剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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ガリンダミア帝国との決着

380話

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 アランとレオノーラから大体の話を聞いたイルゼンは、微妙な表情を浮かべる。
 やはりその中で一番大きかったのは、周辺諸国の連合軍が街を略奪した一件だろう。
 絶対にそのような真似はしないようにと、そう言ってあったのだが……連合軍にしてみれば、イルゼンは連合軍を結成する切っ掛けとなった人物なのは間違いないが、それでも結局のとこ探索者でしかない。
 そのような人物の要望を、絶対に聞くといったようなことは基本的にはなかった。
 また、上の方がその要望を聞いても、下がそれに絶対に従うかと言われれば、その答えは否だ。

「略奪の件は……今は置いておきましょう。残念ですが、今の状況で出来るようなことはありませんので」

 イルゼンのその言葉は、アランにとって不満ではあったが同時に納得をしてもいた。
 今の状況でどうこうしようとしても、それより前にガリンダミア帝国軍の方をどうにかする必要があるのは、間違いなかったからだ。

「そうね。今はまず、目の前のことを片付けた方がいいわ」

 レオノーラもそんなイルゼンの言葉に賛成する。
 もちろん、レオノーラも本来ならその件について色々と追及したいという思いがあった。
 だが、現在の自分たちの状況を思えば、そちらに手を回すよりもガリンダミア帝国軍を倒す方が先だと、そう判断したのだろう。
 そもそも、略奪をした国を責めるということは、その国に行く必要がある。
 ガリンダミア帝国軍との戦いが本格化している中で、そのようなことを出来る余裕があるかどうか……それは、考えるまでもなく明らかだろう。
 アランもそんな二人の様子を見て、少しだけ頭を冷やす。
 アランもまた、当然ながら知ってはいたのだ。
 今の状況でどうしようもないだろうということは。
 ……だが、もしその件を責めるといった真似をした場合、似たようなことはなくなると、そう思った。
 それでも結局アランもイルゼンの言葉に従ったのだから、心のどこかでは理解していたのだろうが。

「で、イルゼンさん。そうなると、これからどうするんです? またここでガリンダミア帝国軍が戦力を派遣してくるのを待つ……なんてことはないですよね?」
「そうですね。一般には防衛戦が有利だと言われていますが、それはあくまでも砦を始めとした防衛施設があればの話です。……もっとも、心核使いがいる現状では、どこか適当な場所を用意すればそこに掘や防壁を作ったりといったように、防衛施設を作るのは難しくありませんが」

 心核使いが変身したモンスターは、人間を大きく超えた力を持つ。
 そうである以上、固い地面を掘ったり、岩や木を運んできたり……といったような真似をするのは容易い。
 ただし、心核使いが作った防衛施設であっても、それが有効なのはあくまで普通の兵士に対してでしかない。
 ガリンダミア帝国軍側も心核使いを出してくれば、それこそあまり効果は見込めないだろう。
 そのような状況でアランたちがここで待ち受けていると知れば、当然ながらガリンダミア帝国軍側も多数の心核使いをここに用意するはずだった。
 いわゆる、最終決戦だ。
 それが避けられないとしても、アランとしては出来ればガリンダミア帝国の勢力圏内で蜂起しているレジスタンスたちと合流してから、その戦いに挑みたかった。

「防衛施設を作れても、ここで待ち受けるつもりはないんでしょう?」
「そうなりますね。追撃に行った者たちが戻ってきて、この勝利を祝って指揮を高め、身体を休め……怪我をしている者もいるので……明日は無理でも明後日くらいには出撃したいところです。ガリンダミア帝国軍の大軍を迎撃したということで、こちらに合流してくるレジスタンスも増えると思いますし」

 今までも、多数のレジスタンスがこの本隊に合流はしていた。
 しかし、中には慎重な人物が率いてるレジスタンスもあり、そのような者たちにしてみれば合流しても本隊に実力がなければ……と、そのように考えている者もいるのを、イルゼンは知っている。
 そんな中で、こうしてイルゼンたちはガリンダミア帝国軍に……それもレジスタンス討伐のために派遣されたような小規模な部隊ではなく、かなり本格的な部隊を撃退した。
 それもかろうじて勝利したといった訳ではなく、圧倒的なまでの勝利。
 ……もっとも、その圧倒的なまでの勝利というのは、上空から弓兵や魔法使い、攻城兵器の類をレーザーブレスで消滅させたレオノーラと、敵の奥の手とも呼ぶべき騎兵隊と軍を率いていた指揮官たちが集まっていた本陣をビームライフルで消滅させたアランのおかげ、というのも間違いのない事実なのだが。
 とはいえ、もしアランとレオノーラが来なくても、イルゼンであれば十分に戦いを有利に進めることが出来ていただろうし、そうなれば最終的にここまでの圧勝ではないとはいえ、それでも勝利していたのは間違いなかっただろうが。

