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ガリンダミア帝国との決着

387話

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「敵だ! ガリンダミア帝国軍がこの先で待ち受けているぞ! 全員、注意しろ!」

 空を飛ぶゼオンの外部スピーカーから、そんな声が発せられる。
 空を飛ぶゼオンは、当然ながら地上を歩いて移動している者たちよりも遠くの光景を見ることが出来る。
 また、映像モニタで拡大すれば、遠い場所のより詳細な情報を入手することも可能だった。
 ある意味で偵察を行っている者たちの仕事を奪っているといったような一面もあるが、あくまでもアランがゼオンのコックピットで把握出来るのは、見える範囲内だ。
 たとえば岩の陰に隠れていたりといったようなことをされた場合は、それを察知することは出来ない。
 岩から武器の一部や身体の一部がはみ出ているといったようなことになっていれば、また話は別だったが。
 ともあれ、アランからの報告によって即座に地上を進む本隊は動きを変える。
 雲海と黄金の薔薇は、即座に戦闘態勢に。
 そんな二つのクランから大分遅れた形で、レジスタンスたちも。
 最初から雲海や黄金の薔薇と合流していたレジスタンスたちは、一緒に戦闘を乗り切り、多少なりとも訓練をしているので、動きは早い。
 だが、進軍している途中で合流してきたレジスタンスたちは、どうしても練度で劣ってしまう。
 結果として、アランの目からは地上の動きはかなりチグハグなように見えてしまう。

「っと、ガリンダミア帝国の偵察兵か」

 地上の様子を見ていたアランは、映像モニタに数機の騎兵を発見し、頭部バルカンのトリガーを引く。
 ゼオンの武器の中では最も攻撃力が低い武器だが、そればビームライフルは腹部拡散ビーム砲、フェルスといった武器と比べての話であって、生身の人間や馬に対しては十分な……いや、過剰すぎる殺傷能力を持っている。
 実際、放たれた頭部バルカンによって数機の騎兵は一瞬にして肉片と化したのだから、その威力は圧倒的なのは間違いないだろう。

(肉片というか、血飛沫になったというか……ちょっとグロいな)

 攻撃を食らわなかった場所……馬の足の一部であったり、兵士の身体の一部であったりといった肉体の部位が地面に転がっているのを見ながら、アランはそんな風に思う。
 そう思うだけで、気持ち悪いといって吐いたりしないのは……この世界で生きてきて敵を殺すという行為に慣れているというのもあるし、映像モニタ越しだからというのも大きい。

「偵察の騎兵は潰した。ただ、当然今の騒ぎでガリンダミア帝国軍もこちらの存在に気が付いただろうから、戦闘準備をしてくれ!」

 いつもと違う口調なのは、地上にいる者たちに少しでも早く戦闘態勢に入って貰うため。
 それ以外にも、不特定多数の相手に声をかける必要がある以上、今のような言葉遣いになったというのもあるのかもしれないが。
 ともあれ、アランのそんな言葉によって地上でも危機感を抱いたのだろう。
 雲海と黄金の薔薇はともかく、レジスタンスの動きは見るからに早くなった。
 最初からそれをやれよ、と思わないでもなかったが。
 そうこうしているうちに、上空から確認出来たガリンダミア帝国軍が動き始める。
 ゼオンの攻撃によって、仲間が死んだのを確認したのだろう。
 だからこそ、アランたちが近付いてきていると判断し、出陣したのだ。
 向こうの人数はアランたちよりも多いのだから、自分たちが行くのを待っていてもいいのでは? と思わないでもなかったものの、すぐに首を横に振る。
 ガリンダミア帝国軍にしてみれば、偵察の騎兵が殺されたことから、ゼオンが遠距離の攻撃が可能なのを知っている。
 それはつまり、このまま進撃しないでアランたちを待ち受けている場合、実際に戦闘になるまで延々と攻撃し続けられるということを意味していた。
 いや、それどころか向こうが動かないのをいいことに、本隊も動かずにゼオンが遠距離からビームライフルで攻撃をするといったようなことにもなりかねない。
 そうなれば、ガリンダミア帝国軍は一方的に攻撃され続けることになってしまう。
 だからこそ向こう採れる手段としては、少しでも早く本隊との戦闘に持ち込み、乱戦にしてビームライフルを始めとした攻撃を封じることだった。
 向こうの動きからそれを理解したアランは、それでもビームライフルを構える。
 確かに乱戦になれば、ビームライフルは使えなくなるのだろう。
 その一撃の威力は非常に高く、だからこそ味方に命中するような場所では使えないのだから。
 だが……それなら、乱戦になる前に攻撃してしまえばいいだけの話だ。
 そう、こうして現在近付いて来る敵に命中させるようにしながら。
 そして、アランがビームライフルを発射しようとした瞬間、不意ガリンダミア帝国軍の軍勢の中から何かが飛び出してくる。

「何だ?」

 そちらに視線を向けると、それは数匹のモンスター。
 当然ながら普通のモンスターがこのような場所にいる訳がないので、それはただのモンスターではなく、心核使いであるのは確実だった。

