上 下
396 / 422
ガリンダミア帝国との決着

395話

しおりを挟む
 レジスタンス連合は、特に抵抗らしい抵抗もなくガリンダミア帝国の領土内を進む。
 ゼオンを攻撃してきた敵は、結局アランが追っていったとき以降、攻撃をしてくることはなかった。
 アランにとっては攻撃をされていないので楽なのは間違いないが、まだ敵を倒していない以上、いつまた攻撃をされるのかといったようなことを考えながら移動する必要があるのは、面白くない。

「転移の使いすぎと攻撃のしすぎで消耗している……とかだったらいいんだけどな」

 ゼオンのコックピットで、アランはそんな風に呟く。
 その表情には緊張感があるものの、それでも襲撃された当初に比べれば明らかに緩んでいた。
 アランが攻撃されてから既に十日ほどが経過してるので、それだけの時間、緊張感を維持しろというのは難しい。
 その間、特に戦いらしい戦いがないままレジスタンス連合は進み……恐らく今日明日には帝都が見えてくるはずだった。
 そして帝都が見えれば、そこで行われるのは最後の戦いとなる。
 ガリンダミア帝国軍は戦力をそこに集中していると予想されており、実際アランもその予想は間違っていないように思えた。
 事実、ここに来るまでの間に寄ってきた村や街に、戦力は何も残っていなかったのだから。
 いや、正確にはガリンダミア帝国軍の軍人はいなかったが、その村や街の自警団の類は多少なりともいた。
 しかし、イルゼンは当然のようにそのような村や街で略奪をするといったような真似はせず、金を支払って食料や情報を買うといった程度しかしていない。
 それこそ村や街で泊まるといったような真似もせず、全てを野営ですませていた。
 レジスタンス連合の中には、そんなイルゼンの指示が面白くないと思う者もいる。
 特にあとからレジスタンス連合に合流してきた者たちに、そう思っている者は多かった。
 そのような者たちにしてみれば、自分たちが苦しんでいる間、ガリンダミア帝国の人間は豊かな暮らしをしていたのだ。
 そうである以上、その恨みを晴らしたいと思うのは当然だろう。
 イルゼンもそれは分かっているが、だからといって一般市民しかいない村や街の住人に危害を加えるのは許容出来ない。
 これがガリンダミア帝国軍の基地であれば、また多少は話が違ったもしれないが。
 そのような訳で不満を抱いてる者もいるが、今のところはそれでも大きな不満の声はない。
 何だかんだと、イルゼンの言葉に従っている者が多いからだろう。
 特にレジスタンス連合の主力……それも数ではなく質という意味での主力の雲海と黄金の薔薇の面々は、そんなイルゼンの指示に全面的に従っている。
 そのような状況である以上、不満を抱いてもそれを表に出すことは出来なかった。
 いや、不満を口に出すという意味では問題ないが、実際にその不満から村や街で略奪するといったような真似は決して出来なかった。
 もしそのような真似をした場合、恐らく……いや、間違いなく雲海や黄金の薔薇の探索者たちが出て来ると、そう納得していたのだろう。

「ともあれ、今の俺たちが出来るのはよけいなことは考えず、帝都に向かって進むだけか。……多分、その間に攻撃をしてくるといったようなことはないだろうから、そういうトラブルが起きるというのは心配しなくてもいいか」

 ゼオンのコックピットの中で、周囲の様子を探索しながらアランが呟く。
 何だかんだと、こうして空を飛べるゼオンというのは、敵のいる場所を探索するという意味では非常に便利だ。
 もし遠くから敵が近付いてきていた場合、アランが真っ先にそれを見つけることが出来るだろう。
 とはいえ、今のところ敵が攻めてくるといったような真似は一切ないのだが。

「そうなるとやっぱり、今のうちにあの敵が出て来て欲しいよな」

 帝都での最終決戦が行われるよりも前に、出来るだけ危険な要素は減らしておきたいと考えるのは、おかしな話ではない。
 特にガリンダミア帝国軍が帝都で待ち構えていることを考えれば、そこにさらに戦力が追加されるのは面白くなかった。

「出来れば俺が空から攻撃をして可能な限りガリンダミア帝国軍の数を減らしたいんだけど、それが出来るかどうかはまた別の話だよな」

 空を飛ぶモンスターに変身する心核使いは、それなりに存在している。
 事実。今までアランは多くの心核使いと戦ってきたり、あるいは共闘してきたが、その中に空を飛ぶモンスターに変身する心核使いはそれなりにいた。
 そして今回のレジスタンス連合によってガリンダミア帝国軍との戦いが始まってからも、敵の心核使いの中には空を飛ぶモンスターはいた。
 そうである以上、帝都で待ち受けているだろう戦力の中に、空を飛ぶモンスターに変身する神格使いがいてもおかしくはない。
 そして中には、ゼオンの攻撃すら回避したワイバーンと同レベル……いや、帝都で待ち受けている以上、ワイバーンよりも腕の立つ心核使いがいてもおかしくはなかった。
 どうするべきか……そんな風に考えていると、不意にゼオンのレーダーに反応がある。

