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ガリンダミア帝国との決着

389話

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 フェルスは、アランの意思通りに動く。
 ましてや、普通ならとてもではないが回避することが不可能なビーム砲の類を発射出来る。
 そんなフェルスが、三十基。
 それは、一撃の威力という点では最大の威力を誇るビームライフルに……いや、それどころか腹部拡散ビーム砲と比べても劣るだろう。
 だが、それでもビームによる攻撃である以上、命中すればその一撃は非常に強力だ。
 だというのに、ワイバーンはそんな三十基ものフェルスの攻撃を、次々と回避しつつゼオンに向かって間合いを詰めて来るのだ。

「ちぃっ!」

 フェルスだけでは駄目だ。
 そう判断したアランは、頭部バルカンのトリガーを引く。
 本来なら命中率の高い腹部拡散ビーム砲を使うべきなのだろう。
 しかし、現在戦場ではフェルスがワイバーンを追ってそれぞれに動き回っている。
 そのような場所に腹部拡散ビーム砲を撃った場合、ワイバーンに命中するよりもフェルスに命中してしまう可能生の方が高い。
 ゲームであれば、味方に自分の攻撃が命中してもダメージ判定はないというのも多い。
 だが、これはゲームではなく現実だ。
 そうである以上、フェルスに腹部拡散ビーム砲を命中させた場合、間違いなくフェルスは破壊されてしまうのだ。
 もちろん、腹部拡散ビーム砲ではなく頭部バルカンが命中してもフェルスはダメージを受ける。
 だが、広範囲にビームを発射する腹部拡散ビーム砲とは違い、頭部バルカンは一方向だけに発射される武器だ。
 頭部を動かせば、そのバルカンの発射する方向も変わるのだが。
 ともあれ、アランは少しでもワイバーンの移動出来る場所を減らそうと、頭部バルカンを撃つ。
 ワイバーンはゼオンより小さいとはいえ、頭部から尻尾まで含めれば六メートル以上はある。
 そのような状況で羽根を持っており、横にも広い。
 だからこそ、フェルスと頭部バルカンの攻撃を回避しつつ間合いを詰めてくるワイバーンは……いや、ワイバーンに変身している心核使いは、異常と表現してもいい相手だった。
 ギャリィッ、と。
 再びワイバーンの爪がゼオンの装甲に傷をつける。
 だが、それでも最初と同じく、その一撃はあくまでもゼオンの装甲の表面を傷つけた程度でしかなく、ゼオンの行動には何の支障もない。
 アランは一撃を命中させればワイバーンを倒すことが……あるいはそこまでいかなくても確実に大きなダメージを与えることは出来るが、攻撃を命中させるのが難しい。
 ワイバーンはゼオンからの攻撃は回避出来るものの、攻撃力が足りずに出来るのはせいぜいがゼオンの装甲を傷つける程度だ。
 この展開は、恐らくワイバーンの変身した神格使いにも予想外だっただろう。
 心核使いの変身したワイバーンは、決して攻撃力が低くはない。
 その爪や牙は、今まで多くのモンスターや……それどころか金属の鎧や盾ですら容易に斬り裂いてきだけの威力を持つ。
 そういう意味では、現状で不利なのはワイバーンの方だった。
 何しろ一撃攻撃を受ければ、それは致命傷となる。
 そんな攻撃が、そこら中から放たれているのだ。
 余裕を見せながら行動しているワイバーンだったが、そのワイバーンに変身している神格使いはふざけるなといった思いの方が強い。
 これは、ある意味でアランがこれまで戦ってきた成果であるとも言えた。
 ワイバーンは当然のようにゼオンについての情報を得ていた。
 腹部拡散ビーム砲やビームライフル、頭部バルカン……そして何より、フェルスといった予想外の攻撃を見ても動揺せずに対処出来ていたのは、ガリンダミア帝国がこれまで集めてきたゼオンの性能の情報があったためだ。
 しかし、今までゼオンと戦ったガリンダミア帝国の心核使いで、ゼオンの装甲に傷をつけた者は……いないか、いても本当に少数だ。
 その結果として、ゼオンの攻撃力の高さについての情報はしっかりと得られていたが、防御力という点の情報はないに等しい。
 これは、ゼオンが空を飛んでいるのも関係しているだろう。
 元々心核使いの中でも、空を飛べるというものはかなり少数となる。
 心核使いというのは、本質によって変身するモンスターが決まるので、どうしても空を飛ぶよりは地上を移動するモンスターの方が多くなってしまうのだ。
 モンスターも含めた生物全体の中で、地上と空のどちらを行動領域にしている存在が多いのかと言われれば、誰もが地上と答えるだろう。
 あるいは、中には海や川といった水中と答えるような者もいるかもしれないが。
 そんな訳で、そもそも空を飛ぶゼオンとまともに戦える心核使いが少ない以上、データに偏りが出るのは当然の話だった。

(とはいえ、このままだと……いや、そうだな。結局のところ、このワイバーンの役目は俺を惹き付けておくこと。倒せるのなら倒したいんだがろうが、そもそもガリンダミア帝国軍の心核使いである以上、当然ながら俺を生け捕りにするように命令されている)

