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ガリンダミア帝国との決着

414話

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 フェルスが自分の眼球に向かって飛んできたのを見たアポカリプスは、苛立たしげに唸り声を上げる。
 ビッシュの念話ではなく、アポカリプスという巨体を持つ三つ首のドラゴンの唸り声。
 その唸り声だけでも、地上にいるレジスタンス連合にとっては大きな被害となる。
 雲海と黄金の薔薇、そしてレジスタンス連合の中でも突出した強者はともかかく、普通のレジスタンスたちにしてみれば、アポカリプスの唸り声だけでも一層強力なプレッシャーを感じるのは当然だった。
 とはいえ、一部の強者はともかく、普通のレジスタンスがアポカリプスを相手にどうにか出来るのかと言われれば、その答えは否なのだが。
 そんな地上の様子とは裏腹に、ゼオンのコックピットにいるアランはアポカリプスが嫌がっている、つまりはこの攻撃は多少なりとも効果があるのだと、そう判断した。

「これなら!」

 ビームライフルを撃ちつつ、少しでもアポカリプスの意識を自分に向けるようにし、フェルスで眼球を狙う。
 当然ながら、アランが現在操っているフェルスは一基ではなく、最大の三十基だ。
 アポカリプスにしてみれば、自分の眼球に向かって突っ込んでくるフェルスというのは、非常に厄介だった。
 人間にしてみれば、指先ほどの大きさの虫が三十匹揃って……それでいながら別々の行動をしつつ、眼球に向かって突っ込んでくるようなものだ。
 身体に命中するのなら特に害はない――嫌悪感や違和感の類は別として――ものの、それが眼球に向かって突っ込んでくるとなると、当然のように話は違ってくる。
 人は目に虫ではなくゴミが入ったくらいでも、痛みによって涙を流す。
 実際にはその涙は目の中に入ったゴミを洗い流すために出ている涙だが、その際に痛みを感じるのは間違いのない事実だ。
 ゴミですらそのようなことが起こるのだ。
 ましてや、そのゴミが攻撃能力を持っており、眼球を傷つけながら奥に進み、脳を破壊しようとする……といったようなことになれば、アポカリプスにとっても笑ってどうにか出来るようなことではない。
 ましてや、アポカリプスが戦っている敵はアランのゼオンだけではなく、レオノーラが変身した黄金のドラゴンもいる。
 そうである以上、アポカリプスも油断は出来ない。
 ざまあみろ、というのがアランの正直な気持ちだった。
 とはいえ、今の状況は決してアランたちが有利という訳ではない。
 アポカリプスは……いや、ビッシュはアランたちの心を折るために、わざと自分からは攻撃をせず、相手の攻撃を受け止めてそれが全く効果がないというのをお見せつけるつもりだったのだろう。
 しかし……それは今回の件において半ば失敗していた。
 眼球を狙ってくるフェルスに対し、アポカリプスは明らかに嫌がっているのだから。
 そうして嫌がっている以上、アランの攻撃は効果があるということで、それはつまり心を折るといったような真似が出来ないということを意味していた。
 やがて、ビッシュも自分の行動が決して成功していないということを察したのか、苛立たしげに念話で叫ぶ。

『下らない真似をするのなら、お仕置きが必要だね。……やれ!』

 その言葉と同時に、アランは半ば反射的に機体を後方に下げる。
 同時に一瞬前にゼオンのいた場所を上空から飛んできた何かが貫いていく。

「なっ!? こ、これは!」

 アランはその攻撃に……より正確にはその感覚に覚えがあった。
 今まで何度か経験した、未知の攻撃。
 以前アランは攻撃をしてきた相手の大体の位置を予想して攻撃したものの、結局倒せたとは思えない相手だった。
 映像モニタで上を……攻撃の飛んできた方を見ると、そこには空を飛ぶ竜人とでも呼ぶべき存在がいた。
 その竜人の手には、何らかの黒いエネルギーが凝縮されており、恐らくそれによって攻撃をされたのだろうというのは、容易に想像出来る。
 そして続いて下を……竜人によって攻撃された先を見ると、敵の攻撃が命中した場所には何もなかった。
 正確には地面がスプーンでアイスをすくったとかのように、抉られていたという表現の方がただしい。
 それをやったのが、今の竜人による攻撃だというのは容易に予想出来る。
 今まで未知の攻撃としか思っておらず、その攻撃の全てを回避してきたアランだったが……その攻撃が一体どのような威力を持っていたのかは、こうして自分の目で見て初めて納得出来た。

「誰だ!?」

 外部スピーカーのスイッチを入れ、にそう叫ぶ。
 それは咄嗟のことではあったが、そう叫びながらも誰なのかというのは考えるまでもなく明らかだ。
 何しろ今回の戦いが始まってから何度となく同じ攻撃をされてきたのだから。
 だが……今までの戦いでは、未知の攻撃は何度もされたものの、結果として今までその姿を自分で確認したことはない。
 そうである以上、何度も攻撃をされてきたものの、その攻撃をした相手の姿をしっかりと確認出来たのは間違いなかった。
 だからこそ、竜人がアランの叫びを聞いては返事をするというのは予想外のこととなる。

『ビッシュ様の邪魔をする以上、そのままにさせる訳にはいかん!』

 聞こえてきたその声は、アランにとっても当然ながら初めて聞く声のはずだった。
 しかい、どこかで……そう思った瞬間、不意に思い出す。

(大樹の迷宮にいた奴か!?)

