剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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ガリンダミア帝国との決着

406話

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「ちぃっ、あの化け物は何とかならんのか!」

 ガリンダミア帝国軍の最後尾にある指揮所で、この軍を指揮している将軍のマリピエロは、苛立たしげに叫ぶ。
 空を飛ぶ敵は、一人。……いや、一匹のゴーレム。
 それに比べて、ガリンダミア帝国軍側の戦力は百にも届くかといったような数の空を飛ぶモンスター。
 だというのに、その百近いモンスターは空を飛ぶゴーレムに対し、手も足も出ないほど、圧倒的にやられているのだ。

「畜生っ、量産型の心核だって話だったが……全く役に立ってねえじゃねえかっ!」
「落ち着いて下さい、マリピエロ将軍。あのゴーレムが異常なだけで、地上では量産型の心核を使った心核使いたちはそれなりに成果を挙げています」

 部下の一人が、マリピエロを落ち着かせるように言う。
 実際、その言葉は決して間違いという訳ではない。
 地上で多数存在している心核使いたちは、レジスタンス連合を蹂躙している者も決して少なくはなかった。
 ただし、蹂躙出来ているのはあくまでもレジスタンスたちだけ……それも、レジスタンスの中でも本当に少数ではあるが、心核使いと互角に戦えいる者がいた。
 また、レジスタンス連合の中でも本当の意味で主力である雲海と黄金の薔薇の探索者たちに限っては、一人で心核使いを倒すといったような真似をしている者は少なくない。
 その上……雲海や黄金の薔薇の心核使いにいたっては、複数の心核使いを相手にして蹂躙している始末だ。
 それでもガリンダミア帝国軍側の心核使いの中には、量産型ではない本当の意味での心核使いも多い。
 そのような相手はオーガや白猿、リビングメイルといった心核使いと互角に戦えているものの、それでもかなり押されているのは間違いない。
 そして、問題なのがレジスタンス連合の後方にいるトレントだろう。
 トレントの中には木の根を足のようにして移動する個体もいるのだが、幸いなことにレジスタンス連合の後方にいるトレントはそのようなタイプではない。
 そのようなタイプではないのだが、それだけトレントを倒すためには自分たちが近付く必要があるのだが……それがまた、難しい。
 トレントの周囲には腕利きの探索者たちが護衛として待機しているのだ。
 実際には、トレントの側にある指揮所にいるイルゼンを守るという役目の方が大きな理由なのだが。

「騎兵隊は……いや、向こうもそれいくらいは見抜いているか。空の心核使い共は何をやっている? それにレジスタンス連合の探索者はともかく、それ以外のレジスタンスは弱いんだから、総合的に見ればこっちが押せる筈だろう。……ここまで士気が高いとはな」

 マリピエロは自分で何故ここまで敵を倒せないのだと、不満を露わにする。
 戦いを全体的に見た場合、ガリンダミア帝国軍側が有利なのは間違いない。
 だが、その有利さは当初マリピエロが予想していた有利さと比べれば圧倒的に小さいのだ。
 当初の予想であれば、すでににガリンダミア帝国軍側が圧倒的に有利になっているはずだった。
 それが出来ないのは、レジスタンス連合の士気が高いというのが、一番大きな理由となる。
 今までガリンダミア帝国による圧政を経験してきたレジスタンスたちにしてみれば、現在の状況は千載一遇の好機だ。
 ここで負ければ、本当にあとがない。
 それを知ってるからこそ、長剣で斬り裂かれ、槍で突かれといったような真似をしても、決して怯むことなく相手にしがみつき、仲間がガリンダミア帝国軍の兵士を殺せるようにフォローする。
 場合によっては、両手が切断されたレジスタンスが兵士の首筋に噛みついて頸動脈を噛み千切るといったような真似をしている者もいる。
 そんな相手との戦いでは、ガリンダミア帝国軍の兵士でも苦戦するのは当然だろう。
 本来ならもう倒した、あるいは殺した。そのように思っても、実際には死ぬ寸前の力を振り絞り、少しでも兵士を傷つけ、殺すといったような真似をするのだ。

「士気が高い……といった問題とは思えませんね。執念や妄執といったものからくる行動かと」
「それにここで自分たちが負ければ、レジスタンスを出している国は戦後にどのような目に遭うのか、それが分かっているからこそかもしれませんね。いっそ、マリピエロ様が今ここで軍を退けば、そのレジスタンスを出してきた国には温情を与えると言えば、どうでしょう?」

 そんな参謀の言葉に、マリピエロは苛立ち混じりに口を開く。

「馬鹿野郎、そんな真似が出来る訳がないだろうが。俺が約束したからといって、それが守られる可能性はないんだからな」

 この戦いについては、マリピエロが指揮を取っている。
 ガリンダミア帝国の中で裏の実力者であるビッシュに命じられた以上、それを否定することが出来る者はいないだろう。
 ……もしいたとすれば、それこそすぐにでも処分されていたのは間違いない。
 そんなマリピエロだが、結局のところ将軍というのに間違いはない。
 政治家の類ではない以上、もしここでマリピエロがそのような約束をしても、当然ながらマリピエロにはそのような権限はない。
 最終的には、当然ながらその約束はあっさりと破られて終わるだろう。
 そうなれば、マリピエロの評判は地に落ちる。
 いや、帝都を守るためにそのような嘘を言ったのだから、もしかしたらそこまで評価が下がらない可能性はあるが、マリピエロ本人がそんな嘘を言った自分が許せそうになかった。