「だとすれば、明後日じゃなくてもう数日待ってもいいんじゃないですか? 待てば待つだけ、合流してくるレジスタンスも増えるでしょう。もちろん、何十日もここで待ってるとは言いませんけど」
「それもありかなしかとなると、ありの選択肢ではありますね。しかし、そうして時間が経過すると、ガリンダミア帝国軍も守りを固めてしまいます。……もっとも、時間をかければそれだけ周辺諸国の連合軍がガリンダミア帝国の勢力圏を減らしてくれるというのもありますが」

 時間をかけると、それがガリンダミア帝国軍だけに有利になる訳ではない。
 そう告げるイルゼンの言葉に、アランはなるほどと納得する。
 納得すると同時に、もしそのようなことになった場合、アランが見た略奪が発生する可能性が高いということもまた、理解出来てしまった。

「そうなると、やっぱり急いだ方がいいですね。略奪とかは……ちょっと面白くないですし」

 これが、たとえば盗賊であったり軍隊であったりと、自分に敵意を抱いている相手であれば、アランもその相手を倒して物資の類を奪うといったようなことを否定したりはしない。
 しかし、街は違うのだ。
 それこそ、本来なら何もしていない者たちが、獣欲を剥き出しにした者たちに襲われるということを意味していた。
 アランにとって、それは到底見ていて愉快なものではない。
 だからこそ、今は少しでも早くガリンダミア帝国軍との戦いの決着をつけるべきだと判断する。
 とはいえ、そんなアランであっても容易にガリンダミア帝国軍を倒せるとは思っていない、
 しっかりと倒すためには、それこそアランやレオノーラといった突出した実力の持ち主が頑張る必要があった。
 ……特にアランの場合は、心核使いに特化している存在である以上、心核使いとして最大限に力を発揮する必要がある。
 とはいえ、生身で弱いというのは探索者基準の話であり、レジスタンスたちを相手にした場合は、アランもそれなりに無双出来たりするのだが。

「そうなると、まずはどうするんです? 明後日出発って話でしたけど、その間ずっと待ってるだけですか?」
「おや、アラン君にそこまで優雅な休日が許されるとでも?」

 イルゼンの口から出た言葉は、明らかにアランをこき使うというものだ。
 アランはそんなイルゼンの様子に幾らか思うところがない訳でもなかったが、今の状況を思えばそれも仕方がないと、そう理解出来る。
 アランもこの状況で何もせずにぼうってしているよりは、何かをやっていた方がいいのは間違いないので、そんなイルゼンの言葉に否はない。

「それで、俺は何をすればいいんですか?」
「そうですね、簡単なところでは明後日私たちは進軍を開始したときに、ガリンダミア帝国軍が邪魔にならないようにして下さい。具体的には、私たちが移動する場所にガリンダミア帝国軍が待ち構えていないかどうかを見てきて欲しいのです」

 軽く言うイルゼンだったが、これは何気に大変な内容でもあった。
 何しろ、ある程度の集団が待ち構えているのなら見つけるのは容易だが、木々や洞窟に隠れていたり、穴を掘ってそこに待機していたり……といったようなことがあった場合、それを上空から見つけるのは難しい。
 ましてや、怪しい集団を見つけてもそれがガリンダミア帝国軍の兵士なのか、もしくは一般人なのかの判別は難しい。
 兵士の格好をしていればともかく、ただ武器を持っているだけであれば、それこそモンスターや盗賊、もしくはレジスタンスに襲われた時に対処出来るようにしている一般人という可能性も否定は出来ない。
 連合軍が略奪しているのを見ている以上、レジスタンスに対してそのように警戒する一般人がいてもおかしくはない。
 いや、連合軍とレジスタンスのどちらがよりガリンダミア帝国の人間にとって危険かと聞かれれば、やはり自分たちを支配していたガリンダミア帝国軍に恨みを持つレジスタンスと答える者がいてもおかしくはないだろう。

「それ、結構大変そうですね。もし敵と思しき相手を見つけても、本当にガリンダミア帝国軍かどうかを把握する必要がありますし」
「ですが、やっておく必要があるのは間違いありません。私達だけならまだしも、レジスタンスの中にはまだ合流したばかりの者も多いですから。もしそのような者たちが待ち伏せにあった場合、大きな被害を受けるのは確実でしょう。そして混乱し……混乱は広がる」
「それは……」

 イルゼンの言葉は、アレンにとっても十分に理解出来るものだった。
 集団として行動している場合、一部の者が混乱して暴走した場合、下手をすればそれに巻き込まれるといった者も多くなってしまう。
 アランたち……雲海や黄金の薔薇は問題ないだろうが、イルゼンが口にしているようにレジスタンスたちがどうなるのかというのは、予想するのが難しい。
 それこそ、暴走したレジスタンスに触発されるようにして暴れる……といった可能性も否定は出来ないのだ。
 それが分かるからこそ、アランとしてはイルゼンからの要望を引き受けない訳にはいかなかった。

「分かりました。その辺にかんしてはしっかりとやっておいた方がいいみたいですね。任せて下さい。とはいえ……出発が明後日である以上、先行偵察は明日でいいですか?」

 そんなアランの言葉に、イルゼンはそれで問題ありませんと頷くのだった。
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