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ガリンダミア帝国との決着

410話

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 古代魔法文明。
 それは、アランにとっては深く関わりのある存在だ。
 もっとも、アラン本人が実は古代魔法文明時代の生まれ変わりであったり……といったような意味での関わりではないが。
 ……実際にはアランは日本で生きていたという前世の記憶を持っており、そういう意味ではあくまでもこの世界においての存在でしかない古代魔法文明よりも大きな秘密を持っているのだが。
 ともあれ、アランは古代魔法文明の遺跡を探索する探索者の集団クランに所属する母親のリアと父親のニコラスの間に産まれた子供であり、そういう意味で赤ん坊の頃から古代魔法文明に関わってきたのは間違いない。
 しかし、そんな生活の中でも古代魔法文明は特に明らかにされるようなことはなく、あくまでも古代魔法文明としか呼ばれていなかった。
 それは意図して隠されていた訳ではなく、純粋に古代魔法文明の名前が不明だったから、そのようになっていたのだ。
 これだけ大量に古代魔法文明の遺跡があるのに、その古代魔法文明の名前がないというのは、アランも奇妙に思わないでもなかったが……古代、とついているのを思えば、それも仕方がないかと納得していた。

『おや、どうしたのかな? このまま降伏してくれるのなら、僕としては楽でいいんだけど』

 古代魔法文明……ルーダーをこの世界に蘇らせるといったことに驚いて黙り込んだアランの頭に、ビッシュの念話が聞こえてくる。
 とはいえ、ビッシュも本当にこのままアランが降伏するといったようなことを思ってはいない。
 ただ、アランを挑発するためだけにそう言ったのだろう。
 それは頭の中に響いた念話に本気の色がなかったことで、アランにもすぐに分かった。
 だからこそ、そんなビッシュに対してアランは決して屈するような真似はしないといったように口を開く。

「そんなつもりはない。だが……ルーダー? 俺が知ってる限り、古代魔法文明は古代魔法文明といったようなことでしかなく、明確な名前はなかったはずだ。なんでビッシュがその名前を知ってるんだ?」

 それは、アランにとって大きな疑問。
 とはいえ、疑問ではあるがその理由について大体の予想は出来ている。
 それは、前世の日本で読んだ漫画やアニメ、ゲームといったものがあるからこその予想であり……だからこそ、出来れば違って欲しいという思いがあるのも事実だった。
 そもそも、アランが知ってる限りビッシュは現在のガリンダミア帝国の皇族という立場のはずだ。
 つまり、血筋がはっきりしているということになる。
 そうである以上、アランの予想は間違っている可能性が高い。……いや、だからこそ間違っていて欲しいというのが正確なところだ。

『ははは。もうアランなら分かってるじゃないいのかい? 僕が知っているアランという人物なら、多分その辺りについて思いついてもおかしくはないと思うんだけどね』
「……古代魔法文明、ルーダーの……生き残り……」
『正解。何だ、やっぱり分かってるじゃないか』

 それは褒められているのかどうか、アランには分からない。
 もっとも、褒められていたとしてもその対象がビッシュであれば、とてもではないが喜ばしいことではないのだが。
 そう考え……ふと、とある事実に思い当たる。

「っ!?」

 その事実に思い当たりはしたが、それでも何とか自分の動揺を落ち着かせる。
 思いついたことを、ここで考えてはいけないと思っての咄嗟の行動。
 ビッシュは一体どのような能力を持っているのかは分からないが、アランが考えているようなことを完全にではないにしろ、察するような能力がある。
 そうである以上、アランとしては思いついたことをとてもではないが考え続ける訳にはいかなかった。
 具体的には、明らかにビッシュのことを知っていただろうイルゼンのことを。
 それはつまり、イルゼンとビッシュがお互いに……もしくは一方的にではあるが、知り合いであるということを意味していたのだから。
 だからこそ、少なくても今はイルゼンのことを考えるのは止めておく必要があった。

『うん? どうしたのかな? 何だか動揺しているようだけど。僕の言葉で何か驚くようなことがあったのかな?』

 ビッシュはアランの動揺を感じつつも、その理由についてまでは察することが出来なかったのか、不思議そうに尋ねてくる。
 そのことに安堵しながらも、アランはイルゼンの件から話を逸らすべく口を開く。

「当然だろ。ルーダーの生き残りだと言われて、それで驚くなという方が無理に決まってる。そもそも、古代魔法文明だぞ? 何でそんなに昔の生き残りがいるんだよ」

 古代魔法文明のルーダーが、具体的にどれくらい前の文明なのかは、正確には分かっていない。
 だが、それでも数百年程度でないのは間違いなく、それはつまりビッシュの年齢もそれ以上ということになる。
 不老不死……そんな単語をアランが思い浮かべたとしても、おかしな話ではないだろう。

『そうかい? そこまで喜んでくれると、僕も正体を晒した甲斐があったよ』

 別にアランは喜んでいる訳ではないのだが、ビッシュにはそのように思えたらしい。
 ビッシュをこのまま勘違いさせておくのはどうかと思ったが、向こうが勘違いをしてそれ以上は何も思わないというのであれば、アランにとってはむしろ好都合。

