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ガリンダミア帝国との決着

372話

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 レジスタンスたちの戦いが派手に行われており、それに対してガリンダミア帝国軍が対処をしている頃……当然の話だが、レジスタンスの本隊とも呼ぶべき雲海と黄金の薔薇の面々は、他のレジスタンスを吸収しつて戦力を纏めていた。
 とはいえ……

「この程度の腕で、指揮権を寄越せと? 寝言は寝て言うものよ」

 リアが地面に倒れている者たちに向け、呆れたように言う。
 当然だが、レジスタンスというのはしっかりと戦闘訓練を受けた者というのは多くはない。
 いや、それなりの訓練はしているのかもしれないが、言ってみればそれだけだ。
 ガリンダミア帝国軍によって負けたあと、兵士がレジスタンスに参加するといったようなことでもあれば、相応に訓練を行ったりといった真似も出来るのだが……生憎と、現在リアの前に倒れている者たちは、そのようにしっかりと訓練はしていないか、あるいは訓練をしていてもそこまで厳しいものではなかった。
 そんな状況であっても、多くのレジスタンスの中には自分こそが正しく、そして強い。
 そのように思っている者も決して少なくない。
 言ってみれば、お山の大将が揃っているような状況に近いのだ。
 雲海や黄金の薔薇と行動を共にするといったことを決めたとしても、その命令に従うのは許容出来ない、指揮権は自分に寄越せ。
 そのように言ってくる者は、決して少なくない。
 ましてや、日々合流してくるレジスタンスが増えており、そのような者たちが合流するたびに、自分こそが指揮を執るに相応しいといったことだったり、指揮を執るようなことはないが他人の命令に従うのは許容出来ないといったようなことを主張する者は多かった。
 ……そのような者たちの相手をするリアもまた、日々苛立ちを募らせることになっていくのだが。
 これで、実際に言葉ほどに強いのであれば、リアにとってもいいライバルが現れたといったように思えるのだろう。
 しかし、実際にはリアに戦いを挑むのは井の中の蛙、猿山の大将といった程度の実力しかない。

「全く、これでもう終わりってのは、本当にどういうことよ? 私の息子だってもっと歯ごたえあるわよ?」

 リアの言葉に、倒れている中でまだ意識のある者……あるいは意識が戻った者が、絶望の表情を浮かべる。
 とはいえ、実際にはその絶望はリアの子供よりも弱いといったようなものがあると同時、リアに子供がいるということでショックを受けた者もいるのだが。
 ハーフエルフのリアは、外見が非常に若い。
 それこそ、アランと並んでいても親子ではなく姉弟といったように認識されてもおかしくはないほどに。
 そしてハーフエルフだけあって顔立ちは整っている。
 そのようなリアを、口説きたいと思う者がいてもおかしくはないだろう。
 そんなリアが子持ちであると知れば、口説くのも難しいと思う。
 中には子持ちであっても夫がいないのならもしかしたらチャンスがあるかも? と思う者もいるのだが、そのような者達はあとで夫も存在するというのを知って絶望することになる。
 ……あるいは、本当にあるいはの話なのだが、たとえ夫がいても子供がいても、一度抱いてしまえば自分の女になるといったようなことを考える者もいたかもしれないが、そのような行為が出来るはずもない。
 夜這いをしようとしても、そもそもリアに気が付かれて終わってしまうだろう。

「待て。なら、次は俺が相手だ!」

 今この場に来た男は、長剣を手にリアに向かって宣戦布告する。
 リアにしてみれば、そんな真似をする余裕があるのなら、何も言わずに奇襲をすればいいものを……といったように思うのだが、その辺りは実戦経験が未熟なことが影響しているのだろう。
 あるいは、自分が勝ったというのを周囲に知らせる必要があると判断したのか。

「来なさい。その実力が大口を叩けるだけのものなのかどうかを見てあげるわ」
「ほざけ、女がぁっ!」

 リアの言葉がよほど頭に来たのだろう。
 男は長剣を構え、リアとの間合いを詰めていく。
 これが模擬戦であるというのを完全に忘れたかのような、強力な一撃。
 もしリアが攻撃を回避しなければ、恐らく……いや。ほぼ間違いなく死んでいてもおかしおくはないだろう、そんな一撃が振り下ろされた。
 見ている者たちも、それは不味いと考えて止めようとするのだが、リアとの模擬戦によって受けたダメージのためか、身体が重い。
 とてもではないが、現在の状況でリアに攻撃しようとしている男と止めるような余裕はなかった。
 なかったが……それは、余計な心配以外のなにものでもない。
 自分に向かって振るわれた長剣を、リアは自分の持っている長剣で受け止める。
 それを見た瞬間、長剣を振るった男はしてやったりといった笑みを浮かべた。
 力には自信があり、実際今までもその力で多くのガリンダミア帝国軍の兵士を葬ってきたのだ。
 そんな自分の一撃を、リアのような細身の女が受け止められるはずもないと、そう思ったのだろう。

