの叫びに、レオノーラからの念話が返ってくる。
 レオノーラにしてみれば、アポカリプスは極めて強大な敵だ。
 それは理解しているものの、だからといってここで諦めるといった選択肢は存在しない。
 今はどのような手段を使ってでもアポカリプスが行うのだろう攻撃を回避し、そこから反撃に繋げる必要があった。
 それを理解しているからこそ、レオノーラはやる気に満ちた念話を返してきたのだろう。

『取りあえず、僕の眷属を攻撃するのはその辺にして貰おうか』
「地上の連中、全員回避しろぉっ!」

 僕の眷属という言葉を聞いた瞬間、アランはそれが誰のことを言ってるのかを理解する。
 ビッシュがわざわざこの戦闘に自分から呼んだ相手が誰なのかと考えれば、その答えに行き着くのは難しい話ではない。
 そして同時に、現在竜人がどこでどのような目に遭ってるのかを考えれば、それこそ次にビッシュが何をするのか、考えるまでもないだろう。
 外部スピーカーで放たれたアランの必死の声。
 その声は、当然のように地上で竜人に攻撃を続けていた者たちの耳に届く。
 そして雲海や黄金の薔薇といったような、アランの実力をきちんと理解している者たちは即座に行動に移る。
 このときに不運だったのは、そうして素早く動いたのはあくまでもアランの実力……心核使いとしての実力を知っている者たちだけだったということだろう。
 レジスタンス連合の中でも、突出した技量を持つレジスタンスたちにしてみれば、アランとの接触時間は短い分、行動に出るのが一瞬遅れてしまう。
 中には攻撃に夢中だったり、あるいはアランのことを軽く見ているのでそんな言葉を聞くつもりはないといったように考えて攻撃をしている者もいた。
 だが……当然ながら、そのような数は少ない。
 しかし、その反応は致命的だった。

『アラン!』

 レオノーラの念話に対し、即座にアポカリプスから離れるアラン。
 そして次の瞬間、アポカリプスの持つ三つの頭のうちの二つが地上を見て……赤く光る。
 アポカリプスが行ったのは、それだけでしかない。
 それだけでしかないのだが、アランの警告を無視して竜人に攻撃をしていたレジスタンスの者たちは、次の瞬間何の脈絡もなく地面に崩れ落ちるのだった。……心臓を止めて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ルイナ

Dr.SUN
ファンタジー
【週1更新目標にしています】 クフ王ピラミッド内部で発見された遺物と、それを使用することで起こる超常的現象。 それが強大な力であることは明確だった。 国家がその力を手に入れた先に待つものは破滅か、支配か。 遺物とは何か。 なぜそこで発見されたのか。 どうしてこうなったのか。 本作は現代を舞台とした魔法系のものです。転生はしません。 カワイコチャンも出ないしカッコイイ人も出ません。 力を得た人々が破滅に突き進んでいく有様を目に焼き付けてください。 あと初作品なので感想お待ちしてます! なろうでも掲載してます https://ncode.syosetu.com/n6658hb/

蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし
ファンタジー
主人公であるルークは自身を「そこそこな実力」と語る冒険者だ。 彼は旅の途中、道で倒れていた女性を助けた。 女性の名前はシエルといい、自身を元貴族令嬢だと明かす。 彼女は婚約者であった王子に婚約破棄され、親から無能扱いされて家を追放されてしまったという。 哀れに思ったルークは彼女を最寄りの街まで連れて行くと約束する。 こうして限定的な二人旅が始まった。 ルークと共に行くシエルは、多くの初めてを経験していく。 貴族令嬢という限られた世界の中で生きてきたシエルにとって、ルークの生き方は新鮮で驚きの連続だった。 短い旅になる約束だったが、彼女が冒険者という生き方を理解していくには十分な時間だった。 旅の途中、シエルはルークに旅の目的を問う。 ルークは所有者の願いを叶える伝説の遺物『蒼の聖杯』を探していると語った。 彼女が気になって願いの内容を問うと、ルークは誤魔化すように明言を避けた。 彼の願いとは何なのか。 蒼の聖杯を探す旅の途中、願いの真相が明らかになっていく。 ※ 小説家になろうでも投稿中

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

没落貴族なのに領地改革が止まらない~前世の知識で成り上がる俺のスローライフ~

昼から山猫
ファンタジー
ある朝、社会人だった西条タカトは、目が覚めると異世界の没落貴族になっていた。 与えられたのは荒れ果てた田舎の領地と、絶望寸前の領民たち。 タカトは逃げることも考えたが、前世の日本で培った知識を活かすことで領地を立て直せるかもしれない、と決意を固める。 灌漑設備を整え、農作物の改良や簡易的な建築技術を導入するうちに、領地は少しずつ活気を取り戻していく。 しかし、繁栄を快く思わない周囲の貴族や、謎の魔物たちの存在がタカトの行く手を阻む。 さらに、この世界に転生した裏には思わぬ秘密が隠されているようで……。 仲間との出会いと共に、領地は発展を続け、タカトにとっての“新たな故郷”へと変わっていく。 スローライフを望みながらも、いつしか彼はこの世界の未来をも左右する存在となっていく。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

処理中です...