剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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ガリンダミア帝国との決着

403話

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 空中でゼオンと空飛ぶ蛇の激戦が繰り広げられているとき、当然ながら地上でガリンダミア帝国軍とレジスタンス連合がぶつかりあっていた。
 士気という点ではレジスタンス連合の方が勝っているものの、純粋な能力という点ではガリンダミア帝国の方が圧倒的に上だ。
 そんな状況であるにもかかわらず、戦局は一進一退……あるいは少しレジスタンス連合が不利といった程度で推移していた。
 これには当然ながら理由がある。
 まず第一に、レジスタンス連合の後方に位置するトレントの影響が大きい。
 花粉を散布し、レジスタンス連合に所属する者の能力を上げているのだ。
 とはいえ、当然ながら花粉である以上、それを吸えば敵も能力が上がることになる。
 そうならないように、トレントを中心にそこまで広くない範囲にしか花粉を巻いていない。
 当然狭い範囲だとそこまで多数の者が能力を上げることは出来ないが、それでもある程度の維持時間があるので、それがレジスタンス連合の力となっているのは間違いのない事実だ。
 ……ただし、この花粉は一時的に能力は上がるものの、翌日には激痛でろくに身体動かせなくなるといったような副作用がある。
 レジスタンス連合の者たちは当然それを知っているものの、激痛よりもガリンダミア帝国憎しの者が多いためか、花粉を使うのに躊躇するような者はいほとんどいなかった。
 また、それ以外にも雲海や黄金の薔薇の探索者たちが大きな戦力となっている。
 元々探索者というのは、冒険者や傭兵よりも格上の存在とされている。
 そんな中でも、雲海や黄金の薔薇は実力派のクランとして名前が知られていた。
 そのようなクランに所属する者たちだけに、それこそ練度という点ではガリンダミア帝国軍の兵士を相手にもしない。
 遺跡の中では古代魔法文明の残したモンスターや人形といった強敵と戦うことも、珍しくはない。
 そのような相手に比べれば、ガリンダミア帝国軍の兵士など敵ではない。
 中には心核使いを相手にしている者すらいた。
 いたのだが……

(どうなっている?)

 黄金の薔薇の探索者の男は、人型のサイといったような相手と戦いながら、疑問を抱く。
 その疑問は、何故自分が目の前にいる心核使いと戦えているのかということだった。
 探索者として自分の腕にはそれなりに以上に自信はあるものの、だからといって一人いれば戦局を引っ繰り返すと言われる心核使いと互角に戦えるほど、自分が強いとは思っていない。
 これが自信過剰な者なら、自分がいつの間にか心核使いと互角に戦えるまで強くなっていた……といったように誤解をしてもおかしくはないのだが、幸いなことにこの男は違った。
 自分が探索者として相応の実力を持ち、黄金の薔薇の中でも上の下、もしくは中の上といったくらいの実力であることは十分に理解している。
 そんな自分が一人で心核使いを互角に戦えるというのは、明らかに異常だった。

「うおおおおおおっ! 死ねぇっ!」

 叫びとも共に、鋭い角で男を貫こうと突っ込んでくる敵に対し、男はその攻撃を回避しつつ長剣を振るい……お互いがすれ違った瞬間、サイの身体には大きな斬り傷があった、
 これが既におかしい。
 心核使いが変身したモンスターというのは、当然ながら相応の実力を持つ。
 もちろん、中にはゴブリンのようにモンスターの中でも雑魚と呼ばれるようなモンスターに変身する心核使いはいるし、そのような敵が相手の場合は、心核使いであっても容易に倒せる。
 しかし、男が現在戦っているのはゴブリンの類ではなく、サイが擬人化したかのようなモンスターであり、とてもではないが雑魚とは呼べない相手だ。
 それでも、男は互角以上に心核使いと戦えていた。

「俺は心核使いだぞ! だってのに、こんなことになってたまるかぁっ!」

 サイのモンスターは、自分がただの人間を相手にこうまで圧倒されるのが許せなかったらしい。
 苛立ちも露わに再び男に向かって突き進むが、相手は心核使いであっても弱いと判断した男は、長剣の一撃であっさりとサイのモンスターを倒す。
 そうして本当にモンスターを倒してしまってから、男は改めて疑問を抱き……少し離れた場所で雲海の探索者が同様に目を三つ持つ猿のモンスターを倒したのを見て、そちらに近寄る。

「この心核使いたち、何かおかしくないか? 何でここまで弱い?」
「おう、俺もそれは疑問に思った。いくら何でも、心核使いがここまで弱いってことはあるのか?」

 雲海と黄金の薔薇は、一緒に行動するようになってから長い。
 だからこそお互いに顔見知りで、ときには訓練を共にすることもある。
 お互いの実力が分かっているので、お互いに心核使いがどれだけの力を持っているのかを知っていた。
 そうして、お互いに自分が気が付かないうちに強くなっていたといったような思い込みがないために、安堵して視線を交わす。
 もしこれで、自分たちが強くなっていたといったように考えた場合、この戦いにおいて致命傷になる可能性があった。
 それこそ、双方共に相手がそのようなことを言ったら、そこまで強くなったのなら、ロッコーモ、もしくはジャスパーと戦ってみろと、そう言っただろう。
 本当に心核使いを相手にしても勝てるような実力を持ったのなら、ロッコーモやジャスパーといった心核使いを相手にしても勝てるか、もしくはいい勝負が出来るはずだ、と。
 生身のロッコーモやジャスパーならまだしも、心核使いとしてのロッコーモやジャスパーを相手にした場合、自分が圧倒されるだけという想像しか出来ないのは、双方共に同じだった。
 それこそ変身したロッコーモやジャスパーと戦って、勝てるとは思えない。
 味方に心核使いがいれば、まだどうにかなった可能性もあるのだが。