「それに……今までガリンダミア帝国に酷い目に遭わされてきた連中だぞ? そもそも、ここで俺が何を言ったところで、恐らく話を聞いたりはしないぞ」

 それは確かに、と。参謀たちもマリピエロの言葉に思わず納得してしまう。
 もし自分たちがレジスタンス連合の立場にあった場合、敵対している将軍の言葉を信じられるかと言われれば、その答えは否なのだから。

『全く、しょうがないな』

 ビクリ、と。マリピエロは突然頭の中に響いた声に慌てて周囲を見る。
 もしかしたら自分の空耳……もしくは気のせいか? と思ったのだが、それを否定するようにマリピエロ以外の指揮所にいる全員が突然頭の中に響いた声に戸惑った様子を見せていた。
 それでも混乱して何があったと騒ぎ出さない辺り、マリピエロの部下として有能な人物が揃っている証だろう。
 そんな中で、特にマリピエロは他の者たちよりも動揺が少ない。
 最初にいきなり頭の中に聞こえてきた声に驚きはしたものの、その頭の中に聞こえてきた声に聞き覚えがあったため、というのが大きい。

「ビッシュ様?」

 思わずといった様子でその名前を呟くマリピエロだったが……

『マリピエロかい』

 まさか自分の言葉に返答があるとはおもっていなかっただけに、マリピエロは今度こそ驚く。
 それでもすぐ我に返れる辺り、マリピエロは冷静だった。

「ビッシュ様、これは一体何なのです? 一体何故このような真似が……?」

 マリピエロにしてみれば、一体何がどうなればこのような真似を出来るのかといったような疑問を抱く。
 とはいえ、この世界にはマジックアイテムが多数あり、古代魔法文明の遺跡から入手される遺産、いわゆるアーティファクトと呼ばれる物もあるし、魔法もある。
 そう考えれば、このような真似が出来ても特におかしくはない。おかしくはないのだが……それでも、今こうしてビッシュの声が頭の中に響くのは、それらとは違うように思えた。
 特に何かの証拠がある訳ではない。
 ただ、マリピエロの幾多もの戦いを生き延びてきた勘が、何かおかしいと、そう警鐘を鳴らしているのだ。

『君たちがあまりに手こずってるようだからね。それに……いい加減、僕もアランを手に入れたいんだ。だから、力を貸そうと思ってね』
「力を……?」

 ビッシュとマリピエロの会話を、指揮所にいる者たちは黙って見ていた。
 今の状況で会話の邪魔をすることは、絶対によくない。そう本能的に理解出来たからこそだろう。
 そんな部下たちの察しのよさに感謝しながら、マリピエロは会話を続ける。

『そうだよ。量産型の心核を渡したのに、その様子だろう? これだと、いつまで経っても戦いが終わらないんじゃないかと、そう思ったんだよ』
「それは……」

 マリピエロとしては、ビッシュのその言葉に色々と言いたいことがあった。
 そもそも、ここまでレジスタンス連合の士気が高いのは、これまでのガリンダミア帝国の行いが原因なのだ。
 そんなガリンダミア帝国の行動の全てとはいかないが、それなりの頻度でビッシュがかかわっていただろうというのも知っている。
 また、ビッシュが言う量産型の心核を使った心核使いも、決して戦力として突出している訳ではなかった。
 普通のレジスタンスを相手にした場合ならともかく、それ以外の精鋭と呼ぶべき相手となると勝てないのだ。
 普通の兵士よりも強くなっているのは間違いないが、心核使いとして考えた場合……それこそ普通の心核使いが変身したゴブリンと戦っても、勝つのは難しいのではないかと思ってしまうような、そんな強さだ。

『どうかしたのかい?』
「いえ、何でもありません」

 実際には色々と言いたいことがあるのだが、今この状況でそのような真似をしても、意味はない。
 いや、ビッシュを相手にそのようなことを言えば、それこそ最悪の未来が待っている可能性すらあった。
 そんなマリピエロの様子に、ビッシュは満足したように頷く。
 マリピエロは頭の中に響くビッシュの言葉に、強い苛立ちを覚える。
 しかし、今の状況を思えばビッシュの言葉に否と言えないことも事実。
 将軍であるマリピエロの仕事は、あくまでもレジスタンス連合に勝つ事なのだ。
 それが出来るのなら、今のビッシュの様子を我慢するくらいのことは平気で出来る。

『そうかい? なら、そろそろ本題に入ろうか。君たちが苦戦しているようだからね。僕がここでちょっと手を打ってあげよう』
「ありがとうございます。それで、具体的にどのような手段なのでしょう?」
『簡単な話だよ。今日の戦闘に参加している者たちには、きちんと護符を持たせてあるよね?』
「え? ええ。それは勿論。多少なりとも能力が上がるというのは、大きな意味で持ちますし」
『そう……それはよかった』

 ドクン、と。
 そんなビッシュの言葉と共に、そんな空間の揺れるような音が周囲に響くのだった。
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