「敵か!?」

 鋭く叫ぶアランだったが、この場合の敵というのはあくまでも普通の敵であって、心核使い……ましてや、ゼオンを集中的に狙ってくる例の敵ではない。
 実際に確認してみると、映像モニタに表示されたのは三騎の騎兵。
 それも重量のある金属鎧ではなく、革の鎧を身に着けており、可能な限り機動力を重視しているのは明らかだった。

「偵察だな。……倒すか」

 帝都でどのくらいの戦力が待っているのかは、アランにも分からない。
 分からないが、それでもここで敵を倒しておくのは悪い話ではなかった。
 レジスタンス連合の情報を持ち帰られるのは、アランにとっても出来れば遠慮しておきたい。
 とはいえ、ガリンダミア帝国軍のことだ。
 アランには想像も出来ない方法で自分たちの情報を得ている可能性は十分にあった。
 それを思えば、この偵察隊を生かしたまま返しても問題はないのかもしれないが、このような偵察隊であっても、レジスタンス連合――雲海と黄金の薔薇以外――にとっては、厄介な敵になるのは間違いない。

「死ね」

 その呟きと共に、頭部バルカンのトリガーを引く。
 この距離ではモンスターを相手にした場合は、効果が薄いかもしれない。
 しかし、相手は騎兵……それも機動力に特化したために、出来るだけ重い防具をつけないでいる騎兵だ。
 もちろん、世の中には布や革の防具であっても、金属鎧以上の防御力を発揮するような物もある。
 しかしそれは、非常に希少なモンスターの革を使っていたり、あらういはマジックアイテムであったり、もしくはアーティファクトといったような物だ。
 地位のある者、腕の立つ者であればまだしも、偵察にやって来た騎兵隊が装備出来るような代物ではない。
 それを証明するかのように、ゼオンの頭部から発射されたバルカンは騎兵隊に命中した瞬間、そこにいた全ての者達を肉片と化す。
 殺すのではなく、砕く。
 戦いにもならず、遠距離から一方的に相手を殺すその行為に思うところがない訳でもなかったアランだが、今の状況を思えば少しでも敵の戦力を減らしたいと思うのは陶然だった。

(せめてもの救いは、痛みや恐怖を感じずに死んだことか)

 遠距離からの一斉射で、騎兵隊は一種にしてその身体を砕かれた。
 当然のように痛みを感じる暇はなく、一瞬だったので仲間がいきなり殺されたといった恐怖を感じるようなこともない。
 そういう意味では、アランの攻撃は下手に長剣や槍、弓……もしくは魔法といった攻撃で殺されるよりは慈悲深いと言ってもいいのかもしれなかった。
 頭部バルカンの発射音は、当然のように周囲に響き渡る。
 地上を進むレジスタンス連合とはある程度距離をとった場所を飛んでいるゼオンだったが、それでも今の攻撃の音が聞こえないほどではない。
 ゼオンの様子に、地上を進む者達は一体何があったのかといったように驚き、ゼオンのいる方を見ていた。
 一瞬、そんな地上の様子を無視しようかと思ったアランだたが、イルゼンが馬に乗ってゼオンのいる方に近付いてきたのを見れば、まさかそれを無視するといったような真似も出来ない。

『アラン君、今のは一体何が?』
「敵の偵察隊です。騎兵が数騎こちらの様子を窺っていたので、倒しました」
『そうですか。助かりました』

 イルゼンにしてみれば、アランが何の意味もなく武器を発射するといったようなことは考えて折らず、今回の一件も本来ならこのような真似をしなくても構わないはずだった。
 それでもこうしてわざわざ聞きに来たのは、一緒に行動しているのが雲海や黄金の薔薇の面々だけではなく、レジスタンスが多数を占めているからだろう。
 アランが何のために今のような行動を行ったのか……それをしっかりと周囲に示す必要がある以上、このような真似をする必要があった。
 アランにしてみれば、それはかなり面倒だといったように思う。
 とはいえ、ガリンダミア帝国軍と戦うためには質だけではなく数も必要となる。
 また、自分たちがガリンダミア帝国によって支配されていたのに、いつの間にかその支配から解放されていたといったようなことになった場合、実感がなくてもおかしくはない。
 そういう意味で、やはりここはしっかりと自分たちでガリンダミア帝国を倒し、その支配から脱するといったような実感を抱かせるというのも重要だった。
 他にも色々と理由はあるのだが、レジスタンス連合として活動はレジスタンスたちにも配慮するといった真似は絶対に必要だった。

『では、これからも警戒をお願いしますね。現在の私たちの状況を思えば、少しでも早く敵の姿を見つける必要がありますから』
「分かりました。敵は今のうちに出来るだけ潰した方がいいですからね。それ結果として帝都での戦いにおいてこちらが有利となりますから」

 アランとイルゼンの会話は、どちらかといえばこの会話を周囲の者に聞かせるとい目的の方が大きい。
 アランはそのようなことをしないといけないのが面倒だと思いつつも、今の状況であればそれも仕方がない……と、そう納得して少しの間イルゼンと会話を行うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...