「陽動か」

 それを分かりつつも、一人で戦局を引っ繰り返すと言われる心核使いが出て来た以上、そちらを優先的に攻撃する必要があった。
 雲海や黄金の薔薇にも心核使いはいる。
 特に黄金の薔薇を率いるレオノーラが変身する黄金のドラゴンは、それこそゼオンと同様……場合によってはそれ以上に相手に与える衝撃が強い。
 ゼオンは人型機動兵器だが、この世界の者にしてみれば、ゴーレムという扱いになる。
 話を聞いた者はともかく、直接見た者はゴーレム? と疑問に思うものの、人型機動兵器という概念が存在しないこの世界において、やはりゼオンはゴーレムでしかないのだ。
 それに比べると、黄金のドラゴンはドラゴンというだけで別格の扱いを受ける。
 ドラゴンというのは、この世界において最強種の一つだ。
 それこそ分かりやすいくらいに分かりやすい、そんな最強のモンスターの一つ。
 それだけに、ゼオンの戦闘している光景を直接見た者ではなく話を聞いた者にしてみれば、ゼオンよりも黄金のドラゴンの方が圧倒的に脅威度は高い。
 もちろん、事情を分かっている者にしてみれば、ゼオンがただのゴーレムだとは、とてもではないが頷くことは出来ないのだが。

「ともあれ、まずは陽動だろうが何だろうが、とにかく心核使いは倒す必要があるな」

 そう判断し、アランはビームライフルの銃口を本隊に近付いて来る中で最も素早い巨狼へと向ける。
 心核使いが変身するモンスターは、その者の本質に由来する。
 そういう意味では、似たような系統のモンスターに変身する心核使いというのも当然ながら存在する。存在するのだが……

「だからって、あれは似すぎだろう!?」

 狙っていた巨狼が不意に二匹に分かれた……正確には固まって移動していた二匹が、それぞれ別方向に向かったのを見て、アランは思わず呟く。
 巨狼であり、体毛が青いという意味で全く同じようにしか見えない、二匹。
 あるいは似ているモンスターに変身する二人の心核使いが一緒に行動しているのではなく、何らかのスキルを使って二匹に分かれている可能性もあった

(分身とかな)

 そんな風に思いつつ、それでもアランは別々に別れた方の一匹に向かってビームライフルのトリガーを引く。
 放たれたビームは、一瞬にして青い体毛を持つ狼を消滅させた。
 もっとも、その一撃が心核使いを殺したという意味で消滅させたのか、あるいは分身だっただけに消滅しただけなのか。
 その辺りについては、アレンもあまり分からなかった。
 ともあれ、それでも本隊に向かっていた心核使いの変身したモンスターを倒せたのは、間違いない事実。
 そうして次の敵を……と思ったところで、本隊の方から何かが飛び出し、残っていたもう一匹の巨狼に向かう。
 それが誰なのかは、映像モニタで見ていたアレンにもすぐに分かった。
 何故なら、そのモンスターはアレンにとって非常に見覚えのある存在だったのだから。

『グオオオオオオオオ!』

 オーガに変身したロッコーモが、持っていた棍棒を自分に向かって突っ込んできた巨狼に向かい、振り下ろす。
 その雄叫びが空を飛んでいるゼオンのコックピットにも聞こえたのだから、ロッコーモがどれだけ本気で雄叫びを上げつつ棍棒を振るったのかは明らかだろう。
 巨狼も、まさかこのような状況でいきなり敵が突っ込んでくるというのは予想外だったのか、またもう一匹の巨狼がいきなり殺された方に気を取られたのか、オーガに対する反応が一瞬遅れる。
 それでも巨狼の俊敏性は高く、一瞬反応が遅れた程度でオーガの振るう棍棒を回避出来ないほどではない。
 そもそもの話、ガリンダミア帝国軍の心核使いとしてこの戦いに投入されたのだ。
 その技量が高いのは明白だった。

「あっちも、戦いが始まってるのか」

 次にアランの視線が向けられたのは、オーガと巨狼の戦いから少し離れた場所で行われている、リビングメイルとトカゲの戦いだ。
 トカゲとはいえ、かなりの巨大なそれは、半ばドラゴンに近い存在と表現しても決して間違いではないだろう。
 ジャスパーが変身したリビングメイルの槍を、最低限の動きで回避していた。
 攻撃を回避しながら、トカゲは口を開いて鋭い牙でリビングメイルに噛みつこうとしているものの、リビングメイルはそんなジャスパーの攻撃を槍でトカゲの身体を叩いて攻撃を逸らす。
 他にも白猿に変身したカオグルが虎型のモンスターと戦っており、トレントに変身したケラーノは後方からいつでも木の実を投擲して援護出来るように準備をしていた。
 遠距離攻撃ということでは、アランの乗っているゼオンよりも劣ってしまうので、今はまだ準備だけだったが。
 トレントからの援護攻撃にかんしては、先発してきた心核使いではなく、ガリンダミア帝国軍の本隊がやってきてからこそが本番ということなのだろう。

「さて、あとはいよいよ本番か。敵の規模を見ると、これがガリンダミア帝国軍の全軍って訳じゃないんだろうけど……それでも、敵の数を減らすというのはこの戦いも意味がない訳じゃないと、そう思う」

 そう呟きながら、アランは戦いに集中するのだった。
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