 アランが……正確には雲海や黄金の薔薇が挑んだ、大樹の迷宮。
 その中で巨大な鷲のモンスターと戦う機会があったのだが、その鷲のモンスターは実際に存在したのに、倒したと思った瞬間、幻のように消えてしまった。
 そんな意味不明の出来事があったのだが、その件そのものはそこまで不思議なことではない。
 古代魔法文明……ルーダーの遺跡である以上、理解出来ないような出来事が起きるのはそうおかしな話ではないのだから。
 それこそ、もっと不思議なことが起きたという経験もあるし、そのような話を聞いたこともあった。
 そんな中で、巨大な鷲の背中に乗っていた人物……ターバンで頭を覆っていた人物の叫んだ声が、今の声に近いと、そう思ったのだ。
 アランも今まで多くの相手に会ってきたし、多くの敵とも戦ってきた。
 普通であれば、戦いの中で短く言葉を交わした程度の相手の声をしっかりと覚えていたりはしない。
 だが……今こうして実際に聞いてみたとき、大樹の迷宮でのことをすぐに思い出したのだ。
 何故このようなことになったのかは分からないが、それでもアランの中で竜人が大樹の迷宮で戦った鷲に乗っていた男だというのは、はっきりと分かった。
 とはいえ……それが分かったからといって、それで特に何かが変わる訳ではない。
 今の状況を思えば、敵として出て来た以上、反撃をする以外の選択肢はない。
 あるいはアポカリプスがいない状況なら、もう少し別の選択肢を考える余裕もあったかもしれないが、今の状況でそのような真似が出来るはずもなかった。

(とにかく、敵がいるのが厄介なのは間違いない。あの竜人が厄介なのは間違いない。どうする? アポカリプスを倒すよりも前にそっちを倒すか? けど……アポカリプスを放っておく訳にもいかない)

 こうして考えている今も、アランはフェルスやビームライフル、腹部拡散ビーム砲を使ってアポカリプスを攻撃し続けている。
 だからといって、今の状況で竜人を放っておく訳にいかないのも事実だ。
 竜人の放った攻撃……地面をくり抜いた場所を見れば、その威力が凶悪なものであるというのは明らかだ。
 アポカリプスと戦っている中で、不意にそんな攻撃をされたりすれば、それは致命的になりかねない。
 かといって、今の自分がアポカリプスを相手にしてながら竜人と戦えるかと言われれば、その答えは当然のように否となる。
 アポカリプスは当然のこと、竜人も圧倒的な強者なのは間違いない。
 何より厄介なのは、その攻撃だ。
 竜人の放つ攻撃……ブレス。
 そのブレスが命中した場所は、綺麗にくり抜かれたように消滅してしまうのだ。
 ブレスの効果が具体的にどのようなものなのかは、アランにも分からない。
 ただ、前世の知識から恐らく空間そのものを消滅させるブレスだろうと予想するだけだ。
 そして何よりも厄介なのは、竜人には何らかの転移能力か何かがあると、そういうことだろう。
 アランが今まで狙われて反撃したとき、そこにこの竜人の姿はなかった。
 それはつまり、何らかの理由でその場から離れたということを意味していた。
 それだけではなく、いなくなったと思えば全く違う場所から攻撃をされたこともあった。
 それこそアポカリプスがいない場合にゼオンが全力で戦っても容易に勝てるような相手ではないのだ。

「レオノーラ、こっちに新しい心核使い……強力な竜人が姿を現した! そっちに任せられるか!?」

 アランの念話は、当然ながらビッシュにも聞こえているだろう。
 だが、今はビッシュに聞かれているかどうかというよりも、まずは竜人をどうにかする必要があった。

「うおおおおっ!」

 再び竜人の口が開いたのを見て、アランはゼオンのウィングバインダーとスラスターを全開にして、急いでその場から退避する。
 そしてゼオンが移動した次の瞬間、竜人の口から離れた闇の塊とでも表現すべきブレスが放たれ、ゼオンのいた場所を貫き、地面に命中すると先程のように綺麗な円球状に消滅させる。

「何で今日は連発出来るんだよ!」

 今までは、基本的に一度攻撃すると、次の攻撃まではかなりの時間的な余裕があった。
 だというのに、今はこうして連続してブレスを放っているのだから、アランが不満に思うのも仕方がない。

『私の方も少し難しいわ!』

 レオノーラからの念話には、余裕の色はない。
 レオノーラにとっても、今の状況は決して楽なものではないのだろう。
 アランもそれは分かっていたが、だからといって現状どうしろと? と思った瞬間、地上にオーガと白猿、リビングメイル……それ以外にも、リアやニコラスを始めとする腕利きの面々が揃っているのが見えた。
 それが何を意味しているのかは、アランにもすぐに分かった。
 つまり、竜人を地上に落として自分達に任せろと、そう態度で示しているのだ。

「レオノーラ!」

 そんな仲間の姿を見た瞬間、アランは再度レオノーラの名前を呼ぶのだった。
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