 その時点で、この戦いはアランにとって有利な戦いとなっているのだ。
 そう判断し……ならば、とアランがフェルスを操りながらビームライフルの銃口を向けたのは、ワイバーン……ではなく、すでに先端が開かれているガリンダミア帝国軍とイルゼン率いるレジスタンス連合とでも呼ぶべき者たちの戦い。
 正確には、ガリンダミア帝国軍の前衛ではなく後衛。
 すでに前衛同士ではぶつかりあっているため、今からそこに攻撃をしても味方を巻き込んでしまう。
 だからこそ、ここで狙うのは敵の後衛。
 特に弓兵や魔法使い、もしくは投石機の類があったり、いざというときのために騎兵が待機していたり、敵の司令官と思しき者がいる場所。
 そのような場所にゼオンの持つ武器の中でも威力という点では一番強いビームライフルを撃ち込んだら、どうなるか。
 それは、以前レジスタンス連合とガリンダミア帝国軍が戦っている場所にアランとレオノーラが……正確にはゼオンと黄金のドラゴンが乱入したときのように、相手にとって致命的な一撃となるだろう。
 もちろん、そのときの戦いではガリンダミア帝国軍はアランたちの存在を全く計算にいれておらず、イレギュラーだったのに対し、今回は最初からゼオンの存在は向こうに知られている以上、何らかの対応をされている可能性もある。
 しかし、それでも現在の状況をどうにかするためには、アランもワイバーンを動揺させる何かをする必要があった。
 そしてアランの予想通り、ゼオンのビームライフルがガリンダミア帝国軍の後衛に向けられたのを知ったワイバーンは、即座に行動に出る。
 ただし、それはゼオンの一撃に自分の身体を盾にして防ぐといったようなものではなく、より一層ゼオンへの攻撃を激しくし、それによってビームライフルによる攻撃を中断させようと……もしくは、せめて狙いを逸らそうという行動。
 それはアランにとって非常に厄介な妨害となる。
 ゼオンの装甲に傷をつける程度の攻撃であれば、何の問題もない。
 だがワイバーンが狙っているのは、ゼオンの身体ではなく……その手に持つビームライフルだ。
 そこを攻撃するのだから、当然ながらビームライフルの狙う方向は逸れてしまう。
 逸れた方向が、ガリンダミア帝国軍の後衛ではなくても中衛や前衛の中でも後方であればまだいい。
 あるいは、全く何も存在しない場所に命中するのでもいいだろう。
 しかし……その攻撃の逸れた先がレジスタンス連合であった場合は、アランにとって洒落にならない損害となる。
 それこそ、下手をすればレジスタンス連合の首脳や幹部……具体的には雲海や黄金の薔薇の面々を纏めて生滅させてしまう可能性がある。

(いや、寧ろあのワイバーンはそれを狙ってるのか? それはそれで納得出来る)

 ガリンダミア帝国軍にしてみれば、レジスタンス連合というのは出来るだけ早く片付けたい相手だ。
 そうである以上、ワイバーンがゼオンの持つ圧倒的な攻撃力を利用してレジスタンス連合を処理しようと考えるのは、おかしな話ではない。
 ガリンダミア帝国軍にしてみれば、自分たちにほとんど被害がなくレジスタンス連合を片付けることが出来るし、何よりそのような場合になったらレジスタンス連合がアランに対して敵意を向けるのは確実だ。
 レジスタンス連合にしてみれば、いきなり味方が自分たに攻撃をしてきたのだから、それを許せるはずがないだろう。

「ちっ、そう簡単にそっちの思い通りにさせるか!」

 アランもワイバーンの行動から何を狙っているのかを理解したのだろう。
 ビームライフルを構えつつ、先程まではワイバーンに攻撃をしようと空中を動かしていた三十基のフェルスを、今度は攻撃ではなく防御に利用する。
 ゼオンの周囲に配置されたフェルスは、それそれが先端からビームソードを展開する。
 もしワイバーンが先程までのように突っ込んできた場合、それは自分からビームソードを展開したゼオンに突っ込むということを意味している。
 ある意味、ワイバーン対策としては最適なものだろう。
 ワイバーンもそれを察知し、ゼオンへの攻撃を躊躇する。
 フェルスがビームソードを展開して突っ込んできたり、もしくはビーム砲を発射するのなら、ワイバーンもそれを回避することは可能だ。
 だが、現在のフェルスにそのような真似が出来ない以上、今は別の手段を探すしかない。

「ガアアアアアア!」

 そんな中、ワイバーンが放ったのはファイアブレス。
 今まで一切そのような攻撃方法があるのを見せなかったことを考えると、これは正真正銘ワイバーンにとっての奥の手だったのだろう。
 ワイバーンはドラゴンの一種である以上、ブレス攻撃が出来てもおかしくはない。
 おかしくはないのだが……

「それはこっちにとってもチャンスだ!」

 その叫びと共に、ビームライフルのトリガーを引く……のではなく、フェルスを動かす。
 ブレスを放つということは、当然ながらそちらにも意識を集中させる必要がある。
 これが爪や牙なら移動しながらでも容易に攻撃出来るだろうが、ブレスともなれば違うと、アランは瞬時に予測し、フェルスを放つ。
 ブレスを放った部位ではなく、そのブレスを回避するように動いた数基のフェルスが、ワイバーンの身体にビームソードを突き立てるのだった。
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