「だとすれば、本当に心核使いが弱い、か。単純な外れとも考えられるけど、どう思う?」 

 外れ。
 それは、例えばゴブリンのような雑魚モンスターにしか変身出来ない者だったり、あるいは強力なモンスターに変身は出来るものの、その力を使いこなすことが出来ないような者を指す。
 この場合の外れというのは、当然のように後者を指していた。
 実際に心核使いが変身したモンスターは、決して弱そうな姿をしてはいない。
 また、雲海や黄金の薔薇の探索者だからこそ容易に勝てたが、それこそレジスタンスでは勝つのが難しいだろう。
 そう思った黄金の薔薇の探索者が戦場を見回すと、実際にそれを証明するかのように棘の生えた甲羅を持つ亀によって数人のレジスタンスが蹂躙されている光景が見えた。
 ……すぐにジャスパーが変身した白猿によって、その亀も殺されたが。
 ジャスパーもまた、ロッコーモほどではないにしろ心核使いとして高い戦闘力を持つ。
 そんなジャスパーではあったが、やはり敵の心核使いには圧倒している。
 ジャスパーの能力も高いものの、それでもいくらなんでも敵の心核使いとの間に実力差がありすぎた。

「俺が知ってる限りでは、ジャスパーの強いのは理解しているけど、あそこまで圧倒的じゃないはずだ。……あの亀のモンスターの詳細を知らないから、実は外見だけという可能性も……ないか」

 その言葉に、黄金の薔薇の男が頷く。
 今の状況を見る限りでは、明らかに心核使いが弱いということになる。

「……よし。ちょっとイルゼンさんにこの件を知らせてくる。まさか、イルゼンさんもこんな状況になってるというのは予想外だろうし」

 そう言い、雲海の男はその場をあとにする。
 黄金の薔薇の男はそんな戦友の姿を見送ると、戦いに戻っていく。
 レジスタンス連合を指揮しているイルゼンにこの情報を知らせる必要があるのは間違いないが、それ以上に敵の進軍を押し止めるための力が必要なのも事実だった。
 そういう意味では、ここで二人揃ってイルゼンのいる場所に戻るといったような真似をする訳にはいかない。
 だからこそ、黄金の薔薇の男は長剣を手に戦場に向かうのだった。





「それは、本当ですか? 偶然といった訳ではなく?」

 指揮所に飛び込んできた雲海の男の報告に、イルゼンは普段の飄々とした表情を掻き消し、真剣な表情でそう尋ねる。
 それには報告を……心核使いの数は多いものの、その能力は雲海や黄金の薔薇の探索者なら対応するのは難しくないといった情報を持ってきた男ですら、一瞬驚いてしまう。

「ああ、本当だ。現に俺もそうだし、俺の近くにいた黄金の薔薇の探索者も心核使いを一人で倒したからな。それに、カオグルが変身した白猿なんかは心核使いを相手に蹂躙していたぞ。ロッコーモの方は、戦場が違うから分からなかったけど」

 数万人規模での戦いである以上、その戦場はかなり広くなっている。
 それでもロッコーモが変身したオーガはかなり巨大な――ゼオンには劣るが――モンスターなので、近くにいればその姿を確認出来たのかもしれないが、そのようなことが出来なかったとなると、ロッコーモはかなり離れた場所で戦っていると思ってもいい。

「そちらは構いません。彼なら戦闘にかんしては十分に信頼出来ますので。……しかし、心核使いが……だとすれば、やはり……」

 イルゼンが思わずといった様子で呟いたその言葉を、男は聞き逃さなかった。
 今のこの状況において、何らかの情報というのは非常に大きな意味を持つ。
 それこそ、場合によっては戦局を左右してもおかしくはないほどに。

「イルゼンさん、何か知ってるのなら教えてくれ。イルゼンさんは、この状況について、何か思い当たることがあるんだろう?」

 それは好奇心からの言葉という訳ではなく、現在仲間が戦場で戦っているからこそ、何とかしたいと、そう思っての言葉だった。
 イルゼンは最初誤魔化そうかとも思ったものの、今この場でそのような真似をしても意味はないと理解する。
 むしろここで下手に誤魔化すような真似をすれば、自分に対する信頼がなくなるだけだろうと。

「分かりました。ですがこれは確証があって言うのではなく、あくまでも予想です。もしかしたら違っているの可能性もあるかもしれませんが、それでも構いませんか?」
「ああ、それでもいい。教えてくれ。何が起こっている?」
「……恐らくガリンダミア帝国では、心核の量産型を使っているのだと思います」

 そう、告げるのだった。
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