「甘いわね」

 その言葉がリアの口から出ると同時に、男の振り下ろした長剣がリアの構えていた長剣に命中し……そのタイミングで、リアは長剣の柄を握っている手の力を抜く。
 リアの握っていた長剣の鞘に、男の振るった長剣の一撃は威力を完全に殺され、受け流される。
 そうして男の自慢の力による一撃は、あっさりと受け流され……自分で振るった一撃の勢いに流されるように、男の体勢が崩れ、瞬間的に足を踏み出して体勢を立て直したところ、気が付けばリアの持つ長剣の切っ先が男の顔に突きつけられていた。

「ぐ……」
「どう? まだやるのなら相手になるけど?」
「……俺の負けだ……」

 このような状況になれば、男にとっても自分がここからどうしようもないというのは理解出来たのだろう。
 悔しさに塗れた言葉ではあったが、そう告げる。

『おおおおお』

 周囲から上がる歓声。
 先程放たれた男の一撃は、とてもではないがリアが防げるとは思えなかった。
 しかし、リアはその一撃を受け流し、その動きのままで相手に長剣の切っ先を突きつけるといった真似をしたのだ。
 それは、見ている者たちにしてみればとてもではないが信じられないような……そんな圧倒的な技術。
 もちろん、一定以上の実力があればそのような真似をするのは難しくはない。
 問題は、リアに挑んだ腕自慢の者たちがその一定のラインにまで到達していなかったということだろう。
 リアにしてみれば、この連中で本当に大丈夫か? といった思いを一瞬懐くも、すぐにそれを否定する。
 リアと戦った者たちは、別に探索者として古代魔法文明の遺跡に挑む訳ではない。
 レジスタンスとして、ガリンダミア帝国軍と戦うのが目的なのだ。
 そうである以上、リアが満足出来る腕前でなくても、十分に戦力にはなる。
 もちろん、ガリンダミア帝国軍の中でも騎士のような者たちを相手にしては、勝ち目がないだろう。
 しかし、そのような強敵の相手は、それこそ雲海や黄金の薔薇の面々がすればいい。
 レジスタンスに期待されているのは、あくまでも数の多い普通の兵士に対しての戦力なのだから。

(そう考えれば、この力自慢たちで十分戦力になるんでしょうね。……まぁ、中にはそんな中でも腕利きと言える人はいるみたいだけど)

 自分に驚愕の視線を向けてくる者たちを無視し、リアの視線は少し離れた場所で一連の戦いを見学していた男に向けられる。
 自分から戦いに参加する様子はなかったが、それでもしっかりと戦いを見ていたその男は、ちょっとした身体の動きだけで十分に凄腕だというのは理解出来た。
 少なくても、現在地面に倒れている自称腕自慢の者たちと比べると、圧倒的に上だろうと予想するのは難しくない。
 リアとしては、出来ればその男の技量も見ておきたかった。
 しかし、向こうは戦いに参加する様子はなく、ただ黙ってリアの戦いを見学しているだけだ。

「貴方はやらないの?」

 なので、リアは自分から声をかける。
 男はまさか自分に声が掛けられるとは思っていなかったのか、驚きの表情を浮かべ……だが、すぐに首を横に振る。

「いや、そのつもりはない。俺は別に自分が指揮を執れる器じゃないと思っているんでな。ガリンダミア帝国軍を倒すことが出来れば、それで十分だ」

 男の言葉は、特に珍しいものではない。
 ガリンダミア帝国軍に恨みを持っている者というのは、レジスタンスの中には多い。
 もちろん、中には恨みといったものではなく、自分の家族、恋人、友人が参加しているから成り行きで参加しているといった者や、恨みはないが故郷を開放したいと思っているような者もいる。
 しかし、そのような者たちは当然ながら少数派なのだ。
 レジスタンスに参加している者の大半は、ガリンダミア帝国に恨みを持っていた。
 だからこそ、リアの言葉にそう返してきた男の言葉は、周囲で様子を見ていた他の者たちからも特に違和感なく受け入れられる。

「そう? まぁ、問題ないならいいけど。……けど、貴方はかなりの実力者でしょう? ガリンダミア帝国軍との戦いになったら、期待してもいいのよね?」
「ああ。そのときは存分に力を発揮させて貰おう」

 あっさりとそう断言する様子を見せる男に、リアもこれ以上は何も言わない。
 今のやり取りで、この男が実力者であり……それでいて、ガリンダミア帝国に対して強い恨みを抱いているというのは、明らかだ。
 であれば、そのような相手は当然だが戦うときに非常に使い勝手のいい駒として扱えるのは間違いない。
 腕が立ち、それでいてリアの……正確にはイルゼンの指示に従うというのだから、不満を抱くはずもない。

「次、他に私たちが今回の戦いの指揮を執るというのが不満だという人はいる? 文句があるのなら、今ここで出て来なさい。これが終わったあとで、実は不満だったと言っても、相手にしないわよ」
「待ってくれ! それはあまりに横暴ではないか!」

 不意にそんな叫び声が周囲に響く。
 一体何だ? と、多くの者がそちらに視線を向けると、強そうには思えない男が不満も露わに言葉を続ける。

「そちらに従いたくない相手を、力で解決するのか? 力では敵わないが、そちらの指揮に従いたくない者は、どうすればいいんだ!」
「そうね。なら……イルゼンと知恵比べでもしてみる?」

 挑発的な様子で、リアは男に向かって告げるのだった。
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