「それで、ルーダーの生き残りが、何だってガリンダミア帝国の皇族なんて地位にいるんだ? その三つ首のドラゴンについても、気になるところだけど」
『皇族の地位かい? まぁ、ガリンダミア帝国に国を作ってあげたのは僕なんだから、皇族として優遇されるのは当然だろう? それに……三つ首のドラゴンという表現は直接的すぎて面白くないね。アポカリプスと呼んでくれないかな。こことは違うどこか別の世界で、最後の審判とかいう意味らしいよ』
「……何?」

 それは、アランにとっても予想外の言葉。
 アポカリプスというのは、アランも前世で聞き覚えのある言葉だ。
 ゲームや漫画でそれなりに見た記憶がある。
 その意味も、大体ビッシュが言ってる内容とそう違いはない。
 日本の言葉と近い意味を持つ言葉は、この世界にも多数ある。
 それは恐らくアランが自分以外にも以前何らかの理由でこの世界に日本人が来た名残か何かだと思っていたので、それは別に構わない。
 しかし……ビッシュは今、アポカリプスというのは『こことは違うどこかの世界で最後の審判』という意味を持っている、と明確に言い切ったのだ。
 そうなると、アランとしては当然のように日本を……地球を思い出す。
 とはいえ、実は地球ではなくもっと別の……アランの前世で知っている地球の平行世界といった可能性もあるし、何よりも自分を狙っているビッシュにこれ以上自分の情報を与えたいとは思わない。

「最後の審判か。また大袈裟だな。……もしかして、ルーダーが滅びたのはそのアポカリプスが原因だと言わないよな?」
『その答えは正解であり、間違っているね』
「謎かけをしているような暇はないんだけどな」

 そう言いながらも、アランとしてはこうして時間を稼ぐというのは大きな意味を持つ。
 今は三つ首のドラゴン……いや、アポカリプスの迫力を生身で受けたことにより、多くの者が動くことが出来ない。
 特にレジスタンス連合の者たちはアポカリプスがここに存在している限り、動くことは出来ないだろう。
 しかし、雲海や黄金の薔薇、またレジスタンス連合の中でも突出した強さを持っている者であれば、時間が経てばアポカリプスの迫力……威圧感による呪縛を解くことが出来るといった可能性があった。
 いや、可能性という訳ではなく、アランは絶対にそうなると信じてすらいた。
 だからこそ、今はこうして時間を稼ぎたかったのだ。
 特にアランが期待しているのは、レオノーラだ。
 レオノーラが心核を使って変身する黄金のドラゴンの実力は、非常に高い。
 アポカリプスのような化け物を倒すのに、間違いなく頼りに出来るだろう。

『ふむ、時間を稼ぎたいのかい?』
「っ!?」

 アランは再び自分の考えを読まれ、ピンポイントで指摘されたことに息を呑む。
 どうする? と現状で時間を稼ぐ方法を考えるが、そのような便利なことをすぐ簡単に思い浮かべられる訳がない。
 しかし……そんなアランの様子を見た――もしくは感じた――ビッシュは、笑うのを我慢するかのような声で念話を送ってくる。

『アランがそれを望むのなら、構わないさ。僕は慈悲深い。いずれ君は僕の物になるんだ。僕は自分の所有物に対しては、寛大なんだよ。こんな主人を持てることは、アランにとっても嬉しいことだと思うけどね?』

 それは自分が絶対的に有利だと判断しているからこその、そんな言葉。
 ビッシュにしてみれば、アポカリプスをこの世界に出現させた時点で自分の勝利は決まっていると、そう判断しているのだろう。
 事実、アポカリプスはそのようなビッシュの言葉を裏付けるだけの実力を持つのは明らかだった。
 アランは自分を人ではなく所有物として認識しているビッシュに苛立ちを覚えながらも、時間稼ぎをさせてくれるのなら、ビッシュを優越感に浸らせておいても構わないと判断し、口を開く。

「そのアポカリプスってのは、結局何だ? 空間を破壊して姿を現したってことは、別にビッシュが心核を使って変身したとか、そういうことじゃないんだよな?」

 心核使いというのは、と図苑ながら心核を使ってモンスターに変身する者の総称だ。
 ……中にはアランのように人型機動兵器を召喚するといったようなパターンもあるのだが、それはあくまでもアランが特殊――前世を持つ――なのが原因だと本人は思っている。
 しかし、ビッシュのアポカリプスは違う。
 アポカリプスは空間を破壊して、この世界に姿を現したのだ。
 それもガリンダミア帝国軍の兵士たちの生命力を吸収することによって。
 そうして姿を現した存在が、当然ながら普通の心核使いのモンスターであるとは思えない。

『アランにしてみれば驚くかもしれないけど、ルーダーにおいて心核使いというのは……僕のような存在のことを言ったんだよ?』

 そう、告げるのだった。
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